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トゲエルフは目の前の巨大ロボを見上げて、思う。
どうして派手な攻撃魔法を撃ってこないんだろう?これがわたしの子供達なら、
そこまで考えてちょっと自己嫌悪。まるでわたしが破壊魔みたいではないか!
巨大ロボは先ほどわたしが魔力供給源を破壊した事で液体に戻した腕の部分を吸い上げる。
が、腕部分のエネルギーを支えていた源を喪った状態では、腕を復元することが出来ない
ようだ。さて、どうするのだろうと見ていると、
足が生えて来た。
宙に浮いてる体から足がニョッキリと生えてくる、
ちょっと可愛い。
しかし、
ある程度形になったと思ったとたん、足の部分は液体に戻り地面に流れ落ちてしまった。
なぜ??
よ~~く見てみると、足の付け根に何か銀色とは異なる物体が見えた。
「あれは?玉?」
「どうやらアレが水銀を操ってる制御部らしい。さっき肩に似たような光る玉があった。」
カズヒサも気付いたらしい、そう補足してくれる。
なるほど、肩にも制御部が、ね。
推測すると、体を操る各部位に制御球と魔力を供給するエンジンとが存在してて、それで
水銀を自在に動かすような魔術式を操っているわけね。
でも、足の付け根にある玉は光って無い。
だから足が無いのだろうか?あそこだけ壊れている?
『キュアー・ポイズン』
シャイアが流れ落ちた水銀を浄化している。分解され消えて行く。
やはり、魔力で制御されてない状態では浄化出来るようだ。
「ハッ」
カズヒサが一声で振り下ろした刃をさらに跳ね上げて一度に2回、技を繰り出している。
光刃は宙を飛び、巨大ロボのもう片方の肩付近2箇所を切り裂く。
すると、無事だった腕が肩の根元から液体となり落ちた。
すかさずシャイアが『解毒』で浄化してしまう。
なるほどなるほど。制御球を壊されるとやはり制御を失ってしまうわけね。
なんでもっと早く、閉じ込められた時にやってくれないかなー? (注:気づいて無い)
「へー?カズヒサってば何時の間に連続技出せるようになったの?」
しかし、カズヒサは返事をすることなくロボを切り崩すのに一生懸命だ。
シャイアと連携してロボを少しずつ、文字通り消して行く。
こうなるとわたしも、ロボが何者なのか調べるなら急がなければならない。
カズヒサとシャイアの働き者ペアがロボを退治し終えるまで、もうあまり時間が無い。
そう考えていた時、、巨大ロボは再びスポットライトのように強い光で照らし始めた。
照らされたのは、
カズヒサとシャイアだ。
「カズヒサ、へその部分狙って!」
今は自分の趣味よりシャイアを助けることに集中するべきと思考を切り替える。
わたしは巨大ロボの中心部、『プヨ探知改』で割り出していたもっとも巨大な魔力供給源
をカズヒサに教える。
「させるかっ」
カズヒサは大きく叫ぶと、剣の光がひときわ眩く輝き、
真一文字に切り裂く、が!なんと、どうやら空間ごと斬ったようだ。
剣の厚みの何倍もの、たぶん1m以上の幅でロボのへその部分を切り払った。
斬られた周辺は空間ごと斬られた余波なのか、縁の部分の景色が歪んでいる。
『バッキーン』
音が辺りに鳴り響き、カズヒサの剣が砕け散る。
と同時にロボから「バシュッ」と音が響き、両足のあった辺りからカズヒサとシャイアを
目掛けて水銀が伸びて来る!
ロボのすぐ近くで、剣を喪ったカズヒサには避けられない距離だ。
腕をクロスさせてガードするが、重い水銀の一撃を受けて吹っ飛ばされる。
「ベキベキッ」と言うイヤな音が響き渡る。骨が折れた?
