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こんがり肌のトゲエルフ in パラダイス。
水着とブルーハワイ片手にビーチで優雅に過したいわ。
忘れちゃいけないのは、寝そべるトゲエルフの横に山と積まれた魔法書よね!!
そういうのって夢のような、お素敵ライフだけれどもさ。
やっぱり現実は厳しいのよね。
「貴方達を助けて欲しい、と?」
ラーハイラからの依頼はこんな風に始まった。
「はい、既に他の方達には依頼の詳細についてもお話を致しております、答えは貴方様と
御一緒されてから、とのことでしたので」
「え~と、確認するけど?
貴方達は死霊に囲まれて生活するのがイヤで出来れば逃げ出したい、けれど、逃げるため
にはダンジョンに巣くってる死霊達が邪魔で、その死霊達を何とかするにはこの道を進ん
だ先のダンジョン内に居るボスを倒せば良い。ということなのね?」
「はい。ダンジョンの奥に居る死霊達を束ねている存在は、昼間~正午頃にこの先の入口
からダンジョンへ入った場所に現われると噂されてます。というのも見た者が居るのです。
夜はその場所に居ないと聞いてますが、確かめた者はおりません。
なにせ夜は死霊達が活動する時間ですから」
「ふ~ん? で、ウィン達はどうしたいの?」
「僕達の意見は先ほど言いましたが、ファリナが来たのでもう一度繰り返しますと、
僕達がこの場所に来たのはプニ神殿を訪ねるためです。
だから旅の第一目的としてまずは神殿を訪れたい。
ラーハイラさん、貴方の願いはその後で余裕があれば考えたい。
残念ながら、今の時点でお受けしますとは約束は出来ません」
「貴方がたにも事情はあるのでしょうから無理にとまでは言えないのは解っています。
けれど私達も限界なのです。夜は死霊が街の中を闊歩し、この世ならぬ恐ろしい叫び声に
耳を塞いで怯えて過すのは。私達はこのまま死ぬまで怯えながら生きなければならないの
でしょうか? そして死んだら彼等の仲間入りして……そんなの耐えられませんっ。
どうか、どうか、お願いします。死霊達を束ねる存在を倒すだけでもっ。
きっと神の御心にも沿うはずです。神官様」
ラーハイラは両手の指を組み、礼拝するようにわたし達へ依頼をする。
可憐な女性のそういう姿って絵になるなぁ。
わたしは冷ややかな目でラーハイラを見ながら、客観的にはそう感想を抱いた。
「ここにはウイン達のために来ている訳だから、どうするかはウイン達が決めて良いよ」
わたしは決断をウイン達に任せ、水晶姫の手を取り皆から離れた場所まで引っ張った。
「とりあえず、水晶姫はこっち来なさい」
声が皆に届かない程度に離れてから水晶姫を問い詰める。
「アンタ、ここを最初から知ってたでしょ!?
ううん、あの落とし穴、アンタは隠し扉と言ったけど、アレ開く前から知ってたわね?」
「な、なんの事かしら~?」
大地の上位精霊でもある水晶姫は嘘を付かない。
だけど真実を言うとも限らないのだ。
あの時、たしかに水晶姫は言った。落とし穴……隠し扉か?を発見するのは遅れた、と。
気付かなかった訳では無いのだ。ならば、いつから気付いてた?
それに、あの落とし穴の先に居たリッチは大地の魔法鎧を持っていた。
そんな物に大地の上位精霊たる水晶姫が気付かなかった? 地面の下のダンジョンの中で?
い~や、水晶姫は気付いて居たのだ。落とし穴にもリッチにも。
さらに落とし穴が安全地帯に通じていることも。
これ幸いとばかりに、リッチとの戦闘を回避しようとしたのだ。たぶんに親切心で。
邪神の加護を持つリッチに魔法攻撃は普通は効かない。ならば接近戦となるわけだけど。
無重力下の戦闘は慣れが必要だ。このパーティーでリッチと接近戦をまともに出来るのは
普段から『飛翔』で姿勢制御に慣れてるわたししか居ない。
復活隊を安全のためにやり過したのだ、ならば自分が黙っていれば落とし穴に引っ掛かり、
リッチも無難に回避出来ると踏んだのだろう。
戦えば、もしかしたら誰か危なかったかも知れない。そういうリスクがあったのは認める。
わたし独りを取り残したのはコイツなりの意地悪だろう。コンニャロめ。
心当たりは……有り過ぎる(汗
「とぼけるなっつの。アンタ言ったよね、扉に気付くの遅れたって。
気付かなかった、じゃないよね」
わたしから目をそらす水晶姫。誤魔化しても無駄だっつの。
「そしてここよ。この広い土地には大地の精霊力が満ち溢れている。
アンタが知らない訳が無いでしょ、さー白状しなさい!!」
「……認める。その通り。
でも、白状は出来ないわよ? あたしだって大地の精霊として話せる事と、話せない事が
あるのよ。ここは神域だって言ったでしょ? 色々あるのよ」
「例えば、さっきのラーハイラって人が言ってた、この道の先からダンジョンへ入った所
に居るドラゴンとか?」
「……アンタ、あれ見たの?」
「あはん。やっぱりね。わたしも見たときはビックリよ。あれ火竜でしょ? すごい火の
精霊力を感じたわ」
「危ないから近寄っちゃダメよ!! あれは普通の火竜じゃ無いんだからっ!!
