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焼け焦げた男はまだ息が有ったので、多少乱暴によろず紹介所まで運び込んで、拘束技に

長けてる冒険者さんに縛り上げてもらった上で、傷を癒し、そのまま官憲に引き渡した。

おやじさんと、まだ紹介所に居たリーベフェルマ伯爵にも伝える。

時期が時期なので無関係とは思えない。陰謀が在るなら有力な手がかりとなるだろう。

『ファイアーボール』が使える程の魔術師ならば、素性を明らかにするのも容易いだろう

と伯爵は意気込んでいた。


わたしはくれぐれも実行犯が、黒幕から殺されて闇に葬られる事が無いよう、十分注意を

払うように伯爵に念押ししておいた。

官憲にはリーベフェルマ伯爵を狙ったテロである可能性が高いと仄めかしておいたので、

伯爵からの横槍もやり易いだろうし、管轄が違うからといって無視も出来ないだろう。



逃げたダークエルフについても、おやじさんに話しておいた。


「ダークエルフ?見間違いじゃないのか?この辺りで見かけたって報は無いぜ。

あいつ等はもっと南東の方、聞くところによるとラクト山脈の南端辺りに集落が在ると

聞いたが。。。」


「見間違いじゃないわよ。エルフは耳を視認してエルフ種族だと区別してる訳じゃないの。

身体に対する体重比が人間とエルフは大きく違うのよ。エルフは身長に対して体重が軽い

から体が動いた際の空気の動きや地を蹴る音とか、風や地から伝わる情報で区別してると

言って良いわ。なので見間違うことはないの。」


エルフは身長に占める足の長さが、人のそれとはかけ離れている。

胴が短いゆえに身長の割りに体重が極端に軽いのだ。

スタイルは良いけど、心肺機能が小さくスタミナ不足なのはエルフの宿命なのよね。


何か判ったり、新しい情報を得る度に情報交換する約束をして、わたしはよろず紹介所を

あとにした。






「えーれーのーあー?」


「あら、リア、お帰りなさい。どうしたの?怖い顔して。可愛い顔が台無しよ?」

笑顔でわたしと受け答えしているけれど、唇の端が引き攣っているのが見て取れる。


「そう、まぁそれはもう良いわ。この街を出ることになったから。

今夜は泊まって、明日の朝、日の出前に宿を引き払うわね。」


「え~~?でも戻ってくるんでしょ?」


「戻って来てもここには泊まらないわ。お客の事をそう軽々しく口にする従業員が居る所

じゃ、おちおち安眠出来ないもの。」


実際、笑い話では無いのだ。非力な女エルフ独り、ライフサイクルを掴まれたりすれば、

取り押えるのも難しい話では無い。従業員が軽い気持ちで口にした事を悪意を持つ人間に

知られれば、冗談では済まなくなる。


「え?」

エレノアの顔が暗くなる。わたしの言いたい事が少しは伝われば良いけど。

いい歳した大人なんだから、自分がした事でお客を失うことをちょっとは反省しなさい。


「あ、その、ごめんなさい。リア、あ、あの、あたし冗談のつもりで。」


「うん、それはもう良いわ、過ぎた話だしね。オネショなんかじゃなかったけどさ。

墨汁をさ、引っくり返した汚れを落として居たんだけど。今となってはそれはそれよ。

明日出て行くのは決定事項。短い間だったけど楽しかったわ。」


エレノアの口の軽さはいつかどこかでトラブルになったハズ。

これを機に改めなさい。言わなくて良いことを言ったのはわたしの最後の親切よ。


元々、必要なものは常にポシェットに入れてあるとは言え、住まい続けた宿だ。

それなりに部屋の中には、私物を幾つか広げて在る。

明日の朝使うもの以外はポシェットにしまい込み、宿を出て行ける準備を完了する。

そうしてから、しばらくこの街に戻れない可能性もあるので(もしかしたら直ぐに戻って

来るかもだけど)、すっかりなじみとなった料理屋へ向かう。




「という訳で、しばらくはこの街を離れることになりそうなの。」


「あー、そうなんですか。。。」

アーロンはしばらく雰囲気が暗くなりました、けれど、


