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結局、あの3人組とパーティーを組んだ。

ダークエルフと一緒に行動なんて出来るものか!! と悩んで居たものの。

ここは大人になってポジティブ・シンキングで行こうじゃないか。

そう、アレだ!! アレですよっ


同郷のエルフ達に見られたら『ダークエルフの仲間になるなんて!』とさぞかし煩いこと

を言われるだろうけれど、正直そんなことはどうでも良いのだ。

いや、そんな些細な事など、もはや気にしている場合じゃ無いのだ。


初代巫女姫の手記にはこう記されている。




『今日はプニが変な出入り口を創ってた。そもそも自前で飛べるし、瞬間移動すら自在に

こなせる神のくせに何であんな物を使うのかさっぱり理解出来ない。ナイアガラを割って

飛び出すのがロマンなんだ、とか言っていたが私には神力の無駄遣いにしか思えない。

そんな物を創ってる暇があったら……』




ナイアガラが、あのナイアガラならば、プニ神は向こうの世界を知っていることになる。

いやさっ 神ならば知ってて不思議は無い、むしろ当然??

ならば、プニ神の意図は明らかだ。これはわたしに対する餌なのだ。


『ナイアガラを割って飛び出すのがロマンなんだ』


プニ神が、わたしに餌を撒いてまで今回の死霊都市クエストをウインと共に参加させたい

のであれば、よ~~しっ、行ったろうじゃないか!!


神の思惑に乗ってしまうと判っていても!! 無視出来ない。い~~や、これを無視した

なら自分のこれまでの人生を否定するのに等しい!!

アレが報酬ならば、風竜『イチゴショート』からのミッションも同時に達成出来るカモ?

そんな思惑もある。なぜならばアレだからだ。

むしろ、ここまで言って報酬がアレじゃ無かったら暴れても良い所よねっ!?

うふふふふふふ。


アレでさえあれば、どんなにショボくてもわたしの魔術式で何とかなる!!