あたしも聞いただけだけど、創生神バルシータがこの地に閉じ込めたって話の始原の火竜
よアレ。炎の上位精霊をも越える最上位に位置する存在よ」
「ふ~ん」
「ちょっと、いくらアンタでもアレには勝てないわよ、手を出すのは止めときなさいっ!!
そもそも、始原の炎には耐えられないわ。あたしのハイ・オリハルコンですら一撃保つか
どうかってくらいの超々高熱なのよ!?」
「へー? 一撃は保つんだ!? 良いこと聞いた!! それなら何とかなるかな?」
「……アンタって初めて遭った時から無謀だったけど、時々、アンタが人の姿をした何か
別の生き物じゃないかと思う時あるわ。フェニックスの炎で熔けないハイ・オリハルコン
が保たない温度よ? アンタなら容易に想像出来るでしょ……なのに挑戦するわけ?」
「とおっぜん。火の精霊界へ行かずとも契約出来そうな相手が人間界に居たのよ? 挑戦
せずにどうしますか。ほれほれ、魔力炉に使ってる金剛晶石を大きくして
ちょうだいな。いざって時にわたしが中に入って炎から身を護れるように」
このハイ・オリハルコンって名前通り、堅くて、熱に強くて、衝撃に強くてとっても素敵
な金属だけれど、同時にとっても残念な金属なのよね。
魔力伝導率がほぼゼロなのだ。おかげで加工も修理も水晶姫にしか出来ないし、魔法武器
にも使えやしない。フェニックスの炎の5倍くらい熱耐性があるらしいから魔力炉の素材
にはもってこいなんだけどね。そんな風にどっかヌケてるのは水晶姫の作らしいというか。
わたしがウイン達の所へ戻ると、ラーハイラって人との話し合いは終っていた。
「まず最初に神殿を訪れる。その後で協力するって事になったんだ。
この街での宿泊所はこの方が提供して下さるらしい」
「はい。私達を助けて下さる方ならば泊まる所を提供する程度お安い御用です。
ただ、この街には宿屋と言うものがありません。基本的に外からこの街に来られる方など
居ないからですが。なので場所は提供出来ても自炊となってしまうのですけれど、それで
大丈夫でしょうか?」
「ええ、それで問題ありません。宜しくお願いします」
ウインはやはりこういう交渉事に慣れている。
知らない土地で地元の人達から協力を得られる事がどれ程難しいかを考えれば、宿泊所の
提供を得られ、ある程度は地元民の協力を引き出せたのは僥倖だろう。
そうして、もはや夕方といえる時間帯だったので、ラーハイラ曰く、
「夜は死霊達の時間ですから」
ということで、彼女に宿へと案内して貰った。
そこは都市というには微妙で、せいぜい街レベルではあったけれど。
街の中を宿まで歩いていると、子供たちが物珍しくわたし達を指差し、何か話したそうに
して居たが、わたし達へ近づこうとしただけで大人達に注意されて引き離される。
いや、子供たちだけではない。
大人でも、わたし達が案内されて歩いていると、数人が集まってニヤニヤ笑いをしながら
内緒話をしている。正直とても気分が悪いですっ。
案内してもらった宿は、普通の家の造りで街外れにあった。
その夜。
宿の部屋に、壁を静寂で覆い話が外に漏れないようにした上で話し合いを行う。
「さっきのラーハイラって女性の言うこと、どう思った?」
最初にウインが口火を切り、そう皆に話しかける。
「あたしは、彼女のこと信じられないな」
そう言うのはレティだ。
「プニは、そりゃ~好き勝手言うし、気まぐれだったけど、何の罪も無い人達をこんな風
に閉じ込めて苦しめるやつじゃないよ。 それに、気付いた? リアラ?ファリナ?」
「私はあの方のお話に矛盾を感じました。
ここに居る死霊達は自らの未練で死に切れないのでは無く、神の呪いで存在させ続けられ
ているのです。 夜は死霊達の時間と言ってましたが、そもそも昼夜関係ないハズです」
