32ページ目
32ページ目
「魚心あれば水心、だと思うの」
内緒でこっそりダークミスリルゴーレムを回収すべく、宿から離れて『飛翔』を使おうと
町の外を目指してた時、わたしの怪しい動きを気付いてたレティから、そう告げられる。
「最初に変だな? と思ったのは、あたしやスニージーが範囲攻撃をした時。
ファリナだったら一緒に混ざって魔法ぶち込みそうな物じゃない?」
気がかりだった廃墟の、その景色から浮いてた黒曜石の大岩。
それがまさかダークエルフの切り札だったとはつゆ知らず。
地霊操り『ディグダグ』で黒曜石の下に穴を掘り、地中深く埋めておいた。
それが例え何であろうと、地中にあれば爆発しようが何しようが平気だから。
敵との戦い開始直後になにやら動き出した事は地霊からのお知らせを受けて知っていた。
単に「ああ、ゴーレムだったのか、あいつ等の伏兵だったのね」程度に考えた、それでも
パワーだけはやたら感じたので地霊にお願いして、100m程落下させて壊そうとしたら、
めちゃめちゃ頑丈で一回で壊れなかったために興味が湧いた。
そうして、地面の中で100m持ち上げては落っことし、また持ち上げては落っことしを、
実に23回繰り返して動かなくなった。
羽を持たないゴーレムは、どれほどパワーがあろうとも地霊が支配する地中からの脱出は
とうとう叶わず、一方的な戦いで終った。
ダークエルフ達と戦ってる間、わたしが大人しかったのは魔力の大部分を他で消費してた
からだ。100m落っことせばストーンゴーレムだって壊れるのに、それで壊れないとは
魔導師としちゃ、気になっても仕方ないでしょ?
短剣で刺されそうになったのは御愛嬌よね。
見込みではもっと手早くゴーレムを無力化出来るハズが思惑と違った事と、敵がヘイスト
効果を持つチートな鎧を持ってたのが大誤算。反省。えへへ。
「それまでほったらかしにしといたのに、神官がゴーレムの話をしたとたん、慌てて口を
塞ごうと攻撃したのも不自然だったわ。
なによりファリナの魔力があの程度のわけ無いもの。どこで無駄遣いしてるんだろう?
って考えて直ぐに判った。あー、これはダークミスリル狙ってるんだろうなぁって。
そうして地面を見てみれば、派手に地霊が動いてるんだもん。バレバレよね」
あの神官、ダークミスリルゴーレムの情報を教えてくれたのは嬉しかったけど、せっかく
の独り占めチャンス。ぺらぺらと余計な事を話される前に倒したかったのはそのため。
でも、精霊使いにしてスカウトのレティは、地面の下でコッソリ行ってたつもりの地霊の
動きも、しっかり感知されてたか。
『ダストアロー』やら『エクスプロージョン』やらで派手に地霊が暴れたから、気付かれ
ないかなー? と思ったのは甘かったらしい。ちぇっ。
戦い終わってから、じ~~っと地面を見られて居た時にはもう冷や汗だらだらだった。
レティは持ち上げた弓をわたしに手渡してから続けて言う、
「そこで考えたの。ウインとお揃いでダークミスリル武器を創ってもらうチャンスだって。
これでもね、ずいぶん悩んだのよ? ウインの剣とお揃いの短剣も素敵だよねって。
でもやっぱり慣れ親しんだ弓が良いわ。
ファリナはスミスなんでしょ? 弓作りは初めて? その弓と同じに創れば良いからv」
軽く言われたっ え~ん。そんな事で悩んでたのかいっ!! って突っ込む気力も無く。
わたしのダークミスリル独り占め作戦は、こうしてレティによって阻止されたのでした。
もっとも、それで魔道具を創ってパーティーに還元するつもりだったから純粋な独り占め
と言うのとは違うけどね。自分の好き勝手使えるかどうかってのは大事だと思うの。
い~~わよ、創ったろうじゃない!! こんなシンプルで無骨な弓なんかじゃないわよ。
スカウトな精霊使いをギャフンと言わせる一品をね!! 魔道クリエイターなめんなっ。
「ふぅ、思ったより少なかったわね」
回収したダークミスリルゴーレムは原石のままゴーレム化してた物だったので、小山ほど
在った鉱石も、インゴットへ精製してしまうとほんの一抱え程度になってしまいました。
