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その夜のこと。

一行はピネの村に着き、トゲエルフは褒められたりお礼を言われるのはこちょばゆいので、

皆から少し離れ、ついでに早めの洗濯に勤しんでました。




石鹸を少し削って小さめの水球を作り、そこへ水霊操りでよ~く溶かし込み。

『全自動』に混ぜて全員の服をまとめて洗濯する。

ちなみに、わたしとカズヒサの服を一緒に洗っても込み上げて来る物は何も無いからね。


「むー、ニアとシャイアの『凄いです』攻撃と、赤ちゃんのお母さんからの『ありがとう』

攻撃には参ったわ。」


「バカヒサってば困ってるわたしをニヤニヤ見てたけど、判ってんのかしら?

原因となってる水銀が自然発生的な物なのか、どうして今になってって事実にさー。

明日の怪物退治はなーーんかイヤな予感が「くっくっく。」ふひゃいっ!?

なっなにっ??」


突然聞こえて来た変な笑い声の主を探して周りを見渡せど誰も居ない。。。。。

遠くにようやく到着した騎士団の野営の明かりや人が見えるけれど、この近くに声を届け

るようなナニかは見えない。

「なっなっなぁあ? まっまさかっコレが幽霊?幽霊なのっ!?」

などボケをかましながらも、正体に思い当たるモノが。

わたしは冷や汗を流しながら、『プヨ探知』を起動する。

他でも無い、こいつを探知するためだけに作った、こいつ専用魔術式だ。


『プヨ探知』で周りをサーチすると、20mほど離れた家の軒下から魔力が返って来ない

場所がある。

プヨ探知は、魔力を放射して物体の反射を捉える一種のレーダー探知だが、こいつは魔力

を体表面で無力化しているためこいつの居る場所だけ魔力反射が無い領域が"視える"。




「くっくっく。なに、通りすがりに知った顔がおったのでな。挨拶じゃよ。

先日ぶりじゃな。エルフ娘。」


何日か前、よろず紹介所おやじの試練4回目に、街の彫刻屋さんが恋人に結婚申し込みを

したいので氷から花束を切り出してそれをプレゼントしたいという依頼があった。

魔法で創った氷は荒々しさに欠けイメージに合わない、と言われ、わたしも技術屋ゆえに

物に対するこだわりには理解出来る。そのため北極圏へと自然の氷を取りに行ったのだ、

そこにこいつと、こいつの主人とか言うヤツが居た。共にヘンタイだったが。

その時は、『くっくっく、その服を溶かしてやぐわぁぁああ』と油断ぶっこき中のこいつ

の話途中に、ある物を投げつけ相手にせずさっさとトンズラこいた。




わたしはこいつの居る方向へ顔を向けないよう注意しながら、

「その声はこないだのスライムねっ、何の用なの?」

こっそりと、石鹸の泡を手に掬い取る。


「くっくっく。先日はお前に投げつけられた物でえらい難儀したわ。

礼を言いたくての。」

「そう?それで今頃というか、ここに来たのが運のつきって言うか、態々洗濯してる時に

顔出すなんて意味不明ね。さすがスライム。脳みそプヨってるってか?

くらえっシャボン・ラ○チャー。」


とっさに昔読んだ漫画の技名を出すわたし。

まさかここでこいつとまた出くわすなんて思ってもみなかったし、準備不足よっっ!!

