07逆襲の鳥の巣ボンバー
家に到着後、睡眠とシャワーと朝食を取った。
これで準備は万端だ。
本命を作る前に、今日の調子を確認する。
僕が作ってきた魔道具は、マジックバッグ一筋である。
マジックバッグは、商人や冒険者がよく買う魔道具だ。
内部に異空間を作り出して収納する為、かさ張る事はなく重さもある程度軽減される。
高級品ほど異空間は大きく軽量化が進み、認知度は魔道具の中でも屈指だ。
初期費用は掛かるが、掛けた分の見返りは充分にお釣りが来る。
商人には移動時間の短縮、冒険者にも疲労軽減から重用され、魔道具師である母や姉も研究素材を持ち歩く為に購入しているらしい。
しかし、僕のマジックバッグは一味違う。
性能が段違いだ。
市販される最高級品よりも異空間は大きく、重さもバッグ自体の重量しか感じない。
ミミックを利用したから、自分の姿も偽装できる。
有名人が街に出ても注目されない。
顔を常に晒される王族も、ただの平民と認識されるはずだ。
けれど見つかれば、宝具指定されて国家保有の魔道具にされかねない。
僕はまだ目立ちたくない。
だから、家族にさえ僕のマジックバッグの存在は漏らしていない。
作ったマジックバッグは、作者不明のまま裏の市場に流してきた。
大きな子供達を監視する為、内蔵した盗聴器で会話を確認している。
悪い事に使おうとした場合、僕が遠隔操作で爆破するのだ。
悪用するなんて、ミミック達に対する侮辱に他ならない。
管理番号として製造ロットを記載済み、盗聴器と魔力回路の信号から探知できる。
信号は全て微妙に違うから、誤爆する心配もない。
修理? 補償?
取扱説明書をよく読んでください。
悪い事に使ったらぶっ壊すと書いてあるでしょう?
設計者の意図に反した使用方法については一切の責任を負いかねます。
ご注意ください。
トリセツは捨てました?
これからは記憶するか保管忘れないで。
怪我も故障も知った事ではありません。
僕はデータ収集の為に裏の人を利用し、裏の人は高性能なマジックバッグ製作者として僕を利用する。
全て有料サンプルだけど、最下級のマジックバッグと同じ値段で買えるのだ。
盗聴器と小型爆弾を仕込んだ欠陥品とは言え、通常のマジックバッグは高級品とされる。
ちゃんとしたお店で買おうとしたら、身元の証明もしなければならない。
裏の人は試しに触れる事さえ許されない代物だ。
なんて素敵なWIN・WIN関係。
データ収集の為、できるだけ長く大切に使ってほしい。
(僕の専用品が完成したら全部壊すけどね)
身バレ怖いし、奪い合いで戦闘になったら後々めんどくさい。
一時の夢を楽しんでくれ、何事も壊れる時は一瞬だ。
心の中で注意した後、僕は魔道具作りに戻った。
予備の素材を使用し、手癖で魔道具を作っていく。
モブミミックの魔核、空箱を削って出来た木屑、乾燥させて濃縮し煎じた舌と牙、熱変性で流動性を高めた消化液を各所に配置し、慣れた手つきで組み上げる。
僕の部屋は、物置部屋になっている。
一番面積を取っているのは、ミミックが入っていた空箱だ。
蝶番取って蓋と容器を分ければ、少しは片付くだろうけどやる気が起きない。
意識を手に集中し、いつも通りの動きを寸分の狂いなく繰り返す。
「今日の僕も問題なし」
完成したマジックバッグも、想定通りのものだ。
出来は悪くない。
高性能マジックバッグは裏の住人にしか売っていない。
表側の住人には、家族含めて売らない事を店主に約束させた。
悪用された時に使う内蔵型の小型爆弾は、姉の部屋から毎回拝借している。
僕の空箱と同じくらい、姉の部屋は小爆弾に侵食されているのだ。
留守中に忍び込んで一つ盗んだところで、天才にも分かるはずがない。
人件費は自分だけ、材料費も既に必要なくなったミミックの残骸だ。
僕の時給を覗いて完全0円。
ポイント還元のなんちゃって0円とも違う。
ありがとう、モブミミック達。
君達はとても素晴らしい練習台だった。
おかげで最強のミミックに出会えて、最高の魔道具を作る準備が整ったよ。
「うん、上出来」
出来たばかりの魔道具に盗聴器、小型爆弾を入れる。
小型爆弾の名前はアフロメーカーという。
使用者の髪の毛をアフロに変えるだけ代物だ。
僕が遊び半分に考え、姉が気紛れに作ってしまった。
お陰で、悪い大人達の頭で活躍中である。
