とれたて新鮮! 冒険者の踊り喰いやってまーす!
それは、ミミックと呼ばれる魔獣だった。
別名、人喰い箱。
ダンジョンの宝箱に擬態するモンスターだ。
内部を亜空間にして本体を隠している。
獰猛な性格と尽きない食欲、鋭い牙に真っ赤な舌は、多くの冒険者にとって恐怖の象徴だ。
『宝箱は全てミミックと思え』
冒険者の間では有名な言葉だ。
それくらい宝箱と見分ける事が難しい。
熟練の冒険者でも、油断すれば美味しく頂かれる。
一度襲われると、ほぼ逃げられない。
運良く助かっても、怪我で冒険者人生は終了だ。
ミミックの専門家に話を聞いたところ、宝箱と見分けるコツは勘らしい。
分かるかッ! と冒険者はよく文句を言っている。
「ミミックミミックランランラーン♪」
僕の目的は、お宝でなくミミック本体だ。
ミミックの素材を使い、僕専用のアイテムボックスを作ろうと考えている。
魔力ゼロを偽装して平凡に見せかけ、武器を収納しながら身軽に動く。
ミミック本体の魔力は、人の魔力感知では分からない。内部に溜め込んだ魔道具も同じだ。
市販のマジックバッグでは容量も能力も物足りない。従魔契約は魔力がないから無理だし、魔力無しの主従契約は抜け穴がありそうで怖い。
ペットとして飼うのはアリだ。
けど、僕は可愛がりたいだけなのだ。
休日にペットショップへ行って、窓ガラス越しに遊ぶくらいでちょうどいい。
もし愛着が湧けば、ペット以外どうでもよくなる。
ミミック帝国を作って、人間の踊り喰いを鑑賞する日がくるかもしれない。
(ごめん、君達と一緒には居られないんだ)
一応、人間達の味方ではあるつもりです。
「やっぱり魔道具にするしかないよね~」
魔道具の作り方は色々だ。
魔力に触れ続けた結果、自然に生まれた。
ダンジョンで冒険者が見つけてきた。
死後、人間が魔道具化した。
魔道具師が作った。
経緯も歴史もバラバラ、と母のお節介授業で鼓膜が破れそうなほど繰り返し聞かされている。
母や姉ほどの才能は無いが、ミミックに関しては技術も知識も蓄えてきた。
転生前の知識も、思い出す度に前世ノートへ書き出してきた。
ミミックだけは、負けられない。
「今日こそ見つかるといいなぁ」
深夜のダンジョンは静まり返っていた。
衛兵二人が入口に立っている。
魔力灯が奥へと続き、仄暗いダンジョンの道を照らしていた。
魔力灯は周囲の魔力を吸収して光に変えている。
僕は濃密な魔力量を目で確認し、早くなる心臓の鼓動を抑えた。
目を閉じれば、肌で魔力の流れが感じ取れる。
(暑い! 脱ごう!)
ほぼ全裸になった。
脱いだ服は丁寧に畳み、草むらに隠しておく。
大丈夫、まだ下着が残っている。
衝動はギリギリ抑えられていた。
(今の僕は透明人間、通報されても関係無いんだよね〜)
残念ながら、野外で全裸になる勇気はまだ無い。
眠そうな衛兵二人の間を通り過ぎ、僕はダンジョンの奥へと進んでいった。
(待ってて、僕のミミックさん)
ダンジョン踏破は百回くらい。
ミミックとの邂逅は千回くらい。
けれど、まだ見ぬ愛しの彼女には出会えていない。
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全裸とは、森羅万象を感じることのできる唯一無二の服装だ。
「ヒャッホー! ダンジョン最ッ高ー!!!!!!」
ダンジョンの中なら問題ない。
自然と一体になる事で、魔力を肌で理解できる。
魔力のない僕には、極めて重要なことだ。
決して、露出趣味があるとかではない。
もし他の冒険者に出くわしても構わない。
今の僕は透明人間だ。
ゴブリンの群れを走り抜けながら、手刀で気絶させてゴールデンボールを蹴り飛ばす。
ちなみに、ゴブリンのゴブリンさんは精力剤の原料になるらしい。
さすがお盛んと言われるだけはある。
けれど勘違いしたらいけない。
彼等はお盛んで済ませられる魔獣ではないのだ。
彼等の強みは、その数の暴力だ。
他種族の雌を攫って自分達の勢力を拡大していく。
繁殖力は別世界のGと良い勝負だ。
物量作戦で他の強い魔獣さえ倒してしまう。
今度は的確に狙いを付けて蹴り潰し、大事な所の流血を確認した。
邪魔にならないよう、壁に投げ捨てて先へ進む。
