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今日はグランザールへ旅立とうという日。空は快晴!!
でも、その前に片付けなければならない事が出来ました。
よろず紹介所に全員が集まって、さぁ行くぞ!! と思った矢先のことです。
おやじさんから声が掛かった。
「ジル、お前さん宛に手紙が来てるぞ」
「手紙?」
ジルは受け取ると丁寧な手つきで手紙を開ける。
内容を一読すると、
「見てみて」
と手紙をリアラに差し出して来た。
他人のプライベートな手紙を皆で注目するのも変だし、わたしとしても「チチキトク…」
だったらイヤだなぁ、程度に考えて居たのだ。だが、この時は予想の斜め上を行った。
「なっ!?」
リアラが叫び絶句している。
なんだ、なんだ、と全員が手紙を覗き込むと、そこにはこのように書かれていた。
『リーベフェルマ家の秘密を暴露されたく無ければ、本日正午にxxxxへ来い。」
ヲイヲイ、イマドキこのような脅し文句で素直に従う人間が居ると思ってるのだろうか?
「何のことだか判らないけれど、我がリーベフェルマ家に敵対する意思を持つのは明らか。
出来れば片付けておきたい。」
はい。ここに居ましたよ~。
ジルは思い切りが良すぎます。
そして、パーティーリーダーのウインもその意見を採用したのでした。
「これが過去も襲撃して来た奴等だと言うのなら、後顧の憂いを残すのは気がかりだ。
ただし、この手紙を見る限り相手は準備万端整えて待ち構えているだろう。
叶わないと見たら一目散に逃げるのダケは忘れないでくれ」
だそうだ。
い~けどさ~? もう少し悩もうよ。
そしてやって来ました指定場所。
心配性なわたしは一足先に『飛翔』で偵察に来ましたよっと。
自分の目で直接現場を確かめるのが一番だという事もあるが、相手がダークエルフなら、
光の精霊を使った『CIC』が近寄りすぎると気付かれてしまうと言うのが一番の理由。
わたしなら気付くし、廃エルフのクソジジィは無論、里の者でも精霊術に長けた数人は
気付くだろう。ならばダークエルフも気付いて当然だと考えた。
……今度『CIC』のカメラをステルス化しよっと。
港町アイゼリアの北北東へ10kmほど行った場所に、廃墟と化した小さな村があります。
ずいぶん昔にうち捨てられた様で、石造りの家は崩れ、かろうじて家々の壁が残っている
だけとなっている所でした。
『飛翔』と『透明化』を使って廃墟の500mほど手前まで近づき、上空から『望遠』と
『探知』で敵の配置を調べる。
なるほど、探知出来る数は9名、そのうち1名は確実にダークエルフだと視認出来た。
ワインレッドのプレートアーマーを着込んだ推定戦士のソイツが、えらそうにゴロツキ風
の6名に命令を下しているのが見えた。
でも、さすがにここからでは遠すぎてダークエルフが何名居るのかまでは判らなかった。
村を中心にぐるりと一回りし、伏兵が居ないか確認したが、敵は9名だけのようだ。
そして、他に2名フードを被った推定ダークエルフが居るのも視認出来た。
これで3名のダークエルフが敵に居ることが確認出来たわけだ。
この人数を見る限り、こちらが6人パーティーなのも知っているようだ。
「ふ~ん? 変ね」
こちらの人数を把握しているのであれば、6人のそれぞれの職業も知られていると思って
良いだろう。それなのに彼等の態度と来たらどうだろう? あまり緊張感が感じられない。
魔術師と精霊使い、偵察まで居るパーティーを相手取ってる割には余裕じゃないの?
彼等は、自分達の策によほどの自信があるのだろうか??
そして、
「アレって一体何だろう?」
廃墟の南側、村の入口と思しき場所に黒い大きな岩のような物が在った。
黒曜石の様な? 磨かれた感じの岩なのだろうか?