「『ドマーニ神聖帝国』を滅ぼしたって言うダークミスリルゴーレムも、こうなっちゃう
とおしまいだね。ずいぶん少なくなっちゃったけど、あたしが頼んだ物は創れる??」
レティは依頼した物が出来るか気がかりで朝方まで徹夜でわたしに付き合ってた。
「大丈夫。これだけ有ればお釣りが来るわ。何? こいつの事を知ってんの?」
「うん。むかし国に居た頃にね、偵察として周辺国の情報集めしてた時が在って、その時
にコイツ……かどうかは知らないけどさ、ドマーニ神聖帝国って所がダークエルフの邪神
神殿を滅ぼそうとして、神殿守護兵のダークミスリルゴーレムただ1体に1万人の騎士団
が破れて、逆に国を滅ぼされたって話を聞いた事がある」
「ふ~ん、へぇ、こいつがねぇ」
わたしはインゴット精製するための魔道具『魔力子共振式縮退炉』を片付けながらレティ
の話を聞く。携帯出来る小型炉と侮るなかれ、2億度の超超高熱まで出せるのだ。
核を使った大掛かりな臨界プラズマ炉が5億度と聞けば、ここまで小型化されたこいつの
性能の高さが判るだろう。
魔力子で時間を一定則の歪め方をすれば、擬似重力場を作り出す事が出来る。
擬似ブラックホールからエネルギーを引き出す炉なのだ。
ちなみに火の中位精霊イフリートが約2千度。高位精霊のフェニックスが約1億度だ。
今日の所は精製しただけで夜が明けたので、依頼された武器作りはまずは寝てから。
もう眠~いよ~
「頑張れファリナっ! ウインとあたしのために。
それに、ちょっと歩けば乗合馬車の駅だしさ、後は寝てて良いからっv」
もちろん、そうさせてもらうわよっ
次の日、駅から馬車に乗り込みグランザールへと向かう。
わたしは徹夜明けと炉を動かして消費した魔力を回復させるべく寝て過す。
目覚めた時には今日の宿場町へと到着していた。
夕食が済み、アレコレの雑用が終ると同時にレティがわたしに話しかけて来る。
「さー、ファリナ今夜も頑張ってね!!」
「アンタ、なんでそんなに元気なの? 寝てないんでしょ?」
「なんか、あたしさ、夜の間は自然回復力が高まるみたいでさ、徹夜しても次の日の活動
にさほど支障出ないんだよ」
なんですとっ!!
あらためてレティをじっと見る。
ダークエルフの黒い肌は闇の祝福では無く、邪神信仰によってもたらされた色だ。
夜の回復力に種族的な違いが絡んでいるとは思えない。
でも、たしかに闇の祝福とまでは行かないが、闇との高い親和性をレティから感じる。
「レティは闇霊操りとか得意でしょ?」
「……あー、闇かぁ。回復とかは別だけどさ。ダークエルフを連想させるから、あんまり
闇霊は使わないようにしてるんだ、不得手じゃないとは思うけどね」
「無理にとは勧めないけど、闇霊使いとしては凄い素養があるよ。
たぶん、闇絡みの守護精霊名を持ってるんだと思う。生まれた時に両親から守護精霊名を
ちゃんと付けて貰ってたのね。よかったじゃない」
「守護精霊名? それって在るのと無いのとじゃそんなに違うの?」
「全然違うわね。それに守護精霊名を付けるって事は、付けた本人が精霊に対し儀式契約
を結んでいる証拠でもあるわ。精霊に対するある種の制約も掛かるし、捨てる赤ん坊の為
に契約結ぶなんて考えられないから、捨てられたんじゃなくて、親とはぐれたって事ね」
「……そう、そうだったんだ。 ねぇ? あたしに付けられた守護精霊名って判る?」
「正確には判らないわよ。 ……でも、そうね? 闇の他に風も感じるわね。その二つを
組み合わせた名前じゃないかしら?」
「そっか。 ……それならファリナがあたしの守護精霊名付けてくれない? 面倒な契約
とか無しで良いからさ」
えーーーっ!? なんでわたしがーー?? 自分の親に聞けよっ!!
とは思うものの、言っても仕方ない事だから口には出さなかった。
「……親に付けて貰った正しい守護精霊名じゃないよ? あくまでそれっぽいってダケに
なるけど?」
「うん。それで良いよっ」
闇と風、ダークエルフを連想するのは嫌がるだろうから、それなら、夜の風はどうだろう?