自分でゼロから創るのは知識不足で無理だけど、既に在るなら話が早い。

みてろ~ イチゴショートめ。ギャフンと言わせてやる。


そこっ どこがポジティブシンキングだ? 唯の物欲じゃね~か!! とか言うなっ






風竜『イチゴショート』

世界が今の形となるより遥か昔から存在し、神が世の理を創るよりも早くから世界の大空

を我がもの顔が飛び回り、時には嵐を呼ぶ暴君となり、時には雲を呼び恵みの雨を降らす。

背中の竜の翼を広げれば太陽を隠し、姿を見た者には恐怖を、声を聞きし者には魂の死を、

ありとあらゆる獣の頂点に立ち、その力は神にも匹敵する。

存在そのものがエネルギーの塊であり、それゆえ、圧倒的な存在力で真名を唱えることも

叶わない。


ってむか~し聞いた気もする偉大な存在でさえも、死して今や唯の頭蓋骨である。

ただし、このガイコツ。死んでるくせにやたら元気だし態度も大きい。

先だっても緑の宝玉を自由に使って良い代わりに条件を言い渡されている。


そもそもこの風竜とわたしが契約出来たのはひとえに運が良かったためだ。

死んでも滅びない竜とは言え、死ねば自慢の翼で自由に空を飛ぶことは出来なくなる。

それが悔しくて死ぬのを先延ばしにしていた時に、わたしと出会い、死んでからも自身が

満足出来る方法で大空を翔けることを、わたしから得られた情報で可能ならしめたからだ。


自前の翼と竜の魔力で飛ぶ事を極めた風竜であるがゆえに、最小限の力場を創り、風の力

で揚力を得、風圧を感じながら飛ぶなどそれまでに無かった飛び方であり、新しい飛び方

を得て、退屈な死後の永い時間の暇つぶしが出来る知恵を与えたが故に、一種の気まぐれ

で契約を結んだに過ぎないのだろう。


そうして、航空機の飛び方と理屈を知ってる範囲で教えたのだが、熱く語り過ぎたからで

あろうか? 死んで他に何もやる事が無いイチゴショートは、わたしが教えた一つ一つを

ご丁寧にも完璧と言って良いほど繰り返して覚え込んだ。

各種機動法についてのウンチクは感心を通り越して呆れるくらいだ。




そのイチゴショートから出された条件、それは、


『新しい飛び方、もしくは、空を飛んで楽しいと思える何かを見つけ出して来ること』


であった。

どうやら、わたしが隠している秘密の機動法がまだ在ると思っているらしい。

そんな物は、ない。


考えて見て欲しい。イチゴショートの推進力は魔力による力場なのである。

わたしが知ってる航空機の機動法は推力を偏向させるスラストベクターと呼ばれる機構と

カナード翼により高度な機動を行うものだが、力場で飛ぶのであれば、飛行方向に対して

一瞬とはいえ完全に後ろを向いて飛ぶクルビット機動法ですら、イチゴショートが求める

新しい飛び方とは認められないに違いない。

VTOLのように飛行方向と全く異なる方向へエンジン推進力を引き込み、飛行ベクトル

を強引に変更するベクタリング・イン・フォワード・フライト機動法を教えたとしても、

今更それが何なの? というものだろう。


そもそもフライト・エンベロープの限界が無いヤツに、どんなオモシロイ飛行法が在ると

言うのだろうか!? いや無い。


そんな訳で、イチゴショートから出された問題の達成難易度はかなり高く、思いつく物が

皆無で、どうしようか悩む日々が続いて居たのであった。

過去形である。






さて話は変わって、レティアラがわたしを襲った一味では無いと確信出来ることがあった。


宿場町で次の日、報奨金を受け取るまで暇だからと、余った時間で皆で鍛錬を行ったのだ。

わたしはまだ疑っていたので鍛錬に参加せず、見守っていたのだが、そこでレティアラは

リアラ相手に体術で挑み、関節技でリアラを押さえ込んだのだ。

その時の技が、腕がらみとか、チキンウィングアームロックと呼ばれる技だったのだが、

ジルに技の名前を聞かれたレティアラは、技の名前を『キムラロック』と答えたのである。


木村という人がグレイシー柔術の使い手をこの技で破った事から、この技をキムラロック

と呼ぶようになったと聞いている。


プニ神がわたしをこの3人組と一緒に行動させたいのは巫女姫の手記で判っていた事だが、

だからと言って、ダークエルフがウインの幼馴染にして、暗殺者一味では無いという証明

にはならないとも思っていたのだ。

極端な事を言うと、ウインとスニージーを洗脳もしくは催眠術や魅了と言った精神系魔術

を駆使すれば、仲間と誤認識させて誤魔化す方法などいくらでもある。


だが、レティアラは体術をプニ神に習ったと言っていた。それが証明されたのだ。

ちぇっ。


何年も前に技の名前を教わっていたのであれば、レティアラがプニ神から技を習った話は

本当なのだろうし、この辺りのダークエルフ一族と関わりを持たないなら暗殺者一味では

無いと信じても良いのだろう。

まぁ神様関係の3人だと知った時点で、心のどこかではこうなる事は判ってたけどねっ。






そして、ここはアイゼリアのよろず紹介所です。

一仕事を終えたので、おやじさんへ報告と頼んでた調査結果と、伯爵への報告と死霊都市

の情報収集を兼ねて戻って来ました。

ダークエルフのレティアラは宿に置いて、5人で店に来ています。




「よぉ、リア。ゴブリン退治は無事済んだようだな。ご苦労さん。

そっちの二人は新顔だな? この国のよろず屋に登録するかい?」


「ただいま。おやじさん。そうよ、この人達の登録をお願いね。今は居ないけどもう一人

居て、わたし達と合流して6人組みパーティーを組んでるからそっちの手続きも宜しく」


「そういう訳で宜しく頼む。これが以前の紹介所で書いてもらった紹介状だ」

交渉や事務仕事はウインの役だ。

彼は3人組だった時からリーダーという役割を任されていた。

確かに剣の腕は立つし思い切りも良いし、性格も良いのだが、交渉役をこれまで任されて

来たのは、それが雑用だからだ。


人間の男で、真面目で人が良い神官で、腕っ節もある。

見た目は爽やかイケメン系だがガタイも大きいし侮られる事も無い。

プレートアーマーを着込み、剣と大盾を持つ剣士にワザワザ喧嘩を売る馬鹿も居ない。

ほらね? 面倒そうな対人の雑用を押し付けられる条件揃ってるでしょ??


「素人じゃなさそうだな。リアと組んでるとなると即戦力と思って良いな?

助かるぜ。なにせ魔王軍との戦いで腕の良いヤツラはあっちに取られちまってるしな」


「期待してるしてるとこ悪いけど、準備出来次第また旅立つから依頼は受けられないわよ」

そう言うと、おやじさんは一瞬だけ残念そうな顔をしたが、直ぐに立ち直り、


「ま、それはしゃーないな。何か珍しい物を旅先で入手出来たら高く買い取るぜ」

ニヤリと笑って、あまつさえウィンクまでしてくる。先ほどの残念そうな顔を取り繕って

いるつもりらしい。




「それと、おやじさん。ここから北のグランザールって滝の周辺でおかしな事が起きてる

って話を聞いたこと無い?

