初ページ目
ほんわかエルフのダイアリー
初ページ目
とりあえず、こんな気が抜けたサイダーのようなタイトルにしておけば読むような酔狂な
者など居ないだろう。
この日記帳にはわたしが創った魔術式なども載せて行く予定だから万が一、何らかの理由
で日記帳がわたしの手を離れてしまった時を考て、極力他人の興味を引き付けないように
と気を使ったタイトルにしておく方が無難だろう。
わたしの名はリアファリナ、精霊術と魔術を修め武者修行の旅に出たトゲエルフよ。
うん?トゲエルフとは何だって?
簡単に説明するとね、少しばかりトゲトゲしく育ってしまったエルフという意味よ。
まぁそれはもうどうでも良いでしょう? この日記を読み進めることで追々理解してって
欲しい。
さて記念となる最初のページには、わたしが里を飛び出した所から、この街にたどり着い
た所までを書くとしようか。
そうだ、せめて日記っぽく書き始めるわね。
その日、世界は広くどこまでも青く、山々は新緑に萌え、紅く沈む夕日は美しかった。
こんなこともあろうかと準備してたこともあり、持って行く荷物は通称四次元ポシェット
と愛用の双剣を腰に吊るだけ。
わたしはエルフにしては珍しい魔導師で、魔術式や魔法具を創り出す職業に就いている。
手荷物は魔術式で無限に物を詰め込めるように創ったポシェットへ詰め込んである。
「さてと、これで生まれ故郷ともおさらばだと思うと、感慨深いモノがあるわね。」
両親に別れは?とチラリと考えがよぎったが、すぐにそう思った自分をちょっと笑った。
「ま、やっかい払いが出来てちょうど良い頃合だったでしょうしね。」
そう言ってクルリと振り返ると、そこにはものすご~く怪しい機械が重なっている。
機械。この世界には科学知識が全くといって広まっていない。
エルフの里はご想像の通り、辺鄙な森の中に在る。
そんな中で科学知識を駆使した機械を創る魔導師のわたしが溶け込めるハズもなく。
この旅立ちは必然だったと言えるだろう。
それでもお互い見ない振りで過ごせば平穏だったこの村に二日前、山賊達が襲い掛かって
来たのだ。
総勢30名程だったが、わたしがセキュリティーのために設置したストーンゴーレム達に
軽くなぎ払われてしまったので、村に被害はなかった。
おそらく、それで終っていれば、わたしは村の人達に感謝されたのだろう。
ストーンゴーレム達は、それまで魔道エンジニアを自称したわたしが調子に乗ってあれも
これもと魔術式を詰め込んだ歩く戦略兵器で、普段は岩に偽装しており村人さえも気付い
てなかったようだ。
何のドラマもなく駆逐されて終わりになるはずだった対山賊戦は、彼らの中に一人の精霊
使いが混ざっていたことで、わたしに取っての悲喜劇に変わった。
ゴーレムは、あらかじめ組込まれたアルゴリズムに従って決まった行動を取るように創ら
れてる。精霊術で攻撃を受けたゴーレムは、対精霊使いの攻撃アルゴリズム通り、魔術式
『対精霊空間』を起動させた。
『対精霊空間』
これは一定範囲に居る精霊を追い出し、呼び出せないようにする魔術式である。
この魔術式の前では精霊使いはタダの人となってしまうのだ。
この世界には精霊が呼び出せない領域というものが少なからず存在する。
自然の風が吹かない洞窟の中では風の精霊が呼べない。
石畳などの人工物で作られた道では地の精霊が呼べない。
闇の中では光の精霊が呼べない。
それはなぜか?
思うに、この世界ではそういった謎に対するナゼナゼの深堀が全く為されてないようだ。
でも、わたしは違った。
この世界にエルフとして生まれ、"向こうの世界"に存在しない精霊というモノを知った時、
そして魔法という新しい概念と技術がこの世界に存在すると知った時に。
ある意味執り憑かれたと言って良いだろう。
それらを欲し、そしてより深くより深くそれらを求めた。
そうして精霊についてのアレコレをほぼ解明し利用するまでに到っているというわけだ。
話を戻そう。
『対精霊空間』に恐れおののいたのは実のところ山賊ではない。
わたしのゴーレムを敵に回した不幸な精霊使いは、はたして己が死ぬ前に精霊が呼べなく
なった事を気付けただろうか? 今となってはどうでもいい事だけど。
そう、ここはエルフが住まう村なのだ。
わたしがそうであるように、エルフと言えば精霊使い。精霊使いと言えばエルフ。
そんなエルフ達が『対精霊空間』をどう見るかなど、ちょっと考えれば判リ切った事だ。
ゴーレムを創った時、わたしはそこまで思い至らなかった。
自分の新しい発想の実現化とそれがもたらす効果しか考えて居なかった。
襲撃者を返り討ちにしたわたしに村人達が見返りとして与えたものは畏怖の眼差しだった。
とりとめ無い記憶の反すうを止め、わたしは今までに創った作品を最後にひとつずつ眺め
「それじゃまたね? ふふ、アデュー、わたしの可愛い子供たちv」
わたしの魔術式は特殊だ。この世界に同じ物が他にもあるのかは解らない。
その中からひとつを選び起動する。
『飛翔』
この魔術式は風を操って魔道の翼で飛ぶのではない。
術者の周りに力場を張りその推進力で空を翔るのだ。
わたしは研究室兼自宅としていた洞窟を飛び出し一気に大空へと舞い上がる。
あっと言う間にエルフ里が小さくなっていく・・・・
わたしの住まうエルフ里はティルトの村と言う。
はじめに切り開いたご先祖様がティルトという名だったらしい。
ティルトの村はラクト山脈の東側に広がる名も無い森の中に在る。
その森を眼下にわたしは大空を西へと、子供の頃から何度も眺めていたラクト山脈の峰を
目指して翔んだ。
小一時間も翔んだだろうか? わたしは生まれてからこれまで遠出はしたことが無い。
これまでの人生は、魔術式を創り、そして魔術式を編みこんだ作品達を創ることに情熱の
全てを傾けて来たせいだ。
生まれて初めて山の頂上から見下した雄大な景色は、記憶の隅にあるもう一つの人生でも
見たことが無いほどに色鮮やかで感動的だった。
もしかしたら、エルフという種族が持つ優れた感覚世界のせいで、余計に美しく観えるの
かな?とチラリと思った。
どれくらい見惚れていただろうか? 気付くと太陽は西に大きく傾いており、群青の空に
茜色が混ざってこれもまた言い知れぬほどの美しい景色へと移り変わっていた。
「やばっ!今日寝る所を探さなきゃ!村を出たその日の内に舞い戻ったらカッコ悪すぎ。」
わたしは気付けば太陽を追い掛けながら『飛翔』していた。
翔びながら、少しずつ昏くなっていく世界を飽きずに見続けてた。
太陽が完全に隠れた頃、眼下にはここまで続いてきた大地と、暗く広がった海とが分たれ
ている場所へとたどり着いた。
とりあえず何かないかと周りを見渡す。
西に向かって翔んで来たわたしの左手、南に目を凝らせば大きな河が見える、その向こう、
「あれは明かりかしら? 街かな? き~まりっv 今夜はあそこで過ごそうっと。」
そうして、わたしはこの街へとやって来た。
アイゼンワード帝国の港街、アイゼリアに。
何かを期待していたわけじゃないけど、自分の胸が高鳴っているのを感じてる。
自分の人生で、新しい扉を開きこれまでとは違う一歩を確かに踏み出したのだからっ!!
はじめまして^^
少しずつでも投稿して行きます。