表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/46

21ページ目

21ページ目




わたしは執事から問題の魔法書を受け取り、改めて事態の解決に向けた仕事を受託した。

その足で、まずはキャリーの所へ翔ぶ。

やはりというか、キャリーも二日前から原因不明で意識が無い状態だった。




さて、どうする?

ゲイリーとキャリーが時を同じくして意識不明になったのは偶然ではあるまい。

出来れば二人一緒に診れる場所へ移動してもらうのが一番ではあるが。

キャリーはゲイリーを嫌っている、そして、たぶんゲイリーのせいでこうなってしまった

その上で、メイロー子爵家へキャリーを運んで行くのは非常識だろう。


そして、キャリーをこの家から運び出すにはそれなりの理由が必要となる。

意識が無い娘を、どこの誰だか知らない人間がどこそこに運んで、と言われて運ぶ馬鹿は

居ない。


わたしはキャリーの今の状態を出来るだけ診てから、キャリーの母親らしき人へ告げる。


「キャリーは精神の精霊の動きが止まっているわ。だから心が目覚めない。

このままでは、おそらくキャリーは遠からず衰弱して死んでしまうわね。

精神の精霊を正常に戻してあげないと治らないわ。」


「精神の精霊?いったいどういう事ですか?キャリーは助かるのでしょうか?」


「わたしは見ての通りのトゲエルフで精霊使いよ。おそらくこの国では一番のね。

だからわたしにキャリーを任せて欲しいの。

精神の精霊と話が出来るのはこの国ではわたし一人しか居ないと思うわ。

なんとか精神の精霊を説得してみるから。」


「あなたが精霊使い?キャリーを助けてくださるの?お願いします。キャリーを助けて!」


「ええ、出来る限りのことをします。

だからね、それをする為にもキャリーをよろず紹介所の2階へ運んで行って欲しいの。」


「なぜそこへ行かなければならないの?ここではダメなの?」


「精神の精霊と接触するのは非常に危険なのよ、わたしが安心して精霊術を行える場所

はよろず紹介所なの。それでもここでやれと言うなら、キャリーを見捨てる方を選ぶわ。

自分の命を掛けてまで赤の他人を助ける義理はわたしには無いから。」


「・・・・解りました。いえほんとは解ってないけど、貴方がキャリーの為に危険なこと

をして下さるのは解りました。それによろず紹介所なら以前利用したことがありますし、

あそこなら安心ですものね。」


「それじゃ、キャリーを運ぶのはお任せするわ。

わたしは別な場所で同じように意識不明の人が居るそうだから、そっちも診てから

よろず紹介所へ向かうわね。」


そう言い置いてからメイロー子爵家へ向かう。






「いったいどうなっているんだ!なぜ息子は目を覚まさん!?」


「息子さんはこれを使ったのよ。」

子爵家に着いたとたん、わたしに食って掛って来たメイロー子爵にわたしは問題となった

リーゼン・マロー著『女の子の精神へダイレクトアクセス、気になるあの娘の心を鷲掴み』

を見せた。


「それは『シーカーズ』の、有名な冗談本ではないか。」


「冗談?」


