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薄暗い部屋の中で、7色の光を浴びながらトゲエルフは宣言する。

「では、いきますっ。」

周りではジルとリアラがこれから起こるだろう事を想像し、思わず息を呑む。


トゲエルフは、おもむろに魔剣から赤い宝玉を左手で外し、右手の緑の宝玉をはめ込む。

そうして左腕を持ち上げ鎧にはめ込まれた自分自身の宝玉を一瞥すると、

「しめて3秒ね。」

と言った。




「「 え? 」」


「えっ、って何?」


「え?いや、あれ?え? 今ので宝玉の交換終り?」


「うん、そうだよ?」


「もっと大変で時間が掛かる物だと思ってましたわ。」

とリアラ。


「え?でも、だって、魔剣の宝玉は魔術式の心臓にあたるからそんじょそこらのまがい物

なんかじゃダメで、本格的に儀式魔法で魔力を集めて結晶を創るには時間が掛かるし。

それに魔剣から取り外そうとすると剣の反発もあるからとても危険で、宝玉の交換は細心

の注意をはらっても難易度が高い、って言ってなかった?」

とジル。


「うん、言ってたね。

だから新しく創らずに手持ちの宝玉で間に合わせたし、細心の注意をはらって素早く取り

替えたでしょ??」

何言ってんの?と言わんばかりのトゲエルフ。


『納得行かない。』

ジルは心の中でそう思ったが口には出さなかった。

どうもファリナは、時々こんな風に人を騙すというか真実を隠して態とおちょくるような、

こちらの反応を見て楽しむクセがあるように思える。

それを指摘すると、あからさまに、ふ~っとため息を吐き、

『判ったわかった、うっかり冗談も言えないのね。』

と、まるで冗談を軽く受け流せない自分が悪いかの様に言うに決まってるのだ。






わたし達3人組みは、今朝早く元海賊の少年と少女に別れを告げ、昼前にはゴブリン被害

に怯えるこの宿場町へとやって来た。

あの少年にはアイゼリアのよろず紹介所のおやじさんを教えて、旅費として銀貨3枚ほど

渡しておいたので、本人にやる気があるなら食いつないで行くことくらいは出来るだろう。

ここまでは唆した感もあり責任を感じたので、わたしとしても便宜は図ったつもり。

後は本人達のやる気と運次第だろう。そこまではわたしの関知するところではない。


少年はジルにお礼を言い去って行った。

だからなぜそこでジルなの?と思いきや、すれ違いざま、わたしに、

「アンタにも礼は言っとく。」とボソリと言った。頬は赤かった。


ちょっと嬉しかったわたしは、

「男のツンデレって気持ち悪いからハッキリ言葉にしなさいよねっ。」

と言っておいた、意味は通じなかったようだが、おちょくられた事は通じたようだった。


あとでリアラがツンデレの意味を聞いて来たので教えてあげたら、

「それなら、さっきのファリナの受け答えも十分ツンデレでしたね。」

とニコヤカに言われてしまった。






ツンデレとは心外な。そんな訳で自分では普段よりトゲ3割増しの応答を心がけつつ。

ジルの呆れ返った顔を見て思う。結果だけを見て「なんだ実は簡単だったんだ。」

などと思われるのもシャクだなぁ、と。

思うが、人の意表を突く事が三度の飯より好きなのでそこはトレードオフなのよね。


段取りをしっかり行った上での3秒なんだけどな。

そのためにえらい労力とリソースの無駄遣いをしてしまったが、物に拘るより二人の驚き

の反応を返され、自分の心の満足を得られたから良しとするか、と思い直した。


例えばたった今、魔剣に填めた緑の宝玉。

わたしの生きた鎧に装着している風の宝玉よりも強い力を秘めている。

あれ一つ得るためなら命のやり取りをも辞さない人間がどれだけ居ることだろう?