廃墟に似つかわしく無い、そこだけ周りの景色から浮いて居た。
「ね~? だからさ~、ここはわたしの長距離大規模攻撃魔術式で一発ドカ~ンとさ。
村ごと跡形も無くフッ飛ばしちゃえば良いのよ。そうしよう~よ~」
数km離れたパーティーに戻り、わたしは見てきた敵の状況と、自分の意見を述べた。
「う~ん、出来れば僕もそうしたい所ではあるんだけどね?」
ウインは隣のジルを見る。
「ダメ」
ジルはにべも無い。
「我がリーベフェルマ家には暴露されて困るようなやましい事など一つも無い、とは言え、
そうと知った以上は確認しなければならない。万が一、そういった事実が在った場合には
彼等がどこからそれを知ったのか? 確かめて二度とこのような事にならないよう、適切
に処理しなければならない。私にはその責務がある。
そのような訳だからすまない。力を貸して欲しい」
「もちろんよ~っv あたし達は一つのパーティー、家族のようなものじゃない!!
まかせてーっv」
レティ、アンタのその根拠の無い自信はどっから湧いてくるんだ!?
「廃墟とはいえ、開けた空間なんですよね? それならレティの独壇場ですよ」
わたしは横に立ったスニージーを見上げる。
そう、この人ってば魔術師のクセにひょろ長くて190cmはありそう。
ウインも同じくらいの背の高さなんだけど、向こうはガッチリした戦士体型。
スニージーはひょろひょろのモヤシみたいなのだ。
「そうなの?」
確かに鍛錬で見せてもらったレティの弓の腕は大した物だったが。
「屋外では僕もウインもレティに比べれば役立たずですよ。敵が接近するまでにレティが
全員倒しちゃうんですよ、今回も同じようになるんじゃないかな?」
「褒めたって何も出ないよ/////」
そう言いつつ赤くなるレティ。
む~。ひそかにレティってば女子力あるのよね。見てると、しぐさが一々可愛いのだ。
比べて、ジルはタカラズカを見てる様だし、リアラは委員長みたい。
「そうは言っても邪神を奉じる一族が相手なのですし、敵に精霊使いや神官は当然居ると
想定しておくべきで、決して油断は出来ません」
だよねー。リアラはさすがに慎重派だ。
「リアラの言う通りよ。今はわたし達の周りには『探知』で引っかかる怪しい者は居ない
けど、居ないハズが無いの。どうやってか知らないけど『探知』から逃れてる。わたしは
そう考えてるの。どこかからわたし達を監視してるハズだって。」
「……そうすると、レティとスニージーの先制連携攻撃の直後に僕が突っ込むからリアラ
は回復を頼む。先制攻撃でザコはほぼ倒せると思ってるから、突っ込んでダークエルフの
後衛二人を先に倒したい。ジルは手薄になったこちらの後衛陣の護衛と、見えない監視者
からの奇襲を警戒してくれ。ファリナは支援魔法と敵が魔法を使って来たなら臨機応変で
頼む。それと今回は僕が後衛二人を手早く倒せるかが重要だから、攻撃速度上昇の魔法を
最初から掛けて欲しい。他に何かあるかい?」
「ジル、こないだ練習した連携技も忘れないでね」
「解ってる。それと何度もお願いするけど、敵のリーダーか、少なくともダークエルフの
一人は必ず生かして捕まえることを忘れないで欲しい」
「はい、はーい」
レティはよほど自信があるのだろう。これまでにもこう言った敵拠点攻撃の経験があるの
だろうか? 自然体で返事をする。ジルもレティと練習していた連携技が決まれば自信に
結びつくだろう。
「……先制攻撃で撃ち漏らした人間は、わたしが追い討ち掛けるから。敵はダークエルフ
