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18ページ目?

18ページ目?




「うう、頭痛い。」二日酔いのトゲエルフの醜態は、百年の恋も冷めそうな有様でした。




昨日カズヒサと別れたわたしは『飛翔』でお昼前に港町アイゼリアへ戻って来たのでした。

その足で"よろず紹介所"へ出向くと、お店に居た冒険者達の半数は、わたしが無事仕事を

達成して戻って来たのを喜んでくれました。


ぬくもりに飢えてるつもりはないけれど、帰った時に温かく迎えてもらえるって嬉しいな。




祝杯コールが飛び出し、ホントは魔法研究室へ行きたかったのだけれど、帰ったら祝杯を

上げようねーって約束しちゃったのは自分の身から出た錆び。

1~2杯付き合ってから、飲酒飛行は危険だからとか言い訳して逃げよう。


そう思って、飲み始めたのがちょうどお昼の鐘が鳴る頃でした。

でも、祝杯してくれた皆が、わたしがお酒を一口飲むだけでとっても嬉しそうに騒ぐので、

わたしとしてもとっても気分が良くなってしまい、気がつけば"よろず紹介所"の酒場部分

で大勢に囲まれて、わたしが一口、あなたが一口、みんなで一口、エンドレス~♪の様な

ノリと勢いで次々と飲んでしまっていました。


最初は小さなコップで飲んでたのが、やがてジョッキになり、そのうち、ドンブリになり、

どこかの冒険者が「コレは冒険で得た不老長寿の杯だ!」とかやりだしたからさー大変。

その場に居た冒険者達は皆何かしら過去の冒険で怪しげな杯を得た事があるとかで、皆の

怪しげ杯自慢話が始まるわ、じゃーオレの持ってるそれらの杯も使って飲み比べて効果を

確認しようぜーーっ!!とか始めるし、やれ筋力増強するはずだとか、美容に良いはずだ、

とかお肌つるつるになるんだとか、今思えばそれホントに杯の効能なの?と疑いたくなる

ような物ばかりだったが、ナゼか皆はわたしで効能を試したがり、美人をもっと美人に!

とか言われたら無下に断る理由も無く。


言わないでっ!そんな怪しげな物飲むか!?とか。

わたしも反省しきりデス。




そして、今わたしは"よろず紹介所"の2階にある簡易休憩所、つまり雑魚寝スペースで、

二日酔いの頭痛に耐えながら、昨日の恥ずかしい記憶を消したい気持ちでいっぱいで。

ついでに、水霊から思いっきりお叱りを受けている所です。

周りにはいっぱいの男達がうめき声を上げ、さながらゾンビのよう。


『水の宝玉』に棲んでいる水霊は、わたしの体調その他を好意で常に見てくれているので、

酔いが進むと『解毒』でアルコールを対外へ排出してくれてました。わたしは酔うと覚め、

覚めてはまた大量飲酒で酔っ払いを繰り返していたそうだ。

ラリって怖いわね~。。。


さすがに何度もその状態を繰り返せば、だんだん面倒になった水霊も、わたしが死なない

程度にアルコール分解に手を抜き始め、ちょっとくらい酷い目に合わせて、反省を促そう

と考えたらしい。

特にニヤケ顔の男達とラリったわたしの泥酔姿は潔癖な水霊のお怒りに触れたようで、朝

目が覚めてからずっとこの調子で延々と説教され続けているのだ。

終わりそうになると、話が元に戻りまた怒られ。

はぁ。もうため息しか出ません。頭痛いのに。。。。


この状態の水霊には、頼んでも『解毒』してくれそうにありません。

なお、水霊のお怒りモードはそういう雰囲気を察してわたしが勝手に訳してるだけだけど、

きっと誤訳はしてないだろう。


水霊はその性ゆえカラっと許してはくれない。

せめて水に流して欲しいと思うのはわたしだけだろうか。






ようやく水霊をなだめ、死屍累々の雑魚寝スペースから一階に降りて行くと、


「起きたかリア。足元大丈夫か?いやいや、昨日はお前さんのおかげでこの店の売り上げ

が普段の5倍だったぞ。ちょくちょく酒盛りやってくれると助かる。」


「何それイヤミですか。」

一階まで歩って降りるだけで一日分の仕事を終えたようなわたしは、元気無く短い返事を

返した。


「はは、誉めてるのさ。ところで新しい呼び名は『酒豪エルフ』が良いか?

