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「神の『解毒』が効かない毒など有るはずがありませんっ、何かの間違いでしょう?」


神官であるリアラがランサーに詰め寄る。そりゃ神さまの技に瑕疵を付けられちゃ司祭様

としちゃほっとけないよね。


ランサーは詰め寄って来るリアラの勢いに押され上半身を仰け反らせながら、自分の前に

両手を差し出してリアラをなだめようとしている。

……両者気付いてないようだけど、その両手の位置はリアラの胸の位置だよ……

ハタで見てると公然と猥褻行為をしようとしてるみたいに見える。……見えるだけだけど。




「俺っちも伝聞だけだから詳しいことは判らないんだよ~」


ランサーが帝都に戻る傭兵から聞き出した話では、↓↓↓こんな感じだったらしい。


夜明けと共にバルザック砦に帝国軍が攻め込んだ時には、砦はもぬけの殻だった。

彼等は驚きながらもこれ幸いとそのまま砦を乗っ取って立て篭もり魔王軍に備えた。

その直後、魔王軍が砦の外から攻め寄せて来たのだと。

魔将軍とか言うヤツが名乗りを挙げ、魔道の攻城兵器で帝国軍を全滅させる、と宣言し、

その直後から、夏だと言うのに白い雪が降り始め、砦に立て篭もってた帝国軍の中でも、

砦の中央部に居た上級指揮官達がバタバタと倒れ出した。

神官団が慌てて『解毒』やら、魔術師団が『清浄』を唱えたらしいのだが、倒れるヤツは

後を絶たなかった。

指揮官が真っ先にヤラレて、魔王軍に応戦する処では無くなった帝国軍は総崩れとなり、

生き残れたのは砦の外に居た下級兵士達だけだった。

軍を立て直す事も出来ず、帝都へ逃げ帰っている途中なのだと。


「馬鹿なっ、それではノースアイゼン砦を見捨てるようなモノではないかっ!?

帝都に引き返さずノースアイゼン砦へ向かうのがセオリーだろう。

指揮官は何を考えてるんだ?」


ジルは帝国貴族として軍団の行動を非難する。


「だから、その指揮官がヤラレちまったって話だからなぁ。俺達のような傭兵じゃ軍人の

指揮系統に口出し出来ないしな。向こうに生き残ってる傭兵団の奴等もどうにも出来ない

もんだから、こうして国中の傭兵達に檄を飛ばしたんだとさ。

向こうの港町で戦力を再集結させて、それからノースアイゼン砦に引き返すつもりらしい。

今の状況で砦に向かっても勝算が無いって見積もってるみたいだしな。

あとは帝国上層部のヤツラがどれだけ状況を理解出来て、素早く行動出来るかでこの国の

未来が分かれるだろうぜ? 下手したら一気に魔王軍にヤラレちまうだろうなぁ」






「正直信じられない。これまで『解毒』が効かない毒なんて出遭った事も、聞いたことも

無い。それにこの暑い夏真っ盛りに雪だって!? まさか?」


ウインもこれまでの常識から信じられないようだ。


「神の力は無限だよ。『解毒』が効かないんじゃなくて、神官が魔法を唱えられなかった

何かがあったんじゃないの? 白い雪に麻痺効果が付与されていたとかさ」


ユミカもそう否定する。


「「 ファリナ 」」


わたしを呼ぶ声。ジルとスニージーがハモってる。

スニージーはジルに発言を譲ったようだが、ジルはハモった事すら気付いてないようで、

周りの事などお構いなしにわたしに近付き、質問を投げ掛けて来る。


「ファリナの意見は? その白い雪が何だか判る? 私にも神の術である『解毒』が効か

ないなんて直ぐには信じられない。邪神の鎧の加護を破ったファリナなら何か判らないか?」


この娘は何時でも真っ直ぐで直球なのよね。そこがイイんだけど。


「そうね、今までの情報だけじゃ、なんとも言えないわね」


そう返答すると、ジルだけじゃない、スニージーもガッカリして肩を落とした。

そんなに期待してたのかしら?




