表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/46

41ページ目


41ページ目




ある程度『ガイスト・ストーカー』を倒し、減ったところでさらに数十体ほど増えた。

これは……敵の術者を倒さない限り、根競べとなりそう。


「こら! バカヒサ、いつまで寝転がってるの!? 仕事しなさい」


「……ファリナ? ファリナか!? 本当に?」


「夏だからって脳ミソ茹だってる? 見ての通りよ」


呆けてたバカヒサは体力が回復したようで、ようやく立ち上がると、


「助かったよ、ありがとう。 正直かなり厳しかったんだ」


「いいけど、まだ終ってないよ。 敵の術者を倒さないとね」


『ガイスト・ストーカー』は強さはハッキリ言って弱い部類だから倒すのは精神(アストラル)攻撃可能

な武器を持ってさえ居れば楽勝だ。リアラでも一撃で倒せている。

そうして数が減り敵の間隙が広がってくると、倒すために敵へ走り寄る必要が生じ、退治

するペースが下がる、敵は次々と湧いて出て来るのである程度減った所で拮抗し膠着状態

となった。ウインとジルが頑張ってるが倒しただけ新しく湧いてくる。


「体力が戻ったならアンタの、技を飛ばして離れた敵を倒すヤツ使ってちょうだいな。

目標は敵の『想造魔術師』よ」


「敵の魔将軍だな? 実はそれはもう試した。コイツらを操ってるヤツを目標に飛ばした

んだけど、どうやってか知らないが、技を防いでるみたいで攻撃が届いて無い感触なんだ。

以前、邪神の盾を持ってた魔将軍が居て、やっぱりあの飛び技が防がれた事があった。

直接攻撃なら通じたんだが、飛び技がダメだったんだ。

今回の敵もそういった物を持っているのかもな」


「……ふ~ん? まぁ、もう一度やってみてよ。わたしにも策が有るから」


「……判った。んじゃ、いくぞ?」


「ん」


わたしが頷くと同時にカズヒサが気合を込めて剣を振ると、

すっかり暗くなった夜空を横切り、光跡が何処とも無く伸びていく。


『全自動改』


大きい水球が光跡の後をついて飛んで行く。

光跡を追いかけて同じ敵を攻撃してくれるように水霊へ頼んだのだ。

相手の居場所が判らないので多めに魔力を注いだ、10キロ程度離れていても届くはず。

物質化された水は魔力障壁を突破するし、激流が詠唱妨害も兼ねるので『魔術師殺し』と

してはかなり優秀な魔術式だと思う。……見た目は地味だけど。




けれど、


「やっぱり防がれた、そっちはどうだ?」


「どうやら、力ずくで水霊を引き剥がしたみたいね。こっちも破られたわ。

だけど変ね? わたしと同程度以上の精霊使いなら今の魔術式を破るのは可能なんだけど

それだったら、水霊に交渉してお引取りしてもらえば良いだけで、力づくで引き剥がした

のが謎だわね。魔術だったら詠唱が妨害されるから術を使えたとは思えないし」


敵も無詠唱を使えるのか? それとも……考えられるとすれば、また邪神の鎧かな??


「カズヒサ、もう一回やってみて。 それと今度はちょっと待って、準備があるから」


背中から火竜の剣を引き抜き、頭上に構え、魔力と霊力を剣に通す。

剣から紫色の炎が吹き上がり夜空を焦がす。


「良いわよっ!!」


わたしが合図すると、カズヒサは再び剣を振るう。

すかさず、


『ファイア・ストーム』


この『紫光炎』は邪神の炎鎧が持つ加護を先日破っている。今回の敵にはどうだろう?