「リアさん、この街にはまだまだ美味い物がありますから、戻って来た時には、また顔を

出してくださいよ。これは俺からのおごりです。最高に脂の乗ったクローマの腰の部分を

握りました。ぜひ覚えてって下さい。」


「うわー、ありがとう!赤身の魚なのね。。。。。。んぐっ。」

もぐもぐもぐ・・・・


「美味しい!!アーロン良い仕事してるじゃない。」

アーロンは嬉しそうだ。

うん、湿っぽくされるより、こういう発展的に明るく見送られた方が良い。


「お嬢さん、今日の料理はこっちにお任せで良いかい?」


「ええ、もちろんよ。あまり食べられないけど美味しい所を少しずつ宜しくねっ!」


「おい、アーロン、今日はお前にお嬢さんの料理任せる。しっかりな。」


「は、はいっ 親方。ありがとうございますっ。」


「あらー、アーロン、どんな物を食べさせてくれるのかしら?」


「がっかりさせませんよ、リアさん。楽しみにしてて下さい。親方ー?ブラドー酒の冷を

って、準備ばっちりですね。親方。」


「あたりめーよ。お嬢さんが来たらコレに決まってらー。

そのためにお前に任せたんだからよ。」


「ちゃっかりしてるなー、親方ってば。」


「そう言えばアーロンって、のれん分けしてもらうとか言って無かった?」


「ああ、その件はですね。もう数年、親方の下で修行しようかと思いまして・・・・」


そうして、楽しいお話と美味しい料理とお酒を満喫してその夜は更けていきました。






あくる朝早く。南門でウェンリアラとジェラルディに合流する。

昨日の軽装と異なり、今日のジェラルディは立派に剣士と言える出で立ちだった。

まだ地表までは陽の光が届いてない夜明けの暗さでも、彼女の全身鎧は一際輝いていた。


ほのかに緑とも青とも言えない七色の光を放ち、けれど、その輝きは煩すぎず適度な落ち

着きがある。どの距離感でも目の焦点が合いそうで合わない。

一目で距離感を狂わせる魔法が付与されている事が判る鎧だった。


わたしは魔術式を読み取ろうとしたが、隠されていて読めなかった。

そりゃそうだ。武具の魔術式が外見で簡単に読めたら手の内晒すようで意味が無い。

わたしがこれまでに見てきた魔術付与されたアイテムの数々は、そんな当たり前な気配り

すらされずに自在に魔術式を読み取れていたから、そんな風に簡単に読めると見損なって

いたらしい。ジェラルディの全身鎧に魔術付与した人物はその辺りきちんとしていた様だ。


全身鎧なのだが、ジェラルディの動きに不自然な点は感じられなかった。

重量軽減や、動きを補佐する術式も組み込まれているに違いない。

このわたしの"生きた鎧"がそうであるように。

というか、ジェラルディの鎧のビックリする点は他にも在った。

一目で判った。向こうもさぞビックリしただろう。




ジェラルディは背中にこれ見よがしな大剣を背負っていた。

見た目は、あー、そういうのマンガとかコンピュータRPGで見た事あるーっ

って感じの、どう見ても人が振り回せるような大きさの剣では無かった。


ジェラルディはわたしより若干背が高く、175cmほど。

とは言え、この世界の1mが向こうの世界の1mとは限らないのだけど。

なにせ物差しも無く、比較対照となる物も無い。

わたしの主観で計った1秒間で音が届く距離を仮に340mとして1mを割り出している。

悪かったわね。何も無い所から正確に1mを割り出す方法は知らないのよ。


この世界での単位はメートルではない。ヤンテと呼ばれている。

1ヤンテはおおよそ1ヤード相当だと思ってもらえれば良い。

わたしはずっと自分の脳内でメートル換算して暮らして来たので、この日記の中では今後

もメートルで言わせてもらうわね。

ちなみに重さはマラムという単位で、1マラムが0.5グラム相当。たぶん。

こちらも今後とも、わたしが慣れてるグラム表記をさせてもらうつもりだ。




話を戻して、ジェラルディの剣は、柄の部分まで含めればそのジェラルディと同じくらい

の長さだ。刃の幅はさほどでは無いがそれでも30cmはあるだろう。

刃は鞘に収められておらず、持ち運び出来るよう、刃を簡単に覆う形の止め具を丈夫な帯