「思いつく物が多すぎて、どれなのか絞りきれないわ」


「「「「「「「 えっ!? 」」」」」」」


ユミカとランサーも含めて全員が驚く。

ふふふ、一度落としてから持ち上げるのよ。

さて、ノンビリともしてられないみたいだから、簡単に説明しましょうか。


「ユミカやリアラ、ウインが思うほど神の御加護は万能じゃないのよ。

神の力は無限でも、それを願う人間の知識が有限だから。

精霊術の『清浄』にしても、万全というには程遠く、むしろ穴だらけ?と言えるわね。

今回の敵が使った魔道兵器とやらも、そういった盲点を突いて来たのでしょうよ」


「それじゃ、対処方法は? 何か無いのか? 神聖術や精霊術でも対処しきれねぇなどと

噂が広まっちまうと、傭兵団も逃げ出すぜ、こりゃぁ」


「そうね、手はあるけど。それが出来るのはわたしだけでしょうしね」


ここに至って、わたしの気持ちも固まった。

パーティーメンバー全員一人一人の顔を見回し、エルフ・スマイルと共に別れを告げる。


「これまで一緒出来て楽しかったわ。申し訳無いけど、ここでお別れね」


精霊宮と報酬には未練があるが、人生の選択には優先順位という物があるのだ。

カズヒサとニアを、そうと知ってて見捨てる選択肢はハナから無い。






誰からも返事が無いが……いや、


「行くの? ファリナ? 言っとくけど、私とリアラも行くよ、一緒に連れてって?」


ジルとリアラは微笑みながらうなずいてる。

暖かい空気が流れそうになったが、ブチ壊す者が居た。


「ハハハハハ、来るのか? そう来なくてはな、混沌の化け物」


見なくても判る、この精霊力は……イケメン魔神。

皆から離れた場所に立っている。

全員が突然の闖入者に驚いている所を見ると、精霊使いでも無い者にまで見る事が可能と

なるほどに、人間界への干渉力を持ち得たということか。


「誰だ!?」


ジルが誰何する。レティとリアラは精霊を見ることが出来るのでコイツの強大さが判るの

だろう……って、レティは既に弓に矢を掛けて放とうとしている。


「待った、待った! 下手にこんな所でその弓を放ったら死人が出ちゃうよ!!」


「ハハハハハ、撃たれてもオレは一向に構わんぞ。もはやオレにはそんなモノは効かん」


「……なるほど、ソウゾウ魔術師とやらと手を組んだという訳ね。想像魔術師なのかしら?

魔道兵器を出したって事だから、さしずめ想造魔術師かしら? 

やだぁ、なんかオタクっぽい名前ね? 脳内変換で自称世界最強なのかしら? クスクス、

想いを力に換えて敵を討つ!とか、オラにオメェの力を分けてケレ!とか言うのかしら?

アハハ、ヤダ自分で言っといてツボに入っちゃった。キモそうだし行くの止めようかしら」


あれ? イケメン魔神は笑ってくれない。


「オレが話す前に先読みされるのは不愉快だな。その情報どこから得た? 事前情報無し

でそこまで言い当てたとしたら、さすがだな。混沌の化け物」


「アレレ? 当たっちゃったの? マジで? キモいの? 自称世界最強なの?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふふふふふふふ、あはははははははははは。

ねぇ?イケメン魔神。アンタ、精神の上位精霊のプライドを無くしたワケ?

ヤレヤレだわ。志もヘッタクレも無くした精神の精霊なぞ見苦しいだけよ。

戦場で待ってなさい。綺麗サッパリ消滅させてあげるから」


喧嘩は売られるまでジッと待ってるなんて性に合わない。先にぶん殴った方が勝つのよ!!

