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死霊都市二日目の朝。
「ファリナ、どうしたんですか!? それ」
朝起きてから朝食の支度をしていると、朝の礼拝を終えたリアラが食堂へ手伝いに現われ、
わたしを一目見るなり尋ねて来る。
聞きたい気持ちは判るけど、今はそっとしておいて欲しいのよね……
無理目な相手に挑んでその結果がこれってのはちょっと自己嫌悪。過信し過ぎてました。
自分の中であの力に対する甘えがあったのかも、と突き付けられてるようで凹みます。
とはいえ、今朝は顔をあわせた順に皆が一様に驚く。
そりゃそうだ。なんで……なんで……逆パンダなのよーーーっっ!!
全身焼けてるならまだしも、鏡を見てビックリさー。
顔の伊達メガネの形で、そこだけ真っ白なのでした。
ザ~タ~ン~め~~ おぼえてろっ
おかげで街を歩いてても子供にからかわれる始末。
「おねーちゃん、お顔のオメ目の周りだけ白いね?」
よけーなおせわですっ!!(涙
「あのね、人には触れられたく無い過去ってのがあるの? 判る?
判ったら向こうで遊んでてね(滝涙のエルフスマイルっ)」
「う・うん、判ったよ。あのね?おねーちゃん。 夕べね、お空がピカって光ったの。
プニ様がおっしゃってたよ。そういうのって、ゆ~ふぉ~って言うんだよね?
サーシャね、お隣のね、レンちゃんとゆ~ふぉ~探しに行くんだよ。いーでしょ!?」
「ゆ~ふぉ~?」
ピカって光ったのは、わたしがラーハイラの魔法に撃たれた時のかしらん?
「サーシャ、だめよ。こっちいらっしゃい!!」
通りすがりの女の子は、そう言われてお母さんに手を引かれて行きました。
「あのお母さん、死者だね。 サーシャって娘さんは生きてるけど」
レティは母子が去った後、皆にそう教える。
「今日こそ神殿まで辿り着きたい。なんとなく今日はイケそうな気がするんだ」
パラダイスは今日も素晴らしい天気で。(地下だけど)
なんて清々しい朝なのかしら。(湖底の下だけど)
ほぼダークで一部ホワイトなトゲエルフを除いて、他全員パラダイスの夜は快眠を貪れた
ようで、気合の乗ったウイン達は早朝から気勢を上げている。
ラーハイラの言ったボスは放って置くことにしたわたし達は、ボスへと続く道とは別の、
ダンジョンの入口その2へと続く道を進む。
なんの事は無い、わたしが昨日神殿から出てきたその場所だ。
そこから入れば、このB5層からB4層へと続く上り坂が在り、そこからB4層の反対側
へ行けばB2層の神殿へと続く上り階段へと辿り着く。
わたしは守護者のユミカからこの死霊都市へと抜ける道順を教えて貰ったので、逆に辿ろ
うと考えれば楽勝ではある、が、ウイン達の試練なのでその辺りは口をつむぐ。
「ほい、水晶姫、今日も頑張ってねv」都合が悪いときは丸投げよっ
もっとも、
「な……なんだ!? この死者の多さは!?」
ウインが驚く。
B5層からB4層へと続く上り坂は満員電車もかくやという程の半端じゃない死者が居る。
しかも、
※Repeat
「レティ、あの中の一人に弓を撃ってくれ、少しずつ誘き寄せて倒して行こう!!」
「ほい」 レティが矢を一番手前の死者へと放つと、
『『『『『『『『『『『『『『『『 ギラリ☆ 』』』』』』』』』』』』』』』』
そんな擬音が聞こえて来るほど、死者全員が一斉にこちらを振り返く。
「ウラ~~」と声を立てて、視界に入る死者全てがわたし達へと襲い掛かって来た。
もちろん、そんな数を相手に出来るハズも無く、わたし達は一目散にその場から逃げる。
死者達はダンジョンの外までは追いかけて来なかった。
しばらく入口をウロウロすると、元の場所へと戻っていった。
わたし達は様子を見て、落ち着いた頃に再びダンジョンへと入る。
※Repeatへ3度戻る。
そんなこんなで4回程繰り返し全く先へ進めないと判ると、とうとうウインも根を上げた。
「よしっ、判った。 このルートは通れそうにない」
「そうだね、別のルートを探そう」
ジルもそう返事を返す、それは他全員の気持ちでもあったから。
正直言うと、やりようはあるのだが。『イージス』で分断するとか。
事情をソレとなく気付いてるレティがこっちを向かないのもワザとらしく、それも含めて
ウシロメタイわたしは何時にもまして静かに皆の後を追いかける。
せめて心の中でエールを送るわね?
