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バレたらアウト! 魔力0の裏ボス無双  作者: 雲川ぬーぬー


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19/23

あんまり美味しくなかったです。

 僕は、二人の攻撃を両手で捌いていく。


 シロナの剣は豪快だ。

 自身の魔力を力任せに剣へ流し込み、相手の防御は全く気にせず上から下へ叩き割る。


 妹が手に持っているのは、姉クロエが作った魔剣だ。

 試作品とは言え、この試験中に折れるなんて期待はしない。


 対して、カルタさんの剣は基本に忠実だ。

 自身の魔力を丁寧に注ぎ込み、余すことなく使い切っていた。


 剣の鋭さを増して耐久性を上げつつ、シロナの剣の合間に突いてくる。

 何の変哲もないショートソードだが、日々の鍛錬が積み重なった良い剣だ。


 僕は、攻撃を見透かして受け流す。


 魔力を含めて余計な力は要らない、誰にでも身に付けられるただの技術だ。

 剛剣も正剣も、素手で意外と何とかなるものである。


 シロナが息を切らし始めた。

 パワーは弱まりスピードは遅くなり剣もブレている。


「まだまだァ!」


 ちょっとうるさいので、妹の剣を弾き飛ばした。


「あぁ!? アタシの剣っ!」


 妹は剣を追って後ろに下がり、カルタさんが前に出た。


「いきます!」


 剣がカルタさん主体に切り替わる。

 素早く動き回ってからの足払い後、倒れる僕へ頭部に突いてきた。


 容赦ないなぁ。


「どうですか!」


 首を振って、短剣は地面に刺さった。

 僕は、馬乗り少女の目を至近距離から捉える。


 どうもこうもない。

 さっさと終わらせて、早く家に帰りたい。


「いいんじゃない?」


「ありがとうございます!」


 そんなに目を輝かせないでほしい。

 とても申し訳ない気分になる。


「はああああッ!」


 静寂を破ったのは、シロナの足音だった。

 僕はポニーテールさんから抜け出し、大剣を横から押して軌道をズラす。


 シロナの馬鹿力で、剣が深く地面に突き刺さった。


「あれ抜けないッ!? この卑怯者ッ!」


 仮面の下で、人知れず舌を出す。


「何とでも呼んでくれ」


「忘れてもらっては困ります」


 背後から、ショートソードが飛んできた。


「忘れてないよ」


 僕は、二つの指で挟んだ。

 地面に投げ捨てる。


「私、この試験中に投げましたか?」


「投剣くらい、予想できるさ」


 実は、湖で見てるからね。


「では、これでどうですか?」


 カルタさんは、ショートソードを両手に持った。


(二刀使い)


 少女は桃色の目を細めた。


「これも驚かないんですね」


「たくさん持っているんだから予想できるよ、お嬢さん」


 同い年にお嬢さん呼びは、ちょっと無いかもしれない。


「なるほど、勉強になりました」


 彼女の剣が踊る。

 刀身が短いから、僕の間合いに入っても小回りが利く。

 手数も多いから、避けるのも一苦労だ。


 剣先が素早く軌道を変え、僕の予測も平気で裏切ってきた。

 それでも避けられるのは、僕の目が良いからだ。

 下手な大人よりも余程強い。


(やりづらい)


 魔剣を振り回すシロナよりも厄介だ。


 僕は、腕を捻って剣を巻き取った。

 妹の時と同じように二つの剣を上空へ投げ飛ばす。


 彼女は新しく剣を二つ取り出し、僕へ×を書くように迫る。


 バックステップで避ける。


「(落ちろ)」


 彼女の小さな声で気づけた。


 上へ投げ飛ばした二つのショートソードが、僕目掛けて突き刺そうと迫る。


 僕は重心を強引に切り替え、身体を飛ばした。


「(飛べ)」


 今度は、横からショートソードが飛んできた。


(まだ続くの?)


 そうか、僕が二つの指で挟んで投げ捨てた剣。

 刺さる寸前で辛うじて避ける。


 剣が飛んだ先、ポニーテールの少女が居た。

 僕を通り過ぎた剣を空中で掴んでいる。

 逆手のまま元来た道を戻るように、横へ凪いだ。


「トドメッ!」


「残念」


 僕は、手の甲で止めた。

 桃色の目が驚愕で見開く。


「惜しかったね」


 正面から防ぐのは初めてだった。


「いいえ」


 カルタさんが横に動いた。


 隠れていた大きな剣が魔力を纏っていた。

 シロナが僕へ叩き付ける寸前だ。


「今度こそトドメです」


 妹の剣が勢いよく振るわれた。


「おーりゃあぁッッッ!!!!!」


 魔力放出で視界が真っ白に染まった。


 これで、僕の耳と目が使い物にならないと考えたのだろう。


(その通りだ)


