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わたしの名はリアファリナ、精霊術と魔術を修め武者修行の旅に出たトゲエルフよ。
いま、わたしはいわゆる冒険者の店の前に立っている。
剣と魔法の世界で旅と言ったらまずは冒険者のお店でしょー? 違うかな?
ちなみに"冒険者の店"では通じなかった。ちょっとショック。
この世界では"よろず紹介所"という名前だったのだ。
え?そんな事は良いから2ページ目の続きはどうなったですって?
んと。。。。なんだっけ? あ、ごめん。思い出すからちょっと待って!
えーっと、たしか男共に囲まれたんだよね?
実はあの後5回ほど同じこと繰り返して情報収集してたから最初の方は印象薄くて。
あははは(汗
わたしの魔術式はオリジナルで、身振り手振り詠唱すらを必要としないって言ったけど、
つまりそういうこと。
わたしの両手を拘束して油断してる男共を『麻痺』で逆襲し、必要なことを聞いてから
バイバイしました。
お別れする前に、「魔術を観るってタダじゃないのよ?」と常識を諭して、転がってる
男共の懐からしっかりお代を回収しましたよ~v。
もちろん、後から狙われたりするのイヤじゃない?
男共の体内の精霊力をちょっと弄り、そんな気が起きないようにしました。
最初は炎の精霊力を乱して一ヶ月ほど風邪に似た症状でダウンさせてたんだけど、3回目
くらいには人間の男の体内にいる精霊力操作にもだいぶ慣れて来たせいか、余裕が生まれ、
そうすると持ち前の好奇心と研究心が働き、もっと効率が良い形で。。。。。
つまりですね、えーっと。
男が恐怖に駆られ2度とわたしに悪さしようとか思わないような方法を見つけたというか。
ごにょごにょ。
『麻痺』で地面に転がして、さらに『体内の炎の精霊力低下』を掛けてわたしの魔術式の
効果を十二分に見せつけた上で。。。。
えーっと、えーーーっと・・・・・
えーーーい、命名『不能・一ヶ月限定版』を掛けました。
次にわたしの前に顔出したら『不能・生涯版』を掛けるから(ニッコリ)と捨て台詞付き。
水・地・闇の精霊を使って体や精神を癒したり、命の精霊で傷を塞いだりと人体へ影響を
及ぼす様々な精霊術はメジャーだけど、無くなった腕だって再生したりも出来ちゃうのよ?
それに比べたら血の流れを制御して、男のあそこに一定以上の血が集まらないようにして
しまうことなんて、思いつきで試しにやってみたら実に簡単だった。
そんなことを5回ほど繰り返し、多少の小銭を稼ぎつつ"冒険者の店"を尋ねて回りました。
概念の違いやらで聞き方が悪いんじゃないか?と気付いたのが3回目で。。。
ようやく5回目で"よろず紹介所"を聞き出せたのだ。
お金と情報をもらえて魔術式の実験台までしてくれて、なんて親切な男共だったんだろう。
『麻痺』『不能』なんて苦労のうちにも入ってない。
そもそもミジンコ相手に苦労なんてする?
"よろず紹介所"のカウンターに座ってたのは、綺麗なお姉さん。。。。
ではもちろんなく、禿頭のおやじさんだった。
「あー、この街に住んでないヤツにおいそれと仕事は出せないぞ、お嬢さん」
と言われてしまった。
わたしがかつて読んでた小説では登録なんてすぐに出来たのに。
やっぱ現実は厳しいなと思いながら、それじゃぁと、交渉から入ることにした。
「でも仕事貰えないと先立つものが無くなって困っちゃうわ。
ねぇ、おやじさん、そこを何とかしてもらえないかしら?」
必殺!エルフスマイルでどーだっ!
「そうだな、とりあえずランク外として仮登録は出来るぜ?
もっとも、それで与えられる仕事は期限ギリギリで相手を選んでる余裕が無いヤツばかり
になっちまうぞ。
場合によってはお嬢さんの手に負えない危険な山もある。
ま、大抵は誰もやりたがらない簡単な仕事か、汚れ仕事とかだがな。」
「それで信用を積めば、あーそうだな。10件。
そういう仕事を片付けてくれれば正式登録してやっても良い。」
「ありがとう!おやじさん、それで良いわ。 さっそく仮登録してお仕事ちょうだい!」
ここはわたしの最高の笑顔を見せても良い所よね?