を用いて背中に背負う形になっている。

見た感じ、帯も留め具も魔法付与されているようだ。


刃も緑とも青とも付かない、防具と同じ材質で出来ている様だ。

こちらも当然魔法付与されている。


「ねぇ?ジェラルディ。失礼を承知で聞くけど、その剣扱えるの?重くない?」


「この剣は、見た目は重く見えるけど、凄く軽いんです。

軽くても打撃力は魔力で補われて、斬った瞬間に魔力による衝撃が相手に伝わるから、

そういう意味では見た目通りの威力が発揮されると思ってもらって良い。

私が着ている鎧も同様で、見た目よりずっと軽い。重さはほとんど感じないし。

でも防御力はこれでもかなり高い。先祖代々我が家に伝わっている武具なんです。」


「なるほどー、ってずいぶん緊張してない?大丈夫?声が固いわよ。」


「すまない。私は元々こういう口調なんです。」


「ジルはそういう教育方針の下で育って来たからね。しばらくすれば慣れて砕けた口調に

なると思いますわ。」


ウェンリアラがそうフォローする。


「判ったわ。これからしばらく御一緒するわけだから、改めて宜しくね。」


「「 よろしく(お願いします)。」」




南門を出て、ゴブリンが出没する地点に向けて歩きながら色々話をする。

そう、今回は歩きの旅なのだ。

わたしは"生きた鎧"の自動補助機能があるから、歩く分には疲れ知らずで済む。

ジェラルディはさすがに人間で剣士なだけあって足取りはしっかりしている。

自然、ハーフエルフであるウェンリアラのペースで旅をすることになる。


道中すっかり打ち解け、リアラ、ジル、ファリナと呼び合う仲になりましたv

もう少し仲良くなったらジルの武具の魔術式を解析させてもらおうっと。ふふふ。


リアラはなんと司祭だという。

「親の七光りなんですけどね。」


「そんなことない。リアラは凄く頑張ってるもの。

ホントは私の我侭でこんな風に連れ出すつもりなんて無かったのに。。。」


「まだ言ってる。私はねディアーヌ様からジルの事を頼まれて居るんですからねっ」


「ディアーヌ様って?」知らない名前が出てきたので聞いてみた。


「私の亡くなった母上です。」とジル。


「あ、ごめん。」 「いえ、お気遣い無く。」


ちょっと場が暗くなってしまったので、話題転換。


「それで、ジルはどれくらい剣を使えるの?」


今度はジルが暗くなりました。

「ごめんなさいっ。ほんとはこれが初めての実戦なんです。」


「で、でもっ、ジルは神官戦士として訓練を受けてる私と同じくらい剣が使えるのです。

経験が無いだけで、弱くはありませんっ。」

リアラがすかさずフォローする。


ふむふむ。これは別に驚くことじゃなかった。

貴族の姫様がそうそう実戦なんて経験している物じゃないのは判りきっている。


「なるる。でもね、ジルの背後から魔法で援護するにも、どれくらい強いか知らないと

実際の場面で困ったことになっちゃうわ。

だから、試させて?」


ジルは歩みを止め、こちらを見る。

「それは、この場で力試しをするということですか?」


「そうなるわね。」

わたしは腰に吊るした二刀を引き抜いた。


「ちょ、いきなり過ぎます。ファリナ、ジル貴方まで。」

リアラは少し慌てて居ます。


「大丈夫、もし怪我してもリアラが治してくれるしね。」

そう言ってジルも背中の大剣を取り、構える。


わたしは数歩下がって、お互いの間合いを外す距離に立った。




「ほい、では始めっ」わたしはさっさと開始の掛け声を掛ける。


摺り足で距離を詰め、大剣の間合いに入ったとたん、


「やっ」ジルは大剣を上段に振り上げると、一気に飛び込んで来た。左足が前。

わたしは右の剣を持ち上げ大剣を受けると同時に右剣で右回りの螺旋を描く。

大剣を右へ受け流しつつ大地に払い落とし、わたしは左、ジルの右側へと回り込む。

ジルの大剣は当たった際に衝撃波を発するが、わたしの防御姿勢は"生きた鎧"により強化

されているので、というよりわたしの筋力など無に等しく、防御時のパワーは"生きた鎧"