それにここまでコイツが出張って来たという事は、よほど自信があるようね。

わたしに取っちゃ、ワザワザ情報運んでくれてアリガトウ、と言いたいところだけど……

カズヒサ達はいよいよもって容易ならざる状況下に置かれて居るようだ。

思ってたよりも事態は重いのかも知れない。


「ふん。此方は準備万端だ。毒の魔道兵器など足元にも及ばぬ術の数々で、今度こそお前

をぶち殺してやろう」


そう言い残してイケメン魔神は消えうせた。

ここでアイツに攻撃を仕掛けても無駄なのだ。

精霊は使役している精霊使いを倒さない限りは何度でも復活してくるから。






「なかなか愉快なヤツを敵に回してるわね? あたしも見に行っちゃおうかな?」


ユミカだ。面白そうにニヤニヤしている。


「今のって鎧の魔神ですよね……あんな強大な精霊が敵方に付いたのですか?……」


「まぁ、精霊ってのは呼ばれれば敵も味方も無いんだけどね。ゴメン、アイツはわたしの

個人的な敵なんだけど、そのせいで余計な危機を招いちゃった感じだね」


もう人前だとかで取り繕う時間的余裕も許されない感じがする。

ポシェットから大宝珠を取り出し宙に浮かべると、


「『ボイスコマンド、CIC起動』」


『あの剣』を頼りにCICのスクリーンを展開すると、そこに映ったカズヒサは……




なんか判らないけど、大勢の前で踊ってた。

余裕の為せる業? それとも四面楚歌な項羽の心境?




何だろう、あれは剣舞?

『あの剣』をめちゃくちゃ振り回して、あっちに走り、こっちに走りしている。

西日が当たる砦の真ん中で、カズヒサの変な踊りを前に大勢が集まり座り込んでいた。

座り込んだ人達の中にはアッチコッチ指差す人がいて、カズヒサはその人が指差した所へ

剣を振っているようだった。何かの遊びだろうか? それにしては様子が変だけど。


自慢じゃないが、わたしは幼い頃から魔術と魔道具創りで日々過してたせいで、この世界

の遊びを全くと言っていいほど知らない。

カズヒサの踊りに何の意味があるのか判らなかった。


と、そんな事を考えていた時だ。ふとカメラ頭上に何かの視線を感じた気がした。

見上げて、スクリーンの上部に映っている物を見て、驚いた。




砦の尖塔に女性が立っている。

尖塔のホントの先っちょ、尖った部分を右足一本でつま先立ちしている。

上空は風が吹いているハズだが、どういうバランス感覚をしているのか全く揺れもせず。


その女性は、一言で言い表すなら『ビッチ』だった。

細身の身体。ボディコンの服は胸までやたら開いた物で、ギリギリの長さのミニ。

カメラが下から見上げた形だったので、見えちゃダメな下着までも丸見えだった。

というか、なんであんな所に立っているのか意味不明だ。


わたしは、わたしの隣に居る神の別身(エイリアス)を借用中のユミカと、スクリーンの女性を見比べる。

なるほど、あれがそうなのか?