それとも『不沈小悪魔』が良いか?凄かったぜ。男に勧められるままガンガン飲んでて、

落ちそう!でも落ちないってのが微妙に男心を刺激してよ、下心丸出しの男共が次々先に

沈んで行くってのは。商売女でもあそこまで上手くねーぜ?」


「どっちもイヤぁぁぁーー」

夕べは黒歴史決定です。






「ところで、お前さんはここには戻って来ないと思ってたよ。皇女様のパーティーは肌に

合わなかったのかね?」


「そんな事無いわよ。やっぱり女性が多かったから気兼ねなく過ごせたしね。」


「それじゃまたなんで?おっと、オレに惚れたらダメだぜ?はっはっは。」


わたしはジト目で禿頭のおやじさんを睨み付けると、


「歳の差考えなさいよね。まったく、あと20若くなってから来てちょうだい。

理由は、言っても理解してもらえないと思うけど。」


「はっはっは。この店が流行ってるのはお客のケアに気を使っているからさ。

人生相談でもなんでも来いだ。」


「どっちかって言うと、情報屋としての顔が受けてるように見えるけど~?」


「それも正解だ。よろず紹介所としちゃよ、ここに来てくれるヤツ等がなるべく怪我せず

仕事出来るように気を付けてるって事だぜ。他人と合う合わない含めて総合的に判断して

仲間になるヤツを紹介する。そして独りで仕事するより格段に成功し易くなるわけさ。

それで結果的にこの店が儲かるって寸法よ。

オレとしちゃ、お前さんが前の仲間の何が合わなかったのか知ってれば、次はもっと良い

仲間選びの助言が出来るってもんさ。」




「それよりもお腹が空いたわ。何かスープをお願い。」


そらまめを漉したスープを飲みながら、「どうしてそんなに暇なの?おやじさん。」


「そりゃ決まってる。お前さんがオレの仕事を奪っちまったからさ。

いつものヤツ等はまだ2階から降りて来やしねぇ。こりゃ今日はずっと暇だな。」




「皇女様のパーティーはね、なんて言うか、『神に愛された』パーティーだったの。」


「なんじゃそりゃ?神様に愛されたら結構な事なんじゃないのか?」


「普通はそうね。でもね、神様に愛されてるとね、物事が上手く行きすぎるのよ。

今回の件で言うと、『どうしてわたしだったのか?』から始まるの。

夕ご飯が食べ終わるまで盗賊達に襲われなかったり、その他にも色々あるわ。

どこがどう神に愛されてるって証明するのは難しいんだけどね。」


「上手く行き過ぎた、って拙いことじゃないだろう?」


「そうね、上手く行かないより、上手く行ってくれる方がもちろん良いんだけど、

わたし自身、昔そういう『上手く行き過ぎる』って事が在って毎日が凄く詰まらなかった。

それ以来かな、そういう事に必要以上に敏感になっちゃって。

どうせおやじさんも知ってるんでしょ?皇女様のお仲間に一人、神様の加護を持ってる人

が居る事くらいは。

きっとこれからも上手く行っちゃうのよ。きっとそうなるようになってる。

だからよ、わたしそういうのダメなの。

失敗するから努力するんだし、努力したから上手く行った時に嬉しさ倍増なのよ。」


「はぁん、そりゃ贅沢な悩みだな。

とりあえずお前さんに次紹介する時にゃ、ほどほどダメなヤツを選べば良いって事か。

お?そりゃこの店のヤツ等は全員当てはまるな!わっはっは。」


「スケベはお断りよ。」


「良い女を見ると、男は皆スケベになっちまうのさ。

ところで、今日はこの後どうするんだ?

オレとしちゃ、2階で全滅してるヤツ等の代わりに仕事受けてくれると助かるがな。」


「そうしてあげたいけど、今日は止めとくわ。

水霊の機嫌損ねちゃって今日はまだお風呂に入れてないのよ。

汗臭いまま、見ず知らずの他人と会うなんてゾッとするし。

まずは以前泊まってた宿に行ってお風呂と洗濯ね。」


「おやおや、お前さんの魔法なら何でも出来るんだと思ってたよ。意外と不便な所もある

んだな。」


「だからこそ面白いのよ。それじゃおやじさん、ご馳走様、またね。」


「ああ、また宜しくな。んじゃ2階のヤツ等を叩き起こして仕事させるとするか。」






以前の宿屋で、また長期宿泊の手続きをして、お風呂と洗濯を済ませ、

まだ夕方まで時間があるものの、夕べのお酒が残ってるせいか、今ひとつ頭がハッキリと

しない。今日の日記って18ページ目だっけ?2枚ほど余計な物が混ざってるような?