B5層の死者の数は先ほどの上り坂に比べれば断然少なかったが、それでもB1層に比べ
て数多く、また、全員が武器を持って居た事で倒すにも時間が掛かり、調査は遅々として
進まない。
それでも少しずつ奥へと進み、
わたし達の目の前には魔法陣が一つ、少し離れて右奥にも似たような魔法陣が見える。
「これは何の魔法陣だろう?」
魔術師のスニージーが興味を持って調べ始める。
内緒だけど、わたしはその魔法陣がどういう働きをするか知っている。
その魔法陣で鍵となるアイテムを持って立てば、対となる魔法陣へと転送される仕組みだ。
行き先はB4層。右奥にある魔法陣が逆にB4層からここへと至る転送陣である。
わたしは昨日、ユミカが転送陣を起動してくれたのでこれを利用してB5層へと来たのだ。
B5層からB4層へ到達するには、先ほどの無茶振りな上り坂を強引に突破するか、この
魔法陣の鍵を入手しない限り神殿へは行けない構造となっている。
つまり、上り坂を諦めたわたし達はどうしても鍵を見つけなければならない訳だ。
程なく、スニージーも魔法陣を読み取り、鍵が必要だ、との結論を出す。
と、ジルがクルリと、わたしに向き直り、
「何か変。 どうしてファリナはその魔法陣を調べなかったの?」
ギクッ この子ってば時々凄く鋭いわね。
「その理由は簡単。ファリナは昨日、独りでこのダンジョンを調べちゃったから。
その魔法陣も神殿の位置も全部知ってるのよね? でもこの試練は、あたし達3人のため
に在る訳だからさ、知ってても話さなかったのよ。話したら試練にならないものね」
レティが答えてくれた。昨日の夜、ちょっと話しただけなのにホント、カンが鋭い。
ええーい、こうなったら、
「うん!! その通り!! そういう訳だからウイン、スニージー、レティ頑張って!!」
開き直っちゃえ!!
「あ、でも、鍵の在り処は知らないからねっ」
「うーん。正直ボスの方面には向かいたく無いんだが、もう調べてないのはそっちだけか」
魔法陣の所にこれ以上居ても手がかりが無い事を納得して、また移動を開始する。
「もうそろそろ正午になるね?」
レティは腹時計だろうか? わたしの宝玉時計でもお昼だ。
そうしたところで、鈴の音がわたし達が今戻って来た方向から聞こえて来た。
『チリ~~ン…………チリ~~ン……』
「あ、復活隊が来た。あの魔法陣を使ってここに来るのね。
どうする? あの光る玉が鍵なのかもよ?」
わたしがウインの判断を仰ぐため問いかける。
「復活隊? 良い得て妙だな。 確かにあのボス達が持ってる光る玉は怪しい」
ウインも賛成する。
「待って」
しかし、ここでジルが意見を言う。
「私達なら、確かにあのボス達、えと復活隊?に勝てると思う。
けれど、なんでだろう。それが正解とは思えない。危険なだけで得る物が無い気がする」
「あたしもジルと同感。あのプニが! 待ってればのこのこと勝手にやってくる復活隊に
重要な鍵を持たせてるとは思えない。自分から知恵を出して積極的に取りに行ってこその
試練だと言うんじゃないかな? でさ、復活隊がこの時間にここに来た方が気になるよ」
「言えてますね、ただの偶然とも思えません。
どうでしょうか? ここは復活隊をもう一度やり過して様子見ませんか?」
レティとスニージーも復活隊が鍵を持つとは思ってないようだ。
「なら、いったん外へ出て、ラーハイラが言ってた入口に向かって見ませんか?