「ねぇ?ファリナ? あちこち見て百面相してるけど、さっきから光の精霊力を凄く感じ

るのよね。 もしかして、どこか違う場所を見てるの?」


レティが精霊力の異常を感じてそう聞いて来る。

事ここに至って、言葉で説明するよりも実際に見せた方が早いと考えた。


「ん、まぁ見てみて」


CICの映像を、レティ、ウイン、スニージー、リアラ、ジル、それにユミカとランサー

が見られるように、わたしが見る物の幻を届けた。

誰にも見せるつもり無かったが、見せても良いと思える仲間に出会えた事を喜ぶべきなの

かしら。




「「「「「「「 うわっ!! 」」」」」」」


今、カメラ位置は尖塔の高さとほぼ同じだ。目の前5mほどの所に女性が立っている。

レティ達にしてみれば、360度の大パノラマが突然出現したのだから驚きだろう。


「プニ!」


レティがいち早く女性に気付き、声を上げる。


「ホントだ、どこよここ?」


ユミカが場所を尋ねてくる。他の皆も彼女に気付いたようだ。


「ここから北に馬車で5日くらいの距離かな? たぶんノースアイゼン砦」


この国の地理に疎いわたしは皆にそう告げてから、映像のレイヤー優先順位を変更し、

わたし達足元の肉眼で見てる地面よりも、カメラ映像を優先的に"視える"ようにした。

そのとたん、今まで地面だったところが空中のカメラ位置からの映像に切り替わる。


「「「「「「「 うわあっ!! 」」」」」」」


突然空中に投げ出されたように感じたのだろう。先ほどより大きい声が上がる。

足元が消失して遥か下の広場に大勢が集まっている映像に切り替わったのだから。


スニージーが、つま先で"見えない"地面をトントンと叩いている。




「プニ神って、なんであんな扇情的な格好してるの?」


『これでも子宝の神だからな。こんなモノだろう?』


わたしの問いかけに、穏やかなメゾソプラノの綺麗で透明感がある声が答える。

その声は、スクリーンでこそ目の前に視えているが、実際はここから500kmほど離れ

た場所に居るプニ神の声だった。これが声優なら大勢の男性ファンが付くに違いない声だ。

視てる事に気付いてて、こちらの声も聞こえてるし、自分の声も届けてくるとはさすが神。


「ちょっと! プニ! 試練に顔も出さないで何やってんのよ!?」


ユミカだ。自分の神さまにそんな口の利き方して良いの!?


『ん? ああ、ウイウイ、スニッジ、レティ。神殿を無事見つけたようだなオメデトウ。

こっちも困ったことになってるんだ。顔を見せられなくてすまない。許せ』


ちっともすまなそうじゃない声でそう答える。

さらに神さまはこう言いやがりました。


『そういうわけで、ウイウイ、スニッジ、レティ。お前達もここに来ることを命じる。

具体的には明日の夜明け前までにだ。間に合わなければ帝国は滅びの道を辿るだろう。

もちろんその場合、下に居る勇者を含めた300名の帝国軍も全滅する。

リアファリナ。滅びの道を変えたいのならば、パーティーメンバー全員を連れて来い。

さらに、滅びの道を避け、かつ、勇者を救いたいのなら今日中に来なければならない』




「無茶苦茶だ! ここからノースアイゼン砦までは船と早馬でも丸々二日は掛かるぞ。

今日中どころか、明日の夜明け前ですら間に合うはずが無い!!」


ランサーが叫ぶ。

普通ならそうだろう。それを知ってる全員がわたしに注目していた。

わたし独りだけなら余裕だ。『飛翔』で飛んでいけば1時間も掛からない。


「ファリナだけ先に先行して、後から僕達が行くのでは?」


スニージーがプニ神へ問いかける。


『最良の未来を得るための条件は既に言った通り』




「一つ聞きたいんだけど?」


わたしからプニへ問う。

プニは視線だけで言ってみろと返した。


「プニ神殿の上級守護兵貸してくれない?」


アレが在れば魔王軍を楽に駆逐できるだろうから。

すると、プニ神は目を細める。笑ったのか?


『この戦い、神々も注目している。

俺がお前に必要以上に肩入れすれば、敵方へもテコ入れしようとする厄介なお方が居る。

そういう訳で答えはノーだ』


ちぇー、ケチー

そもそも、今こうしていること自体が十分な"肩入れ"に思えるけど?


『問題無い。俺が肩入れしているのはピンクの方で、お前に無茶を言う分には構わない』


「心の中を読むなんて……ピンク? ………………一久(ピンク)か!?」


『ケチとか言うからだ。そして今日中とは選択肢を選べるタイムリミットだ。

その間も、お前達がここへ到着する時間が遅れるほど死ぬ人間が増える。

最初の人間が死ぬのは、今から54分20秒後』


なんですって!?