だけと言って良いだろうけど、奴らだって馬鹿じゃない。勝てると思ってるから戦おうと
してるのだろうし、くれぐれも伏兵と罠には注意よ」
ゴロツキ風6人はわたしから見れば戦力外。如何様にでもなるだろう。
やはりダークエルフをどう素早く処理出来るかが勝負の分かれ目になるに違いない。
廃墟の村入口が見えて来た。村を取り囲む石壁の外側に黒曜石の大岩が見える。
既に効果が持続できる支援魔法は全て実行済み。準備を整えた状態で村に近づく。
「探知によると村の一番奥の廃屋になっている壁の向こう、9人集まっているわ。
まだ動いて居ない。ん? 待って。6人動いた。廃屋から出てきたわ。表に出て来た所で
止まった。 ……そこから動きが無い。どうやらこちらの到着を気付いてるようね。
今は廃屋の外に6人。中に3人よ。ここからおおよそ200ヤンテね(約180メートル)」
「すでに気付かれてるなら50ヤンテまで近づこう。そこから声を掛けて相手のリーダー
を確認する。向こうが返事を返すなりしてリーダーらしきダークエルフを特定したら戦闘
開始だ」
ウインはそう言って先頭に立ち村の中に足を踏み入れる。
その隣にはレティが並び、スカウトの目と精霊の力で罠発見に注意を払って居るようだ。
その後ろにリアラ、スニージー、ジルと続く。
わたしは、
「ん~ どうしても、あの黒曜石の大岩が気になるのよね」
それならば、こうしちゃえ。「ポチっとな」
「この先だな」
ウインが敵の居る場所まで、通りを曲がれば直ぐの所でいったん停止してそう声を掛ける。
ここから敵まで約50m。
その時、
「隠れてても無駄だ、曲がり角を出た所で止まれ」
敵の方から先に声を掛けて来ました。
「ちっ、良いか?」
ウインはそう皆に声を掛け一通り顔を見渡すと
「行くぞ!!」
最初にウインとレティ、真ん中にスニージーとリアラ、最後にわたしとジルだ。
「手紙を受け取ってやって来「……」「ザタンよ御身に生贄を『サモン・スクリーム』」
くそっ やるぞっ」
どうやら問答無用なのは相手も同じで、最初からそのつもりだったようだ。
ウインの口上を聞こうとする素振りすら見せず、ワインレッドのプレートアーマーを着た
ダークエルフが隣に立つフードを被った男に無言で頷くと、フードはイキナリ邪神の魔法
を唱えて来た。
土中から大量のスケルトンが立ち上がって来る。骨戦士の只中に飛び込んだ形だ。
おそらく50体は居るだろう。フード男はネクロマンサーだったようだ。
『『『『『 キャハハハハハ 』』』』』耳障りな笑い声を上げながら骨が迫ってくる。
正面から人間4人がこちらへ駆け出し、壁の向こうからはさらに敵の増援三人が飛び出し
て来たのが見えた。
わたしはすかさず『ヘイストⅤ』『ルーンシールドⅢ』をウインとジルに掛ける。
レティは慌てず矢を2本取り出し、一本目を正面の敵中央に打ち込む。
放たれた矢には燃え盛る炎が纏わり付き、それが鳥の形を成しながら敵を蹴散らして行く。
レティの得意技、弓と精霊術の合体スキル『ファイアーバード』だ。
すかさず二の矢を放つ。『ダストアロー』。
放物線を描き敵を貫通後、地霊を操って空中に大量の粉塵を舞い上げ視界を妨げる技だ。
そこへスニージーの範囲攻撃が撃ち込まれる。レティとの連携連続技。
「ナーシェル・バーライクシェバー・ダーシャン・フラーテスト・リ・オークル
破裂の光よ、天空より魔力の炎を降らせ死を撒き散らせ『クラスター』」
一つの光が8つに分かれ、それぞれがさらに8つに分かたれ直径30mの大地に降り注ぐ。