小遣い稼ぎと素材採取も兼ねて、僕は魔獣狩りを日課にしている。
僕の裏ボス貯金の為、魔獣達にはできるだけ長く健康体で居てほしい。
しかし、ゴブリンは必要ない。
他の魔獣の餌になるだけでいい。
放っておけば、ダンジョンの生態系が崩れてしまう。
そんな理由で、見つけたゴブリンは全て間引くと決めている。
どの世界でも、Gは人類の敵という訳だ。
さて、準備運動は終わった。
クールダウンの為、下着を装着する。
メリハリは大事だ、身体が冷えてしまう。
せっかく温めた身体がもったいない。
一階層を探した結果、見つけた宝箱は二つ。
内一つは、ただの宝箱だった。
中身は普通の短剣、希少性も高くない。
安いだろうが、後日ギルドへ売りに行くつもりだ。
微力にしかならないが、暴君姉妹へお菓子でも買っていこう。
もう一つは、目の前にある。
開けた通路の途中、不自然に置かれていた。
見た目こそ普通の宝箱だが、絶対に違うと身体が反応している。
(なるほど、これが勘ってやつか)
先輩冒険者の話にも納得だ。
他人にこれ以上伝わる言葉なんて見つからない。
千のミミックを超えて、僕は同じ境地に至った。
ミミックの前に立つ。
言葉遣いは、両親と姉を見て覚えた。
もし姉にナメた口を聞けば、魔道具危機一髪の刑に処されるのでイヤでも染み付いている。
(ありがとう、姉さん)
全く感謝したくないけど、緊張するご対面でも毎回落ち着いて臨めるよ。
まずは、何度繰り返したかわからない社交辞令で無難に攻める。
「はじめまして! 少々お時間頂いてもよろしかったでしょうか?」
すぐに蓋が開き、巨大な牙と舌が飛び出して僕に襲いかかる。
「お時間ない中、ありがとうございます!」
食べられた。
今、僕は頭から食われて脚だけが外に出ている。
何度も経験しているが、やはりミミックさんと会えた時は嬉しい。
まさか、一階層から出会えるとは思わなかった。
「僕の名前は、オセロ・リバーシ。リバーシ家の長男やってます。あなたのお名前を聞かせてもらえませんか?」
僕は、ミミックさんの中から話し掛けた。
返事はない。
「恥ずかしがり屋さんなんですね。わかりました! では、ご趣味は? 最近ハマってる事は?」
間髪入れずに話しかけていく。
しかし、それでも会話の糸口すら掴めない。
「休日ってどんな感じで過ごしてます? 僕はよく姉と妹にサンドバックにされてますよ、もーほんとやめてくれって感じです。大して痛くないから良いんですけど、あの子達の将来大丈夫かなって心配になるんですよ~」
「お仕事って何系ですか? 人食べる系? 宝箱に紛れる系? それともジッとしてる系? もしかして魔獣の掃除系ですか? 大変ですよね〜。僕も、さっきゴブリンを片付けてたんですけど」
「今まで一番嬉しかったプレゼントって何ですか? 良ければプレゼントさせて下さい。宝石ですか? それとも武器? やっぱり人ですか? え? ゴブリン? 僕達、気が合いますね〜。待ってて下さい、さっき倒してきたので今から取ってきますよ」
名前を教えてくれないミミックさんは、僕の骨を噛み砕けず牙が折れている。
舌で僕の肉を削ぎ落とそうとしても、猫のようなザラついた舌は磨かれて平らになっていた。
獲物を溶かす消化液は、ただの水になっている。
僕は魔獣と話せない。
それでも戸惑いは伝わった。
「…………やっぱり、あなたも違うんですね」
僕は内側からミミックの牙を全て根元から切り離し、舌を引っこ抜いた。
「僕、賢い方が好みなんです」
ミミックは暴れながら、僕を吐き出す。
「お別れですね」
全部無視して蓋と容器を強引に引き千切った。
ミミックの本体を引きずり出して急所を突く。
魔獣は声にならない断末魔を上げ、動かなくなった。
持ってきた洗浄剤でミミックの消化液を落とし、さらに深層へ潜っていく。
魔獣の中には、高度な知性を持つ者が居る。
彼らは大きくて賢く、そして強い。
できるなら、魔道具の素材は知性持つ魔獣のものを使いたい。
魔道具師の腕次第だが、素材の強度は魔道具の性能に直結するのだ。
しかし僕は、まだ納得のいくミミックさんには出会えていない。
いい加減、彼女達を傷付けたくは無いんだけど。
このダンジョンでも、僕に出会いはないんだろうか?