何のことはない、風霊操りで風を起こし石鹸の泡を飛ばしまくるだけの技だ。

技の名前を言ったのはたぶんに景気付けよっっ


シャボン玉連続発生器よろしく、たちまち辺り一面シャボン玉が飛び交う。

「こいつはこないだのより強力よっ、触れればあんた一巻の終わりだからね。」

準備不足で当然ハッタリだけど強気でGOよっ。

界面活性剤に弱いスライム相手ならではの必殺技を飛ばしつつ、

けれど、飛び交うシャボン玉に相手の注意を引きつつ、本命は別に用意する。

こいつが潜む軒下の屋根をはさんで反対側へ、風霊操りで石鹸の泡を大量に運ぶ。


「くわばらくわばら。くっくっく。ここには用事の途中で立ち寄ったまでのこと。

今度会った時にまた遊ぼうぞ。エルフ娘。」

そう言ってプヨ、改め、自称エイシェント・スライムはまさに風のように去った。

魔力無効化体質というトンデモ無いヤツで、動きも見ての通り素早く、

魔導師たるわたしとの相性は極めて悪い。

魔法を無効化されてしまうと決定打がほぼ無くなってしまうにも関わらず、相手は魔法を

使い放題で切っても叩いても平気。なおかつ、体を完全に透明化することで、光・闇をも

見通す精霊使いからも見えなくなり、体表で魔力を無効化した際の副作用だと思われるが

精霊力も体表で拡散されて、とにかく極めて見え辛いヤツなのだ。




ここからあっさり去ってくれて正直助かった。色々な意味で相手にしたくない。

逆に言うとヘンタイだが実力は超一流。ニアやシャイアでは言うに及ばず、カズヒサでも

危ない。明日を前にしてそんな危険なヤツがここに居た事を皆に注意すべきか?


しばし考えて、皆には伝えない事にした。

そもそも今だってわたしを殺そうと思えばやれたハズなのだ。

わたしがタダじゃやられないのはこの際横に置くとして。

ハッキリ言ってあんな暗殺が天職みたいなヤツ相手に注意を払おうにも、魔力放射でしか

探知出来ず常時放射していたらいくら魔力があっても足りないようでは、そもそも注意の

しようが無い。

今日明日ではどう頑張っても対応が後手に廻るしかないのなら、集中を乱すだけ損だ。

皆には何が有っても対応できるよう十分注意するように、とだけ伝えよう。

あのプヨが水銀被害で苦しむ今この時に現れたのは、偶然なのか、それとも?


