あんまり美味しくなかったです。
僕は、二人の攻撃を両手で捌いていく。
シロナの剣は豪快だ。
自身の魔力を力任せに剣へ流し込み、相手の防御は全く気にせず上から下へ叩き割る。
妹が手に持っているのは、姉クロエが作った魔剣だ。
試作品とは言え、この試験中に折れるなんて期待はしない。
対して、カルタさんの剣は基本に忠実だ。
自身の魔力を丁寧に注ぎ込み、余すことなく使い切っていた。
剣の鋭さを増して耐久性を上げつつ、シロナの剣の合間に突いてくる。
何の変哲もないショートソードだが、日々の鍛錬が積み重なった良い剣だ。
僕は、攻撃を見透かして受け流す。
魔力を含めて余計な力は要らない、誰にでも身に付けられるただの技術だ。
剛剣も正剣も、素手で意外と何とかなるものである。
シロナが息を切らし始めた。
パワーは弱まりスピードは遅くなり剣もブレている。
「まだまだァ!」
ちょっとうるさいので、妹の剣を弾き飛ばした。
「あぁ!? アタシの剣っ!」
妹は剣を追って後ろに下がり、カルタさんが前に出た。
「いきます!」
剣がカルタさん主体に切り替わる。
素早く動き回ってからの足払い後、倒れる僕へ頭部に突いてきた。
容赦ないなぁ。
「どうですか!」
首を振って、短剣は地面に刺さった。
僕は、馬乗り少女の目を至近距離から捉える。
どうもこうもない。
さっさと終わらせて、早く家に帰りたい。
「いいんじゃない?」
「ありがとうございます!」
そんなに目を輝かせないでほしい。
とても申し訳ない気分になる。
「はああああッ!」
静寂を破ったのは、シロナの足音だった。
僕はポニーテールさんから抜け出し、大剣を横から押して軌道をズラす。
シロナの馬鹿力で、剣が深く地面に突き刺さった。
「あれ抜けないッ!? この卑怯者ッ!」
仮面の下で、人知れず舌を出す。
「何とでも呼んでくれ」
「忘れてもらっては困ります」
背後から、ショートソードが飛んできた。
「忘れてないよ」
僕は、二つの指で挟んだ。
地面に投げ捨てる。
「私、この試験中に投げましたか?」
「投剣くらい、予想できるさ」
実は、湖で見てるからね。
「では、これでどうですか?」
カルタさんは、ショートソードを両手に持った。
(二刀使い)
少女は桃色の目を細めた。
「これも驚かないんですね」
「たくさん持っているんだから予想できるよ、お嬢さん」
同い年にお嬢さん呼びは、ちょっと無いかもしれない。
「なるほど、勉強になりました」
彼女の剣が踊る。
刀身が短いから、僕の間合いに入っても小回りが利く。
手数も多いから、避けるのも一苦労だ。
剣先が素早く軌道を変え、僕の予測も平気で裏切ってきた。
それでも避けられるのは、僕の目が良いからだ。
下手な大人よりも余程強い。
(やりづらい)
魔剣を振り回すシロナよりも厄介だ。
僕は、腕を捻って剣を巻き取った。
妹の時と同じように二つの剣を上空へ投げ飛ばす。
彼女は新しく剣を二つ取り出し、僕へ×を書くように迫る。
バックステップで避ける。
「(落ちろ)」
彼女の小さな声で気づけた。
上へ投げ飛ばした二つのショートソードが、僕目掛けて突き刺そうと迫る。
僕は重心を強引に切り替え、身体を飛ばした。
「(飛べ)」
今度は、横からショートソードが飛んできた。
(まだ続くの?)
