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バレたらアウト! 魔力0の裏ボス無双  作者: 雲川ぬーぬー


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16/23

しかし、サプライズからは逃げられない。

 プツン、と音が途切れた。


 必死過ぎと笑いたかった。

 けど全く笑えないんだよね、この脱出ゲーム。


 少女の手を取る。


 彼女は不安そうな顔で、僕を見上げていた。


「まぁ大丈夫だよ。市街地エリアは、すぐそこだから」


「行きましょう」


 歩いて一分の距離だった。


 終盤イベントの内容を僕が知っていたからこそ、できる芸当だ。

 余裕で辿り着いた僕達は、市街地エリアの中で椅子に座った。

 教室的な場所で、また二人並んでいる。


「仮面さん、これはどんなイベントなんですか?」


 少女は頬杖で顔を支えながら僕の方を見ている。


「脱出ゲームだよ。できなければ、アフロメーカーの一斉投下に巻き込まれる」


 このエリア縮小イベント、実はかなり過激だ。


 制限時間を過ぎると、結界が作られる。

 市街地と他エリア間に透明な防壁を作った後、アフロメーカーで市街地外の参加者を狙い撃ちし、問答無用で退場者を量産していく流れだ。


 もちろん、参加者は詳細を知らされていない。

 内容を隠しているのは、観客を楽しませる為だ。


 一秒でも遅れたら、すぐにボンッ! だ。


 姉は『サ・プ・ラ・イ・ズ♡』と言っていた。

 ちょっと引くくらい清々しい顔だった。


『(オセロ、聞こえる?)』


「クロエ様、どうしましたか?」


 姉弟とカルタさんに知られないよう、口調を丁寧に変える。


『(生存者が予定より多い。少し退場させて)』


 違ったらしい。

 お仕事の追加注文だ。


「イヤです、勤務時間外です。クロエ様は、最後のイベントまで自由にしていいと言われました」


 お仕事って、めんどくさい。

 必要最低限だけやって、後は何もしたくない。


『(それもそうね)』


 沈黙が数秒続いた後、打ち破ったのは姉の方だった。


『(特別手当、更に上乗せするわ)』


「やっほーい! 流石クロエ様、愛してるー!」


 カルタさんが驚愕の目で見ている。

 しまった、嬉しすぎてカルタさんを忘れていた。


 口調を元に戻す。


「どれくらい減らせばいいですか?」


『市街地エリア外の参加者全員。残したい人がいれば、アンタの判断で見逃していいわ。残り五分、存分に暴れて良いわよ』


「分かりました。特別手当、期待してます」


『はいはい、早く行きなさい』


 通信が切れた。


 ポニーテールさんは固まっていた。


「後は、一人で頑張ってね」


 カルタさんは青紫色の髪を振り回し、我に返った。


「そんな!? 最後まで一緒に居てくれないんですか!?」


「ごめんね、映像越しに見守らせてもらうよ」


 カルタさんは泣きそうだったけど、それ以上は踏み込んでこない。


「分かりました、でも気を付けてください」


「またね」


 背を向け、古びた教室の扉を閉めた。

 振り返ることなく次の目的地へ向かう。


「ごめんなさい! やっぱりちょっと待って!」


 少女が後ろから走ってきた。

 息を切らして膝に手を付いている。


「どうしたの?」


 顔を上げたカルタさんは、荒い息を整えて口を開く。


「最後に聞かせて下さい! 私と何処かで会いませんでしたか!? あと、クロエ・リバーシさんとはどんな関係ですか!?」


 一つ目の質問には答えられない。

 認めてしまえば、僕の正体がバレる。


 二つ目の質問は、よく分からない。

 恋愛話は、女子の大好物だから?


 どちらも、本当のことを話す訳にはいかない。

 正体がバレるなんて、裏ボスにあるまじき失態だ。


「君とはさっき会ったよね。クロエ様とはただの雇用主とアルバイトだよ」


 僕に出来るのは、話せることだけを話すだけだ。


 相手が冷静であれば突き返されるが、カルタさんは何故か必死だ。

 人は窮地になる程、緊張や焦りで視野は狭まる。


 要するに、頭がバカになる。


「本当にそれだけですか!?」


 桃色の瞳が今にも泣きそうに濡れている。


「うん、それだけ」


 さらに嘘と真実を巧みに混ぜれば、相手は何から考えればいいか分からなくなるのだ。


 嘘と真実の黄金比は半分、ってね。


「本当の本当に!?」


 ブンブン、と青紫のポニーテールが揺れている。


「うん、本当の本当の本当に」


「そうですか……(良かった)」


 カルタさんは、真っ赤な顔を隠すようにした後でチラチラ見ていた。


「良かった?」


 僕は地獄耳だ、独り言は自然と拾ってしまう。

 彼女の顔が、耳まで赤く染まっていた。


「いいえ何でもないです! いってらっしゃいませ!」


「? うん、いってきます」


 彼女のお辞儀は、有名人の記者会見にも負けない綺麗な九十度だった。


 腰痛めそう、と思いながら彼女から離れていく。

 歩きながら後ろを向くと、少女は両手を頬に当てながら身をくねらせていた。


「(ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も……)」


 なぜ新婚さんごっこ?