風の精霊界で上位に位置する風竜『イチゴショート』から、契約の印として授かった宝玉。

あれほどの風の力を秘めた宝玉は、この世で二つと、いやもう一つくらいはあの廃エルフ

のクソジジィが持ってる気がするが。。。。それでも三つは無いだろう。

仮に存在していたとしてもバリバリの非売品。

入手出来ないという意味では存在しないのと変わりは無い。


いくらわたしが貰った宝玉とは居え勝手に他人へ、それも魔剣に組み込むとなれば、本竜

の了承を貰っておくに越した事は無い。

今朝イチゴショートにその旨伝え、許可を得る代わりに言い渡された条件だって、普通に

考えれば、条件を達成するためのミッション難易度はかなり高い。

ん~でも、いつまでも待つって言われたし、気長に探すとしますか。

イチゴショートとの約束は今の所は関係無いし、頭の隅にでも置いておこうっと。


「この赤い宝玉は不要だから緑の宝玉の対価として貰うわね。」

ポシェットに仕舞い込む。リアファリナと書いて「物を捨てられない人」と読むのだ。






「あの、ファリナを信じないわけでは無いのですが、これで本当に大丈夫なのですか?」

リアラは過去に魔剣に命を吸われた人を実際に見ているのだから心配するのは当然だろう。


「だーいじょーぶ。吸われたってわたしが鼻血出るくらい治してあげるからさっ。

それよりも、ゴブリンは数体じゃなくって、100匹くらい数が居るってさ。

明日は激戦だよー? 支援魔法は全開で行くからねっ。」


「わかった。魔剣の危険を取り払ってくれてありがとう。ファリナ。

それじゃ外でいつもの鍛錬してくる。リアラ手伝って。」


「はい。でも明日のためにも今日は軽くですからねっ。」

そう言ってジルとリアラは鍛錬のために部屋を出て行く。


わたし?わたしは鍛錬してもこれ以上筋力付かないしねぇ、どうしよっかな。

剣の型は生きた鎧に覚えこませてあるし、わたしの意志に沿い決まった型を行ってくれる。


とは言え、ほっとくとわたし自身の身体が動きを忘れてしまうので、鎧と微妙な動きの差

となって現われ、極端な話、鎧が右に腕を振ろうとした時に、わたしが左に振ろうとする

と関節を痛めてしまう原因となる。

まぁ、鎧の動きはわたしの精神と完全にリンクしているので、意思に反した動きはしない

けれど、怠けた身体は頭で考えた通り動くとは限らないものだし、わたしも型のおさらい

を軽くしておくに越した事は無いわね。




わたしが宿の裏に行くと、二人は既に武器の柄に練習用の錘を付けて、素振りを規定回数

こなして居た。

「ファリナも鍛錬ですか?」

普段は練習しないわたしが来た事でリアラはそう聞いて来る。


「そうなの。たまには練習しないとさー。」


「ファリナは魔法使いなのに剣もかなり使えるよね。剣だけでも苦労しているわたしとは

違って。どんな練習法をしているのか興味ある。」


「えへへ。期待してるとこガッカリさせちゃうけど、わたしの剣の腕前はこの鎧のおかげ

なのよー。」

わたしはその場で鎧を外し、生きた鎧を自立モードで起動する。

自分の身体を動かすのが目的なので、鎧のサポートがあると訓練にならないのである。


ジルとリアラは、鎧が自動的に動くのを見てやっぱりビックリしたようだった。

でも、なぜ非力なエルフがジルの両手剣を片手で受け流せたのか、これで解っただろう。






そうして双剣を型通りに振り、自分の動きを一つずつ確認する。

一振り一振りに集中し魂を込めて振る。師匠は居ない。完全に自己流である。

剣道の段は持って居たが、二刀流を習ったことはない。

記憶させた動きをそっくりなぞってくれる鎧が在ってこそ成り立つ二刀流なのだ。