「「「 ワタナベ!! 」」」ニア達の声が重なる。
シャイアだけは「神よっ!」と叫んでいた。
だが、ロボの反撃もそこまでだった。
シャイアへ攻撃が届く前にロボは切り口から液体に変じ全てが地面に流れ落ちてしまった。
どうやら胴体を切られると一番大きな魔力供給源がそこにあるだけにセーフティーが働き
いったん固定化を解除して自己診断機能後に魔力炉を再起動し体を再構成するようだ。
それでこの戦いは終わりだった。
シャイアがすかさず『解毒』したからだ。
もう巨大ロボの体を構成していた水銀はどこにも存在しない。
ロボの制御球が、体を再構成することはもう二度と出来ない。
「「「「 ワタナベ!! 」」」」
わたしを除く女性陣がカズヒサに駆け寄る。
わたしはと言うと、カズヒサの確かに折れたハズの腕がまっすぐになり、癒されるのを
見て、そちらに一瞬気を取られ、駆け寄るタイミングを逸しました。
だって囲まれてるし。
この時、わたしは「神様ってあんな一言でも願いを聞き届けてくれるんだ~。」と思って
いたが、つっこむ場所は他にあった!と気付いたのはしばらく後になってからだった。
さすがのわたしもカズヒサが心配でそれどころじゃ無かったのよー。
カズヒサは、
「いっててて。」
と右腕を左腕でさすったり、左腕を右腕でさすったりしている。
あー、両腕やったんだ。そりゃ痛いわー
「ふー、助かったよ、シャイア癒してくれてありがとう。」
なんてニッコリ笑いかけたりして、シャイアが真っ赤になってますよ。
「やりましたわ!ワタナベ!」
ニアがカズヒサに抱きつく。
ちょっ きゃ~~~っ そ、それって嫁入り前の娘としてどうなの!?
「おめでとう、最後凄かったな。」
ルーが褒めてる。ん?なんでおめでとう?
あ、そうか。これってカズヒサの戦功を立てるのが目的だっけ?アハハ忘れてた(汗
「シャイアもおつかれー。」
オーリスはシャイアを労わる。
「わたしは平気です、でもワタナベが無事で良かった。神よ感謝致します。」
今日一番の立役者のシャイアはどこまでも神官らしい。
カズヒサ「・・・」ニア「・・・」
そしてわたしは、カズヒサやニア達が興奮冷めやらぬ様子で健闘を称え合ったり、お互い
に感謝の言葉を交わしたりする傍らから、そっと離れ、ロボの残骸へと近寄る、
『術式解析』
残っている無事だったロボの部品は、頭部の制御球、壊れている付け根の制御球、そして
首に在った最後の魔力炉の3つだった。それらを一つ一つ丁寧に診ていった。
それらの魔術式は特に難解な物では無いが、基本のフレームがしっかりしていて、それを
補佐するサブフレームの構成、タスク管理部とリアルタイム処理部、感覚系入力部や手足
を動かす制御部など細分化されたモジュール構造を持っている。
この術式を組んだ人間は知識が系統立てられていないこの世界において、異質と言える程
の体系立った構造式を独自に編み出していたようだ。
はっきり言ってスゴイです。
わたしはさらに目を皿のようにして魔術式を診ていく。
どこかに魔力付与者の銘が入ってないかしら?
あった!
『ネヴィアシータ』
それが魔力付与者の銘なのだろう。わたしはその名前を心に深く刻んだ。
もちろん、これから先、この魔力付与者に関係する文献や所縁の地を探すためだ。
それくらいこのロボの魔術式は完成された芸術品に思えた。
行動パターンアルゴリズムを読み解いていくと、水銀を利用した経緯もだいぶ理解できた。
これを作り出したネヴィアシータは、水銀が人体に悪い影響を与える事には気付いていた
ようなのだ。
なぜなら、制御球にはロボからの水銀が気化するのを防止する魔術式が組み込まれており、
無差別に水銀被害を起こさせるつもりはなかったようなのである。。
水銀のデメリットを魔術式で押さえれば、熱で伸縮する性質や、液状とも固体とも言えぬ
形状で任意の形へ変化させることが可能、不定形と定型の2モードを持てば不整地走破性
は飛躍的に高まる。2足歩行するより不定形の方が優れた場面はいくらでもある。
何より自然界に微量に含まれている水銀を、ロボが故障時の修復材料として利用するよう
な魔術式まで組み込まれてあった。
ここまで本格的な自動人形を生み出した人物には、同じ道を志す者として興味は尽きない。
感心するべきは魔術式そのものではなく、素材の応用範囲を見定め有効活用しようとする
その発想力だ。
唯一、残念だったのは水銀が環境に悪かったことだろう。
そしてこのロボには攻撃のための魔術式は組み込まれて無かった。
自衛手段として、警戒色ならぬ警戒電飾で脅かす機能や、熱膨張を利用した巨大化機能と
殴る蹴る程度の防衛行動がプログラムされていただけだった。
たしかに、身の丈10mの巨大ロボと戦おうとする酔狂なドンキホーテなどが居ない限り、
それで十分なのだろう。
ただし、反撃アルゴリズムにはロボへの攻撃力が大きい順番で反撃するよう攻撃パターン
が定められていた。
ニアやカズヒサ、そしてわたしと体を消去するシャイアを狙った理由はこれだったのだ。
ある程度、ロボの制御球を調べることで構造や行動パターンは判明出来た物の、製作意図
に関してはそれを推測出来るような記述は見つからなかった。
このロボはもっと西から来たようだ。何をしにこの土地に来たのかは判らない。
ネヴィアシータの住まう地が西にあったのだろうか?
