やる気スイッチは鉄分多めの赤が似合う
ボスさんは動かない。
下っ端四人が、僕を切ろうと飛び込んでくる。
首を振って全員の位置を把握し、次の動きを予測する。
裏路地は狭い。
大人が一度に切り掛かって来れるのは、上下左右の四人くらいだ。
(うん、優秀優秀)
遊び半分で、もう一度刺されてみる。
今度は脳天、肩口、太腿、足首の四ヶ所だ。
同じように身体を動かし、無血のまま笑い続ける。
「良い部下を持ったね」
素晴らしい連携だ。
自分で考え、役割を把握し、任務を遂行する。
ボスは、ただ立っているだけでいい。
彼は、五人の部下に囲まれて観察している。
僕の急所を探っているのかな?
ボスが口を開いた。
「化け物め」
これでも人間のつもりだ。
「ひどいよぉ」
ボスを守っていた五人の内、四人が入れ替わった。
二撃目の部下達は、後方へ移動している。
「まだ終わらないぞ?」
ボスを守り続ける一人は、副長みたいな感じらしい。
今のところ、攻撃に加わるつもりがないようだ。
僕は斬られて斬られて斬られ続け、喰らって喰らって喰らい続ける。
それでも、血が流れることはない。
(そろそろ飽きてきた)
八人の部下達も息切れが始まっている。
「全員代われ」
八人全員が瞬時に散らばり、奥から大剣が迫っていた。
短剣ばかりを相手にしてきたからか、ちょっと間合いが掴みにくい。
カルタさんとシロナも同じ戦法だったけど、二対一と九対一では訳が違う。
避ける判断が遅くなって、頬に一筋だけ赤線が引かれた。
血管が傷ついて、血が流れたらしい。
「「「「「「「「よっしゃあ! さすが副長!」」」」」」」」
部下が後ろでうるさい。
「騒ぐなバカ共」
ボスは部下達を黙らせつつ、自分の笑みに気づいていないようだった。
「そのまま殺せ」
「了解です」
僕は間合いを修正し、大剣を避ける。
調子に乗って大振りになった剣は、勢い余って地面にめり込んだ。
相手は剣を急いで抜こうとするが、僕は刀身に飛び乗って邪魔してみた。
「僕は、相手と戦う時に手を抜くようにしている。なんでか分かる?」
剣を放そうとする副長の両手を、僕の片手で包み込んだ。
大剣使いは、僕の膂力に勝てずその場から離れることもできない。
「それが僕のマイルールなんだよ」
もう片方の手で、目深に被っていた副長のフードを取った。
隠れていた顔が明らかになり、恐怖に顔が崩れていく。
「は、離せッ!」
僕は、暴れる両手を強く握った。
バキボキと骨を折りながら、副長の口が大きく開く。
「だから、本気を出した時点で僕の負けになってしまうんだ」
大音量の叫び声は、祭りの最中でも目立つ。
僕は残った片手で、目立ちたがり屋の口を覆った。
声は曇って響かない。
そのまま白目を剥くまで抑え続け、地面に捨てる。
骨折からの失神か、口を抑えられて酸欠したか。
どっちか分からないが、脈はあるので命は無事だ。
「だから安心してくれ、本気は出さない。でも、少しやる気出てきちゃった」
頬の傷は治さずに放置していた。
血を指で拭って、指を舐め取る。
「血の味は久しぶりなんだ」
ボスが剣を抜いた。
「(オマエ達は下がっていろ、後は俺がやる)」
やっとボスと戦えるらしい。
部下との会話を盗み聞きできるなんて、さすが僕だ。
「少しは、僕を楽しませて?」
刃が迫る。