精霊使いの感触では、どうやら敵に炎の嵐が直撃したようだ。

今度はさすがに火霊を引き剥がせないで居るらしく、そのまましばらく待つと……


わたし達の周りから『ガイスト・ストーカー』が全て消え去った。




「倒せたのか?」


「どうだろう? なんとなく異空間に逃げ込んだっぽいわね。

おそらくだけど敵は邪神の鎧を着てるわ、それもたぶん水系の力を秘めた鎧を保有してる。

水霊を無力化したんじゃなく、同系統の力で無理やり引き剥がした感じだったから。

邪神の鎧は、邪神の加護で攻撃を無効化したり、異空間に潜り込める力を持ってるのよ。

こちらの攻撃を防いだり、異空間に逃げ込んで炎の嵐を振り切ったりね。

その代わり、向こうの魔術も中断されたからガイスト・ストーカーも消え失せたわね」


先日、風の鎧を着ていたダークエルフはこの力を使って、通常空間とは位相が異なる空間

に身を隠していたのだ。

わたしが炎の鎧を着た時の感触ではソコは精霊界とも異なる場所で、この世界のどこでも

無い場所ではあるが、完全な異世界というのとも違う、どことなくこの世界と繋がってる

いうならば『裏側』とでも呼べる場所だった。




と、そこへわたしの視界の外から人が飛び込んで来た。

生きた鎧とのリンクでそれがニアだと判ったため、鎧の自動反撃モードは止めたけど、

危ないなー、もー。


「ファリナっ!!」


抱きつかれました。

いや、それはもう、シャイアにもルーにもオーリスにも。揉みくちゃにされました。

4人に抱きつかれてるのを見たバカヒサも瞳を輝かせてたので、そっちは先んじて断った。


「アンタは来なくて良いから!」






再会にひとしきり盛り上がった後で、ウイン達を紹介したら、中には顔見知り同士も居た

ようで、


ジルはフルフェイスのヘルメットを取り、


「御無事でしたか? 皇女殿下」


「貴方は……リーベフェルマ伯爵家のジェラルディさまですか?」


「はい、もっとも今は家を出て冒険者となりましたので、ただのジルとお呼び下さい」


さらに、


「無事で何よりでした。アスコット侍祭」


「カースティン司祭! 先ほどは危ないところを助けて頂いてありがとうございました!」


「私は何もしておりません。全てはファリナの頑張りと主のお導きによるものです」




彼女達にも積もる話があるようで、アッチはあっちで盛り上がってるのを横目にしながら、

わたしと男性陣は必要な情報を交換する。


「それで、さっきの影。アイツらは一体何だったんだ?

今朝辺りから砦の中で不審な死に方をする人が出始めたんだ。そのうち、変なのが見える

って言い出す人が出てきて、大勢が見てる前でも被害が出始めた。

襲われる人はその前に変なのが見えるって言い出した人で。

ところが、『ソコに居る!』って言われても誰にも何も見えないと来た。

本人が剣で切っても効果なし追い払うことも出来ない。何も抵抗できず一方的に殺されて。

この広場に全員を集めて、見えない敵を俺が全て切り倒す事で何とか凌いで来たけど……」


「アレはガイスト・ストーカーって言うヤツで、精神の精霊の一種よ。

人の精神の中に棲んでるから物理的な攻撃は通じない。正しい対処法を知らないと一方的

に殺されることになるわね。

わたし達はプニ神に、今日中に此処に来ないと勇者は死ぬ、って脅されて来たんだけど?

着いて見れば、誰かさんはノンビリ引っくり返って呆けてたしねぇ?」


さっきの一幕だ。わたしがニヤニヤ笑ってからかうと、カズヒサは真面目くさって


「プニ神?神さまがそう言ったのか? へ~?今日中は保ったんだ?