周りには一切危害を加えないよう日々改良も進んでいる。
魔力回路の確認や変更で魔力を流せば、使用者の髪の毛をアフロに変えることもできる。
お湯を掛ければ、アフロが元に戻るところもポイント高い。
店主との取引時、クレーム対応が来た時の為にアドバイスしている。
目立ちたくない僕にとって、恨みを買うのは極力避けたいのだ。
魔力回路も一緒に爆発させるので、知識を奪われる事もない。
これは姉の発案だ。
彼女は悔しそうに自分史上最高の出来と言っていた。
アフロメーカーは設定が初期値のものを選んでおいた。
僕しか弄れないように設定変更しておく。
盗聴器も仕込んだ完成品を、その辺に投げ捨てた。
(また持ち込むか)
アフロメーカーは姉の中では試作品扱いだ。
公式発表されていない為、まだ売り出してはいない。
けれど僕は、姉に内緒で裏側の住人達に売り出している。
横流しして小遣い稼ぎ、表沙汰にならないよう試させてサンプルデータも取っている。
アフロメーカーは馴染みの店主にしか卸していないから、管理の手間も少ない。
間違って店主が表側に売っても、使用前には爆発させている。
僕の正体がバレたとしても、リバーシ家に逆らう事の危険性は分かっているだろう。
トリセツで補償しないと言う事前説明も終わらせている為、余計なお金も掛からない。
(僕の脳味噌も捨てたもんじゃないな)
マジックバッグとアフロメーカーを卸している筋肉店主とは関係良好だ。
僕の作った欠陥魔道具を持っていく度、満足そうに喜んでくれる。
『お主も悪よのう』
『いえいえ、貴方様ほどではございません』
僕が悪代官、店主が後ろ暗い商人の真似だ。
そう言えば、高笑いの後に聞いた事があった。
『クレーマー来たら、どうするの?』
『当店は一切責任を持ちません。ご自身の判断でご使用ください。損害報告、賠償請求も受け付けません。保険適用外です。と申し上げています』
『それでも、納得しなかったら?』
『物理学の講義を始めます』
笑顔で筋肉を盛り上げるクソ店主に対し、僕は笑顔で腕を組んだ。
初対面で信じてもいいと思える人なんて今まで居なかったけど、店主とは不思議と気が合った。
利がある限り、ずっと僕の味方だ。
これほど頼もしい相手は滅多に居ない。
(まぁ、敵対した時はブチのめせばいいだけだし)
せいぜい裏切られないように気を付けよう。
裏切られたとしても、僕と店主の筋肉大戦が始まるだけだから願ったり叶ったりだ。
僕の相手ができる人はとても貴重だから、期待せずに待っていたい。
『自分の正体に探りを入れてくるような奴は殴り倒して記憶を消し、値切りしてくるような奴は出禁にして二度と売らない。当店のモットーです』
初めて会った時、彼の哲学を聞いて感激した。
握手した後にぶんぶん振り回したほどだ。
さて、今からが魔道具製作の本番だ。
普段から慣れ親しんできたマジックバッグの性能に加えて付与する内容が増えた。
結果、完成までの道が果てしなく遠く険しい。
素材は一流、技術も一流、知識も一流。
しかし、魔道具師としての僕はどう頑張っても二流で終わる。
史上最高の魔道具を作るには不安しかない。
天才魔道具師に作らせれば簡単だけど、芋づる式に魔力0がバレる危険性がある。
他人に作らせた結果、不出来なものを良しとする事だってあるかもしれない。
素材もあるが、最高のミミック素材は一つだけだ。
一度の失敗さえ許されない。
(ダメだ、今の僕では失敗する)
準備が足りなかったらしい。
実際に手を動かさないと分からない事もある。
良い教訓になった。
気軽に頼りたくないけど、必要な要素はきっと天才が持っている。
もし彼女であれば、僕に興味が向いても秘密は守るはずだ。
「姉さん、ちょっと教えて!」
慌て過ぎてノックもせずに突撃した。
「ちょっと黙ってなさい、愚弟」
アフロメーカーが飛んできた。
ドッカーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!
「あの姉さん、いきなり爆弾投げつけてくるのはやめてくれない?」
おかげで、鳥の巣になってしまった。
焦げ臭い匂いが辺りに充満する。
「いいじゃない、アンタは殺したって死なないでしょ? オセロ」
クロエ・リバーシ。
リバーシ家の長女だ。
いつか母を超えると自他ともに認める天才魔道具師の卵である。