正午に何があるのか、あっちへ行けば判る気がするのですが?」
リアラはそう提案する。
「とりあえず二つ選択肢あるか。一つは、復活隊を監視して追いかけてみる。
もう一つは、ラーハイラの意図を確かめに言われた場所へ行く」
ウインがそう2つの案を提示する。
「あたしはラーハイラの言ってた入口へ向かうのは避けたいな。罠だと思ってるから」
「なら、復活隊をこっそり追いかけて見る?」
レティの反対意見に、リアラは自分の意見に固執せず、そう問いかける。
「そうするか、皆それで良いかい?」
ウインは全員が頷くの確認した。
そうして、わたし達はいったん入口の方へ引き返し、復活隊をやり過してから、その後で
死者達を倒しながら鈴の音を頼りに追いかけ始めた。
驚いたことに、復活隊の中にあのリッチもまじって居ました。
邪魔な死者達を手早く倒すため『ヘイストⅤ』などの戦闘支援魔法も惜しみなく掛けて、
わたし達は復活隊の後を追いかけ続ける。
ヘイスト持ちの二人に死者達は気付く間もなく一刀両断にされ、静かに追跡を行う。
そうして追いかけると、ちょうど正午を過ぎて一刻ほど過ぎた頃に復活隊+リッチの混成
パーティーは始原の火竜が居る部屋の前を通り、そこで方向転換して別な場所へと歩いて
行ってしまった。
「なるほどねぇ、正午にあの入口から入ると、丁度この火竜の部屋の前で後ろからやって
来た復活隊+リッチに、火竜との挟み撃ちを喰らう形になるわけだ」
わたしがそう言うと、
「ラーハイラの依頼通りに行動するとトンデモ無い目に遭ってたって事か。
レティとファリナが居なけりゃ、相手が死者だって知らずになんとなく矛盾を感じながら
も依頼を受けてたかも知れないな」
「プニらしいって言うか、あたし達を罠に掛ける依頼をワザワザ用意しておくなんて」
ウインとレティも感想を言う。
「真に受けてのこのこ引き受けると全滅コースでしたね。でも依頼が嘘ならあからさまに
怪しいのはラーハイラの立ち位置ですかね、彼女は試練にどう絡んでいるのでしょうか?」
「上り坂は死者が一杯で登れない。魔法陣は鍵が無いと通れない。ボスがあの火竜ならば
ちょっと勝てそうにない。ナイナイ尽くしで手詰まりなら戻ってラーハイラでも監視する?」
ジルが新たに提案を出す。
「……それが正解か? この不自然な依頼が罠だと気付けば、次に来る疑問は、では何の
ために?だしね。 ラーハイラを調べることが先に進める条件なのかも知れない。
他に案も無いならそうするか。上り坂の強行突破はその後で必要なら考えよう」
街へと戻る途中、レティはわたしに夕べのことを聞いて来る、
「ね、ファリナが夕べ出掛けたのはあの火竜絡み? その背中に背負ってる見慣れない剣
はあの火竜のでしょ? 感じる精霊力が同じだもん」
皆も話を聞きたそうだったので、道すがら夕べの話を聞かせる……
話の流れで、夜中にラーハイラと出遭った事、リッチと一緒に居た事、魔法を使って来た
事などや、偵察技能を持っているかもと言った推測も皆に伝える。
聞かれもしないなら余計な情報は言わないようにしてるが、殊更に隠し立てするつもりも
無いから。
街に戻ると、今朝出遭ったサーシャって娘の母親がなにやら慌てた様子で走っていた。
「どうしたの?」
わたしが声を掛けると、母親はハッとしたようではあるが、答えてくれる。
「サーシャが……娘がお昼をとうに過ぎたのに帰って来なくて、どこへ行ったのか……」
「あの娘かぁ。お隣のレンちゃんって子と、ゆ~ふぉ~探しに行くって言ってたね」
「お隣の? 判りましたお隣の奥さんにも聞いてみます。ありがとうございました」
そう言って母親はわたしにお辞儀すると足早く去って行った。
「……ああしてると、普通の母親に見えるね」