さっき引っくり返った時は、ココまでか!?って思ったもんだけどな。

まだまだそんなに頑張れたのか。なんせ神さま保証だもんな! 俺スゲー」


……バカヒサはからかい甲斐がちっともありゃしない。




「ところで、バルザック砦で帝国軍が壊滅したって聞いたけど、ここは平気なの?」


「ああ、昨日の夜明け早々帝国軍が敗走したって一報は、昼過ぎにはここにも届いてたよ。

それでファリナが敵の魔道兵器を壊さないとダメだって「ファリナ?」あ~、いや……

この剣の名前だよ、エルファリナ」


そう言って腰に佩いた剣に手を置くカズヒサ。


「何?アンタ、剣に名前付けてんの? しかもわたしの名前じゃないの。キモッ」


「こういう剣には銘を付けるモンだろ? ほら、繋がりを強くするとかなんとか」


「ナイナイ。そもそも銘は製作者が付けるモノでしょが。少女漫画じゃあるまいし、

モノに女性の名前付けるなんて一人前の男がやったら気持ち悪いだけよ」




カズヒサは少し落ち込んでから気を取り直して話しを再開した。


「あー、ファリナとピネの村と別れてから、オレ達に新しい仲間が加わったんだよ。

彼女が……女性なんだけど……バルザック砦で使われた魔道兵器を壊さないとダメだって

警告してくれて、昨日の昼間に奇襲を決めて夜に決行したんだが、オレ達は彼女の手引き

もあって、その魔道兵器を運良く壊すことに成功したんだ。

と言っても、完全に壊すまでには至らなくて、せいぜい攻撃を遅らせる程度だったんだが。

その彼女が今朝、この砦で見たことも無いボディコン女と立ち話してたと思ったら、その

直後に突然、今回は手伝えないからって言い出して、そのまま姿を消してしまって……」


ボディコンの女?


「それって……プニ神かしらね?」


『幻影』でプニ神を等身大で目の前に創り出……そうとしたが、どうしたことか、

顔や細かい部分がユラユラと薄らボケて鮮明な像を結べなかった。

なぜなら……わたしがプニ神の顔の造作も髪の色も服の色さえ!思い出せなかったから。

尖塔の上に立ってた彼女はどんな瞳の色してた?顔のつくりは?もう一度会えば判るのに

思い出そうとすればするほど記憶の海に沈んで、細かい部分が思い出せない。


そう言えば、以前ウイン達が思い出話でプニ神を語った時も顔を思い出せないって言って

たっけ? これはアレか?存在力が強すぎて発音すら出来ないイチゴショートやサバ缶の

真名と同じように、神の姿はマネする事すら出来ないってヤツかしら?


そこへ、ようやく体調が復調してきたレティも話に混ざってきた。


「プニ? あ、思い出した。ユミカに頼まれてたっけ。 コウモリさん!来て頂戴!」


『バサバサバサ……』


そして目の前に現われるユミカ(美少女戦士バージョン)。

わたしは呆れてユミカに尋ねる。


「ナニそれ!? 呼ばれれば何処にでも現われることが出来るワケ?」


「ご苦労ご苦労、レティアラ呼んでくれてアリガトね。

そうだよ?この身体の特典なのよ。なんせ自前の羽で飛んでくのって面倒じゃない?

現地に出向く人間に呼んでもらえば時間の節約にもなるってモンでしょ?」


「なんだなんだ? どこから現われた!?」


カズヒサの疑問は無視して、


「バカヒサ、そのボディコン女って、この娘を大人の女性にした感じだった?」


カズヒサはユミカの上から下まで眺めて、


「ああ、そんな感じだった」






「話を戻して、それじゃ魔道兵器は一応壊したけど、直されそうな壊し方だったわけね?

