異世界でも透明人間になれるらしい
魔力も転生もあるんだよ、と前世の僕に伝えたい。
気づくと、僕は生後間もない男の子になっていた。
トラック事故からの意識喪失、流れるような異世界転生。
まさにテンプレ中のテンプレというやつだ。
魔法やステータス確認、レベルアップで全部解決とはいかない。
過去や未来、仮想空間や娯楽作品の世界に転生したわけでもなかった。
前世で娯楽に触れていて、本当に良かったと思う。
夢中になり過ぎて底なし沼にハマったけど、来世で活かせたから結果オーライだ。
そうそう、実は魔力がある世界だ。
火や水は生み出せないが、魔道具を使えば魔力から何でも生み出せるし自由に操れる。
魔力と魔道具は、前世の電力と家電に似ている。
家電=魔道具、電力=魔力だ。
魔道具に魔力を流し込み、いろんなものを生み出したり動かしたりできる。
結果、魔道具を作る魔道具師、剣型の魔道具で戦う魔剣士が特に大きな評価を受けている。
そんな僕は騎士爵リバーシ家で生まれた。
代々魔剣士、魔道具師を輩出している名門だ。
爵位は色々あるが、騎士爵は最下層の貴族だ。
本来一代限りの名誉職であるのに、テキトーな理由で続いているらしい。
名門であるのに何故一番下の階級かというと、国からの面倒な要請を突っぱねる為と言っていた。
僕は、姉妹に挟まれた長男オセロとして育った。
十三年経つが、大きなイベントは発生していない。
父は王国騎士団所属の筆頭魔剣士。
母は魔道具師ギルド所属の超売れっ子。
その両親から生まれた姉妹も優秀だ。
二つ上の姉は魔道具師として生活しながら、母と共同研究も行っている。
二つ下の妹は魔剣士見習いとして王城に出入りし、父と騎士団で訓練の毎日だ。
しかし僕は違う。
凡庸でありふれたどこにでもいる普通の子供だ。
魔道具師としても魔剣士としても大した活躍はできそうにない。
せいぜい暇な時に姉妹の特訓に付き合わされて、ボコボコにされるくらいだ。
(転生の女神様も分かってるじゃないか)
僕は魔力の存在を知ってから、女神様を勝手に想像して丁重に感謝を伝えた。
会ったことないし、女神かどうかも分からないけど。
だから自分に魔力がないと分かった時には、思わずクソ女の顔面をぶん殴ってしまった。
(空気だから大丈夫、誰を殴っても心は痛まない)
正確な魔力量は国家保有の魔道具しかわからない。
その魔道具は複製不可能とされ、通常の魔道具とは一線を画した宝具と呼ばれている。
ハードモードな人生は、今も続行中だ。
影の薄さは転生後も引き継がれ、慣れないうちは両親さえ見失っていた。
自分から目立とうとしなければ、声を上げても動いても気づかれない。
しかし、これが慣れると結構楽しかった。
家中に罠を設置すると、姉妹が面白いように引っかかってくれる。
お礼参りに、姉からは新作魔道具の実験台、妹からは魔剣の試し斬りに付き合わされるのだ。
もちろん僕は、ボロ雑巾のように弄ばれる。
(……けど、この身体使えるんだよなー)
五才くらいの時、試しに魔獣の群れに飛び込んでみたことがある。
魔獣は僕に気づかず、素通りしていった。
魔獣に対し、魔力以外の攻撃は効率が悪い。
それでも急所を何度も突けば、魔獣は倒れていく。
盗賊団も同じ要領で襲っていった。
やはり魔力を持っているからか、魔獣同様に魔力0の攻撃は通り辛い。
けれど回数を重ねれば、簡単に倒れてくれる。
魔獣よりは知能が高めだから、色々と楽しめた。
盗品は換金率の高いものから順に持ち込んだ。
足が付きそうな美術品は無視、食料品は腐る前に全部食べる。
(やっぱり金銀財宝だよね)
お金は全ての代用品だ。
戦利品は現金にして100万ゼニーくらい。
価値としては1ゼニーで1円だ。
この積み重ねが、僕の裏ボス活動資金として貯金箱を少しずつ満たしていくのだ。
「おらぁ! 死ねや!」
残党が居たのは分かっていた。
気配が丸見えだったので、簡単に避けて転ばす。
「バレバレ〜」
後は無防備な胴体へ、アタタタタタッオラオラオラァホワチャァアの鎖骨突きで仕留めればいい。
断末魔の悲鳴を上げることも体が大爆発することもなく、静かに泡を吹いて倒れていった。
そして、僕の活躍は見せつけない。
着ぐるみ姿では、僕と分かるまい。
盗賊団を壊滅させたと知られると、周囲が騒いで面倒事に巻き込まれる。
神童としてチヤホヤされることも、呪い持ち認定からの処刑ルートもめんどくさい。
財宝は怪しまれないように、馴染みの店へ素材や宝石を売った。
こどものおつかい風に行ったので、怪しくはないだろう。
結構なお金になったので、以降も夜に抜け出してお金を稼いでいる。
低リスク高時給なお仕事、バンザイ。
父と母は既に僕の才能を見切ったのか、必要以上に踏み込んでこない。
魔力の有無はわからないが、魔剣士や魔道具師の才能はわかるらしい。
(さすが現役達だ)
両親は、僕の姉妹に任せている。
当主になるのも、どちらかだろう。
魔力のある世界だから、実力があれば男も女もあんまり関係ない。
お陰で僕は自由に動ける、やったね!
