表舞台のじゃれ合い
昼間の熱狂は夜まで続いていた。
広場には露店が並び、宴が自然に始まっている。
参加者、観客入り混じった一夜限りの祝祭だ。
実力者への勧誘も始まり、水面下で貴族や商人の権力争いも進んでいた。
「報酬は言い値を払おう」
「いいや、その倍出す」
「三食昼寝おやつ付きだ」
「養子にならないか」
「ぜひ来てくれ」
優勝したカルタ・クラムも例外ではない。
広場の中央で注目され、ずっと苦笑いを浮かべている。
この国では、未成年の飲酒が原則禁止されている。
断り続ける彼女だが、やはり世間知らずが現れた。
「おうおう姉ちゃん、ちょっとは俺達に付き合ってくれても……」
酔っ払いの男は、迫る足音に気づかない。
「はいドーン! シロナちゃーん!」
妹が制裁を加えている。
無礼者はシロナちゃんに腹をパンチされ、壁にめり込んでいた。
胃袋の中身が解放され、キラキラを吐き出す。
「無茶な勧誘は止めてね? シロナからのお願い!」
その場が静まり、優良貴族だけが残った。
妹は、カルタさんを気に入ったらしい。
ピッタリと張りつき、楽しそうに話しかけている。
カルタさんも戸惑ってはいたが、嫌っている様子はない。
(シロナちゃんが楽しそうで何よりだわ)
楽しそうな妹と、ポニーテールの少女を眺める。
シロナの戦闘力は、同世代で群を抜いている。
今日はオセロに負けたみたいだけど、弟でギリギリ相手になるくらいだ。
同級生や上級生はもちろん、騎士団でもシロナの相手をできる者は少ない。
そんな中で自分と拮抗する相手が現れた。
妹にとってはライバルとなり、友達にもなる。
剣も性格も違う二人だが、案外良い相棒になるかもしれない。
(試験を開いて良かった。でも、)
カルタさんの腰には、私から弟に渡した魔剣があった。
(なんで彼女が水龍刀を持ってるのかしら? オセロに持たせたはずだけど……)
私は魔道具師だ。
自分で手掛けた魔道具は、全て覚えている。
アフロメーカーも、シロナが今日壊した試作品も、水龍刀も、全て我が子同然だ。
見合いを申し込んでくる鬱陶しい貴族共を払いのけ、カルタさんの方へ歩いた。
「カルタ! また勝負しよ!」
「えっ、そ、そんなこと……」
「しよ!」
「でも、私なんかが……」
「勝負!」
妹の強気な決闘希望に、カルタさんは返事もできず狼狽えていた。
(ホントに、この子が勝ったのよね? ……まぁ、今はいいわ)
「シロナちゃん、そこまで」
妹の両手が、カルタさんから離れる。
「姉ちゃん、逆ハーレムは良かったの?」
妹は、妙な言葉を知っていた。
(ハーレムは、男一人を多くの女が囲ってるって意味。その逆だから、私が男に囲まれてるってこと?)
ハーレムという言葉は、オセロから初めて聞いた。
弟は世間知らずなくせに、変なことばかり頭に入っている。
妹の妙な言葉遣いも、私と同じで絶対にオセロの入れ知恵だ。
幼気な妹に何を教えているんだ、あの弟は。
とりあえず、説教決定だ。
姉として、弟を教育しなければならない。
でも、その前に優勝者インタビューをする。
私は記者を引き連れ、青紫色の少女に話し掛けた。
「改めて優勝おめでとう、カルタ・クラムさん」
カルタさんは、慌てて頭を下げた。
そんな緊張しなくてもいいのに。
「ク、クロエ様! こちらこそ、ありがとうございました。おかげで学校に通えます!」
学校に通う?
あぁ、そっか。
さっきお金が欲しい、って言ってたわね。
「良かったら私の方で競売に掛けましょうか? 失敗作のオークションと一緒に売るけど?」
私の魔道具にはファンがいる。
公開試験でお披露目できたのは、あくまで一部の失敗作だけだ。
私では使い道を思いつかない魔道具も、他の誰かであれば活かすことができるかもしれない。
せっかく生まれてきてくれたのだ。
誰かの役に立ってくれるなら、魔道具師としても本望である。
「いいんですか! ぜひお願いします! 貴族との交渉、どうしようって思ってたんです!」
まっすぐな桃色の瞳だった。
眩し過ぎて目を背ける。
「……分け前貰うけど良かった? お友達価格の一割でいいわよ?」
友人であろうとなかろうと、いつもは落札額の二割を仲介手数料として貰っている。
けれど彼女の笑顔を見たら、自分の取り分を増やすのは気が引けた。
妹も懐いているし、先行投資ってことにしよう。
「全然構いません! よろしくお願いします!」
綺麗な青紫色の髪が上下に激しく揺れている。
礼儀正しい子だ、弟も少しは見習ってほしい。
「わーい! カルタちゃんとお友達ー!」
シロナが、喜びを抑えきれずに走り回る。
露店がいくつか破壊された。
後でお金を払いに行こう。
妹のお転婆は、姉の包容力が試される時だ。
「お礼はいいわ。でも、一つ質問していい?」
「構いません。私に答えられるものであれば」
「その剣、どこで手に入れたの?」
「とある人に貰いました。名前は知りません」
アフロ仮面=私の弟、とカルタさんは知らない。
オセロの名前も、彼女の口から出てきていない。
(弟は教えるつもりなし、か。私の口からは言えないな)
オセロは、自分のことをあまり話したがらない。
姉である自分にすら、何か重大な隠し事をしている気がする。
「そうだ、クロエ様。仮面さんとお知り合いですか? ぜひ連絡先を交換したいのですけど、表彰式が終わってから姿を見てないんです」
「さぁ、もう家に帰ったんじゃない? 私はアルバイトとして雇っただけだし、報酬渡したら急いで何処かに行ってしまったわ」
「そうですか……実はもう一人探してるんです。銀色の髪でとても強い、私と同じ年頃の男の子です。クロエ様、弟さんに会わせて頂くことはできますか?」
真面目なだけと思ったが、中々に肝が座っている。
私を前にして、腹の探り合いもできるらしい。
これは、オセロ、アフロ仮面、私の弟が全て同一人物と疑っている目だ。
それも、かなり確信に近付いている。
まぁ、私の足下にも及ばないが。
「たぶん無理ね。さっきから連絡してるけど、全く反応なし。私でも、あの子の行動は読めないから。予定入れても忘れられることあるし」
彼女をメイドとして雇う話は無し。
迎え入れれば、弟から文句を言われ続けるだろう。
(オセロが何を隠したいのか、どうでもいいんだけどね)
カルタさんと別れた後、妹の被害に遭ったお店へ向かった。
これから修繕費用のことを話さなくてはならない。
(出店なんて許してないけど、口止め料くらいは必要かな?)
出費が増えないよう、財布の紐を固く閉じた。