まぁ良いか。記憶が無い部分は黒歴史よ。このままフタをした方が良さそうだ。


ん~、この時間からだと図書館も魔法研究室へ行くにも中途半端になってしまう。

今日のところは水霊のご機嫌取りのために、健康的に過ごすとしますかね。


いつもは青いチュニックと白いミニスカートだけど、今日は以前水の精霊界を尋ねた際に

水の女王にして月の雫と呼ばれてる、シルヴァンティア様から下賜された月輝祝布ライトルーア

織った薄青のミニドレスを着て、その上から防具と双剣を吊った。

水のドレスを着たことで、かなり水霊のご機嫌も直ったようだった。


夕ご飯にはまだ早いけど、のんびり散策しながら以前仕事で知り合った料理屋に顔出そう。

そう考え、街を歩きながら、いつものように魔術式のアレコレに思いを馳せる。




水の精霊界で思い出したが、まだ炎の精霊界と、光の精霊界には赴いて無かったなぁ。

地⇒水⇒風⇒闇の順で精霊界を巡ったのだけど、闇でかなりヤバい目に遇いまして、

闇でこれなら、炎と光は逝っちゃうかも!?と思いとどまったっけ。

一応命の危険が少なさそうな順を選んだつもり。闇は怖いけど、基本優しい精霊なのだ。


そこまで考え、ハタと気付いた。

そういや逝ってない精霊界がもう一つあったな、と。


精神の精霊が住まう精霊界がどこかにあると言い伝えでは聞いている。

しかし、そもそも精神の精霊は過去に接触出来た例も少なくて、精霊界の存在が確認され

たとの話も聞かない。


「精神の精霊かぁ。」


むかーし、まだわたしが若かった頃に、(何度も言うけど、まだまだ若いわよっ)

怒りの精霊の力を応用して、火事場の馬鹿力を意識的に使うことが出来ないか?とか、

対精神系魔法の防御に役立てられないか?とか考えたことがあったっけ。


怒りの精霊へ理性的に話掛け、会話を行うことのあまりの困難さに根を上げて仲良くなる

目的は未だに達成出来ず、そのままになってたりする。

あれって、空き地の隣に立ってるお家に野球ボールを打ち込んじゃって、「こら~~!」

と怒鳴り出てきた親父さんに怖がらずに話しかける困難さと同程度。と言えば理解して

もらえるかしら? さらに言えば、そこで会話が成り立たなかったなら、イコール自分の

命が無くなるかも?、とまで言えば、とりあえずやって見ようという気も起きないよね。

わたしも試しに一回やって懲りました。

恐怖をも司る闇の精霊が間に入ってくれたので、協力はしてくれるけど、話しかけるな!