そうすると、一日経った今頃はもう直されてるかも知れないわね。

その魔道兵器は『解毒』が効かないって聞いたけど、その後、何か判った?」


「いや、魔法とかチンぷんカンぷんでさ。生暖かい風が吹いてきたと思ったら、白い雪が

降って来た。くらいしか俺達も情報持って無いんだ。スマン」


魔法が解りそうなニアは向こうでジルやリアラと話が盛り上がってるけど、情報そのもの

が少ないならニアを呼んでも無駄だろう。


「わたしなりにここ来るまで考えて見たんだけど、一番コレかな?と予想するのが」


実際に現物を見てもらった方が早いだろう。

とは言うものの、この現象を引き起こす魔術式は創って無いので、精霊に頼んでの力技。


視線を宙に向け、左手のひらを空に向けて風霊に意思を伝える……

このポーズに特に意味があるわけでは無いが、精霊に近しい場所へ少しでも自分の身体を

近づける"意思"が精霊たちから好ましく映るらしい。

地霊ならば手を大地に、水霊ならば大量の水場で身を浸すなどの行為も同じ意味だ。


直ぐソコに居るイチゴショートは『雑事に我を煩わせるな』とばかりに明後日を向いてる。

もっとも、頼んで変な要求が返って来ても困るしね。

親切な(ここ重要)風霊たちは、わたしの意志を汲んで頼まれた通りに動いてくれる。




「すごい力ね……」


レティが驚きの感想を述べる。

とは言え、強引に力ずくで精霊たちの動きを操るがゆえ大量の魔力を消費しているに過ぎ

ない。こんなやり方は美しくないし、褒めてもらってもちっとも嬉しくないなぁ。


やがて上空から生暖かい風が吹いて……

白い雪がパラついて来たと思ったら、直ぐに人口降雪機並みに雪が舞い始める。


「「「「「「 雪だ!!?? 」」」」」」


バルザック砦の顛末を聞いているからだろう。

この場に居る大勢が悲鳴を上げるが、カズヒサが静めている。


ひとしきり降らせてから……あまり多くを降らせると二の舞になるだけなので……降るの

を止めて、風霊にある程度の雪の量を一箇所に集めてもらった。


レティはさすがにこの雪の異常さが判ったようだ。


「何?この雪。水霊の力を全く感じない、風霊だけで作られている、そんなバカな事って」


「この雪が毒の雪なのですか?」


ニア達も井戸端会議をやめて、わたしの周りに集まって来た。




「リアラ、『解毒』を掛けてみて? 通じるかどうか確かめたいから」


「はい。

善を司るミラー神よ。ここに人を害する毒在り、全能なるその御力で我等を救いたまえ

『キュアー・ポイズン』」


神官の祈りの言葉は人によって異なる。

それに、リアラの『解毒』の詠唱文言は数パターン有るようだ。

シャイアの文言は毎回同じだった。性格の違いだろうか?

神さまってホント、そういう処はアバウトだ。


どうせなら、この雪も無効化してくれれば良いのにね?

そう思いながら、予想通り、何の効果も発揮してない『解毒』の結果を眺めた。


「何も変わってないね?」


精霊の目で観察していたレティがそう述べる。

雪を集めたここら一帯は、『解毒』では精霊の状態に何の変化も起きなかった。


それを確かめて、レティが精霊術による浄化術を詠唱する。


『清浄』


「……変わらないね? ホントにこれ毒なの? あたし達こうして平気だけど?」


「程度問題ね、もっと雪の量を多めにすれば影響出てくるよ」


わたしがレティの疑問に答えてから、カズヒサに問う。


「どう?雪の正体解った?カズヒサ」


「……ダメだ、わからん。教えてくれファリナ」




わたしは水球を召喚し、一塊に集められている雪にぶつける。

すると音も無く、大量の白い煙が地面の上を流れ出す……


「「「「「「 うわっ 毒の煙が!! 」」」」」」


何も解らない大多数の人達がまた悲鳴を上げた。

が、さすがにカズヒサだけは解ったようだ。


「ドライアイス!? ……そうか!二酸化炭素か!?」


「バルザック砦じゃ、外から攻めて来た敵に慌てて、砦の門を閉めたんでしょ?

二酸化炭素は地表に溜まるから門を閉めたら砦の中に溜まる一方で敵の思惑通りだわね。

とりあえず、対処法としては砦の入口を開けっ放しにすること。

風霊を使って換気に気を付けること。その辺かな」


「だからバルザック砦では最初に明け渡したのか。廻りを壁に囲まれて無い唯の平地じゃ、

この手は使えないもんな」


「ま、敵のほうがうわ手だったってことね。こういうのも空城の計って言うのかしら?

二酸化炭素は人の体内でも作られるし、元々空気中に存在する物質だから、『清浄』じゃ

風霊は異物や危険な物と判断してくれないしね。神の『解毒』は人間の老廃棄物なんかを

分解してくれないし、そもそも体内に存在する物質で一定の敷居値を越えて人体に悪影響

を及ぼす物については例えば癌細胞、コレステロール、血栓、高血糖、尿酸などなどなど。

神さまは何もやってくれないモノでしょ? 寿命を延ばしてくれない事からも解るし」






「カズヒサとファリナが何を話しているのか、わたくしにはチンプンカンプンです。

けれど、毒の雪の正体は判って対処法も有るのですね?