リアラは神官としての視点で語るが、わたしはレティが聞きたい事を的確に回答する。
「レティが聞いてるのは、あのラーハイラって人が既に死んでる人だってことでしょ?」
「「「「 ええっ!? 」」」」
わたしとレティを除く4人が驚く。
「そう! そうなのよ。彼女はもう死んでるのよ。 え~となんだっけ?」
「カースド・エターリア?」レティの疑問にわたしが答える。
「そう、それ。 自分も死者達の仲間のクセに、死者が怖いとか意味が不明だよ。
それに、この街の奴等も何か変なんだよ。 大多数の奴等は生きてるけど、何人かに一人
は死んでるんだ。それなのに生きてるヤツも死んでるヤツも、同じように生活してる」
「案外、自分達は死んだと思ってないとか?」
「その可能性もあるか、でもさ、生きてる時と死んだ時でまったく同じに生活出来るハズ
が無いと思うんだけどなぁ? 周りの人間だって気付かないのは変でしょ?」
「生理・欲求が生者と死者とで同じだとは思えないわね」
わたしとレティが精霊使いとして気付いた事を言い合っていると、今まで蚊帳の外に置か
れて居たウインが話しに混ざる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、あの女性がもう死んでるって!? 全然気付かなかった。
僕が疑問に思ったのは、レティと同じくプニ神官として感じた、流刑地としてのこの地の
不自然さだったわけだけど」
スニージーも意見を言う、
「……僕も同じく気付かなかった!! でも、それはそれとして。僕が思うには、この街
の男達は少なくない数が居ましたよね? ダンジョンの死者達はそりゃ数は多かったけど、
この街に住む人間が一致団結すれば倒せない数ではありません。
それに、街の子供たちが僕達に近づこうとすると、彼女はさりげなく子供たちを遮るよう
に動き、大人達に指示して子供を僕達から引き離すように連れて行かせてました。
彼女の話には、何か裏があるように感じたのですが?」
わたしは、ラーハイラを見て気付いた事を述べた。
「彼女は、おそらくだけど、アンデットだと思う。
アンデットがさらに神の罰を受けて『鎮魂』が効かないカースド・エターリア化している
んだと思うのよね。アンデットは大地の奥底に在る霊脈から力を引き出してるから。
これに関しちゃ、大地の精霊である水晶姫も同意見だったわ」
とりあえず、この場ではラーハイラって女性は信じず、注意深く様子を見ようとなった。
彼女の依頼では正午頃にダンジョンのボスの所へ行けば良いようなことを言っていたが、
依頼をこなすつもりがないなら正午に拘る必要は無い。早朝から活動することになった。
そして、その夜のこと、
わたしはまだやることがあるので、皆が明日早朝から活動するために早々と就寝したのを
見計らい、宿を抜け出してダンジョンへと向か……おうとしたら、
「どこ行くの? ファリナ?」
歩き出したわたしの背中へレティがそう声を掛ける。
手には愛用のダークミスリル弓を持っている。
何?このデジャブ?
前回と違って、今回はダンジョンの中でお宝なんて見つけてないからねっ!!
「脅かさないでよっ レティ、どうやって気付いたの!?」
「どうって、宿の気配が乱れたから。 人が出入りすると家の気配って変わるのよ。
何か有ったのかと様子を見に来たら、ファリナが出かけようとしてるから」
何ソレ!? アンタはどこの忍者ですか!?
ブラウニーなんてこの家には居ないハズよね?
ホンッと精霊使いのスカウトって侮れないなぁ。
少し落ち着いて真面目に話す。
「わたしってばダンジョンの中を走り回った時に、色々知りすぎちゃった所があってね。
ここは試練の地だから、知っても皆には話せない事が在るわけだけど勘弁して頂戴ね?