そうか、僕が二つの指で挟んで投げ捨てた剣。
刺さる寸前で辛うじて避ける。
剣が飛んだ先、ポニーテールの少女が居た。
僕を通り過ぎた剣を空中で掴んでいる。
逆手のまま元来た道を戻るように、横へ凪いだ。
「トドメッ!」
「残念」
僕は、手の甲で止めた。
桃色の目が驚愕で見開く。
「惜しかったね」
正面から防ぐのは初めてだった。
「いいえ」
カルタさんが横に動いた。
隠れていた大きな剣が魔力を纏っていた。
シロナが僕へ叩き付ける寸前だ。
「今度こそトドメです」
妹の剣が勢いよく振るわれた。
「おーりゃあぁッッッ!!!!!」
魔力放出で視界が真っ白に染まった。
これで、僕の耳と目が使い物にならないと考えたのだろう。
(その通りだ)
耳は轟音でしばらく使い物にならない。
目は寸前で閉じたから見えないことは無いけど、開けても輪郭が見えるくらいだ。
肉体を回復すれば、元に戻る。
でも、ここは彼女達の策略に乗ることにした。
目を閉じて、感覚を肌へ切り替える。
見える世界が変わった。
(見たいものは魔力だけ、それ以外は要らない)
頭の中で魔力だけが動き続ける。
見えたのは、カルタさんとシロナの二人、司会者席に居るクロエと進行役、その他大勢の観客達、遠くからカルタさんを観察している何人か。
その内、一人の弓兵が矢を手にしていた。
(さすが主人公、裏側でもう一つのシナリオが進行中か)
魔力を使っている何人かは、一人を除いて目に集中している。
狙撃手は一人、観測手は大人数、プロの仕事だ。
遠くの魔力は空を覆い、半球のように点在している。
魔道具も使われているようで、魔力が同期しながら信号のようなものを送っていた。
(ようこそ、最初の特大イベント)
思考が加速する。
(カルタさんの短剣が十本、僕に投げられた。彼女の魔力が籠められてる。自身を守る剣は、渡した試作品以外もう無い。使い慣れない魔剣だとほぼ無防備だ、守る術が無くなってる。じゃあシロナは? 魔力量は最初と比べて随分減ってる。試作品の剣に魔力も流れてるけど少し乱れてる。この試験中は大丈夫と思ったけど、妹の魔力には耐えられなかったか。シロナは、クロエのお守りがあるから流れ矢に当たっても平気だろう。もう何度か妹を小突けば倒れるけど、それも面倒だな。天才でもやっぱりまだ子供だったか。騎士団の訓練もそう甘くはない。それでも同い年の子供に比べたら実力は跳びぬけて凄いけど。そう言えば今日持って来た司会者達に出す菓子余ってたよな。狙撃手の矢はまだ発射されていない。けど指は掛かっている。すぐにカルタさん目掛けて発射される。視界は真っ白、観客は全員目を閉じている。進行役もクロエも見えていない。中継も魔力が籠っていない。映像には残らないはずだ)
計画は決まった。
(まずは、シロナだ)
十本の長剣が、僕に向かってきた。
苦も無く、全て避けた。
「「なッ!?」」
少女二人の驚きが耳に届いた。
事前に話していたからか、二人の視界は良好らしい。
真っ白な世界でも、僕とショートソードの動きは分かるようだ。
存在感を消し、僕はカルタさんに忍び寄った。
「何処行ったんですか!?」
「あー、カルタさん。たぶん、アタシ達の負けだ」
「なんでですか!? だってまだ奥の手がッ」
一人の少女は戸惑い、もう一人の少女が勝負を降りた。
二人は、僕を見失っている。
その間に用事を済ませよう。
遠くから飛んできた一本の矢を掴んでへし折った。
証拠を残さないよう、弓は粉々にして飲み込んだ。
遠くの魔力が少しの間止まった。
成功を確信した瞬間、最も隙が大きくなる。
投剣は空中で大きな円を描き、カルタさんの手に全て戻った。
僕は存在感を消して、青紫色の少女へ音もなく忍び寄る。
「(そのまま立ってて)」
「え? は、はい!」
今度は、シロナに近づいた。
「(おい、妹)」
「(どうした? 兄ちゃん)」
「(負けてくれ)」
「(いいよ)」
「(……やけに素直だな)」
「(だって、兄ちゃんの必勝パターンだもん。もうアタシ負けるでしょ? その代わり、お腹減ったから何か食べさせて)」
「(僕が作ったお菓子が余ってる。姉さんに言って分けて貰え)」
「(やった! 兄ちゃん大好き!)」
「(あー、はいはい)」
シロナは、その場でうつ伏せに寝転んだ。
僕は、カルタさんの前で倒れる。
視界が元に戻った。
観客は全員目を擦り、司会者はマイクを落とし、クロエは黙って僕を見ている。
『……ウッサイさん』
姉さんの一声で、進行役のウッサイさんがマイクを握った。
『優勝、カルタ・クラム!』
カルタさんは右往左往してから、とりあえず両手を上げた。
「えーっと……や、やったー?」
ざわめきは次第に歓声と拍手に包まれ、熱狂の中で公開試験は幕を閉じた。