の様に(そういう雰囲気だった)なりまして、とりあえずの目的は達成出来たけどねっ。


炎も光も怒りの精霊も、どーーーーーーしても、やらなきゃならない必然性が生じるまで

は現状維持で、深入りしない事にしたのでした。






そうして、つらつらと考えていると、ここ最近のわたしは目的を持って無いなぁ。と思う。

カズヒサは向こうに戻るため、ニア達の願いを叶えるため、って明快な目的を持ってた。

故郷の村でひたすら魔術式やら魔道具を創っていた頃は、毎日それだけで充実してたけど、

こうして冒険者になって、その日暮らし、せいぜい数日後までを考えて生きる生活をして

いると、自分自身の目的をしっかりと思い描かないと毎日に流されてしまいそう。


とりあえず図書館めぐりしたり、魔法研究室の魔術書を隈なく読む。

なんてのは目的じゃないわよねぇ。


「ん~目的かぁ。」


強くなる、って子供の頃は思っていたけど、もう既にわたしって十分強いしねぇ。

プヨの魔法無効化に対抗する術を開発するってのも目標が低いような気がするなぁ。


いつの間にか、料理屋が目の前だった事に気付き、


「よ~~っし、今日は美味しいもの食べて、やりたい事でも整理しよっと!」






「「 いらっしゃーい! 」」


「あ、リアさん、また来てくれたんですねっ。こっちに座って下さい!」

そう声を掛けて来たのは、先日銀しぶ鯛釣に一緒した若い料理人さん。名前はアーロン。


カウンター席の良い所に案内してくれました。


「お嬢さん、今日はブラドー酒の良いヤツが入ったんですよ。一杯どうぞ。」


ブラドー酒ってのは、見た目も味も日本酒に近いお酒で、前回サメ退治した後にここ来て

飲ませてもらった時に大好きになったお酒なのです。

一瞬、ヒヤリとして左肩の水の宝玉を見ましたが、わたしが羽目を外さない限りは少々の

お酒で文句も言われまいと思い直し、しかし、ここはチビリチビリと舐める様に味わって、


「美味しいっ。ご主人、美味しいです。」


お店の雰囲気も良く、美味しいお酒を頂いて自然と笑みが浮かんで来ますっ


「お嬢さんは、ほんとに美味しそうに食べて、飲んでくれるから、こっちも嬉しくなっち

まう。料理はどうしやすかい?今日はコハチ、アダコ、オキグリがお勧めだよ。」


「うん、まずはつまみで。ネタはお任せするわ。」 「あいよっ。」




そうして美味しい魚料理を食べながらアーロンとお話していると、横手から、


「お嬢さんが先日銀しぶ鯛を取って来てくれたのかね?」

と話しかけてくる人が居ました。


「はい、そうですよー。して、どちら様ですか?」

「オホン、ワシはディラン・セリオン・ハーマンと申す。貿易を営んでおる。」


あら?聞き覚えありますよ?


「はは、お嬢さんが銀しぶ鯛を取ってくる羽目になったのはコイツのせいでさ。」

と、ご主人が教えてくれる。あぁ、成金のハーマン氏ね。


「う、うむ。ま、その節は迷惑を掛けたね。お詫びと言っちゃなんだが、おいザック、

あれ出してくれ。ワシのおごりだ。」


「あいよっ。アーロン、今日入ったアレだしてくれ。」

「はい、親方。」


そうして目の前に置かれた物は、『魔術師殺し』と書かれたブラドー酒。

わたしは思わず目が点になりました。なんて物出すんですかーっ


「はっはっは、洒落が効いてるでしょう?ワシからの意趣返しと言うかね。

まぁ、飲んで見てや。」


「これはね、蔵元から極僅かしか出荷されてない酒でして、材料に拘るあまり、少ししか

仕込めないんですわ。このディランのヤツがお得意様になってる酒屋から、懇意で譲って

貰ったんです。」


「あら、ご主人とハーマン氏はもしかしてお友達?」

「腐れ縁ってヤツだな。」とハーマン氏。




「これも美味しいっ。甘いのに味がとっても澄んでますっ。わたし甘口のブラドー酒って

どっちかと言うと苦手なのに、このお酒なら平気です。とっても美味しいっ。」


「だろ~?いやいやお嬢さんはお酒の飲み方が上手だね~。」

「ちょっと、ディランさん、手が早い。その娘に手を出さないで下さいよね。」


「お?小僧がいっちょ前に色気づいたかー?かっはっは。」

「おいおいアーロン、こんなのでもお客さんだぞ。」


ご主人は注意しつつも笑ってます。とても仲が良さそうですね。

そうして、わたしがちゃっかり2杯目も頂いていると、ハーマン氏は、


「お嬢さん、その酒の名前の由来を御存知かな?」

「由来?いえー、知らないですよ。」


「この街の図書館には、この国の者なら誰でも知ってる古い本があるんだよ。その本は、

『ラージャと魔法の宝玉』と呼ばれておる。一度本を開いて見る事を勧めるね。」


「開く?読むじゃなくて?」


「ああ、その本は魔法の本で、開くと自分がまるで本の主人公となって、本の世界を実際

に体験できるっていう魔法が掛かっている素晴らしい本なのさ。」


へぇ、幻覚系の魔術かしら?


「その本の物語には悪い魔法使いが出てくるんだが、お酒で眠らされて退治されちまう。

ってお話なのさ。その酒ってーのが、これって話さね。」

と『魔術師殺し』を指差すハーマン氏。




そこからは、お酒や魚にちなんだ物語で夜更けまで盛り上がって深酒してしまい、次の日

またもや水霊に説教されてしまいましたとさ。とほほ。

しばらく禁酒デス。


わたしが『夢幻の精霊』『本の魔神』と呼ばれる存在に出会うのはもう少し先の話。




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