アンタ達が知れば挑戦権を喪っちゃうから」
レティは少し首をかしげ、でも、先を促すように口は挟まない。
「で、わたしが今から出かける用事は、アンタ達の試練に全然関係ない所で面白そうな物
を見つけてね、そこに行ってこようかと。 言っておくけどお金とかそういうのじゃ無い
からね」
「あぶない所? なんなら一緒に行く?」
「ううん、これはわたし独りでやらないとダメな事柄だから。
言ってみればわたしだけの試練って所かな?」
始原の火竜との契約の場へは、皆を連れては行けない。
戦えば死者が出るのは無論のことだが、精霊との契約というのは厳粛なものだ。
大勢で押し掛けて行うものでは決して無いという思いもある。
「……わかった。大丈夫だと思うけど十分気をつけて。 行ってらっしゃい」
「ん。行ってきます」
『闇爪』
ラーハイラが指定した道なりに歩いてダンジョンへの入口から侵入し敵を倒しながら進む。
火竜が居るラスボス部屋は位置的にそう遠くないハズだ。
そう、このダンジョンのボスはドラゴンなのだ。
ラーハイラの依頼はそもそも実行不可能なのだ、あれは人が討伐出来る物では到底無い。
ウイン達にはわたしが居るから、普通のドラゴンなら倒そうと思えば出来ない訳ではない、
それは逆を言えば、わたしがメンバに居ること前提の試練などではあるわけ無いのだ。
ドラゴンを倒さないルートこそが試練の本筋だと考えれば、おのずとラーハイラの依頼を
行おうとすれば試練失敗ルートなのだと容易に予想できる。
走り回ったせいでラスボス部屋の位置を把握したわたしには、ラーハイラの依頼など最初
から疑いの目で見ていたが、それをウイン達へ告げる事は出来かねている。
あの神殿守護者であるユミカって人からその旨、釘を刺されているからだ。
独りでダンジョンを走破出来て、強力な魔法も操るわたしが全力でサポートすると試練に
ならないから適当に手を抜いてくれ、と。
考え事をしていても無意識のうちに敵を倒して奥へと進んでいたようです。
入口から200mほど奥へ進んだ場所に、ソレは居ました。
始原の火竜。
普通のドラゴンの倍近い大きさを持ち、角の数、爪・牙の凶暴さ、鱗の強靭さは他を圧倒
するのだと言う。
ただし、このラスボス部屋は神の作った檻でもあった。
熱気も、おそらくは始原の炎ですら封じ込めることが出来るのだろう。
すぐ近くで見ていられる距離まで近づいたにも関わらず、火竜からわたしが居る場所まで
は熱が全く伝わって来なかったのだ。
わたしは少し引き返し、ゾンビ達の掃除を済ませた部屋へ戻ると、いそいそと生きた鎧を
脱いで、邪神バルザタンのアビスフレイムプレートアーマーを四次元ポシェットから取り
出して着る。以前ダークエルフ達から奪い取ったあの鎧だ。
着込む際に、呪われたり、そもそも着れないかと思いきや、あっさり着れたので拍子抜け
だった。 が、そう思ったのは早とちりだったらしい。
『対価を払うがよい』
突然、頭の中に声が響いた。
「ツケにしといて」
わたしは誰とも為しに返事を呟くと、それ以後、声は聞こえなくなった。
なので、邪神からの言葉を頭の外へ追いやると、
「火霊お願い」
そう言って、火霊による『精霊武装』を行う。
同時に、わたしの全身が炎のように燃え上がった!!
これでわたしは火霊と一心同体。炎に対する耐性は極限まで跳ね上がった状態になる。
火霊と一体化が可能なのはアビスフレイムアーマーのおかげだと言える、普通は出来ない。
炎の中でも呼吸が出来るのはこの鎧のおかげだから。そうじゃないと窒息しちゃう!!
そして外部からの炎の精霊力による攻撃を無効化し、装着者へ炎のダメージの一切を伝え
ない神器でもある魔法の鎧が、わたしを火竜の炎からも護ってくれるだろう。
筋力を底上げしているからプレートアーマーを着て歩けるけれど、やっぱり重くて動きが
鈍くなっているのは仕方が無いところだ。
『加速』も使って移動力を高めて、さらに『バリア』も張って、
『火の護り』『風の護り』『水の護り』『大地の護り』などなど、手持ちの防護魔術式は
全て掛けられるだけ掛けた。
「よっし、行きますかっ」
わたしはラスボス部屋に突入する。
そのとたん、始原の火竜はわたしを睨みつけて来た。
同時にわたしに襲い掛かってくる、いや、ラスボス部屋内の全てが白い炎の洗礼を受けた。
いまや、ラスボス部屋の中は、白く輝く絶対の死の世界だった。
フレイムアーマーの魔力と炎の精霊武装による炎抵抗力のおかげで何とか保っては居るが、
例えるなら50度のお風呂に入っているような感覚だ。熱いと言うより絶え間なく痛い!!