「馬鹿共が有難がってるだけで、何の役にも立たない魔道書で有名なのだ。」


「ああ、なるほど、精霊使いの素質が無いと、これに書かれた魔術を発動出来ないのね。」


「何!?ぬぬぬ、そっそんなことより、息子を早く治せ。治せるのだろうな!?」


「良いけど、ゲイリーをよろず紹介所へ運んで頂戴。そこでやるわ。」


「ふざけるなっ、ここでやれ。」


「それなら話はこれで終りね。わたしは帰るわ。貴方達はこれから魔術師にして精霊使い

を当ても無く探し廻ることね。もっとも相手は精神の精霊、それもかなり力が強い精霊よ。

この魔道書を理解出来るほどの術の持ち主がそんな精霊を相手に戦うとは思えないけど。

ゲイリーが衰弱死する前にそんな都合が良い術者を見つけられれば良いわね?」


「ちょっ、 っと待て。ぬぬぬ、判った。ゲイリーをよろず紹介所に運べば良いのだな?」


「そ。じゃよろず紹介所で待ってるわね。わたしも準備があるのよ。」






わたしはよろず紹介所に戻ると、おやじさんに二人が運ばれてくることを説明し、さらに、

2階を貸切にしてもらう事にした。

おやじさんはニヤッと笑うと、「賃貸料はメイロー子爵家へつけとくさ。」と、了解して

くれました。


わたしは2階の広々とした雑魚寝スペースで、必要な準備を始めた。


まず、わたしがゲイリーとキャリーの心に干渉している精神の精霊が居る場所、おそらく

はその精神の精霊が住まう精霊界へと入るための魔術式『ゲート』の準備をする。


この魔術式は、以前、水や闇の精霊界へ尋ねた際の魔術式とほぼ同じなんだけど、水や闇

の精霊界は、実は物質界に出入り口が存在しているので、生身のままそこへ訪れるための

魔術式は割りと簡素な物でも良かったのだ。


そこへ先日、ライアン・オークルの魔道書『物質転送理論』のトンデモ理論に刺激されて

『ならば物理法則に縛られない精霊界を通って目的の場所まで移動してしまえ!』

と考えた際に、目の前に精霊界への入り口を開くための魔術式『ゲート』を創ったのだ。

もっともその企ては、精霊界から脱出口を目的地に開くための術が思いつかずに頓挫した

のであるが。


とにかく、精霊界に入り込むための入り口はここに開くことが出来る。

後は二人の体の中にいる目的の精霊を探し当て、その精霊が所属する精霊界への入り口を

開ければ良い。わたしの目の前にいる精霊が対象なのだから難しくは無い。




『ゲート』の魔術式の微調整を終えてから、わたしは着ている防具一式を脱いで、

「見張り宜しくねっv」

と声を掛け、"生きた鎧"を起動する。

今回はわたし自身が精神の精霊界に入り込むため、"生きた鎧"の自己判断機能は使えない。

ずっと前に説明したように、"生きた鎧"の自己判断力はわたしの二重人格部分を利用して

行っているのだが、その二重人格部分を作るために精神の精霊へ働きかけているのだ。


精神の精霊界に入り込む際に、精神の精霊の力を使っているとどのような悪影響が出るか

判ってないので、影響を排除するために自己判断機能を使わず、今回の"生きた鎧"は完全

にゴーレムとしての決められたアルゴリズムに従って動く人形となる。


え?生身のまま精霊界へ行くのだから、見張りは要らないだろうって?

