蝶のように舞い、蝶のように嗤う
祭りの明かりはまだ眩しく、笑い声が夜空に響いている。
僕は仮面をつけたまま、人混みから距離を取った。
路地裏に足を踏み入れた瞬間、気配が変わる。
群衆の熱狂に紛れ、僕はいくつかの視線に狙われていた。
試験中、アフロ仮面として多くの参加者に爆弾を投げ続けた。
そのせいで、多少の恨みを持たれても仕方ない。
「まだ仮面は外せないか~」
視線は、どれも素人ばかりだ。
しかし髪の毛の恨みに混じって、もっと別の観察するような目があった。
金で雇われたプロの動きだ。
平然を装って、堂々と前から歩いて来る。
僕は、フードで頭が隠れている男を見続けた。
腰に隠された短剣は、毒が塗られているかもしれない。
(やっぱり、獲物を釣るのは祭りが一番だね)
すれ違った後、僕の首目掛けて剣が振るわれる。
僕は後ろ向きのまま、剣の持ち手を片手で止めた。
「なッ!?」
「はじめまして、殺し屋さん。早速で悪いけど名前と住所と連絡先、あと誰の命令で来たのか教えてもらえるかな?」
舌を出して挑発する。
焦った男の後ろから、さらに刺客が十人現れた。
「わ~お、団体さん? 困ったな~、お出迎えの準備なんて全然できてないんですけど。どうします? この場を丸く収める為に、僕の質問に答えてくれません?」
僕が動きを止めた男は動かない。
「首だけあればいい。やれ」
一番奥にいるリーダーっぽい人が指示を出し、他の九人が駆けてきた。
「わー大変だー急いで知らせないとー」
腕を掴んでいた男の首筋を打った。
意識を失い、地面に倒れる。
「なーんてね」
迫ってきた九人は、呻きも許さず崩れ落ちる同僚を見て立ち止まった。
「はい、そこ止まらない。さっさと来なさい」
「「「舐めやがって!」」」
威勢のいい数人が短剣で迫ってきた。
(なーんか、見た事あるな。あの剣)
気になったので、試しに斬られてみた。
頭部、首筋、心臓、的確に相手の急所を狙ってくる人達だ。
(どこで見たのかな~?)
剣術と言い、体捌きと言い、やっぱり見た事あるような気がするんだよね。
「やったか?」
奥に居たリーダーが部下を下がらせ、少し離れた場所に立っている。
フードで隠れていた顔が露わになった
夜に溶け込む青紫色の髪を短く刈り揃えている。
目は淡い桃色だ。
(これもどっかで見たことある気がするけど、誰だったかな?)
最近、記憶力が落ちた気がする。
異世界に来てから、ゲーム感覚が無くならない。
魔力0バレたら命の危機のはずなのに、ちょっと気が抜け過ぎだ。
追加で腹にナイフが十本投げられた。
これも覚えがある。
(ん~、もう少しで思い出せそうなんだけどな~)
目の前までリーダーさんが歩いて来る。
男は、僕を見下ろしていた。
「すみませんが、お名前伺っても? 僕、襲われる心当たりなんて無いんですよね」
「部下が世話になった」
僕は魔力を見た。
「あ~、覗き魔さん達ですか? 彼女に訴えられても知りませんよ?」
魔力の波長が公開試験に乱入してきた人達にそっくりだった。
理由は知らないが、カルタさんを狙っているらしい。
「話が早くて助かる。そのカルタ・クラムだが、今どこにいる?」
「さぁ? 祭りの真っ最中だから、どっかで飲み食いして楽しんでるのでは?」
「答える気は無さそうだな」
(いや、本当に知らないんだけど)
僕は裏ボスイベントの予感に誘われて、ここまでやってきただけだ。
蜜に群がる蝶のように来てしまったのだ。
「ボス! ソイツ、ヤバくないっすか?」
遠巻きから眺める一人が、何かに気づいたように慌て始めた。
「そうだな。ここまでやられて平然と喋り続ける胆力、敵ながら見事だ」
「違いますって! ソイツ、血が流れてないです!」
「そんなことあるわけ……」
ボスさんは、僕の服を捲って損傷を確認しようとする。
カラン、と僕に刺さっていた短剣が一つ地面に落ちた。
血は付いていない。
ボスさんは、部下のいる場所まで飛び退いた。
「バレちゃった?」
裏路地には他に誰も居ない。
誰一人として、この闇に気付けない。
僕は、笑顔で出迎えた。
「ようこそ僕の裏舞台へ。心ゆくまでお楽しみください」