『白光炎』
炎の上位精霊であるフェニックスが使ってくる1億度の超々高熱のスキル。
それをこの始原の火竜は、なにげに普通に使って来てる。
いま、この部屋に誰かが足を踏み入れたなら、その瞬間に何も残さず蒸発するだろう。
ラスボスの部屋には何も無かった。それは何物も存在出来ないからだ、この超々高熱で。
それでも、神力で創られた専用の檻でもあるこの部屋が、これだけの熱でなんとも無いの
はさすがではあるのだが。
『始原の火竜よ!! わたしの声が聞こえるか!? お前と契約を結びに来たっ!!」
やがて火竜の声が聞こえてくる。
『か……だ……えせ……だ……か……』
最初途切れ途切れだったその言葉はやがてハッキリを聞こえてくる。
『カカエカダセエカダセカエカダセカエダエセカ、ダセ!!カエセ!!』
ダセというのはここからダセという事だろうか? ならばカエセというのは?
「何を返せと言うの? それを返せば良いの!?」
重ねて尋ねると、
『カエセ!!』
わたしに向かって大きく口を開き、息を吸い込む火竜。
いけない!! ブレス!?
『水晶姫!!お願い!!』
わたしの召喚に応じ、水晶姫のハイ・オリハルコンのシェルターがわたしを覆い隠す。
その直後、始原の火竜は蒼い炎と赤い炎を同時に吐き出した。
あれは……霊力と魔力の炎!?
それらは螺旋の渦を描き、混ざり合い『紫光炎』となってシェルターを直撃した。
その始原の炎に包み込まれ、シェルター越しでも気を保てないほどの高熱がわたしを襲う。
その時間は果たして一瞬だったのか? 永遠にも感じた永い時間だった。
ハイ・オリハルコンで出来たシェルターはよく保ってくれたが、やがて耐え切れず熔けて
始原の炎が溢れ出し、わたしは超々高熱をも越える超々々高熱の炎に飲み込まれる。
ヤバイと思ったその次の瞬間には、もう意識は飛んでいた……
気付いた時には、わたしの目の前にドラゴンの口が在った。
いや、顔が在ったと言うべきか。
ギョっとして飛びのこうとしたが、炎による痛みで全身が引き攣り身動き取れなかった。
すぐさま『再生』を自分の身体に掛ける。
一瞬で、とは行かないものの、程なく動けるくらいには回復出来た。
火竜はその間、何もせず、わたしをじっと眺めて居たのだ。
ふと気付くと、わたしの足元にわたしの身長ほどもある巨大な角が折れて落ちていた。
これは……火竜の角!? よく見ると、火竜の頭にある何本かある角のうち、一本が折れ
ているのが見えた。
あいた!! またやってしまったのか!?
『契約を望む者よ、お前からは我が愛し子と同じ匂いがする。それに免じて無礼を許そう。
久しぶりにその匂いを嗅いで、我も正気に還ることが出来た。
お前ならば、あの忌々しい創生神バルシータの元から我が愛し子を我が手に連れ戻すこと
が出来るやも知れぬ。
我はここから出ること叶わぬゆえに、お前が我が愛し子をここへ連れて来るのだ。
もしそれが出来たならば、その時は契約を交わそうぞ』
ふ~、不本意な所は在るものの、結果良ければヨシとしよう。
なんとか契約に漕ぎ着けるための条件を引き出すことが出来ました。死ぬかと思ったよー。
それにしても、話が急すぎて付いていけてないけれど、子供を連れてくれば良いのね??
『これを持って行くが良い、お前の力となろう。 だがお前が約束を違えるならば……』
ぶるぶるぶるぶる
わたしは急いで首を横に振った。
落ちている角がひとりでに空中に浮かび上がり、ピシピシッと音が響くと角が割れて行く。
それはあっという間に一振りの長剣となった。
剣がわたしの両手に納まる。 一瞬、重すぎて取り落としそうになったのは内緒だ。
『我が名は、#$%&!&@*$♪だ』
やっぱりと言うか、ドラゴンの名前はそもそも存在力が強すぎるのと、人には発声不可能
な音で、到底名を唱えることが出来るとは思えない。
それでもあえて言うなら『シャヴァキャラン』が近いだろうか?