満足行くまで身体を動かし、双剣を鎧に吊ってる鞘に戻した。

ジルとリアラを見ると、いつの間にかお互いの打ち込み稽古に移っていた。

リアラは基本的にジルの連続技を盾で受け止め、ジルの姿勢が崩れた時に打ち込んでいる。

なるほど、この練習法が在ってあの戦い方なんだと納得。

明日の本番前に余計な雑音を言っても仕方ない。けれどリアラ相手ばかりではジルは早晩

伸び悩むことになる。

こればっかりは経験なので、直ぐに練習相手が見つかる訳でもなし、おいおい考えて行く

しか無いだろう。

生きた鎧?? アレには手加減モードは無いし、組み込むつもりも無い。

自分の命綱に変な機能を入れてバグったらイヤでしょ??




稽古を終えてから部屋に戻り、大好評の『お風呂セット』で汗を流してから就寝。

水霊操りのお湯は部屋の中でも周りを濡らす事も無く、湯上りで熱が篭ったりもしない。

精霊ってホントに助かるわよね、それじゃおやすみなさい。


最近、寝てる間に『全自動』で洗濯する術を編み出したので楽チンだ。

水球の外側に『静寂』をかぶせているのがポイント。






そして次の日、早朝の人気が少ない時間に『CIC』でゴブリンの集団と地形を確認して

戦いに適した場所を探し、あらかじめ頭に入れておいた。

自分独りで行動していた時とは違って、段取りという物に時間と労力を掛ける様になった。

たかがゴブリン100匹程度、わたしの広範囲殺傷魔術式一発で終るわけだけど、ずっと

そのスタイルでは前衛が育たない。やがては後衛の自分の不利益になってしまう。

このパーティーが何時まで続くのかは判らない。でもだからと言って、どうせ直ぐに解散

するさ。という考え方は美しくないと思う。

縁を大事に、このパーティーを組んでいる間はパーティー利益を考えて行動したいと思う。




さて、肝心のゴブリン達はというと、集団で町の自衛団と小競り合いをしながら、町周囲

の畑を荒らしたり好き放題しているという。

帝国騎士団を始め戦力のほとんどが魔王軍と戦うために国の北側に配置され、南部が手薄

となっている弊害がこんな所で噴出していたのだ。

国境警備隊はもっと南に駐屯し、中途半端に帝都に近いこの辺りが現在はもっとも治安が

悪い危険地帯となっている。






確認しておいた地点から程遠くない場所で、斥候と思わしきゴブリン少数を見つけた。

『探知』を展開しているので、先制権はこちらにある。

『加速』を伴ったジルがゴブリンの群れを、わたし達に有利な地形に誘い込み、戦闘開始。

遠距離魔法を使わず剣で倒しているのは、ゴブリンは今ここに見える以上に数が多いので、

魔法を使うことで警戒心を煽りたく無いし、下手をすると逃げられてしまう。

ある程度の数を削るまでは地道に倒して行くのが殲滅への近道だろう。

殲滅出来る魔法を持ちながらも使わないというのは、結構なストレスになる。


今日はジルの経験値上げ、今日はジルのケイケンチアゲ、キョウハはジルの・・・・




ジルはゴブリン一体なら難なく倒せる技量を持って居るが、ただ、持久力に乏しいようで、

時々スタミナ回復する必要があるようだった。

『パーティーセット』の生命力回復速度上昇で、傷回復は早まっているが、スタミナ回復

は含まれて居ないので、早々に効果面の見直しを行う必要があるだろう。

それについては今晩にでも行おうと心の中で決めた。


傷回復とスタミナ回復を掛けられ半強制的に、それでも黙々とゴブリンを倒しているジル。

後方で周りの警戒をしつつ全体を眺めながら、時折回復系魔法を唱えるわたしとリアラ。




「そろそろ慣れて来たかしら?うふふふふ、鬼釣り行くわよーーっ!!