探し人が居るんだけど、その人が居る所では色々な騒ぎが起きてるって言うのね。

グランザール周辺の騒ぎとか情報が在れば売ってちょうだい。」


ウインもスニージーも耳ダンボだ。


「グランザールねぇ? 特に聞かねーなぁ。」


ガッカリするウインとスニージー。なんか面白い。


「あそこは自殺者が多い所だからなぁ。時々幽霊騒ぎが起きるくらいか。

あ、そう言や、河が滝になって落ち込むちょいと手前に中州があるんだが、その中州には

プニ神の祠が在って、祠の先は洞窟になってるらしい。「この先危険」ってプニ神直筆の

立て札が立ってるって事で有名で、知る人ぞ知る観光名所にもなってるらしいぞ。

時々冒険者が入るんだが戻って来ねーとこ見ると、触らぬ神に祟り無しってヤツだわなぁ」


「ふ~ん。札立てとくなんて変な神様ね」


「そんなトコかな。売るほど情報は無いな。お、そうだ勇者様の話だけどよ」


「ん?」


「リア、勇者様のパーティーは大活躍らしいぞ。勝利につぐ勝利で、先だっても魔王軍の

将軍とか言うのを倒して、ヤツラの企てを阻止したって聞いたな。

おかげさんで帝国の日和見連中も危機感が沸いて来たんだろうよ、このままじゃ勇者様に

手柄を独り占めにされるってな。

そいつらが近日中に大規模な軍団を編成して、魔王軍の要塞を攻めるって聞いたぜ」


「へー?? でも、そう言う嫉妬心から派遣される軍団ってゼ……ううん、何でも無い」


「お、おい!! やめてくれ、お前さんが言うと不思議と当たるんだ、洒落にならん」


わたしとおやじさんは他愛のない世間話を交わし、皆の関心が逸れたのを見て、店の奥へ

と二人で移動した。ここから先は聞かせる相手を選ぶ話となる。




「こないだお前さんを襲ったヤツラの面は割れたぞ。そっちは伯爵が手を打ったから気に

しなくて良い」


「……ダークエルフが居たハズだけど、そいつはどうなったの?」


「そいつはまだ捕まっちゃいねぇ。だが黒幕はもう捕まっている。分家の男爵家のヤツだ。

依頼主が捕まった以上、暗殺者は仕事を放棄して里へ帰った可能性もあるな」


「どうかしらね?」


「そっちは何か判ったら知らせる」


「頼むわね」


「それとこれは伯爵から、娘さんのこれまでの護衛代だ。それと伝言も預かってる。

娘達とは仕事抜きでこれからも仲良くしてもらえると嬉しい。だとよ」


「まだしばらくは一緒することになってるわ。そこから先は判らないけどね。

それと伯爵には、ジェラルディが将来的にも家に戻らない可能性も考えて、跡継ぎ問題は

考えておいた方が良いわよ、って伝えておいて?」


「ああ、養子でも取るかな、とか黄昏てたけどな。伯爵には伝えておくよ」






よろず紹介所を出たわたし達は、旅の準備を行いながら街でしか出来ない用事を片付ける

ため昼間は各々の都合で行動し、夜は宿に集まり準備状況を確認しあった。


ウインが、『命が掛かっているのに、実戦に出てから呼吸を合わせようと考えるのは準備

不足も良いとこだ。街に居る間に連携方法を模索しよう』と言い、皆も賛成したので鍛錬

しながらお互いの技や術を把握し、連携方法を決めて行った。


ボスゴブリンとの戦いで手際良く、そして熟練者の顔を覗かせたウインとスニージーだが、

毎日の鍛錬の場でお互いに技を掛け合い、稽古を通して力量については大まかにだが把握

出来ている。

ジルもウインという格好の練習相手が見つかって嬉しそうだった。


レティアラも、弓と体術の腕前はかなりの物だった。体術では、わたしが殴りと蹴り主体

の格闘技なのに対し、殴り蹴り投げ絞め関節と総合格闘技を使って来る。

ありていに言って、わたしが鎧を脱いだ状態では相手にならず、あっさりと負けている。

いくら普段は鎧で誤魔化していて筋力を鍛えて居ないとは言え、これは悔しい!!


ここは黒歴史に半分突っ込んでいる『精霊武装』をベースに、こっそりチート化するしか

手は無いようね。普通に起動したんじゃ相手も精霊使い、怒りの精霊を動かしたのは直ぐ

にバレてしまう。

気付かれないようにコッソリ呼び出して・・・・






運の良いヤツめ。次は覚えてろっ(注:コッソリ呼び出す方法が思いつかなかったらしい)




語句修正の理由について、一定期間を過ぎたので削除しました。

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