モヒカンの兄貴、オレ達一生付いて行くっス
彼女との時間は、とても楽しかった。
いつまでも続けたかった。
けど、僕は他にもやる事がある。
これからラスボスミミックの魔核を使って、魔道具を作り上げるのだ。
素材の確認、組み上げてきた理論の再調整、足りない物資の補給とやる事は山積みだ。
「魔核に宝箱と、舌、牙、消化液、武器に防具に土と砂と……そうだ! 魔力灯も持っていこう」
魔道具は、できるだけダンジョンのものを使う。
ミミックの魔核が中心になるから、きっと相性も良いはずだ。
「ダルーい、ねむーい、はらへったー」
僕の身体は特別製だから、食べ物さえあれば何時でも何処でも動ける。
けれど一日一回はベッドに寝転ばないと落ち着かないし、気休めで良いからシャワーも浴びたい。
急いでダンジョンを駆け上がり、家へと急いだ。
「あ、忘れるところだった」
五階層で置きっ放しだった魔獣除けを回収する。
(バレたら八つ裂きにされる)
もし勝手に持ち出したとバレたら、姉の魔道具に蹂躙されるだろう。
僕でなければ、一ヶ月は放心状態になるくらいだ。
「僕が弟で良かったね、姉さん」
冒険者達は全員寝ていたので、一人だけ往復ビンタで叩き起こした。
もちろん、僕の存在感は消している。
「あれ? なんで俺……んあ!? なんで、みんな眠ってる? おい起きろお前ら! え、何が起きてんの? 眠ってるだけで怪我も無いし、夢魔に眠らされた? でも疲れてないし、むしろ睡眠不足だったから元気だし。何がどうなってんのーーーーーーー!?」
うるさいのは嫌いなので、元寝不足さんから離れてさっさと入口に向かった。
しかしダンジョンの外もうるさかった。
「クソッ! アイツ等なんで戻って来ない!?」
「もしかして、もう……」
「それ以上言うな!」
「でも本当にやられてたら冗談きついぜ」
「あああぁあぁあ!? 来るんじゃなかったッ」
面白いので、ちょっと人間観察することにした。
冒険者達は戸惑いと苛立ちでパニック状態である。
二人の衛兵さんも、青ざめた顔で冒険者ギルドへ応援要請を出しているところだった。
さっきの眠そうな顔つきとは、全くの別人だ。
(えーっと、なになに……)
僕は、地面に書かれた作戦内容を見た。
内容は、ダンジョン産魔獣達による大侵攻の前兆調査?
魔獣が外に飛び出した後、すぐ戻ってきた?
(へぇ、僕が全滅させる前に逃げ出したのかな?)
魔獣は、僕が見つける度に倒してきた。
しかし知らない内に逃げた魔獣もいるらしい。
ダンジョンの魔獣は、ほぼ残っていないはずだ。
彼等は要らない心配と不安に駆られている。
衛兵は魔獣の姿をはっきりと見ていないみたい。
(まったくもう、寝ぼけた頭で徹夜するからだよ)
終わったらゆっくり眠ってくれよな!
素早い魔獣? はダンジョンに戻った。
だから今のところ問題なし、とのこと。
でも、出戻り魔獣なんて聞いたことがない。
弱い魔獣が、ダンジョンを追われて逃げ出すことはたまに聞く。
下層から強い魔獣が昇ってきて、弱い魔獣が住処を追われるのだ。
けれど、今回は衛兵の目に留まらない魔獣である。
スピード特化な雑魚かもしれないが、危険な魔獣の可能性は否定できない。
五階層で僕が眠らせた彼らは指折りの実力者らしく、それ以上の強者が今居ないときた。
人間の群れは、一番強いやつが居なくなっただけでこの有様だ。
(魔獣を見習え、魔獣を)
ライバル居なくなってラッキーとしか思わないぞ。
人間は少し野性から離れすぎだ。
(でも、ちょっと悪い事しちゃったなぁ)
実際は、僕が少しの間気絶させていた。
今は全員起きているはずだけど、知らない間に随分と大事になっている。
「あの~、すみません」
「あ、誰だ? オマエ」
厳つい世紀末冒険者さんが凄んでいる。
良いモヒカンだね、少し触らせてほしい。
「新人の冒険者です。どうして慌ててるんですか?」
「聞いてなかったのか!? アイツ等、パリピ・スレイヤーズが戻って来ないんだよ!」
陽キャ殺し。
僕と気が合いそうだ。
「全員が盗賊系の職業で石橋叩いてぶっ壊す位のビビり共だが、実力は確かだ。アイツ等、『一時間したら必ず戻る』って言ったきり、戻って来ねぇんだよ!」
世紀末さんは、身体を震わせていた。
そんなに寒いなら、革ジャン元に戻せばいいのに。
まったく、肩から下を乱暴に破くからだよ。
仕立て屋でベストにしてもらえば、もう少し冒険者っぽく見えたかもしれない。
今は、ただの暴走族さんみたいだ。
「僕も盗賊系なんで見てきましょうか?」
少しだけ助けることにした。
早朝に大勢が叫ぶなんて、ご近所迷惑である。
「なに!? 助かるが、いや待て! あのパリスレでも帰って来れないなら、オマエが行ってどうこうできるような状況じゃ……」
いや、意外とお洒落さんなのか?
まさか、この世界の最先端は世紀末ファッション?
異世界の流行、大丈夫か?
(ちょっとテコ入れしたくなってきた)
今日は、異世界ファッションのことは置いておく。
ミミックの素材を手に入れた今、このダンジョンがどうなろうと正直どうでもいい。
けれど、誤解しているから手伝うことにした。
ダンジョンの入口で、わざとらしく耳を傾ける。
「あっれれ~? おっかしいぞ~?」
気の抜けた子供っぽい声にした。
冒険者さん達の顔が、一斉に僕へ向く。
「人の声が聞こえるな~?」
「なに!? いや聞こえないが?」
僕の聴覚は、常人の域を遥かに超えている。
ダンジョンの五階層くらい、簡単に音を拾えた。
「聞こえますよ? ほら呑気にお喋りしてますよ? 『このダンジョン、まったく魔獣が出ないな』とか『だよなぁ、罠も全部破壊されてる。宝箱も壊れて空ばっかだし、もうただの洞窟なんじゃねえの?』とか『そう言えば、あのモヒカンどこで切って貰ってんだろうな?』とか『そうだよね、ウケるww』とか。触っていいですか?」
「なんだって!? アイツ等帰ってきたらシバく。あとオレのモヒカンは誰にも触らせねぇ!……じゃねぇ! それホントか!?」
「人より耳が良いんです。今三階層くらいなので、あと三十分ってところですね。パリスレさん達が戻らなければ、今度こそ盗賊系を数人行かせてみては?」
「本当か!? おいみんな!」
モヒカンさんは急いで走っていった。
「ちょっとトイレに行ってきますね~」
僕は世紀末さんの背中に声を掛けてから、その場を離れた。
(帰るか)
鼻歌交じりに朝の優雅な散歩を楽しむ。
一日の始まりに良い事すると、とても充実するって言うよね。
この後、パリピ・スレイヤーズは無事戻ってきた。
そして、この日から一部の冒険者の間でモヒカンがブームになった。
モヒカンの立役者が自分である事を、オセロはまだ知らない。