『ヴァン デュ ソワール』
「よし、決めた!! アンタの守護精霊名は『ヴァンソワール』 夜の風という意味よ」
「……ヴァンソワール。うん、良いね、今日からあたしはレティアラ・ヴァンソワールか、
ありがとう!! ファリナ、嬉しいよーーーっ ウインにも話して来るーーっ」
少し照れた優しい微笑を浮かべながらウインの所へ向かうレティ。
「さってと、気合入れて武器創りしますかねっ」
トゲエルフに優しい空気は毒なのだ。さっさと移動するに限る。
レティはもうしばらく暖かい空気を感じて居たいらしい。
どうやら、今夜はわたし独りの作業となりそうだ。
宿から出て行くわたしを見かけ、リアラとジルから声が掛かった。
「あらファリナ、これから武器創り? また徹夜になるの? 頑張ってね」
「……なんで知ってんの?」
「レティから聞いたもの、ダークエルフ達の戦略兵器をファリナが気付いてくれて、地面
に埋めといたから私達は助かったんだって? 国をも滅ぼした強力なゴーレムだったから、
ファリナが気付いてくれなかったら私達全員危なかったって。
地面の下で動けないゴーレムを夜二人で一方的に攻撃して楽に倒したからって聞いたけど、
ご苦労様でした」
「あ、うん。その素材を使ってウインとレティに武器創ってるんだけど、それも聞いた?」
「ええ、珍しい素材だから創作意欲が刺激されちゃったんだって? ファリナらしいって
話してたところなのよ」
「レティが昼間ずっと寝てたファリナの事を、疲れてるから起こさないであげてね、って
皆に言ってたよ。ダークミスリルについても、報告が一日遅れになってゴメンって謝って
くれてたけど、私とリアラは、ダークエルフの一味を一網打尽にしてもらって情報提供者
を確保出来たから、それで十分だしね」
「でも、いくら自信が有っても危険なゴーレムを倒すなら私達に一声掛けて下さいね」
「えへへ、おかげさまで元気になりました。うん。これからはそうするよ。
さくっと倒せると思ってたから皆の睡眠の邪魔するのもはばかれたんだよね。えへへ。
それじゃ武器創りに行ってきます」
ふーん、レティってば皆に上手く言っておいてくれたのね。
やましい所が在るわたしは、えへへ笑いを連発していたが、リアラの聖職者然とした透明
な微笑みと優しい声がわたしの胸にチクチク刺さった。
武器製作。ある意味、わたしが一番わたしらしく居られる時間だと思う。
まずウインの長剣。
デザインを決め、重さもウインが今使っている剣より破壊力を高めるため重くする。
永続に籠める魔術式は軽量化、強化、防錆、撥水、撥脂、鋭刃、自動復元、攻撃速度上昇。
基本的な魔術式を永続効果として籠めただけで、魔力があっぷあっぷだ。
『簡易儀式』の限界だろう。せいぜいもう一つくらいか。
それなら、最後の一つは最近考案したアレだ。
そして、剣そのものに込める魔力よりも、大事なのが宝玉。
この剣は切先部分だけが両刃で、片側は先から1/3あたりから刃の無い構造だ。
鍔は割と大きめ、ウインは抜刀術を使わず打刀系統の技を使うから、構えた後に剣を振る
ときの重量バランスが手元寄りの方が良いだろう。この鍔の部分は猫の耳を象っている。
なぜ猫かと言うと、プニ神の使いで聖なる獣なんだってさ。だから黒猫とした。
正眼で構えた時の左面の猫の左目には地の精霊界で手に入れたブラックオニキスを。
右面の猫の右目には水の精霊界で手に入れた黒真珠をはめ込んだ。
左面の右目、右面の左目、それに柄頭の3箇所には将来良い宝玉を手に入れた時のために
空けて置いた。良い感じの手持ちが無かった事もある(汗
ダークミスリル、ブラックオニキス、黒真珠。
黒系統の力在る素材が言霊の力を借りて闇に好まれ、闇霊の力を引き寄せる。
その結果、使用者は闇・地・水を揃えたことにより普段より回復力が高まる。
この武器を持ってるだけで傷が癒されるのだ。まー気休め程度だけどね。
次にレティの弓。
わたしは鍛冶仕事がかつての本業だし、裁縫は生活必需スキルでもあるため修得している。
しかし、弓作りはクラフトマン(木工)の仕事であり、わたしには経験が無い。
レティから預かった(昼間は返却しているわよ)弓を参考に金属製で創ってみたものの、
今ひとつ自信が無かった。
ダークミスリルはピアノブラックの様に光沢のある黒色。
弓弦はイチゴショートの遺体からガメた、もとい、形見分けの髭を使ってみた。
弓弭の部分は(弓の上下端ね)、猫の爪を模した近接武器となっていて薙ぎ払いで近接し
た敵と戦う事も出来るようにしておいた。
中仕掛けにはウインとお揃いの黒猫をモチーフしてみた。レティお揃いに拘ってたもんね。
瞳にブラックオニキスと黒真珠とをはめ込んでいる。
まず日の輪を末弭に掛け、弓をたわませて月の輪を本弭に掛けて完成だ。
弓を引いて見ると、良い感じに仕上がっている。
さて、ダークミスリルは約半分を消費してしまったが、まだ余っている。
この際だし、あとの二人にも武器を創ってあげよう。
スニージーには両手持ちの魔術師の杖を。
リアラには片手用フレイルを。
それでダークミスリルは丁度使い切った。
自分用は創らなかった。
『簡易儀式』で創った武器ではこの双剣に込めた魔力との総合力比較で勝ることは難しい。
今夜創ったこの武器たちも、もし故郷の村に行く機会があれば、儀式魔法用の増幅装置を
使って永続魔法を籠め直した方が良いだろう。
4つの武器を創り終わる頃には、もうすぐ夜明けの時間帯だった。
武器創りの魔道具を片付け、最後に武器をもう一度手にとって確認する。
弓を何度かビヨンビヨンやったところでハタと気付いた。
生きた鎧を着た状態で良い感じって事は、生身じゃ引けないんじゃない!?