わたしはお店の中にいる他のお客へも無駄に愛想を振りまきながら大げさに喜んでみせた。
「よし、これでおーけーだ。どうするよ?お嬢さん、今紹介出来る仕事じゃ、これだな。」
そういって一枚の紙を渡してくる。わたしはそれを受け取って
「もちろん受けるわ。んっと、
モグラが大量に発生して畑を荒らすので非常に困ってます、退治して下さい。」
このおやじさん、なかなか巧いと思う。
モグラ退治なんて地面の下にいるから地味で、駆逐まで長引きそうだし、冒険者達が本気
で取り組まなければ誰か死ぬほど切羽詰りそうな案件でもない。
そんな訳で優先度も低く、いままで放置されて来たのだろう。
かと言って、わたしのような見た目か弱いエルフのお嬢でも、命のやり取りになりそうな
危険な依頼というわけでもない。
そして、信用ゼロのホームレスな小娘がまかり間違って失敗し、知らん振りして逃げ出し
ても誰かが死ぬほどの事態にもならない。
さらりと常識的に判断できる範疇で、初心者冒険者に合う案件を選び出した所が商売上手
を感じさせた。
「おー行ってくれるかい? んじゃサーモン市場通りを東に向かって街外れに行ってくれ。
そこで依頼主の家を訪ねてくれればいーぜ。
その紙を見せれば依頼主が目的地へ案内してくれるだろう。
終ったらまた依頼主の家に行って代金を受け取ってくれ。
あ、もしも払い渋ったらここに来てくれれば代わりに払うぞ。
この店は信用第一なんでな。 そんときゃこっちから客に筋を通すさ。
んじゃそれで良いかい?」
「えぇ、判ったわ。 それじゃ、またね?」
そう言ってわたしは"よろず紹介所"を後にした。
「一回の説明で判ってもらえたのは久々だな。。。この店に来るヤツと言ったら。」
「ハハハ、その前にあんな綺麗どころが来るなんて、今日この店潰れるんじゃねぇの?」
わたしの後ろで客とバカ話をするハゲおやじの声が聞こえて来る。。。
「それじゃさっさと片付けますか。
サーモン市場通りはここから南ね。道に不慣れじゃ飛んで行くわけにもいかないなぁ。」
楽するために魔術式があるのに、使えない状況に出会うって魔導師として悔しいのよね。
むぅ。そのうち地上を楽に移動出来るように車を創ろうかしら。
わたしはブツブツ言いながらテクテク歩いて行く。
「あらら、モグたん、ずいぶんなご活躍ね。」
わたしの前には一面の畑がひろがっている。
ところどころモグラが穴を開けて、土が盛り上がってて野菜もだいぶダメになってる。
「モグラが居るって事はミミズが居て土が肥えてるって訳だから、薬系はダメね。
かと言って地面の下に居るモグラの精霊力を感知して一本釣りで単体の精霊力を弄るのも
ここでは面倒ねぇ。」
そうなのだ、精霊使いなわたしに取っては地面の下に居ようが関係なく精霊力が"見える"
ので、モグラを捉えて簡単に片が付くと、ここに来るまでは甘く考えてた。
しかし、ここの土地は精霊力に満ち溢れていた。地面そのものにも野菜にも。
この中からモグラだけを捉えるのは、極彩色の中から一色を探すようなものだ。
わたしは早々にその方法は投げた。精霊力が多くてずっと"見てる"と悪酔いしそうになる。
「たしかモグラは自分の通り道を塞がれると、修復のために塞いでる土を外に押し出すん
だっけ? それで穴に捕獲用の道具を設置すると良いとかなんとか"向こうの世界"で聞い
た気がするわね。」
ということは、土の精霊に協力してもらって穴を塞いで、塞いだ土が動いた事をトリガー
に精霊に捕獲して貰えばいいか。
そう、精霊はさほど頭良くないというか、細かい指示が出来ないというか。
人の世に深く関わるつもりがないからか物体は識別しないし、何時という概念も無い。
特定の生物相手に何かをさせようとした時には、条件を上手く設定してやらないと精霊が
自発的に何かする事は期待出来ないのだ。
つまり自動化は難しい。
「モグラを殺しちゃうのはこの畑の精霊力を乱すことになるし、土の精霊にとっても良く
ないわね。それならば。。。。
うん、魔術式のここをこうして、トリガーはこうで、捕獲時の土檻生成法はこうで、逃が
さないように構造をこうして・・・・ぶつぶつ。」
わたしは畑を見て気付いた点から土霊操りの魔術式を手直しして構成していく。
作戦、および、魔術式のシーケンスはこうだ。
①モグラの通り道を一部塞ぐ。
②モグラが穴補修のために土を動かすと土霊が場所を感知する。
③その場所を含めた一定の大きさの空間に、土霊は土の檻を生成する。
④土の檻は密閉せず、かといって逃げられない程度に隙間を開けておく。
⑤設置したその檻は、一晩経った頃に回収する。
⑥どこにモグラが居るかは判ってないので、とりあえず100ヶ所ほど設置しておく。
必要な仕掛けを施してしまうと、後はモグたんが罠に掛かるのを待つだけとなる。
「暇ねぇ。。。でも街に戻って任務失敗だと思われるのもイヤだし。。。。
早く信用得て複数の仕事を同時にこなさせてくれないかなぁ?」
今日と明日はここで野宿することになるんだろうなぁと思いつつ、
わたしはぽかぽか陽気を浴びながらくつろいでいた。
結果的に、モグラ17匹、野ネズミ12匹を生きたまま捕獲し依頼主に届けた。
モグラはミミズを食べるので、野菜をダメにしたのは他に犯人が居る!と予想したわけ
だけど、これが大当たりだった。
そのための罠も同じように生成して設置しておいたのv
依頼主は大いに喜んでくれて、約束の報酬を5割増しにしてくれた。
わたしの初仕事はこうして期待以上の成果を上げて幕を閉じた。
いや、冒険者人生の幕開けと言うべきかな。