にお任せだ、そのため片手で両手大剣を受け流すなどという芸当が可能。


大剣は勢いのまま払い落とされ、左足を前にしていたジルは体の右側に回りこまれると、

そのままでは右に大剣を振る事が出来ない。腰が廻せないためだ。

右足が前だったなら、右手で強引に払い切りが出来たかも知れない。それは後の祭りだ。

ジルが体勢を立て直す前に、わたしは左の剣をジルの首にそえた。

「はい、一本。」




そして、再度数歩下がり、はじめの距離を取り、「二本目行くわよ。」

ジルが再び構えるのを待って、今度はこちらからダッシュして右剣で突きを入れる。

もちろんダッシュ力も"生きた鎧"のパワーに頼っている。

そこっ、卑怯とか言うな。これがわたしの戦闘スタイルなのよっ。

『加速』や攻撃速度を数倍に引き上げる『ヘイスト』は使ってないのだから試合とは言え

卑怯とまで言われる筋合いは無い。自分でも大して変わらない気がしてるけど。

決して卑怯では無い。。。ハズ。


ジルは右剣を辛うじて右から大剣で受け止めたが、両手持ちの悲しい所で、わたしからは

ジルの右手が大剣の影から外れ隙となっているのが見て取れた。

わたしは左剣をジルの右手に切り下し、当たる直前で止めた。

「これで、二本よね。」


二刀を腰に吊り、「こんな所かしらね。」試合の終了を告げる。




「ジルの実力は大体判ったわ。攻撃面では確かに素人とは言えない動きだったわ。

でも防御面がダメね。ジルは盾持ちの相手ばっかりしてたでしょ?

同じ両手剣使いとか、わたしの様な二刀流の相手は初めて?」


「「 判るの? 」」

あ、ジルとリアラがハモった。


「そりゃね、受け払いしてくる相手に慣れて無い様だったし、体の右側への攻撃に対して

反応が遅かった。右手片手武器持ちの相手ばかりしてたんだろうなーって。

もしかして、相手はリアラ?」


「ええ、そうなんです。ずっと私がジルの相手をしていました。

やはり私としか戦ってないから、変なクセが付いてしまったようですね。」


「リアラのせいじゃないし、むしろリアラが相手してくれたからここまで来れたんだし。」


「うん、まー、経験を積めば大丈夫よ。たぶん。」

と微妙な励ましをしておいた。だって言い切れる程の付き合いはまだ無いし。

「リアラも右手で攻撃しやすい相手の左側ばかり狙ってたらダメよ。読まれるから。」

判ったことは注意はしておく。




そうして、ジルとリアラ相手にお互いの得意技などもちょっと話し合い、

旅の初日としてはなかなか話が途切れず、楽しい道中であり、道連れだった。


南の街道で隣の宿場町まではジェラルディーとわたしの二人であれば半日で着いただろう。

ウェンリアラのペースでは夜明け前に出発して、到着が夕方の少し前だった。

女性3人組だし、初日でもあるし、急ぐわけでもないからこれで問題無いとわたしは思う。






真夜中。

リアラとジルが寝静まった頃、わたしは寝台から寝言とも言えない小声で精霊語を使って

話しかけた。


『ずいぶん早い再会ね?たしか次遭った時はどうとか言ってなかった?』

しばし間があったが、


『ふん。予想外だったな。それともコレはお前が仕組んだ事か?混沌の化け物。』

返事を返したのはイケメン魔神だ。

そう、ジルの魔法鎧には精神系魔術が付与されており、付与魔法からイケメン魔神の気配

が感じられたのだ。鎧を見て直ぐに判った。


『とにかく、俺にはお前と話すことなど無い。契約に従ってこの鎧に力を与えているだけ

に過ぎない。不愉快だ、もう声を掛けるなよ。』

そう言ってイケメン魔神の気配は消えていった。

とは言っても、感じられないだけで居なくなったわけではない。




「ファリナ?」


「うゎっ、なな何?リアラ。起きてたの?」


「貴方、鎧の魔神と知り合いだったの?それにしては穏やかじゃなかった見たいだけど。」


「うん。どっちかと言うと敵対してる。見解の相違ってやつね。

でも大丈夫よ。あの魔神は鎧に掛けられている魔法の契約に縛られているから。

わたしも積極的に敵に回したいわけじゃないし。

リアラとジルと一緒に居る間は喧嘩せずに上手くやって行くわよ。」


「そう。。。」


リアラは少しの間俯いて居たけれど、急に顔を上げ、わたしと目を合わせると、


「ファリナにお願いがあるのだけど。」


と切り出した。




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