一つ一つの光の爆発力はそれほど大きくは無いが、計64個が狭い範囲で同時に爆発する
のである。その熱量と爆風はかなりの物。
すかさずレティが三の矢を撃ち込む。炎と風と大地を操る爆発の技『エクスプロージョン』
先のスニージーの『クラスター』の爆発で掘り起こされた大地の岩を巻き込みながら爆発
するので、単独で使うよりも凶悪な威力を発揮する。
さらにスニージーが追い討ちを掛ける。
「『アシッド・ボルテックス』」
プニ神の信徒は、信徒にさえなれば特定のスキルを一つだけ授けられ、それを行使出来る
ようになるらしい。プニ神の神聖術は神官だけの専売特許では無いというのが面白い。
スキルはある程度自分で選べると聞いた。
スニージーが選んだのは空中に浮かぶ酸の渦巻きである。威力はさほど強い物では無いが
『クラスター』や『エクスプロージョン』で傷ついた敵の傷をさらに深める嫌がらせ効果
抜群の連携連続技となる。
そして、なんとプニ神は「大切なのは敬う心。長ったらしい祝詞なぞ不要」と言ったとか
で、神聖呪文のキーワードだけ唱えれば術を発動してくれるんだって。便利~
その間、わたしとジルはそれぞれサイドの敵を『闇爪』『ソニックブレード』で蹴散らし、
ウインは『エクスプロージョン』が炸裂した後、ダークエルフへ向かって駆け出し、途中
で進路上に居たスケルトン一体を盾の一撃で吹き飛ばして、ダークエルフの後衛を狙う。
その直後『アシッド・ボルテックス』に巻き込まれたが、傷ついてさえ居なければ大した
ダメージにならないと知っているからだろう、ウインの行動に躊躇は無かった。
ダークエルフとわたし達の間は、粉塵が舞い上がり、酸の渦巻き在りで視認出来ないほど
で、当然特定の敵相手に魔法攻撃を飛ばせる状態では無かったし、味方への回復すら困難
な状況ではあったが、神官戦士であるウインは自分で自分を癒せるので多少の無茶が効く。
だが、
「させん」
敵リーダーはそう言うと、ウインと敵後衛の間に割り込み
「偉大なるザタンよ、我等に加護を与えたまえ『デバフ・フレイム』」
そう邪神の呪文を唱えると、敵リーダーが暗い炎に包まれる。
ウインは敵リーダーを回避して後衛に向かおうとしたが炎が噴出して行く手を阻まれる。
そのまま斬り合いとなった。リーダーの鎧、あれも魔法の鎧のようだ。
そして全身から吹き上がる炎がウインを苦しめている。
それにどうした事かウインの『ヘイストⅤ』が本来の素早さ効果を発揮出来て居ない。
18倍の速さとなるハズなのに、見た感じ2倍程度の速さだ。
どうやら炎は継続ダメージを与えるだけでは無く、ウインの行動・能力にマイナス効果を
及ぼすようだ。
さらに敵リーダーの鎧にもヘイスト効果があるらしく動きが早い。
能力を削がれたウインと同程度よりちょっと速い程度で動き、ほぼ互角の勝負となってる。
リーダーの武器は細剣と方形盾、スピードでウインを上回るが、力でウインが押している。
その時だった、
『ぎゃいぃぃぃぃ~~ン』
わたしが意識するより速く、生きた鎧の自動防御が働き斜め後ろから突き込まれた短剣を
弾いていた。
振り向いたわたしが視認出来たのは、ワインレッドの革鎧を着た短剣二刀流ダークエルフ。
さらに2撃、3撃目と短剣をわたしに突いて来るが、そのどれもが生きた鎧の自動防御に
弾かれた。4撃目を加えようとした時に、ダークエルフに気付いたジルが斬りかかったが、
『ヘイストⅤ』付きジル渾身の刃を鮮やかに避けた!!