「・・・・とりあえず、石鹸は切らさないよう予備も持ってよっと。」

あらためて決心したわたしだった。






「というわけで、水銀汚染の元凶となる沼に居る怪物とやらは注意しないとダメだけど、

どうして最近になって水銀汚染が顕著になったのか、自然発生にしては被害が急激すぎる

のが不自然よ。『なぜ今なのか?』を考えれば、他にも何かがあるはずなの。

皆十分注意してね。」


あくる日、わたしは沼に向かう道中、皆に注意点を説明していく。


「水銀は気化して・・・・・・・えーと、空気に混ざって地面の表面に溜まるから、顔を

低くしてはダメよ、毒の空気を吸っちゃうからね。

それと、『風の護り』と『清浄』は掛けてあるけど、ちょっとでも気分が悪くなったら、

シャイアかわたしに言うのよ?すぐに『解毒』するから。」


毒の沼地に近づくにつれ、水霊と地霊それに闇霊が徐々に騒がしくなって来てるのが判る。

毒の汚染が自然の浄化能力を上回っているため、精霊が悲鳴を上げているのだ。


そうして、毒の沼地までもうすぐって時に、前方に何かの陰がうごめいているのが見えた。

わたしはすかさず、支援魔法バフを掛ける。

『パーティーセット』


キュバババババババババッ

数日前に失敗したバフだが、今回はとおっぜん(ふふん)成功する。

生命力向上などの生死に関わる物は48時間保持、わたしの近くに居ることで効果が継続

される物は3分という短い時間と引き換えに、より高い効果を得られるようになっている。


48時間継続される物は、メンバーの方位検知、最大生命力上昇、生命力回復速度上昇、

最大魔力量上昇、魔法抵抗力上昇で、

支援を受けるメンバーがわたしの近傍に居る事で得られる効果には、魔力上昇、知力上昇、

集中力上昇、魔法詠唱速度上昇、魔力回復速度上昇などの魔法使い支援バフと、筋力上昇、

器用度上昇、移動速度上昇、攻撃速度上昇、加速、風の護り、水の護り、土の護り、炎の

護り、対毒および対酸という主に近接職支援効果だ。


一定時間毎に、「キン」という甲高い音がわたしから発せられているのは、効果を上書き

継続させるための音だ。この音に乗せた魔術式は1秒経つと急激に拡散してしまうので、

音が1秒で伝わる距離すなわち340mが効果範囲という訳だ。そうすることで魔術式を

簡素化し、必要魔力コストを軽減したのだ。その距離以上に離れてしまうと3分で効果が

切れてしまうのでメンバーとの距離は注意が必要となる。

もっともそれ以上離れるというのは一緒に行動するパーティーではそう多くないと予想。

近い位置に居る限り、わたしから放射される音に乗せた継続効果魔術式のため、効果は常

に上書きされ続け、支援効果を発揮し続けることになる。






「みんな気をつけて。」ニアがそう言うが早いか、

カズヒサとルー、オーリスの3人が陰へと駆け寄る。

近づくと、陰は3匹いることが判った。


「はっ」カズヒサが技を飛ばす。。。のかと思ったら刃を光らせては居るが技を飛ばさず

に、刃に魔力を載せたまま、3匹を次々と切り倒している。

カズヒサが頑張ってくれるなら、わたしが何かこれ以上やることは無いでしょうね。

事実、3匹との戦闘はあっという間に終ってしまった。


「こいつらはいったい何だ?正直原因は水銀だから、怪物の正体は水銀で神経が侵されて、

怪物に勘違いされただけのこの辺りの動物じゃないか?と予想してたんだが。

腕や足も多いのやら、目が昆虫のように多いヤツ、見た目はネズミだが熊よりデカイやつ

とかまさに怪物だぞ。」

とカズヒサは質問を投げてくる。


「水と地の精霊力が水銀で侵されて暴走している状態ね。闇の精霊もそれに引き摺られて

正常を保ててない。」


「それって結局どうなるんだ?マズそうなのは何となく判るが。」


わたしはしばし目を伏せて、辺りの精霊力を感じ、その影響がどのように出ているのかを

調べてみる。


暴走した水を糧に生きるものは、徐々に濁り連綿と続く生命の進化の流れから外れて行く。

暴走した大地に育まれたものは、正しき生育を阻害されあるべき姿から変容して行く。

狂った闇に触れたものは、徐々に歪み全く異なった別の何かに再構成される。


「この辺り一帯が、もう生物がまともに生きられる環境では無くなってしまっている。

ここに立っているだけで生き物は濁り侵されやがては変容して別なモノに変わり果てる。」


目を開けて皆を見渡し、


「ここまで汚染されてしまえば、この生き物たちはもう元には戻せない。

それどころか、この地に長く留まればわたしたちも怪物化してしまうでしょうね。

怪物を先に倒して、その後で大地の浄化を行う予定だったけど、浄化を先にやらないと

精霊力の乱れが人体に及ぼす影響が無視出来ない程大きいわ。

浄化をしながら出会った怪物達をこの地から解放してあげましょう。」


わたしとシャイアは『解毒』と『浄水』を手分けしつつ大地と沼に掛ける浄化担当となり、

カズヒサ、ニア、ルー、オーリスの4人が怪物担当として片端から倒していく。






そうして日暮れまでかけてなんとか沼地の7割ほどは浄化したかな?と言う頃。


「ふー」


飽きた!