……ありがとう、ファリナ。さっきの影も、毒の雪も……ぐすっ わたくし、カズヒサが

倒れたらどうしようって不安で不安で……」


ニアは安心したのか緊張の糸が切れたようで泣き出してしまった。


「アンタその知識どこから手に入れたの? さっきの話、あたしにも全然解んなかったわ。

これでも暇にまかせて世界中を旅して周ってるけど、聞いたこともない知識ばかり」


ユミカの疑問にわたしが答えるより先に、


『リアファリナとカズヒサの知識について詮索は無用。この世界で広めて貰っては困る』


砦中央に居るわたし達より少し離れた場所にいつの間にかプニ神が立ってた。


「うわ、まだ居たよこの(ひと)

それでどうなの?プニ神さま? 言われた通りパーティーメンバー全員連れて来たわよ」


『今この地では神々の思惑が錯綜している。これ以上のお前達への助言は、敵方へも介入

する格好の口実ともなるだろう。という訳でこれで最後だ覚えておけ、

脅威となるのは敵勢力だけでは無い、敵は常に己の心の中にも居ることを忘れるな』


……そこで、なんでわたしをジッと見て言うワケ?

御助言通り、イケメン魔神はじめ、精神の精霊には十分気を付けることにするわよ~だ。


『もっとも、トゲエルフならぬボケエルフには言っても無駄なようだ。

では、明日の戦いが終るまで、高みの見物とさせてもらおうか。行くぞユミカ』


プニ神は言うだけ言うと、ユミカを連れて砦の宿舎へと歩いて行ってしまった。


「なに?あの女性(ひと)? うわ、ファリナ顔真っ赤」


オーリスが誰にとも無く呟いてから、わたしの顔に驚く。

ぬぬぬぬぬ~、ボケとは何だーーーーーっ!!??

というか、護鷹の召喚笛よこせっ!






自分勝手な神さまはほっといて、明日には攻めてくるだろう敵への準備をしないとね!

夜明けまであと8時間くらいしか時間が無い。ヤレルことは今のうちにやっとかなきゃ!!


「レティ、雪が降って来たら換気をお願い。ソコに居るイチゴショート使ってね。

イチゴショート、まさかイヤとは言わないでしょうねぇ?