「ホントにね」
レティの呟きにわたしはそう返した。
偵察技能を持ってそうなラーハイラの監視は、レティ曰く、素人は邪魔になるとのことで
レティ独りで監視役を行い、わたし達は宿で留守番だった。
もっともレティには水晶姫を非実体化させて付き添わせて居るので、連絡には困らない。
「ラーハイラは家から出歩いて無い、街の連中がひっきりなしに出入りしてる」
そんな風にレティから水晶姫を通して定期連絡が入ってくる。
日が沈み、街が夜の闇に覆われる頃、レティから急を告げる連絡が入った。
「ラーハイラは家の中から動いてないけど、街の奴等が変だ。 全員が手に武器を持って
そっちへ向かって居るよっ 気をつけて!!」
『シャキン・シャキン……シャキン・シャキン』
死霊達が武器をリズミカルに撃ち合せながら、街の中を大挙してわたし達が居る宿へ押し
寄せてくるのが見えた。見えるだけでも100や200ではきかない数だ。
「あの人数相手に狭い家の中は不利だ。ダンジョンの近くに広い原っぱが在った。あそこ
まで逃げよう」
わたし達のパーティーは全員がスペルユーザーだ。(ジルも魔法使えるんだよ)
家の中よりも、大規模な攻撃魔法や治療魔法を考えれば、見通しが良い場所の方が有利。
街はずれから追いたてられる様に逃げ、ダンジョン傍の原っぱで戦うことに決めた。
そこは昨夜ラーハイラに魔法を撃たれた場所だった。
『干草積み』がいくつか置かれている物の、視野が広く取れる場所で戦うには最適だった。
しかし、先回りされていたようだ。あるいは最初から居たのか?
少し離れたいくつかの干草積みの陰に潜んでいる者が数人『探知』に引っ掛かっている。
『シャキン・シャキン……シャキン・シャキン』
死者達は走るでもなく、慌てることもなく、淡々と包囲を縮めるかのように迫ってくる。
そこへ、レティがわたし達と合流する。
「変だ、彼等がダンジョンの中の死者達と同じように無条件に僕達を襲うつもりなら、
夕べの内に襲って来ただろう。なぜ今になって?」
「やっぱりラーハイラの企みが失敗したから? あのリッチって魔物がラーハイラの仲間
なら今日になってもあたし達を罠に掛けられなかったのは連絡するだろうから」
ウインの疑問にレティが思ってることを答える。
死者達の群れが100メートルほどに迫った時、ウインが大声で話し掛けた。
「僕達は神殿への巡礼の旅でここに寄っただけで、街の住人に危害を加えるつもりは無い。
何かの人違いや勘違いでは無いのか? それでも僕達を襲うと言うのであれば自衛のため、
こちらも武器を持って応戦する」
当然ながら死者達は応答しない。もうわたし達から50mほどの距離まで迫っている。
「仕方ないね、やるよっ」
レティはそう言うと『ファイアーバード』を放つ。
わたしは前衛のウイン、ジル、そして水晶姫に『加速』と『ヘイストⅤ』などの戦闘支援
魔法を掛けた。
炎の照り返しで、すっかり暗くなった風景が紅く照らされた。
炎は草原の枯れ草に燃え移り、その辺りからゆっくりと燃え広がって行く。
『ファイアーバード』でなぎ倒された人々の中には、サーシャの母親も居るのが見えた。
彼女も両手に包丁を持っていたが、服に炎が燃え移っているのを慌てて掃っている。
「ナーシェル・バーライクシェバー・ダーシャン・フラーテスト・リ・オークル
破裂の光よ、天空より魔力の炎を降らせ死を撒き散らせ『クラスター』」
スニージーの『クラスター』が投射され、死者達の頭上に到達し焼き尽くす、ハズだった。
だが、
「おかーさん!!」
幼い声があたりに響き渡り、子供が干草積みの中から飛び出して来た。
昼間行方が判らなくなっていたサーシャだ。ゆ~ふぉ~探しって、未だここに居たの!?
