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05モヒカンの兄貴、オレ達一生付いて行くっス

 彼女との時間は、とても楽しかった。

 いつまでも浸っていたいくらいだ。


 でも、他にやる事がある。


 これからラスボスミミックの魔核を使って、魔道具を作り上げるのだ。

 素材の確認、組み上げてきた理論の再調整、足りない物資の補給とやる事は山積みだ。


 魔道具は、できるだけミミックダンジョンのものを使って作る。

 魔核との親和性を考えても、ダンジョン産のものを使うのが無難だろう。

 隠れていた空の宝箱、舌と牙と消化液、収納していた武器防具、周辺の土や砂、魔力灯も必要なだけ持って帰る。


 僕の身体は特別製だから、エネルギー源さえあれば何時でも何処でも起きていられる。

 けれど一日一回はベッドに寝転ばないと落ち着かないし、気休めで良いからシャワーも浴びたい。


 腹も減っているから丁度いい。

 多く食べれば、血液が腹に溜まる。

 結果、脳に血液が回らず眠くなる。


 食後の惰眠は最高の休息法だ。


 急いでダンジョンを駆け上がり、家へと急いだ。


「あ、忘れるところだった」


 五階層で置きっ放しにしていた魔獣除けを回収した。


(バレたら八つ裂きにされる)


 もし勝手に持ち出したと知られれば、姉の魔道具に蹂躙されるだろう。

 その理不尽さは、僕でなければ一ヶ月は放心状態になる程だ。


「僕が弟で良かったね、姉さん」


 冒険者達は全員寝ていたので、一人だけ往復ビンタで叩き起こした。

 もちろん、僕の存在は消している。


「あれ? なんで俺……んあ!? みんなも眠ってる! おい起きろお前ら! え、何が起きてんの? 眠ってるだけで怪我も無いし、夢魔(サキュバス)に眠らされた? でも疲れてないし、むしろ睡眠不足だったから元気だし。何がどうなってんのーーーーーーー!?」


 うるさいのは嫌いなので、元寝不足野郎から離れてさっさと入口に向かった。


 しかしダンジョンの外もうるさかった。


「クソッ! アイツ等なんで戻って来ない!?」

「もしかして、もう……」

「辞めろよ! 縁起でもねぇ」

「もしアイツ等が本当にやられてたら冗談きついぜ」

「あああぁあぁあ!? 来るんじゃなかったッ」


 面白いので、ちょっと観察することにした。

 冒険者達は戸惑いと苛立ちでパニック状態である。

 残りの人達も、焦りながら必死に木の棒で地面に何か書いている。


 二人の衛兵さんも、青ざめた顔でさらに応援要請を出しているところだった。

 さっきの眠そうな顔つきとは、全くの別人だ。


(えーっと、なになに……)


 僕は、地面に書かれた作戦内容を見た。

 内容は、ダンジョン産魔獣達による大侵攻(スタンピード)の前兆調査?

 魔獣? が外に飛び出した後、すぐ戻ってきたと言う。

 以降の目立った動きは特になし。


(へぇ、僕が全滅させる前に逃げ出したのかな?)


 魔獣は、僕が見つける度に倒してきたけど知らない内に逃げた者もいるらしい。

 我ながら詰めが甘かった。


 ダンジョンの中には、魔獣はほとんど残っていないはずだ。

 彼等はしなくていい心配をして、しなくていい不安に駆られている。


 衛兵たちは魔獣の姿をはっきりと視認できていない。

 まったくもう、寝ぼけた頭で徹夜するからだよ。


 幸いダンジョンに戻ったため今のところ問題はない、とのこと。

 しかし、出戻り魔獣の前例は聞いた事が無いため混乱している。


 弱い魔獣、ゴブリンやスライムがダンジョンを追われて逃げ出す事は珍しくない。

 下層から、自分より強い魔獣が昇ってきて住処を追われたのだろう。


 けれど、今回は衛兵達の目に留まらない程の魔獣だ。

 スピード特化なだけで只の雑魚かもしれないが、危険な魔獣である可能性は拭えない。


 威力偵察に向かった冒険者パーティーも戻って来ない。

 五階層で僕が眠らせた彼等は指折りの実力者らしく、それ以上の強者が今居ないときた。

 人間の群れは、一番強いやつが居なくなっただけでこの有様だ。


(魔獣を見習え、魔獣を)