ジル、次は魔剣の力も使ってねー。」


ジルとリアラは揃って反応する。「鬼釣り?」


『ヘイストⅤ』『ルーンシールドⅢ』


手持ちの単体支援魔法の中で最上位の魔法を、ジルに対しさらに上乗せで掛ける。

攻撃速度上昇を劇的に上昇する魔術式と、敵の攻撃を魔力で相殺する盾だ。

『ヘイストⅤ』は体感で3分間、普段の18倍程度に早く動けるようになる魔術式だ。

自分に掛けるのはイヤだが、他人に掛ける分には筋肉痛を回復魔法で癒せば後は他人事だ。


そうして、

『幻影』

わたしそっくりの影をいくつか創り、ゴブリンの群れをこの場所へ誘導する。




そして集められこちらへ雪崩の様に走り寄って来る、見渡す限りのゴブリンxたくさん。

それを見たジルは、魔剣を正眼に構えると目を閉じて何か呟く。

祈りの言葉のようだったが、聞き取れなかった。精神統一の類だろう。

とたんに、剣の柄が生き物の様に変形し触手がジルの腕に絡まる。

新しく組み込んだ緑の宝玉は、ジルから吸われる血肉を一定値以下に抑える役目を持つ。

元は生物の魔剣である。供給される栄養が少ない状態で魔力を発揮し続ければ、やがては

蓄えられた魔力を徐々に吐き出し、そうして危険度は下がって行くだろう。

いわゆる魔剣のダイエットである。


ジルの動きはもはや視認出来ないくらいの早さで、寄ると触ると次々と切り捨てている。

まさに竜巻のようだ。

今のジルは『ヘイストⅤ』の他に魔剣のヘイスト効果も合わさって、尋常では無い速度で

剣を振るい続ける。

そして、


『バンッ』

と突き抜ける音がして、ジルの前方方向に居たゴブリン10体ほどが扇状に消し飛んだ。


緑の宝玉には、赤い宝玉に籠められた魔術式の上位互換性にプラスして風系魔術式による

『ソニックウェーブ』、それをわたしが新しく追加で付与してあるのだ。

剣を振るうことで周囲の空気を高速で振動させ、追加ダメージ効果を発揮する魔術式だ。

そこへ元々魔剣が持っている敵に当たった際の衝撃波効果が発揮されると、低い確率だが

衝撃波が高速振動する空気を伴って発生し、ソニックブレード効果となる場合がある。

剣を振るった方向が扇状で消し飛ばされたのはそのためだ。




でも、最初の一発でその欠点に気付いた。

「な、なんですの?あれは。こっちに飛んで来ないですよね?」


うん。来るよー。方向選ばずだしね。

リアラのジト目にわたしは視線を流した。今夜!!、コンヤチョウセイシマス。

今は運を天に祈ろうねー、ほらーリアラはそういうの得意でしょ??