敵もヘイストを使ってるらしく、続けてジルが斬りかかるもある時は短剣で剣を受け止め、
ある時は受け流し、また、刃を避け続ける。
「いった~い」
わたしはそう呟きつつ、自分の左肩に『回復』を掛けた。
最初の一撃目を避けるための自動防御で痛めたのだ。後で『再生』が必要だろう。
それだけ、わたしの意志とのリンクも許さない緊急事態だったという訳だ。
ジルは奇襲して来た革鎧ダークエルフと激しい攻防を続けている。
互いにヘイスト状態の彼等は周りからの手出しをしようが無いほど目まぐるしく動き回る。
革鎧はかなりの使い手らしく、また一瞬ではあったが短剣に毒が塗られているのが見えた。
ジルの魔法の鎧は外部からの毒を無効にする分泌物を出すため、毒に関しては心配無用だ。
だが、どうやらダークエルフの革鎧も魔法の鎧らしい。
ジルの魔剣が発するわたしが授けた『ソニックウェーブ』は風の追加ダメージ効果を持つ。
斬撃を避けても剣の周りに発生している高速振動する空気のダメージからは逃げられない
ハズだが、革鎧ダークエルフの動きは衰えることが無い。
どうやらあの革鎧は風系魔法付与された鎧のようだ。風の護りと高いヘイスト効果を付与
されているのだろう。
そしてリーダーの鎧は炎系魔法付与というわけね。
わたしは粉塵で視認困難な状況でも『パーティーセット』のメンバー位置探知で支援魔法
をジルとウインへ飛ばしつつ、粉塵に比較的影響を受けない精霊使いの目で戦況確認する。
最初にスケルトンを召喚した敵ネクロマンサーは、次にゴーストを大量に召喚して来た。
宙に浮かぶゴーストは『『『『『 ウラ~~ 』』』』』と不気味な声を上げ襲って来る。
加勢に入った敵3人のうち、人間二人は状況にビビッタらしい。まごついていた。
範囲攻撃で人間4人は既に無力化され、周りは大量のアンデットである。それも当然か。
残った最後のフードは予想通りダークエルフで邪神の神官だった。
リーダーが傷つくと、すかさず癒しを掛けている。ウザイことこの上ない。
スニージーは冷静に周りのザコを次々と魔法で片付けて、スケルトンはほぼ壊滅出来たが、
新たにゴーストが呼び出されたのを見て、魔法の使い方を変えて戦っている。
物理範囲攻撃主体だった物を、単体魔法で魔力の塊で攻撃する術に切り替え、的確に倒す
ことにしたようだった。どうやらスニージーはゴーストへ効果的な魔法の手持ちが少ない
ようだ。
代わってゴースト退治の主役はリアラだ。
「ミラー神よ、不浄なる死したる者達に沈黙の掟を下したまえ『ターン・アンデット』」
たった一度の祈りで半数のゴーストを無に帰し、残りも逃げ出している。司祭様万歳!!
精霊術は使えないけれど、精霊使いの目を持つリアラは粉塵の中でもウインへ『癒し』を
的確なタイミングで掛けている。
もっとも、粉塵を物ともしないのは敵ダークエルフ達も一緒だ。
と、ジルと戦っていた革鎧ダークエルフが突然消えた! 『探知』にも引っかからない。
いや、数瞬後、少し離れた場所に姿を現すと後衛の二人へ叫ぶ。
「何をやっている! 早くアレを呼べ!!」
やっぱり『探知』に引っ掛からないあの術? で、わたし達を監視していたのだろう。
悔しいなぁ。絶対後で秘密を解き明かすわ! と心に秘めた。
革鎧に答えたのは敵の神官。
「さっきからやってるんです。なのに……くそっ、ダークミスリルゴーレムさえ来れば、
こんな奴等は直ぐに蹴散らせるのにっ」
ダークミスリルゴーレム!?
きゅぴ~~~ん(☆_☆)
これは、ぐずぐずしていられないっ あの神官の口を塞いでやるっ
『闇牙』
しかし、敵リーダーの暗い炎が噴出して『闇牙』から神官を防御してしまう。
「無駄だ、我が神ザタンの加護は破れん!」
ウインと斬りあいながら、敵リーダーは得意そうに言う、キーーーーーっ、ムカツク!!
ザコ退治は予定通り進んだが、本命のダークエルフ達はやっぱりと言うか予想外に強い。
というか、チートな鎧を持ってるなんてズルイ。
……相手も同じことを思ってるのかしら?