鎧を脱いだら案の定だ、引けなかった。
「ウガーーーッ」
怪しい雄たけびを上げて見たが全然ダメだった。ピクリともしやがらない。
冷や汗タラリ。これは|Die死一杯Deathね、ぁははは……
えーと、もう朝だし。明日(?)にしよう。うん。
寝てスッキリすれば良い案も浮かぶさー。今日は寝ちゃえ寝ちゃえっ
次の朝。
朝食が済んだ頃を見計らって、創った武器を皆に披露する。
失敗は失敗として、笑い話にしてしまえ!! と開き直ったのだ。
手直しは今夜行うとしても、皆でひとしきり笑うネタとするつもりだった。
「こいつぁ、凄い」
ウインは気に入ったようだ。
「こっちの杖は、先に取付ける力在る宝玉が手持ちでこの杖に合う良いヤツが無くてさぁ。
将来の楽しみに取っといて頂戴ね、それでも今までの杖よりダークミスリルの魔力伝導率
がずっと高いから、扱える魔術の威力も断然強くなるよ」
「僕にも創ってくれたんですか!?」
スニージーは予期しなかった贈り物に嬉しさを隠さない。
「これ!? この紋章はまさか。 ……こんな素敵な贈り物は生まれて初めてです。
ありがとう。ファリナ。ぐすっ」
リアラにはリーベフェルマ伯爵家の家紋をデフォルメした紋章を武器に付けたのだ。
余計なお世話かと思ってたけど、喜ばれたようだ。
そして、
「うん、確かに失敗だねー、弓作りの初心者は必ず一回はやるんだよね。
きっと次は上手く出来るよっ 頑張れファリナっ」
レティは弓の弦をビヨンビヨンと軽く引きながら「うわーユルユルだ」とか言っている。
え!? あれ~??
ええーー?? 夕べはあんなに固かったのにもうあんなに緩んじゃったの!?
弓本体が歪むはずは無いから(それくらいには自分の鍛冶仕事に自信あるのだ!!)、
イチゴショートの髭を使ったのが悪かったのかしら?
一晩で伸び伸びになってしまったようだ。
イチゴショート……アンタって、なんか色々とダメダメねぇ? わたしは心の中で呟く。
今日は駅馬車を使わず、各自の武器の調子を見るため歩きながら目に付いた物で試し切り
や、試し撃ちの場を探しつつ移動しよう。となった。
昼下がり。昼食前。
「それじゃ、スープを作りながら準備してて。
獲物を見かけたら試し撃ちも兼ねて獲って来るー」
そう言ってパーティーから離れようとするレティ。
と、そこへ森から顔を覗かせる鹿が居た。
「それじゃアレを狙って。悪く思いなさんな。鹿ちゃん」
レティは鹿へ狙いをつける。
「うーん、弦が軽すぎて届かない気がしまくり。しゃーない風の精霊に頼むとしますか。
『スパイラル・アロー』」
『『『『『 バシュ!! 』』』』』
そんな空気を貫く物凄い音を立てて矢が飛んで行き。
『『『『『 ズッッド~~~ン 』』』』』
狙い通り鹿の首に当たったのだろう。百歩譲ってそこまでは良かった。
問題は、鹿が跡形も無く吹き飛ばし、ついでに背後の森の木々も吹き飛んだ事だった。
太い大木すら千切れ飛んだかの様に空高く蹴散らされて、矢の通り道に従って森に空間が
出来上がった。
目が点となったわたしは「レティ、なに環境に悪いことしてんの??」と言うと、
「……え!? ち・ちがっ あたしじゃ無いって。どうなってんの!? この弓」
そう言って、わたしを逆に見返すレティ。
つられて皆もわたしを見る。
「あれ? わたしなの!?」
視界の隅では、矢にえぐられた森の大木が「バキバキバキ」という不気味な音を立てながら
遅れて倒れるのが見えた。