ま、それは冗談だけどね。『風の護り』もあるからこっちに直撃はしない。




わたしはスタミナ回復の他に、徐々に削られて効果が消えそうになる『ルーンシールドⅢ』

や『ヘイストⅤ』を、完全に効果が消える前に次々と上書きする。

リアラはジルが傷を負えば、それが浅くても直ぐに回復を飛ばし続ける。

あれほどたくさん居たゴブリンも、みるみるうちに数が減って行く。

そして、それが来ました。




『#3$@#&%$』


聞きなれない叫び声にふと気付けば、わたしの目の前に風霊が浮かび上がって居た。

どうやらこちらを魔法使いと見て『静寂』に類する風系魔法をゴブリンが唱えたようだ。

もっとも、風系魔法はわたしの風霊が押さえ込むので、わたしには効かない。


風の上位精霊を連れてくれば別だけど、クソジジィ並みの精霊術の使い手で無い限りは、

わたしの風霊の妨害を破れはしないだろう。

音は鎮めるよりも掻き乱す方がずっと楽で簡単なのはどこの世界でも同じだ。敵の風霊が

こちらを圧倒的に上回る実力が無い限り風系魔法がわたしに効果を発揮することは無い。

まぁ、『静寂』が効いても、わたしの場合は無詠唱があるので困りませんけどね。




魔法を唱えたゴブリンと、その隣にいる一際大きなゴブリンは明らかに周囲のゴブリンと

格好が異なっている。おそらくアレが群れのボスなのでしょう。

ボス達は魔法が通じなかったと見るや、くるりと方向を変え逃走に移った。

わたし達からボスまでの間には、少なくなったとはいえ、まだかなりのゴブリンが居る。


やれやれ、逃がすくらいなら魔法で倒そうかと考えた時に、逃げるボス達の向こう側から、

ゴブリンとは異なる3つの反応を『探知』に捉えた。


新たに増えた3つの反応の内、2つは解らないが、一つは軽やかな動きと風と大地からの

情報で、エルフ種族であることは直視しないでも感覚で直ぐに判った。

ボスと遠からず進路が交差するだろう事も判明しているので様子見を決め込む。

ゴブリンのボスごときで、星を取ったの取られたので騒ぐつもりも無いし。




「ゴブリンとは言え、多勢に無勢の様子。助太刀する!!」

3人のうち、先行して来た二人は、冒険者の約束事に従って助太刀の意を宣言する。

そうしないと横取りと区別が付かないからだ。それでも時にはトラブルの元なんだけどね。

まー、普通は女の子3人組で多勢のゴブリンを殲滅出来るとは考えないから正しい行為で

はあるのだけど。


『ダ・ゲライン・ゾル・リベルファイ・イングランス

凍てつく槍よ!我が敵を滅ぼせ!『アイシクルランス』」


二人のうち、叫ばなかった方は魔術師のようだった。氷槍を2本同時に2匹のゴブリンへ

それぞれ飛ばした。

2匹はその攻撃を受け、それなりの傷を負ったようだが倒すまでには至らなかったようだ。

魔法を使うゴブリンは傷を負うとすかさず癒しを使って来た。


『&#3$@#』

2匹の傷が塞がっていく。


「スニージー、集中だ!」

そう言ってもう一人の剣士が魔法ゴブリンへ襲い掛かる。大きなゴブリンを牽制しつつ、

的確に魔法ゴブリンに斬りつけていく。


「エンゲ・ナジエバン!『エナジーボルト』」

スニージーと呼ばれた魔術師は、詠唱の短縮形らしき魔術式を使って魔法ゴブリンへ攻撃

を加える。短縮形は基本形より詠唱時間が短くなる分、威力が弱まる場合が多い。

集中攻撃なので一発の威力より手数を選んだらしい。手馴れた感じだ。


魔法ゴブリンがおそらくは癒しを使おうとしたのだろう、その瞬間を狙って、

剣士が盾をアッパーカットの様に低い体勢から伸び上がるような全身の力を使いゴブリン

に叩きつけて弾き飛ばす。

『シールドバッシュ』だ。詠唱を妨害し、すかさず突きを放ち魔法ゴブリンを倒した。


その後も一方的に剣士と魔術師は大ゴブリンを倒してしまった。

その頃にはジルも残された全てのゴブリンを倒していた。






「大丈夫だったかい? って聞かなくても良いか、どうやらお邪魔してしまったようだ。」

向こうの剣士が剣を収めて、そう穏やかに話しかけて来る。

わたし達の周りにはゴブリンの死体の山。所々『ソニックブレード』で大地は抉られ、

木は不自然に切り倒されている。

この状況を見れば助太刀は無用だったと解るだろう。


「たった3人でこれだけのゴブリンを倒したのかい?凄いね、君達。」

魔術師も人懐こい笑顔でこちらを称える。




さて、いちおう形的にはわたし達は要らぬおせっかいで肝心のボスを最後に横取りされて

しまった事になる。リアラとジルはどう出るだろうか?

こう言っては何だが、冒険者を長く続けて居れば横取りなんて普通にあるだろう。

そして助太刀と横取りの境界線が曖昧な状況などこれから幾度も巡り合うに違いない。

今回の対応でジルの人としての器が見えてくるのかも知れないな、と思う。




「逃げられる所でしたので、御助力感謝致します。」

そう、ジルはあっさりと告げた。

リアラも心配していたのだろう、ほっとした顔だった。もしかしたらわたしもか??