足元に目を向ければ、まだカズヒサが変な剣舞を踊っていた。

いや……今のプニ神の言葉通りとするならばこれは……目には見えないが敵の攻撃!!??

カズヒサ達にしか見えない敵なのだとすれば、この異様なカズヒサの踊りも説明が付く。


そういう風に捉えて見てみれば、集まった人達が指差す方向へカズヒサは一生懸命に剣を

振っている。かなりヘトヘトの様子だ。いつからこれをやっていたのだろうか?

カズヒサだけが剣を振っているのは、敵に必ず命中する『あの剣』と何でもぶった切れる

勇者の剣技ゆえだろう。他の大勢にはこの異様な敵への対処が出来ない状況のようだ。

あれではカズヒサの体力が尽きるのも、そう遠いことでは無いだろう。

今すぐにでも駆けつける必要がある。それも全員連れて500km先まで。


すんごい無理ッポイ。






喜んで困難に立ち向かうわけじゃないからと、イヤミの一つも言ってやりたい。

そう言えば、昔こういうシーンで歌を唄ったのを思い出した。

たしか……結婚を予定した男の子供ではない子を妊娠しちゃったのに、そのまま結婚して

子供を育ててもらえと、どう考えても無茶な提案を天使から言われた女性が出てくる劇だ。


今のわたしの状況に合ってる気がして、両手を逆ハの字にバンザイして唄った。


「♪神さまを~たた~えます ♪神さまを~たた~えます

♪おこと~ば~どおりに ♪なるよ~に」


『……なんてヤサグれた……。イメージ壊れるからヤメろ』


プニ神からの突っ込みに、


「神さまに無茶フリされた女の子の心境なんてこんな物よ。

当事者の、わたしが言うんだから間違いないっ」


『……ならばモチベーションが上がるように報酬を出そう。始原の火竜の仔の居場所だ』


「最初からそう言ってよぉv。 このリアファリナにド~ンと任せなさい!!」


とニッコリ返事を返してからCICをオフにした。

言ってみるものね? まぁ、神さまには最初からお見通しだったのだろうけどさ。






「時間内にノースアイゼン砦まで行く策は? ファリナ?」


スニージーが口火を切った、皆もそう思ってるのは顔から判る。


「ちょっと待って、考える」




『飛翔』で一人づつピストン輸送は? ダメだ。往復1時間半では今日中に全員運べない。


ならば『ゲート』は? 欠点だった精霊界に出口を創る方法も最近考案したではないか?

……いや、わたし独りならどうにでもなるが、精霊界で不慮の事故があれば命に関わる。

十分な検証を行わないで一か八かに賭け、皆の命を危険に晒すわけには行かない。


疲れ知らずの土霊で馬型ゴーレムを創り、『ヘイストⅤ』では? ……魔力が持たないか。

それなら500kmを6時間で良いなら時速100km弱でも良いはず。

ならば『ヘイストⅢ』でもイケルんじゃ? 不整地を時速100kmって何の拷問かしら?


いくつかの方法を挙げてみるも、すぐさま否定材料が浮かぶ。

結局、思考は一番最初に思いついた、けれど一番イヤな方法へと回帰した。




『呼んだか?』




「ええ、お願いがあってね」


わたし達の目の前に突然現われた巨大な頭蓋骨。同時に吹き荒れる風。

『イチゴショート』かつて我が物顔で世界を駆け巡った風の上位存在。嵐の暴君。

何の取引材料も無くお願いなどすれば、何を要求されるか知れたものじゃない。

それでも、今はコイツにお願いせざるを得ない。


『いいだろう、その代わりにこちらも要求がある』


ホラ来た。


『風使いを一人要求する。なに取って喰うわけじゃない。風の精霊使いを一人連れまわす

ことで、より高度な技が出来ると気付いてな。だから紹介せい。

ああ、お前はダメだぞ。お前の精霊力は混ざり物が多すぎる』


……そんなんで良いの?