アンタが手伝わない限りレティの身が危ないんだからね。せっかく手に入れた自分の巫女

を直ぐに死なせちゃっりしないよね? この砦の換気を行うほどの風を動かそうとしたら、

アンタしか居ないんだから!!」


『……しかたあるまい、そのくらいならやってやろう』


しめしめ。レティねたはしばらく使えそうだ。次はっと。


「ニア、敵は邪神の力も使って来るし何より数が圧倒的に多いわ。

わたしも攻撃魔術を全開で使う事になるだろうし、そうなると何かあった時に魔力が足り

ない場合も在り得るわ。そういった時は手伝ってもらう事になるから今の内に覚えといて

欲しい物があるの」


ヨイショっと魔力炉を取り出し、さらに、水晶姫も召喚する。


「これは魔力炉って言って、魔力を糧に力を得られる魔法装置ね。

使い方は教えるから覚えてちょうだい。水晶姫アンタも手伝って」


そうしてニアに必要な操作法を教え、まだ時間があったからスニージーの武器を強化する。

スニージーの杖の先にプニ神殿で入手したアレキサンドライト・キャッツアイを付けた。


「良いんですか? ファリナ。せっかく貴方が貰った物なのに?」


「この宝玉の性格上、わたしよりもスニージーの方が合ってるのよ。

アレキサンドライト・キャッツアイ。プニ信徒に似合うし、風と炎それに大地属性が強い

し、言霊の力で『瞳』に繋がる属性の恩恵があるから、心眼、魔眼、浄眼に代表される、

精神属性攻撃の耐性も増えるわね」






夜明け前






ノースアイゼン砦には、つい先ほどからドライアイスの雪が降り始めた。


見上げれば砦の上空に目に見えない魔法陣が"視える"。魔道兵器が空へ投射しているのだ。

ここまで巨大な魔力で陣が構築されていると、『ジャミング・マジック』も焼け石に水。

すでに砦の3つある門を全て開放し、風霊が砦中央から門を通って外へ強制換気している。


砦の見張り台には、わたしの他に、ウイン達やカズヒサ達も揃っているが、なぜかプニ神

とユミカまで居る。

砦の北側からは大地を埋め尽くすほどの魔獣、下級悪魔、そして使役兵が押し寄せて来る

のが見えている。

今のところは雪の効果待ちで本格的な進軍は待機してるようだが、こちらは門を開放して

いるし、何より風霊がこれだけ派手に動いているのだ、程なく毒の雪効果に期待持てない

と気付かれるだろう。


「敵の数、5万より多くないか? 戦場を埋め尽くすこの数、20万じゃきかないぞ?」


ウインが疑問を口に出す。


「胸がザワザワする。凄い精霊力を感じるよ。昨日ニブルヘルに出たあの精霊だね」


「うん、レティが言うようにあの精霊だね。わたしはイケメン魔神って呼んでるけど。

精神の上位精霊の力を使って幻影を見せてるわね。

あれは幻、ニセモノの軍団ではあるけど……本物と区別出来ない大軍は脅威だね、普通は」


わたしはそういって背後の帝国軍を見やる。

カズヒサも同様に振り向いて、肩をすくめた。


「だな。どの道たった300人じゃ応戦しようもないし大軍は関係無いな。例え少数でも

攻め込まれたら終りだからさ」


『あれは魔将軍のミラージュ・リージョネアという幻影魔法だ、5倍に水増し中だな』


「ついでに弱点も教えてちょうだいよ、プニ神さま~?v」


『カワイコぶっても無駄』


「ちぇっ。ならなんで此処に居るの?」


『解説者が居た方が見物人的に便利だろ?色々とな。それより進軍が開始したぞ』


プニ神の言うとおり、大軍が一斉に鬨の声を上げていた。






「それじゃ、昨日打ち合わせした通り、わたしの大規模攻撃魔術式で大軍を蹴散らして、

その後で敵魔将軍を討ち取るために少数で突っ込むから準備しててね。ジル頼むわよ」


今回の作戦の要はジルだ。

敵の精神系魔術および大軍への対処法はジルが持っているアレ。


「どれ、一発カマしますか」


高速言語の『腹話術』を用いて多重召喚炎獄魔術式『等活地獄』を詠唱起動する。

普通に音として聞くと時間軸がワヤだし、一音に複数情報を持たせているから、意味不明

な雑音にしか聞こえないが、それでも敢えて文字にするなら↓↓↓こんな感じだろうか?