 アイツ等は自分がボスになる事しか考えてないから、ライバル居なくなってラッキーとしか思わないぞ。

 人間は少し野性から離れすぎだ。


(でも、ちょっと悪い事しちゃったなぁ)


 実際は、僕が少しの間気絶させていただけなのに。

 今は全員起きているだろうから心配ないけど、知らない間に随分と大事になってしまった。


「あの~、すみません」


「あ、誰だ? オマエ」


 厳つい世紀末冒険者さんが凄んでいる。

 良いモヒカンだね、少し触らせてほしい。


「新人の冒険者です。皆さん、どうしてこんなに慌ててるんですか?」


「聞いてなかったのか!? アイツ等、パリピ・スレイヤーズが戻って来ないんだよ!」


 何だか僕と気が合いそうな名前だ。


「全員が盗賊(シーフ)系の職業で石橋叩いてぶっ壊す位のビビり共だが、実力は確かだ。アイツ等、『一時間したら必ず戻る』って言ったきり戻って来ねぇ。約束は必ず守る奴等だ。けど戻って来ねぇって事は……」


 世紀末さんは、身体を震わせていた。


 そんなに寒いなら、革ジャン元に戻せばいいのに。

 まったく、肩口から袖まで乱暴に全部破くからですよ。


 仕立て屋でベストにしてもらえば、もう少し冒険者っぽく見えたかもしれない。

 今は、ただの暴走族さんみたいだ。


「僕も盗賊系なんで見てきましょうか?」


 少しだけ助け舟を出す事にした。

 早朝に大勢が叫んでいるなんて、ご近所迷惑極まりない。


「なに!? 助かるが、いや待て! あのパリスレでも帰って来れないなら、オマエが行ってどうこうできるような状況じゃ……」


 いや、意外とお洒落さんなのか?

 まさか世紀末ファッションがこの世界の最先端なの?

 異世界の流行、大丈夫か?


(痛々しくて見てられない。ちょっとテコ入れしたくなってきた)


 異世界ファッションの事は置いておく。


 お気に入りのミミック素材を手に入れた今、このダンジョンがどうなろうと正直どうでもいい。

 けれど、誤解しているみたいだから手伝ってあげる事にした。

 ダンジョンの入口で、わざとらしく耳を傾ける。


「あっれれ~? おっかしいぞ~?」


 気の抜けた子供っぽい声を出した。

 冒険者さん達の顔が、一斉に僕へ向く。


「人の声が聞こえるな~?」


「なに!? いや聞こえないが?」


 僕の強化された聴覚は、常人の域を遥かに超えている。

 ダンジョンの五階層くらい、簡単に音を拾えた。


「聞こえますよ? ほら『このダンジョン、まったく魔獣が出ないな』とか『だよなぁ、罠も全部破壊されてる。宝箱も壊れて空ばっかだし、もうただの洞窟なんじゃねえの?』とか『そう言えば、あのモヒカンどこで切って貰ってんだろうな?』とか『そうだよね、ウケるww』とか。触っていいですか?」


「なんだって!? アイツ等帰ってきたらシバく。あとオレのモヒカンは誰にも触らせねぇ!……じゃねぇ! それホントか!?」


「人より耳が良いんです。今三階層くらいなので、あと三十分ってところですね。それまで待って、戻らなければ誰か盗賊系を数人行かせればいいんじゃないですか?」


「本当か!? おいみんな!」


 モヒカンさんは急いで走っていった。


「ちょっとトイレに行ってきますね~」


 僕は世紀末さんの背中に声を掛けてから、その場を離れた。


(帰るか)


 鼻歌交じりに朝の優雅な散歩を楽しむ。

 一日の始まりに良い事すると、とても充実するって言うよね。


 この後、パリピ・スレイヤーズは無事戻ってきた。

 そして、この日から一部の冒険者の間でモヒカンがブームになった。

 モヒカンの立役者が自分である事を、オセロはまだ知らない。

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