ウインは敵の炎ダメージを受けながら、自分より速く動く敵リーダーと切り結んでいる。
リアラから回復を貰っているとは言え、凄い胆力と集中力だ。
そして円を描きながらリーダーとの互いの位置を上手く入れ替えた。その瞬間、
「『バインド・トラップ』」
ウインは神官である前に一人の信徒だ。プニ神から授けられた特殊スキルを一つ保有する。
それは、地面に足で描いた円の中に居る人物の移動を一瞬拘束する神聖術だ。
敵リーダーの邪神の炎は精霊術は物ともしないが、神聖術まで無効化は出来なかった。
ほんの一瞬、リーダーの動きを奪う。
ヘイスト効果を持つウインにはその一瞬で十分だ、一気にリーダーから距離を取った。
そして本来の『ヘイストⅤ』の効果を取り戻したウインの目の前には敵神官が居る。
敵リーダーが慌てて駆けつけようとした時には、袈裟懸けに切り捨てていた。
ウインは続けて敵ネクロマンサーを斬ろうとしたが、これは敵リーダーが防ぐ。
敵革鎧はそれを見て、
「魔王軍に参加する大事の前の小事でっ。このままでは族長に顔向け出来んぞっ」
そう言うと、駆けつけたジルと再び斬りあい始める。
ネクロマンサーは神官が切り捨られ「ひ~」と言いながら、ウインから逃げて魔法を唱え
ようとしたが、ウインから必要以上に逃げようとしたせいだろう。リーダーからも離れて
しまった。
レティはそれを見逃さなかった。矢が放たれる。
それでもネクロマンサーはさすがに素早いダークエルフだけあり、致命傷となるのはギリ
ギリで避け、腕で矢を受けた。が、
「………………」
口をパクパクするも声が出せないようだった。もちろん呪文も唱えられない。
レティの精霊弓術『サイレンス・アロー』だ。もはやネクロマンサーは戦力外だ。
それを見て取ると、続けてレティは「ジルっ」と一声叫び、矢を今度は敵革鎧へ放つ。
だが、革鎧は例の姿を消す術? で矢を避ける。
避けられた矢は敵リーダーの後方の地面に突き立った。
敵リーダーが叫ぶ、
「ここまでだっ、撤退するぞ!!」
それを聞いた革鎧は、またもや姿を消し、そして一瞬後、リーダーの傍に現われる。
ジルは逃がすまいと革鎧を追い駆け走りだす。
革鎧はその瞬間を狙っていたのだろう、持っていた毒の短剣二本を続けざま投げた!!
狙いはリアラとスニージー!!
ジルは走り出した瞬間だったので、投げられた短剣に反応出来なかった。
でも、
「させないっ 『イージス』」
わたしの無敵にして不可視の盾が短剣を弾き飛ばす。
わたしの『イージス』は厳密に言えば魔力の盾でも無ければ、精霊の盾でも無い。
魔力によって変質された空間を通過する時『エーテル』は運動を妨げられ、衝撃波が発生
し、大量の特殊な荷電粒子『魔力子』を放射する。
この『魔力子』は空間では無く時間軸に対して影響を与える。
『魔力子』によって時間軸がズレた空間と、通常空間の境界線では世界との因果率が歪み、
外部からその歪みに力が加えられると、すなわち攻撃を受けると、世界は歪を修正すべく
加えられた力と逆の力を発生させる。
理論上、この盾を破れるのは世界を敵に回しても勝てる神様だけだ。
わたしは『イージス』を展開したまま、逃げようとする革鎧とリーダーに叩き付けた。
特別攻撃力を持たない唯の壁だが、不可視ゆえモロに喰らった二人は押されて後ずさる。
そこには、
先ほどレティが放った特殊神聖スキル『エクスプロージョン・トラップ』の矢が在った。
その矢が精霊術によるトラップであったなら、そこは精霊使いのダークエルフのことだ、
むざむざトラップに引っ掛かったりはしなかったろう。
だがその矢はトラップが発動するまで何の力も感じさせなかった。
『ズガ~~ン』
爆発としては小規模だったが、思わず後ずさった足元での炸裂である。
姿勢を崩した革鎧とリーダーは、ジルとウインに討ち取られた。