「始原の火竜よ!! 御身の名は人に発音出来そうにない。近い音で呼ぶことを許されよ」
『よかろう』
「では、御身のことを……『サバカン』と呼ぼう。 それで良いか?」
『構わぬ』
サバ缶ゲットだぜ!! もちろん意味を教えたりはしない。
『では行くが良い。我はここでお前が我が愛し子を連れて来るのを待っている』
わたしは再び生きた鎧に着替えてからダンジョンを出て、宿に戻るために歩き出す。
火竜の剣は片手でも両手でも扱える物で、いわゆるバスタードソードという代物だった。
恐ろしいまでの火の精霊力を内包している。
もっとも、トゲエルフには重すぎて振れないのよっっっ!! これをどうしろと!?
この剣を生きた鎧のパワーに任せて振り回すと、カウンターウエイトが取れずに身体ごと
振り回されてしまう。それほどの重量だった。
おまけに四次元ポシェットに入らなかった。わたしの身から離されないよう条件付けされ
ているようだ。後で鎧の背中にでも背負えるようにするしかないだろう。
けれど、
今頃になって、ジワジワと達成感が湧いて来ましたーーーーーーーーーーーーっ!!!!
やったやったーーーっ まだ契約は取れてないけど、クエスト達成すれば本契約だー!!
「ファリナ?」
そう声を掛けて来たのは水晶姫だ。
今は召喚してるわけじゃ無いので自力でこの場に姿を見せているのだろう。
ボンヤリした影の様に見える。
「あら、お迎えご苦労さま」
「生きて戻ったのね!! 凄いじゃないの!!」
「ありがと。ついでと言っちゃ何だけど、これ元通りに直しておいて?」
そう言うと、一部熔け落ちて元の形から崩れてしまっているシェルターを水晶姫に渡した。
これを直して貰えないと魔力炉が使えなくなる。
「うっぎゃぁぁぁぁあああああああ~~~~~~、あ・あたしのハイ・オリハルコンがっ
あ、アンタなんて事すんのよっ、えぐえぐ、あたしの金剛晶石~、オニぃ~、アクマぁ~
今のアンタの姿みたいに性格も真っ黒よぉ~」
「火竜にこんがり焼かれたからね、さすがに煤けちゃったわよ。早くお風呂に入らなきゃ。
それにしても大げさねぇ。女は切り替え早くないとダメよ? そんなだからアンタは……」
その時、わたしの『探知』にここから少し離れた場所に二人引っ掛かっているのが見えた。
街に近い所だし、普段なら気にしなかったかも知れない。
しかし、今は死霊の時間、誰だか知らないがなぜそんな場所に二人で居るのかが気になる。
「んじゃね? 水晶姫。また明日召喚するからぁぁぁ……」
言い終わらないうちに『飛翔』でその場へと空から近づく為、水晶姫を置いて舞い上がる。
きっとこんな事ばかりしてるから、水晶姫からのイヤガラセが止まないのだろう。
『透明化』『影視』『望遠』
そうしてある程度の距離を置き、その謎の二人組みを遠くから拡大して見ると、
そこに居たのはラーハイラと、あのリッチでした。
ラーハイラは昼間の顔とは全く違う、言葉通り、夜の顔を見せていた。
いびつに歪んだ笑い顔は、昼に見た可憐さを微塵も感じさせなかった。
ラーハイラが試練に関係するのであれば、わたしが余計な介入を今の段階でするのは避け
た方が良さそうだ。そう考えた時だ、
ラーハイラがこちらをキッと睨みつけると、何かを口ずさむ。
ラーハイラの周りに複数の青い光球が浮かびあがり、同時に、生きた鎧のジャミング機能
が働いた。
どうやらラーハイラはわたしが見えて居るわけでは無いらしい、空中の怪しいポイントに
それぞれ散らばせた光球を広範囲に爆発させていたからだ。
だいたいのカンで撃ったのだろう。
2発ほどジャミング機能であらぬ方向へと逸らされ、地面に誤爆していたのが見えた。
わたしはすかさず距離を取る。
ラーハイラは魔術師だったのね。気配に敏感な所はもしかしたら偵察技能も持って
いるのかも知れないと考えた。
とりあえず、そのままその場を後にした。
宿へと帰り、『お風呂セット』で身体を洗ってる時に気付いた。
「え? 肌が……黒い??」
ダークエルフ、とまでは行かないものの、わたしの全身は綺麗にこんがりと黒くなってた。