しかしここより西というとすぐに海に到達してしまう。
どこへ行こうとしていたのかも判らない。
だが、ロボはここまで来て、足の制御球が何らかの理由で故障したようだ。
そうしてこの地から動けなくなった。おそらく数年前だろう。
制御球は、修復プログラムによりこの周りの土中から水銀を集めようとして、しかし、
足の制御球が故障していた事で集めた水銀を利用することが出来ず、集められた水銀は、
やがて沼を汚染する原因となって行ったようだ。
わたしは頭部の制御球と、壊れた足の制御球、そして魔力炉の3つを両手に持ち、
「カズヒサはもうちょっと休んでて、わたしはその間にちゃちゃっとこの辺りを浄化して
くるよー、シャイアもカズヒサに付いててあげてね。」
と声を掛けて、まだ水銀を浄化してない地点へと歩いていく。
カズヒサとシャイアが二人あそこに居れば、ニアもあそこから動くまい。
ニアが動かない限り、ルーとオーリスは役目上ニアから離れないだろう。
つまり全員あそこに足留め出来る。
わたしは皆から十分離れると、一度周りの安全を確認し、それから、
左肩の『水の宝玉』から水霊を、左足の『土の宝玉』から地霊を呼び出した。
宝玉に棲む精霊達は宝玉内の魔力供給を常に受けられるので、普通の精霊より力が強いの
である。その分気位が高く扱いづらい面はあるけれど。
わたしは宝玉に棲む精霊達を使役してはいないので『強制』は出来ない。
彼らはわたしの友達なのである。(こら!そこ!お前友達居ないのか!とか禁句だー)
友達ゆえ、また、大家でもあるので、お願いすれば大抵の事はやってくれるのだ。
その強大な力で。
わたしの精霊操りを行う際の言霊が命令形ではないのはそのためだ。
わたしは精霊=自然を強制する関係より、友人付合いの関係の方が好きだ。
だからこれで良いのだ。
『地霊、それと、水霊。わたしの視界内の地面と水を浄化してくれると嬉しいわ。
それと、不純物は捨てないでわたしの所へ集めてね。』
宝玉の精霊達はわたしの願い通り、広範囲に渡って水銀を集め、この辺り一帯を浄化して
くれた。水銀に汚染された場所が無くなるまで数回繰り返し、浄化を完了させる。
次に『火の宝珠』から火霊を呼び出し、まだ残っているかも知れない怪物化した動物達を
見つけて天に還してくれるよう頼んだ。
火霊は性質上この手の対処は速やかだ。
水霊には燃え残っている火の消化をしてもらう。
最後に目を閉じ哀れな動物達への葬送の詩を詠う。
これでニアから受けたロイヤルなお仕事は完遂ですっ
そうしてから、
わたしは頭部と壊れた制御球、魔力炉の3つを地面に置き、
左手を胸鎧の中央にはまっている宝珠に置き、
『簡易儀式』魔術式を起動する。
効果を永続する魔術式を掛けるには、儀式魔法で魔力を高めて行使する必要がある。
『風の宝玉』『水の宝玉』『闇の宝玉』『光の宝玉』『火の宝玉』『土の宝玉』そして、
胸から『創造の宝玉』が飛び出し、わたしを中心として空中で輪となって回転する。
まず壊れた制御球を地と闇で修復する。
次に制御球2つの魔術式の構造体に手を加え、水銀で体を構成する際の倍率を1/5倍に
設定した。さらに、自然界から水銀を使って修復する機能を削除する。
それと、メモリー領域から先ほどの戦闘記録を抹消した。
全ての作業を終え、制御球2つと魔力炉を集めた水銀の上に置く。
「ぎゅ~~ん」
可愛い音を鳴らしてロボが復活する。両手は無いが今度は両足がある。
身の丈は1/5制限を掛けたので、60cm程度だ。
このロボはもう大質量の水銀を持たないので、たとえどこかで壊れても、大きな汚染には
二度とならないだろう。
そして、直せない欠損を埋めるために自然界の水銀を無理に集めることも無い。
両足があるから、元々の目的地へも行ける、かも知れない。
「もうオイタしちゃダメよ。」
ちょっと小さくなったブリキロボットに言葉が通じたのかは判らないが、目玉をビカビカ
光らせてから歩き出し、すっかり暗くなった森の奥へと消えて行った。
彼が行きたかったどこかに向かったのだろう。
それを見届けてから皆の場所へと戻った。
「さぁ任務完了よ!」