あと両親共に美形だから、姉も妹も美少女だ。
僕の顔も、それなりに整っている。
遺伝子を実感する日々に感謝した。
僕の隠された力は、両親も見抜けていない。
赤ちゃん時のベッド破壊騒動、魔獣の群れ特攻事件は、偶然として処理されたのだろう。
「魔力、か」
もう影の薄さを消すつもりはないけど、やはり気になる。
試しに色々実験したが、それでも不思議パワーは手に入らなかった。
魔石をかじっても、生きた魔獣を味見しても、怪しい魔女の怪しい薬を飲んでもダメだった。
僕以外が食っても死ぬだけと後で分かったが、終わったことだから気にしない。
自分の魔力と別の魔力が混ざると、拒絶反応でお釈迦様に転生するらしい。
魔力濃縮薬も効果がなかった。
家族が落とした髪からこっそり抽出したけど、僕に魔力は定着していない。
配合比や飲む時間帯、気温、湿度に至るまでたくさん試したけど、ダメだったのだ。
やはり僕は魔力に嫌われている。
これはもう前世からの因縁レベルだ。
しかし、全ての身体能力が常軌を逸している。
「ただの人外じゃん。あーあ、魔力使ってみたかったな~」
両親から受け継ぐはずだった魔力の全てが、肉体に還元されて化け物レベルになってしまった。
できることは多い。
透明化できるほどの存在感の操作。
五感強化MAXでバグった身体能力。
エネルギーがある限り、何度でも回復する半不死性の肉体。
魔力を全く持たない故の魔力耐性。
前世の人間観察と組み合わせた鑑定眼。
健康で文化的な最低限度の生活は送れるはずだ。
(魔力があった方が便利気もするけど)
代わりに強くしてあげるわー! と空想で笑うそれなりに美人な女神様へ一応感謝した。
(殴ってごめんなさい。でも、悪いとは思ってない)
転生特典の魔力チートの方が正直嬉しかった。
仕方ないから、ただの筋肉くんで我慢しておく。
少数派は、数の暴力で押し潰されるのが世の常だ。
魔力が無ければ、異端者扱いされる。
最終的には、魔女狩りよろしく火炙りされて拷問ルートだ。
僕の身体はエネルギーが尽きるまで回復できるから、普通の魔力持ちよりもタチが悪い。
転生前の知識と経験値がなければ、普通に死ぬ運命だったのかもしれない。
だから、僕は偽装して魔力を持っているように振る舞わなければならない。
十六の年に、貴族は王都の学園に通う必要がある。
名誉の騎士爵でも避けては通れない道だ。
姉も、来年から王都で学園生活が待っているから準備していることだろう。
形式だけの試験でも、魔力測定は必須だ。
測定できる魔道具は貴重だが、出し抜けば以降の魔力0がバレるリスクはない。
残り二年の間に何とかしよう。
でも、あまり不安には思っていない。
対策は、ちゃんと考えてある。
「オセロ、新しいダンジョンの話は聞いた?」
姉からの言葉に、僕は興味ない風を装って無視してみる。
次の瞬間、爆弾をぶつけられて僕の頭は鳥の巣になった。