 耳は轟音でしばらく使い物にならない。

 目は寸前で閉じたから見えないことは無いけど、開けても輪郭が見えるくらいだ。


 肉体を回復すれば、元に戻る。

 でも、ここは彼女達の策略に乗ることにした。


 目を閉じて、感覚を肌へ切り替える。


 見える世界が変わった。


(見たいものは魔力だけ、それ以外は要らない)


 頭の中で魔力だけが動き続ける。


 見えたのは、カルタさんとシロナの二人、司会者席に居るクロエと進行役、その他大勢の観客達、遠くからカルタさんを観察している何人か。

 その内、一人の弓兵が矢を手にしていた。


(さすが主人公、裏側でもう一つのシナリオが進行中か)


 魔力を使っている何人かは、一人を除いて目に集中している。

 狙撃手(スナイパー)は一人、観測手(スポッター)は大人数、プロの仕事だ。


 遠くの魔力は空を覆い、半球のように点在している。

 魔道具も使われているようで、魔力が同期しながら信号のようなものを送っていた。


(ようこそ、最初の特大イベント)


 思考が加速する。


(カルタさんの短剣が十本、僕に投げられた。彼女の魔力が籠められてる。自身を守る剣は、渡した試作品以外もう無い。使い慣れない魔剣だとほぼ無防備だ、守る術が無くなってる。じゃあシロナは? 魔力量は最初と比べて随分減ってる。試作品の剣に魔力も流れてるけど少し乱れてる。この試験中は大丈夫と思ったけど、妹の魔力には耐えられなかったか。シロナは、クロエのお守りがあるから流れ矢に当たっても平気だろう。もう何度か妹を小突けば倒れるけど、それも面倒だな。天才でもやっぱりまだ子供だったか。騎士団の訓練もそう甘くはない。それでも同い年の子供に比べたら実力は跳びぬけて凄いけど。そう言えば今日持って来た司会者達に出す菓子余ってたよな。狙撃手の矢はまだ発射されていない。けど指は掛かっている。すぐにカルタさん目掛けて発射される。視界は真っ白、観客は全員目を閉じている。進行役もクロエも見えていない。中継も魔力が籠っていない。映像には残らないはずだ)


 計画(プラン)は決まった。


(まずは、シロナだ)


 十本の長剣が、僕に向かってきた。


 苦も無く、全て避けた。


「「なッ!?」」


 少女二人の驚きが耳に届いた。

 事前に話していたからか、二人の視界は良好らしい。

 真っ白な世界でも、僕とショートソードの動きは分かるようだ。


 存在感を消し、僕はカルタさんに忍び寄った。


「何処行ったんですか!?」

「あー、カルタさん。たぶん、アタシ達の負けだ」

「なんでですか!? だってまだ奥の手がッ」


 一人の少女は戸惑い、もう一人の少女が勝負を降りた。


 二人は、僕を見失っている。


 その間に用事を済ませよう。


 遠くから飛んできた一本の矢を掴んでへし折った。

 証拠を残さないよう、弓は粉々にして飲み込んだ。


 遠くの魔力が少しの間止まった。

 成功を確信した瞬間、最も隙が大きくなる。


 投剣は空中で大きな円を描き、カルタさんの手に全て戻った。

 僕は存在感を消して、青紫色の少女へ音もなく忍び寄る。


「(そのまま立ってて)」


「え? は、はい!」


 今度は、シロナに近づいた。


「(おい、妹)」


「(どうした? 兄ちゃん)」


「(負けてくれ)」


「(いいよ)」


「(……やけに素直だな)」


「(だって、兄ちゃんの必勝パターンだもん。もうアタシ負けるでしょ? その代わり、お腹減ったから何か食べさせて)」


「(僕が作ったお菓子が余ってる。姉さんに言って分けて貰え)」


「(やった! 兄ちゃん大好き!)」


「(あー、はいはい)」


 シロナは、その場でうつ伏せに寝転んだ。

 僕は、カルタさんの前で倒れる。


 視界が元に戻った。

 観客は全員目を擦り、司会者はマイクを落とし、クロエは黙って僕を見ている。


『……ウッサイさん』


 姉さんの一声で、進行役のウッサイさんがマイクを握った。


『優勝、カルタ・クラム!』


 カルタさんは右往左往してから、とりあえず両手を上げた。


「えーっと……や、やったー?」


 ざわめきは次第に歓声と拍手に包まれ、熱狂の中で公開試験は幕を閉じた。

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