 女子は男子にとっての宇宙人、と小学生がコーヒー牛乳片手に語っていた。

 子供は大人にとっての怪獣、と主婦が路上パーティーで議論していた。


 ならば二つ掛け合わせた初対面の少女は、僕にとって宇宙怪獣だ。

 理解できた時には、きっと破壊光線で黒焦げにされるだろう。


(怖いから、必要な時だけ近づかこう)


 僕は脳内の重要人物フォルダーへ、カルタ・クラムを加えて保存した。


 ********************


 終盤の『エリア縮小イベント』は無事終了した。


 イベント直前では想定以上に多く生き残っていたが、アフロ仮面の尽力により予定人数ぴったりと上々の結果に収まった。


 今は最後のイベント準備のため、参加者は一時別室で待機している。


 生き残った参加者の休息、観客のトイレ休憩、主催者側の段取り再確認も含めて、三者三様思い思いに過ごしていた。


 しかし、廃ビルの屋上で身構える二人は別だ。


 主催者側のトップ、クロエ。

 トップの犬であるアフロ仮面、オセロ。


 リバーシ姉弟は、互いに睨み合っていた。


「予定人数は完璧に守った。五割増し」


 オセロは、足先を静かに深く廃ビルへめり込ませた。


「人数ぴったりになったのは、終了十秒前だった。私の心労考えなさい。二割増し」


 クロエは、白衣を風になびかせて両腕を組んでいる。


「終了まで残り五秒あった。けど、姉さんが早めて僕を結界内に入れなかった。姉さんの悪戯が過ぎて、キューティクルが台無しだよ。四割増し」


 弟はアフロメーカーによる焦げ臭にキレながら、手刀による斬撃で空気を裂いた。

 ビル屋上を縁取るボロボロの策が切断され、体重を預けていた姉がビルから消える。


 姉の落下中、弟は追撃の為に屋上から飛び降りた。

 姉は魔道具を取り出し、冷静に起動させる。


「アフロメーカー使い過ぎ。イベント中に急いで作らせなかったら、最後まで持たなかった。アフロメーカーは、職人芸の賜物よ。彼等にも臨時報酬を支払わないといけない。オセロ、アンタに何度も教えたはずよね? 三割増し」


 姉は笑顔のまま、瞳の奥で怒っていた。

 魔道具で自由に飛び回り、追撃を簡単に避ける。


「アフロメーカーの一斉投下なんて必要あった?」


「それを考えるのは私であって、アンタじゃない」


 姉に負けた弟は、市街地へ隕石のように落下した。

 地割れから姿を現し、さらに拳を地面へ叩き込む。


 彼は、空を見上げて姉を睨んだ。


「快晴ね。綺麗な夕日、もう少しで見れそうよ」


 クロエは、天気の話で話題を逸らした。


「はぁ……わかったよ姉さん。特別手当は三割ね。もうそれでいいよ」


 これ以上は引かない、という意思を弟は受け入れた。


 リバーシ家では日常茶飯事の姉弟喧嘩だ。

 本人達は、もちろん分かっている。


 けれど、他人には殺し合いにしか見えない。


「先に渡しとくわ」


 上空のクロエから、地面のオセロへ鍵が投げられた。


「例のヤツよ」


 その鍵は、優勝商品が入った宝箱を開ける為に必要なものだ。


 しかし、一つ疑問が残る。


「なんで、この鍵を姉さんが持っているの?」


 鍵が無ければ宝箱は開けられず、中に隠された優勝賞品が手に入ることはない。

 ミミックの抜け殻は、強度も折り紙付きだ。

 外側からの生半可な攻撃では、傷一つ付けられない。


「なんで、ってなんで?」


「これ、最初から姉さんが持ってたでしょ?」


 弟は、確信に満ちた表情で姉を眺めていた。


「えぇ、そうよ。誰も見つけないから退屈だったわ」


 姉は、疲れたアピールだ。


「参加者の皆さん、ここに悪女が居ますよー!」


 しかし、彼の声は誰にも届かない。

 クロエは、退屈そうにオセロへ語って聞かせる。


「市街地エリアには司会席も含まれてる。その中には私も居た。その私が鍵を持っていても不思議はないわ。市街地エリアが無人なんて、一度も言ってない。イベントを盛り上げる為の隠し事は、全て創意工夫になるのよ」


 納得はできるが、参加者へ伝えれば批判殺到だ。


「細かいことはいいから、早く移動なさい」


「はいはい分かりましたよ、お姉様」


 オセロ・リバーシは、廃ビルの壁を蹴った。

 宙に浮かぶ姉と交錯し、魔動具に軽く触れる。

 そのまま市街地エリア中心部へ向かった。


 日没が近い。

 太陽は静かに沈み始め、空を橙色に染めていた。


 クロエ・リバーシは、空の散歩を楽しんでいる。

 途中で魔道具が動かなくなったが、問題はない。


「弟が、お姉ちゃんに勝てるわけないじゃない」


 姉は忍ばせていた予備の魔道具を起動させ、鼻歌交じりに空を歩き続けていく。


 合間の女子トークも忘れない。


「もしもしシロナちゃん? お姉ちゃんだけど、今大丈夫? へぇ、騎士団の訓練も終わったのね。ちょうどいいわ、面白い肉袋(サンドバッグ)紹介できるんだけど今から来れそう? ありがとう、今度お礼に魔剣の調整付き合うね」


 クロエは通話を切った。


「私の魔道具壊した罰よ」


 クロエ・リバーシは悪女の笑みを浮かべながら、夕空をバックにダンスを始める。


 彼女が観客席へ戻る頃には、ちょうど最後のイベントが始まる時間だった。

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