うん、精神の精霊界に行ったことが在ればその辺りの予想も立つのだけどね。

わたしが知る限り、精神の精霊界へ入った人は居ないのよね。もしかしたら出てきた人が

居ないだけかも知れないけど。だからその質問の答えは解らない。となるわね。

生身のまま行けるのかも知れない。体を置いて精神だけが行くのかも知れない。

誰にも解らない。


さらに、普段自分へ掛けている補助魔法で、精霊を使っている物をまずは全て解除する。

伊達メガネ、識別妨害、体力セット、魔力セット・・・




それが済むと、右腕の『闇の宝玉』から闇霊を呼び出し、

わたしのサポートをしてくれるように頼んだ。

闇霊は精神へも干渉出来る精霊なのだ。相手の土俵である精神の精霊界で戦いとなること

は極力避けたいが、万が一戦いとなった場合や、そうでなく、ただの交渉となった場合に

おいても精神の精霊と相対する精霊を伴って居れば、侮れない相手だと認識させることが

出来るだろう。




そうこうしてるうちに、ゲイリーとキャリーの二人も運び込まれて来たようだった。




わたしは1階へ行き、二人を2階の雑魚寝スペースへ運ぶよう指示する。

皆はわたしの"生きた鎧"が音も無く動き、わたしを守っている姿に驚いたようだった。

そう言えば、見せたことないもんね。


雑魚寝スペースに寝かされた二人と、キャリーの母親、メイロー子爵と執事、それと、

よろず紹介所のおやじさんと野次馬の冒険者多数を前に、注意点を告げる。


「これからこの二人の精神の中へ入り込み、二人を捕らえている精神の精霊と話し合って

来ます。その間、もしかしたらわたしのこの身体は意識が無い状態になっているかも知れ

ないけど、手を触れてはダメよ。近寄ってもダメ。この"生きた鎧"が守っているからね。

意識の無いわたしに近づくと問答無用で殺されるわよ。もう一度。殺されるからね。

その辺のドラゴン種よりも強いから。じゃ、ちゃんと注意したからね?

おやじさんも気をつけててね。誰もこの雑魚寝スペースに入らないようにって。」


「ああ、任せとけ、入り口に看板も立てておくぜ。

夜這いに命掛けるやつぁこの店には居ないぜ。」


「ここに居るぜー!って言ってみるかな。一応。」


そんな冗談を飛ばす男に鋭く一瞥を投げると、


「くはっ、その瞳、クセになるぜ/////」


逆効果でした。




気を取り直して、全員をこの部屋から出て行かせる。

メイロー子爵は部屋を出る際に、

「リーゼン・マローの魔道書の数々には『魔神』と呼ばれる魔物が頻繁に登場しておる。

どうやらそれは同じ存在を指しているので『本の魔神』と呼ばれているのは有名だ。

今回その魔神が関わっているのかね?」


「おそらくは。」


わたしも推測でしか今は物が言えないが、おそらくそれに間違い無い。




ゲイリーとキャリーの身体を診ると、異常を引き起こしてる精神の精霊は直ぐ判明した。

もしかしたら隠れるつもりも無いのかもしれない。


『ゲート』精神の精霊を特定しさえすれば、相手は目の前にいる。

その精霊と交信するために魔術式を起動する。


かるい眩暈の後、






真っ青の空、見上げても空、見下ろしても空。

空中に浮かんだ白亜の城、

そればかりか、空中に浮かぶ大小の島々。

島々には緑豊かで湖まである。湖面は涼やかな風で軽く波立っている。

湖の色は5色に見える。水に含まれる微量元素や植物・藻の影響で光の反射率が変化して

いるせいだろう

滝があり、虹が出来ており、空に浮かぶ大きな丸い天体は月?月が3つも在る!?

色とりどりの魚が空中を泳ぎ、魚と一緒に真っ白い鳥が群れを成して飛んでいる。


まるで夢のような世界。そう、ここは実際に夢の世界なのだろう。何て素晴らしい!

ただし、




「キャリー、どうだい、僕と一緒だとこんな綺麗な世界に住めるんだよ。」

「見てごらんよキャリー、僕たち二人きりの世界で、永遠に過ごせるんだ。」

「君と二人っきりで凄く嬉しいよ!ああキャリー、僕の愛を受け入れてくれたんだね。」

「もう誰にも邪魔されないよ、僕が居て、君が居て、世界が僕達を祝福してるんだ!」

「誰も君を傷つけるものは居ないよ。僕がずっと守ってあげるからね。キャリー」

「キャリー、キャリー、キャリー・・・・・」




目の前の一人でブツブツ煩いゲイリーが居なけりゃね。


キャリーは俯いたまま目は焦点を結んでおらず、一言もしゃべらない。

自分の意思で話さないのか、おそらくは、ゲイリーが使った魔法の影響だろう。

無理やり精神を身体から引き離されて、精神の精霊界に連れてこられたのだから。






「困るな。こんな所まで押し掛けてくるなんて。」


突然、わたしの後ろからそう声が掛けられた。


「そう思うなら連れてこないでよね。ねぇ?・・・」


そう言いながらゆっくり振り返る。そこに居るのが誰なのか予想済みだったから。




「・・・・腕輪の魔神さん。」


そう。そこには『ラージャと魔法の宝玉』に出てくる腕輪のイケメン魔神が居ました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