拙いことに『クラスター』の範囲内に掛かっている。 もう第一段階目の分裂が終って、
8つの光球がこれからさらに分裂してサーシャ達へ降り注ごうとしていた。
わたしが躊躇ったのは一瞬だった。
次の瞬間、わたしは『加速』『ヘイストⅤ』を自分に掛け、サーシャの頭上へ『イージス』
を広げると同時に、クラスターの分裂球を魔力と霊力の剣で薙ぎ払う為に走り出す……
しかし、
わたしが走り始めたその時には、既に事は終っていた。
元から『加速』『ヘイストⅤ』が掛かってたウインとジルは女の子までのおおよそ50m
を0.2秒掛からずに走り切り、さらに0.2秒後には全ての分裂球を始末してました。
出遅れ感丸出しのトゲエルフは、自分に掛けた『加速』と『ヘイストⅤ』をコッソリ解除
しましたとさ。
「ありがとうございます」母親から礼を言われるウインとジル。
サーシャは母親にしがみ付いて泣いている。
その頃にはわたし達6人と、死者達も周りを囲んで心配そうに声を掛けている。
「おいおい、大丈夫かい? サーシャちゃん」
「心臓止まるかと思ったぜ、子供はもう寝る時間だよ、危ないから家に帰りなさい」
「もう止まってるって」
「うはは、その通りだなオイ」
「あぶねーなー、子供が怪我したら、俺ら贖罪どころの騒ぎじゃないぜ」
死者達の和やかなムードに思わず目が点です。
「レイシャ、今夜はもう良いからサーシャちゃんを連れて帰りなさい」
「は・はいっ、あ、あの、それではお先に失礼します」
母親……レイシャは子供の手を引いてペコペコしながら帰っていった……
それを見届けると、レイシャに帰るよう言った見た目は青年風の死者が、こちらを向いて
話しかけてくる。
「えーと、それでは気を取り直して、今のは無かった事にしてやり直しで!!」
「いや、やり直し言われても……」
ウインは理由が判らず戸惑った声を返した。
青年風の死者はウインの戸惑いにお構いなしだ。
「えーと、先ほどそちらさんが撃った魔法からでヨロシク。 おーい、皆やり直しだ!!
さっきの位置へ戻ってくれ!」
「やれやれダゼ」
「さっきの魔法は老骨には堪えそうだわいな」
「いや、ホントに。おにーちゃんたち、もうちっと優しい魔法撃ってくれよなっ」
「逆にバッサリ逝った方が、手加減されるより痛みが無くて良いんじゃゾ? わっはっは」
なんなの?この死者達。 やとわれエキストラ?
なので、わたしはこう叫ぶ。
「それじゃ、さっきの続きからで良いのね? あの魔法の後で、始原の炎で薙ぎ払うから
アンタ達を骨も残さず焼いてあげるわね」
背中の剣を抜いて霊力を剣に通すと……思ったとおり蒼い炎が噴き上がる。
重くて振り回せないけど、構えるくらいは出来るのだ。
この地の死者達にはさすがに、この蒼い炎は既知の物だったようだ。
「「「「 ちょっ 」」」」
「えー!? そんな魔法を使うなんて聞いてないよっ!!」
「さすがに骨も残さず焼かれるのは勘弁じゃぞい?」
「いくら、俺らが死なないからってそりゃねーだろぉ?」
「ちょっ世話役、さすがにあれは無いって!!」
死者達も三々五々不満を述べる。
世話役と呼ばれたのは、先ほどの青年風の死者。
「参ったなぁ。俺もこんな予期しない出来事が起きたのは初めてだしなー。
ちょっと待ってくれよ、ユミカ様にお伺いするからさ」
そう言うと、彼は大声を出した。
「コウモリさーん、すんませーん、助けてくださーい!!」
『バサバサ……』
空にそんな羽音がし、目を向けるとソコには銀色のコウモリが飛んでいた。
『ポンッ』と軽い音がすると、色々と著作権的に危なげな美少女戦士が宙に立ってました。
左手に持った銀色のステッキ、あえて言うなら『シルバーバトン』か?
背中のマントは表が黒で裏地が赤。まんまじゃないの。もしかして魔女っ子かしら?
長い銀髪はツーテール。
主にピンク色でカラフルに彩られたパフスリーブなトップス。
大きな同色のリボンで飾られた胸元。
Aラインのフレアミニスカートはギリギリの長さ。
あれってマサカッ!?
美少女戦士は緩やかに空中から降りてくる。
わたしは思わず駆け寄ると、美少女戦士の周りをグルグル回りながら、しゃがんで見たり、
ミニスカの中を覗き込んだりしたが、下から見られているのにどの角度からもミニスカの
縁布に隠されて中身が見えなかった。
ガーーーーーーーーッン!!!!!