す我よ大疾く駆ける我が声は  赤き炎       青き焔

べが我地風に拡散し消え失せ                     烈火の渦よ

て召がにようとも我が意思は         真白き陽炎よ

を還声火消えず火霊もまた我   焦土と化し     煉獄の中で

焼にがのが意思が続く限り炎         勝利と

き応届花の洗礼は尽きる事無   苦しみの焚き木を燃やせ          絶望と

尽じきをく等しく数多を灰に    浄化の焔よ      黒き炎

く馳し咲我と火霊の契約に基 敵を滅ぼし             爆炎の息吹き

すせ全かづき我が魔力を糧に       終わりを告げる者

炎参てせ業火の則を顕わせし    命を刈り取るもの         永久の高熱を齎せ

よじのよ祈りを言葉に力を言霊に                炎の地獄ここに在り」




押し寄せる大軍の前方、砦との中間に赤く輝く火霊が一つ、二つと浮かび上がり、

それは瞬く間に横一線に爆発的に増えて行く。

やがて……横一線にならんだ火霊達が今度は縦方向、すなわち敵軍団を縦断する形で増殖

し、一斉に火を噴き上げ、敵の大軍団を炎の中に埋め尽くしていく。


火霊の一つ一つは大した威力では無いが、これだけの数、等間隔で狭い範囲に並んだ火霊

が発する熱量は、トータルすれば相当なものだ。


「すげっ」

「凄いっ」


カズヒサとニアが感嘆の声を上げる。けれど、


「……でも、あれじゃ無理」


レティがつぶやく、それとほぼ同時だった。


『『『『『『『『 ドドドドドドッ 』』』』』』』』


敵軍の後ろから広大な戦場を飲み込んで余りある程の大量の水が押し寄せて来た。

その大量の水は『等活地獄』の炎を消し去ってしまったのだ。


「精霊使いが居る限り、戦場で火計は通じない」


レティが親切に教えてくれる。御親切にドウモ。




「ファリナ、敵の大軍を前にもうドキドキは十分体験出来ました。これ以上もったいぶる

のは止めて貰えると、僕のか弱い心臓が助かります」


「あたしもだよ、ファリナのその平気そうな顔はコレを読んでたんでしょ?」


そう、スニージーとオーリスが次の手を催促してくる。

わたしは肩をすくめると、


「今のは戦場に水を撒いて貰うための前振りだから。敵の中には邪神の水鎧を着てるのが

居るからね。わたしが水系魔術を下手に使って無効化されるより、敵に水魔法使って貰う

のが効果的かな?って」


「水なんかどうするの?」


ニアが尋ねる。


「うん。説明するより見た方が早いよ。水晶姫、出番だよ!」


わたしの隣に姿を現した水晶姫がイヤそうに言う、


「大量の水……あのエゲつないヤツ使うの? アレはあたし的に気が進まないんだけどぉ」


「いーから。ほら、チャチャっと三酸化硫黄をいっぱい作っちゃってくれなさい」


「サンサン界王? なんじゃそりゃ? 元気玉か?」


バカヒサがボケる。ここはつっこむベキなのかしら?


「三酸化硫黄よ。H2OにSO3を放り込むとどうなるかくらいは知ってるんでしょ?

大地の上位精霊たる水晶姫だったら大量の三酸化硫黄を生成出来るのよ。

今なら敵は足まで水に浸かってるから、その状態では邪神の加護が在っても意味無いわ。

素敵な事になるわよ~v」


「H2……却下!!!! そんな非人道的な術は認めないっ!!」


「なんでよっ!!??」


「なんでもじゃない。とにかくっ 酸はダメ!!」


「「「「「「 酸!? 」」」」」」


「あ、あのファリナ、酸は出来れば止めて欲しいと……」


ニアまでそんな事を言い出す。


「だから、なんでよ? なんか理由があるの?」


少し声の調子を押さえて質問する。

カズヒサ達は答えない……顔を伏せていたルーが、ふっと顔を上げて、


「この間、魔将軍の一人と戦った時にな。吐かれた酸をドジ踏んでかぶってしまったんだ。

シャイアが頑張ってくれたお蔭で、数日で治りはしたんだが……」


ルーは顔色が少し青褪めているし、シャイアは眉を顰めている。

女の身で酸をかぶったなんて良い思い出では無いだろうからね。


「わかーった。酸は使わない」


「すまん、ファリナ」

「すまない、ファリナ」

「ありがとう、ファリナ」


カズヒサ、ルー、ニアからは謝罪され、オーリスとシャイアは緊張が解け息を吐いた。




「次の策はあるの?」


ジルの質問に答える前に、わたしはカズヒサへ質問を投げ掛ける。


「炎は良いわけ? 酸も炎も大差ない気がするけど……」


「ああ、炎なら構わない。けど、火計は効かないんじゃなかったのか?」


「平気よ。今度は水では消えない炎を使うから」


ポシェットから予備の服を取り出す。

とうとう、これを使う時が来たのね。

フッフッフッフ。




わたしがゴソゴソやってる間に、ニアがカズヒサへ質問している。


「さっきカズヒサが言ってた元気玉って何のことですか?」


「ああ、こう頭の上にそこら中に居る全員の元気……マナみたいなモンを集めて、攻撃用

のデッカイ玉を作り、相手にぶつける技だよ」


「……それってあんな感じの?」


ん??


ニアは敵の方を指差している。

わたしとカズヒサ達は全員、指差された方を見て……


「……ホントだ、元気玉だ……」


敵の大軍の上にボンヤリと輝く大きな魔力の塊が少しずつ大きくなって、眩くなって行く

のが見えた。


『あれは『マナシェア・エナジーボール』という術で、精神の精霊の力で全員の心を繋ぎ、

全員から魔力を集めて巨大な玉を生成する『マジックミサイル』の一種だ。

当たればこの砦は吹っ飛ぶぞ、発射まであと73秒だ』




なんだって~~!?


むー、高みの見物中のプニ神は、わたしの苦労する姿がずいぶんと楽しそうね!!




げふ、コレストロールとか書いてしまった。

あまりに恥ずかしいから修正シマスタ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