やってる事は可哀相な動物達を解放し、精霊たちを救い、エルフとして森を守り、

周辺住人たちを脅かす毒を浄化し、しいてはこの国が抱える大きな問題をこの6人で

解決しているというある意味偉業を為している訳だが。。。。


「なんと言う作業。なんでー?勇者パーティーってもっと華麗でカッコ良く解決するもん

なんじゃないのー? 地味っ地味すぐる。『解毒』と『浄水』しかして無いよ!」


「頑張りましょう!ファリナ、あたし達の活躍で救われる人が大勢居るのですっ」

そうシャイアはわたしを励ます。


「こーんな地味な仕事だったら神官団に押し付けたかったな

ううんっこれはカズヒサの日頃の行いが悪いからよっ そうに違いない。」


「それなら俺の行いが良かったって事か。」

カズヒサはわたしの愚痴を聞いたのか戻って来た。その後ろにニア達も居る。


「ヤバそうなヤツが居る。ファリナ的には楽しめるヤツかもな。」

そうカズヒサが言った。そのさらに向こう200m程先には。。。


鋭角的なフォルムで身の丈3m、見た目は三角錐のロケットの様な形をした明らかに

人工物な銀色の"何か"が宙に浮かんで、夕焼け空の赤が映り込んで居るのが見えた。








「何あれ?『探知』に引っ掛からないわよ?」


「どうするよ?一度引いて相手を観察するか? ここで一度戦って相手の手の内を探る、

そのまま倒すってのもアリだな。」


「わたくし達はまだまだ戦えます。というよりファリナの支援魔法のおかげで全く疲れて

いないのです。」


「見たところ、あれがこの辺りを汚染していた原因でしょうか?

それならばここで引くわけには行きませんっ 倒しましょう!」


「カズヒサの判断に任せる。全然疲れてないとだけ言っておこう。」


「もう日暮れだしここは一度引いて、明日にすることを薦めるな。

地の利は向こうにある上に、夜の闇も向こうに有利に思える。」


上からわたし、カズヒサ、ニア、シャイア、ルー、オーリスの順よ。


「闇を見通す事が出来る魔術式を掛けるわ。闇の優位性は無くなる。

あれはある種のゴーレムよ。魔法で動くカラクリ人形ね。

生き物じゃないから昼夜関係ないし、銀色ってのが水銀との関係を連想させる。

人形ゆえにどんな攻撃をしてくるかは結局戦うまで見抜けないと思うな。

ここで一晩ほっといても構わないかも知れないけど、せっかく浄化した所が元の木阿弥に

されるのもイヤね。そういう訳で、戦いましょう。」


わたしはそう提案した。


「K。バフはまだ有効だな?」

カズヒサは、わたしがうなずくのを確認すると、


「よし、ファリナ、闇を見通す術を全員に掛けてくれ。」


『影視』を全員に掛ける。「ファリナこれはどのくらい保つんだ?」


「計った事は無いけど半日はもつわよ。明日の夜明けくらいまでは平気。

それと、敵が水銀の集合体なら炎で攻撃するのは得策じゃないわ。ニア。」


「判りましたわ。」


「これは良いわ、影という影が全てくっきり見える。普段の仕事の時にも欲しいものね。」

オーリスは気に入ってくれたようだ。反対意見を出してもいざ戦いとなれば切替は早い。


「ニアとファリナが遠距離から魔法をぶちかましてくれ、それを合図にオーリスは敵の

頭部を狙って弓を頼む。俺とルーは魔法と同時に突っ込むから、シャイアは補佐だ。

その後は各自の判断で狙ってくれ。

万一、撤退する場合には昼頃ファリナが全員へ支援魔法をした地点で再集合だ。

さらに敵に追いかけられ続けた場合、最悪いったんピネの村まで引くぞ。」


カズヒサが最低限の確認事項を述べると、全員頷いて所定の位置へと散らばる。






ニアが攻撃魔法を唱え始める

「ギネア・シュライス・ファン・エネー・ルーイン・ラムエラス

大気の刃よ魔力の満つる空を切り裂け!『エリア・スラッシュ』」


ニアが範囲系真空の刃で、銀色ゴーレムを中心としてそこのある物を全て切り裂く。


それを見たわたしは、

ノンビリとニアの魔法を解析してたら怒られるかしら? などと考えていた。

なんて事はなく、ちゃーんと敵の事を考えてましたから。




ゴーレム。魔道エンジニアのロマンの集大成ここに在り!ですっ。




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