さて、そうなると気になるのは、そこに居るハズの見えないエルフだ。

『探知』ではわたし達の正面、約20m先に居ることになっている。

しかし、肉眼ではそういった人物は見えない。精霊を感知する精霊使いでも見えてない。

つまり透明化の魔術を使っているのだ。


こちらは女の子3人組、そのうち二人はエルフとハーフエルフだ。

まっとうなエルフであれば、姿を隠す理由などないだろう。


『See Invisible』

わたしは透明化を見透かす魔術式を無詠唱で起動する。

透明化は、光霊(光学迷彩)/闇霊(同じく光学迷彩)/風霊(光の屈折、気配隠蔽)

地霊(体色変化・保護色)/火霊(体温隠蔽)/精神霊(意識外とする事での隠蔽)

大まかに言えばこう言った原理だ。

逆を言えば、透明化を見破るために同系統の精霊を動かすと、相手にもこちらが見破ろう

としているのが解ってしまう可能性がある。


そこで!わたしの『See Invisible』は、透明化でほぼ使われないだろう

水霊を用いて相手の居場所を割り出す魔術式だ。

もちろん、今現在、この辺りは『風の護り』やら様々な支援魔法によって精霊力が入り

乱れている状態である。相手の透明化と同系統の精霊をさらに動かしても気付かれない

可能性もあるけどね。


水霊の力でわたしの周りの空気中の水分子をリファレンス(基準値)として、水分子の

分布状況を目に見える形とする魔術式だ。

リファレンスとした空気中よりも水分子が多い・少ないが見えるのだ。

つまり人体は水が65%占めている。空気中より明らかに人体の位置だけ水分子が多い

のが見えるわけだ。

相手がゴーレムのような無機物だったとしても逆に空気中より水分子が少ないと解る。




そうして透明化を見透かして見る。

なるほど、確かにエルフ種族、それに女の子だ。身長はわたしと同じくらいだろう。

子供であれば隠れる理由になる。だが同年代となるとなおさら隠れる理由が無い。


だが、わたしには意図的に隠れようとするエルフには心当たりが在る。

思い出して欲しい、港町アイゼリアでリーベフェルマ伯爵との会見後に襲ってきた相手を。


『雷球』

わたしは攻撃魔術式を起動し、隠れている女エルフの頭上に浮かばせる。

突然のわたしの行動に驚く皆。


「そこの女エルフ。隠れて居ないで出てきなさい。」




素早く反応したのは剣士だった。

「待ってくれ!!、怪しい者じゃないんだ。ただ、事情が有って初めて遭う人達からは、

誤解を受け易いんだ。それで隠れていただけなんだよ。君達を騙そうとか、そんな事は

考えてないから、危ない魔法は止めてくれっ。」


「ホントなんですよ、そうは言っても信じられないと思うけど、僕達はここから去ろう

と思う。それが無用な争いを避けられてお互いのためでしょう?」


「隠れて居るのは正直気持ちは悪いけど、事情が有ると言うのなら仕方ないだろう。

ここから去ってくれるなら争う理由は無い。」

そうジルは言うが、わたしは、


「ダメよ。わたし達は4日前、アイゼリアのよろず紹介所の前でダークエルフから襲撃を

受けているの。隠れているのがダークエルフならここで倒す。

黙っていてゴメン、ジルとリアラを護衛するようにリーベフェルマ伯爵から依頼を受けて

居たんだけど、その時にダークエルフに襲われたのよ。

だからダークエルフなら見逃す訳には行かない。」


「それは違うっ。我々じゃない。」

あせって反論する剣士と魔術師。


「待って!!姿を見せるから。でも誓ってあたしは貴方達を襲ったダークエルフじゃない。」

そう告げて透明状態から現われた人物は、


予想通り、女ダークエルフだった。




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