「よしっ決まった! ホラ!この娘、風を守護精霊名に持つ精霊使いで、ついでに妙齢の

美女よっ はべらして良し、愛でて良しの超優良物件だっ」


「えっ!?」




「ほらほら! 全員、準備が整い次第、この頭蓋骨に乗り込んで頂戴!」


わたしは皆を急かして出発の準備を整える。

イチゴショートは大きな頭蓋骨とは言え、一度に乗り込めるのは4人まで。

わたしは自分で飛んで行くとしても、一人余る。


「え? えっ!?」


当然乗り切れない一人は最初から決まってる。レティだ。

ウイン、スニージー、リアラ、ジルが中に乗り込み、レティ一人を頭蓋骨の上に座らせる。


「ええ~~っ!?」


「そーれ、出発進行! さよならっ 街の皆! お世話になりました~~っv」


わたし達は別れの挨拶もそこそこに、地下世界から飛び立つ。

イチゴショートが『折角風使いを得たんだ、飛んで行くぞ!』と言い張ったからだ。


さすがイチゴショートのダッシュ力は凄まじい。

ぐんぐん上昇すると、ザワール湖の水底に風の結界を纏ったまま飛び込み、派手に水飛沫

を撒き散らした。


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~・・・・・・・・・」


レティの悲鳴が尾を引きながら……


イチゴショートが風の結界を張ってるので、落っことしたりはしないだろう。

わたしはあんな派手な真似は出来ないので、水霊へ頼んで水底にトンネルを開けて貰った。


イチゴショートはわたしを待つなどと言うことは無く、自分だけでさっさと飛んで行く。

ヤツの速度は、これまでなら『飛翔』でも追い付け無かったが、今は違うわよ?