わたしの摺りガラス&モザイクより仕組みが簡潔で、明らかにこちらの方が簡素な魔術式
で同程度の効果をもたらせている。
「そっそんなシンプルで、かつ、効果的な方法で隠しているとは」
わたしが打ちひしがれて居ると、
「こらっ//// そこのトゲエルフ。イキナリ何すんのっ」
ミニスカを押さえながら、かすかに紅潮した頬で可愛らしく睨みつけてくる美少女戦士。
「なんで、わたしのこと知ってんの?」
「「「 プニっ!? 」」」
ウイン達3人が驚いている。「え?神様っ?」
「違う違う。ちょいと事情有ってプニと同じ姿だけど、あたしがこの地のプニ第一神殿を
任されている神殿守護者のユミカです」
正体は女ヴァンパイアのユミカは続けて、
「先ほどまでの事は見てましたが、事情が事情なのでやむを得ないでしょう。
こうなってしまった以上、そこのインチキ臭いトゲエルフ相手に戦えと言うのも酷だし、
ここで今夜は解散としましょう」
「はいな、助かったぁ!!」
「了解ですっ」
「やれやれ終ったおわった」
「あ、これは言っておかないと、えっと、『ぐぎゃ~、ラーハイラ様~(棒読み)』
んじゃ、確かに伝えたからなっ」
「何ですか、今の?」
リアラが問いかける。
「おおかた、わたし達にやられた時の断末魔にそう言うハズだったって、セリフかな?
あれで疑いを持ったわたし達がラーハイラを問い詰めるってシナリオだったんじゃない?
ねぇ? ユミカ、これってベタすぎじゃない? もうちょっとこう……」
「う・うっさいわね!! そもそもアンタのせいで、予め用意してた4つあるオモテナシ
の内、すでに3つまでを台無しにされちゃったわけでしょーが。
神殿の位置でしょ、火竜の罠でしょ、そして今夜の襲撃でしょ」
「ちょっと! 前2つはともかく、今夜の襲撃を台無しにしたのはわたしじゃ無いでしょ!
子供が飛び出して来たからじゃないの!!」
わたしがそう言うと、ユミカはわたしをジト目で眺め、
「それだって昨日誰かさんがここで騒いだからでしょ? あの子達は戦いの跡を『探検』
しに遊びに来たわけだからさぁ」
「うっ」
「まったくもー、机上の試験じゃないんだよっ!? 大掛かりな舞台を用意するには時間
と労力が掛かってるって事を知って欲しいわね」
ユミカがブツブツ言っていると、
「ならば、こういたしましょう」
その声が聞こえて来た方を振り向くと、老婆が一人。
いや……その姿が溶けるように変化して、そこに居たのはラーハイラでした。
『幻影』かしら?
「普通なら、貴方がたはこのまま、私かダーリンを待ち伏せでもして倒すっていうのが、
これまでの試練での常でしたけど、今回は喪われた3つの台本の代わりに難易度を高めて
私とダーリンの二人掛かりで、本気のお相手を致しましょう。
神殿へ通じる鍵は私かダーリンが持ってますから。
それでよろしいですか? ユミカ様」
「ふむ……」そう言って考えるユミカ。
「良いでしょう。 ではウインゾフィー、スニージー、レティアラの3人は特別仕立ての
舞台へ登ってもらいましょうか」
「ふふ、それでは明日の夜にこの場所で。 時間はそこの出歯亀エルフが知ってます」
ラーハイラは、優雅にロングスカートを指で持ち上げお辞儀をすると、きびすを返して、
ダンジョンの中へと入る道を歩いて行く。リッチへ相談にでも行くのだろう。
草原を歩いているのに、その足音はまったく聞こえなかった。
「……本気の彼女はかなり手ごわいよ、これまでの試練では待ち伏せ奇襲ありの武器無し
という条件でばかり戦わせていたからね」
ユミカは脅しなのかそんな風に言う。
「魔術師にして偵察技能持ちで、高位の邪神の使徒でアンデットなわけね。
それとリッチを二人同時に相手するのかぁ」
「ふふん、判ってるじゃないの。
あっと、それと、アンタのその黒い肌。 それ邪神絡みでしょ?」
「……そうよ?だから?」
「べぇっつに~?」
ユミカはニマニマしている。
小声で「ただ、もう一つくらい保険が掛けられそうだと思ってね」と呟いていた。