こうしてダークエルフとの戦いは終り、残ったネクロマンサーは呪文が唱えられないよう
拘束術に長けたレティに猿ぐつわを咬ませられ縛り上げられる。
二人残っていた人間達も降伏したので同じように拘束してある。
「みんなご苦労様でした、街に戻って父上の配下に引き渡しましょう。
後のことは父上が取り計らってくれます。レティ? 戻りましょう?」
レティはダークエルフの死体に背を向け、村の入口の方へ向いて、俯いて地面をボンヤリ
と眺めていた。
「え? あ、ああ。そうしようか」
街に戻ってリーベフェルマ伯爵配下へとダークエルフ達を引き渡し、
わたし達はそのままグランザールへと旅立った。
その夜、
思わぬダークエルフとの戦いで魔法の鎧2式を戦利品として得たわたし達。
祝杯をあげながら、この鎧のことを知ってるウインとリアラが由来を話してくれる。
「これは邪神バルザタンが、高位の使徒16人に下賜した『アビス』の名前を冠した鎧に
違いありません」
そうリアラが説明し、
「アビスシリーズの鎧は4つの精霊の力を秘めた、それぞれプレート、チェイン、レザー
そしてクロースの4種類あるらしい、ここに在るのはアビスフレイムプレートアーマーと、
アビスウインドレザーアーマーだね」
ウインが補足する。
「ねね? このレザーはレティが、プレートはウインかリアラだったら着れるんじゃない?
魔法の鎧はその大きさを装着者に合わせて変化するだろうから」
わたしがそう提案すると、
「う、着れるかも知れませんが…………呪われそうでイヤです」
「同じく、あたしは邪神を崇めるダークエルフが着てた鎧なんて絶対着ないからねっ」
そう言って断るリアラとレティ。
「もったいない……あ、そうだ。邪神バルザタンにこういった鎧が在るって事はさ、善神
バルミラー神にも似たような鎧が存在するんじゃないの?」
「ありますよ。8色の名前を冠して、ホワイトミラープレートアーマーとかブルーミラー
プレートアーマー等と呼ばれてます。全てプレート鎧ですね」
「なるほど、リアラっ!!」
「は、はいっ!?」
「それを手に入れるのだ!! ミラーアーマーを!! 理由は特に無い。わたしが見たい
だけなのだー」
「むむ・無理ですよー、ミラーアーマーを授かる事が出来るのはたったの8人ですよっ!!
私じゃまだまだ届きませんっ」
「アビス鎧を全部奪い取った功績とかあれば別でしょ!? わたしのコレクターとしての
性が轟き叫ぶっ アビスアーマーとミラーアーマーをゲットだぜっ!!」
「げっと?? もう、確かにアビスアーマーを全てダークエルフから奪い取れれば、その
功績は計り知れません。ミラーアーマーも授かれるかも知れませんね。うふふ」
お酒が入ったリアラもその気になって来たようです。
「よーしっ!! ミラーアーマーを目指してっ 乾杯!!」
「「「「「 かんぱーい 」」」」」
そうして夜は更けて行きました。
真夜中。
わたしには、まだやるべき事があったので宿を抜け出し、宿場町の入口を目指して歩く。
月が出てない静かな夜だった。星の光が真っ暗な夜空を彩り向こうの世界とは全然異なる
星座や星雲が、視力の良いエルフの目には圧倒的な神秘の輝きを持って映った。
なのに、
「やっぱり来たわね」
わたしがそう声を掛けると、家の蔭となった暗闇からレティが姿を現す。
こんな静かな夜に相応しくない物騒な弓を片手に持っている。
小首をかしげ「気付いてたんだ?」と聞いてくる。
「そりゃそうよ、アンタ、ダークエルフ達を倒した後、様子が変だった物ね」
綺麗に瞬く星空、星と同じく銀に光るレティの瞳には深刻な悩みの光が揺れていた。
「判ってるなら話が早いわ。あたしも色々と考えたの。自分が何を欲しているのかってね」
レティは、
レティはそう言って弓をわたしに向かって持ち上げる。
水平に握られた弓はまるでわたしに向かって捧げられているように見えた。