背中に背負った火竜の剣(ブースター)に魔力を通す。

とたん、弾丸の様に加速するわたし。

イチゴショートと抜きつ抜かれつしながら、あっという間にノースアイゼン砦の上空へと

辿り着いた。まだ辺りはようやく暗闇に沈み始めた時間帯だ。満月が地平線に顔を出して

いる。速い速いv 






高度を下げ砦の広場に降りて行くと、先ほどスクリーンで見たよりも疲れ果てたカズヒサ

がフラフラになりながら、それでも精一杯、剣を振るい続けてた。

ルーとオーリスは懸命にカズヒサへ声援しているし、ニアは泣きながら声も嗄れよと応援

している姿が見えてくる。


その他大勢もコッチだ、アッチだと指示を出すものの、指示の声を掻き消さないよう配慮

しているのだろうか? 声援は控えめだが皆必死の形相で、態度でカズヒサを応援してた。

と、その時、カズヒサの左足から血飛沫が上がり、誰かが悲鳴を上げた……

いや、広場に集まっている大勢の中でも血を流し倒れている人間が居た。

カズヒサの援護が間に合わなくなっているのだろう。


シャイアが神への祈りを捧げて、カズヒサの傷が癒され……切れてない。

魔力が切れ掛かっているのだろうか? シャイアの顔は遠めでも真っ青だった。




さらに高度を下げ、魔術式の有効距離まで近付いたわたしは、すかさず支援魔法を掛ける。


『パーティーセット』


少しずつ改良を加え、魔力回復速度は以前より早く、スタミナ回復効果も追加されている。

自分達を包む支援魔法の効果光に驚き、辺りをキョロキョロと見回すオーリス達。

足を切られてひっくり返って居たカズヒサが一番始めに、わたしを気付いたようだったが、

なんだか目が朦朧としている。わたしだと認識しているかは怪しかった。

気付けば、広場に居る全員の視線が空中のわたしに注がれている。


その中を、わたしは次の魔法を唱えながら、ゆっくりとニアの隣に着地した。

この人達には見える敵がわたしには見えてない。

まずはソイツ等を引き摺り出さなきゃ。


唱えるのは、悪戯精霊の力を用いて一人が見ている幻を他の人間も共有できる魔術式。

『CIC』でも採用しているヤツだが、違うのは効果範囲内の全員に掛かる点。


「銀の月に呼び覚まされた悪戯心よ、祭りの夜を楽しめ。

地獄より舞い戻りし死者と魔女と共に精霊と踊れ!『ハロウィン』」


詠唱の文言に他意は無い。そのまんまだ。ハロウィンの夜を楽しむために創った魔術式。

故郷の村でこれをやった時は後でえらい怒られたものだ。




画面が切り替わるように、砦の広場中を埋め尽くすように黒い影がいくつも現われた。

『ガイスト・ストーカー』人の精神の陰に潜み、宿主を呪い殺す怪物。それがコイツだ。

数十体ではきかない。数百体は居る。

広場の人間一人につき、一体かそれ以上の数が取り憑いて居たのだろう。

それが全て一堂に見えるようになったのだ。周りから悲鳴が上がる。


『闇爪』


目の前に見えているコイツ等は、実際には精神世界(アストラルサイド)に存在して居る。

有効な攻撃手段は、闇霊による精神系魔術でのアストラルサイドへの攻撃だ。

一度に複数の『闇爪』を八方へ飛ばし近場のヤツを全て片付け、続けざまに魔法を唱えた。


「清なる水よ、暖かい光よ、大地の慈愛をもって傷付きし者に癒しの手を与えよ、

猛き炎よ、安らぎの風よ、優しき闇を伴い心疲れし者に回復を『フル・リカバリー』」


消耗が激しいカズヒサとシャイアに、わたしの持つ最大の回復術を掛ける。




ニアはわたしを見つめ、大粒の涙を浮かべ喉が詰まっているかのように口を痙攣させてる。

落ち着いて貰わないと、今は話にならないかな?

なので、その向こうにいる以前出逢った辺境騎士団長に大声で話しかける。


「アルゴン騎士団長さん? お願いがあるんだけど? 今からここにわたしの仲間が降り

て来るけどその中の一人がダークエルフなの。でも危険は全く無いから斬り掛かったりは

しないでね? 他の皆も頼むわね?」


「へ? あ、あぁ、判った。 ……わしはアルゴスだっ」




上空から遅れてイチゴショートが降りて来た、良いタイミングだ。

地面に着く前に、ジルとウインは飛び出し、ガイスト・ストーカーに斬りかかる。

ジルの魔剣は精神系付与されているので、そのままでも斬れるが、ウインの黒剣は空振り

している。精神系の怪物相手にそのままではダークミスリル武器が通用しないのだ。

なので助言する。


「ウイン、それにリアラ、武器に魔力を通しなさい」


ダークミスリルの武器には、魔力を通すことで闇霊属性の付与魔法で追加ダメージ効果が

得られるようにしてある。『簡易儀式』で籠めた永続効果魔法の最後の一つ。

リアラは器用に魔力を武器に通しているが、ウインはその点が下手だった。

まぁ慣れれば大丈夫だろう。


闇霊属性を纏った武器はガイスト・ストーカーに有効なダメージを与え出す。

ウインとジルの活躍で見る見るうちに砦の怪物達は数を減らしていく。

リアラは戦いながら目に付く怪我人に次々と回復魔法を掛けていた。


スニージーは……目を廻してグッタリしているレティを介抱している(汗

後で感謝しておこう。

間に合ったのはレティの生贄……もとい、献身のおかげだからと。




やれば出来るじゃん>わたし

なんとかクリスマスに間に合ったよー。


とは言え、今年の小説アップはこれで最後となりまする。次回は来年ですっ

クリスマスとお正月は、溜まっている小説のアレコレを読み進めますね。

ではでは~


メリークリスマス&来年も良いお年を~♪

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