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バレたらアウト! 魔力0の裏ボス無双  作者: 雲川ぬーぬー


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14/23

お待たせ致しました。次は暴走、暴走でございます。

 もし参加者が入って来ても、私の姿は見えない。


 気づかれる前に強襲すれば、どんな相手でも倒せるだろう。

 終盤のイベント開始まで体力を温存しておく。


「おじゃましまーす」


(邪魔するなら帰ってー)


 物陰から静かに覗くと、礼拝堂の入口で鬼が立っていた。


 慌てて口を閉じる。

 跳ねた心臓を落ち着けつつ、音を立てないよう体勢を整えた。


「また会ったね、カルタ・クラムさん」


 気付かれた。

 名前も覚えられている。


(敵になるつもりなんて全くない! でも相手が私のことを覚えていなかったら、戦わないといけないかもしれない! どうする!?)


 会いたいとは思っていたけど、でもこんなに早く!?

 身体が鳥肌になって震えていた。


(なんで!?)


 動揺を抑え、もう一度覗き込んだ。


 間違いない。


 自分達のパーティーリーダーを倒した人だった。

 鬼の仮面を被り、静かに入って来ている。


(どうする!? 戦う? でも私だってバレてます! 先制すれば倒せる!? でも……)


「場所バレてるよ? 埃を踏んだ足跡が残ってる」


 ハッタリに決まっている。


 私は気にせず細心の注意を払い、身を隠し続けた。

 埃だって計算の内、この礼拝堂は綺麗ではないけど埃が積もる程ではない。


(分かる訳ない)


「前から四番目、入口から見て中央右から二番目の机の奥」


 キュッ、と心臓を掴まれた気がした。


 自分の姿は見えないはずだ。

 足下だって、机と椅子で隠されている。


(なん、で……)


 スンッ、と鬼が静かに空気を吸う動きがあった。


「起爆前のアフロメーカー四つ。身近で二つ爆発、残り三人中、生き残ったのは君だけか」


 私の状況が全て把握されていた。


 理解した。


(あぁダメだ、敵うわけがない。私が有利でも絶対に勝てない、格が違う)


 でも、この人は参加者じゃない。


 主催者側の彼は、ルール違反に対してしか動いてこなかった。

 ルールを破る気も敵対する気も、私には全くない。


 深呼吸を一つして冷静さを取り戻す。

 大丈夫、頭の片隅に残っていた。


 隠れたまま、口が渇く前に声を出す。


「貴方は、さっき会った嘘吐きさん?」


「嘘吐きなんて失礼しちゃうな〜。偽名だって正直に言ったじゃないか」


 彼は、私の横をゆっくりと通り過ぎていった。

 近づいてくる彼の姿を捉え続けるが、視線を私に向けることはない。


(よかった、相手にされていない)


 本当に少しだけ、腹も立った。

 けど今は自分大事に、だ。


 仮面さんは、壇上を掃除し始めた。


「安心しなよ、時間になるまで寝るだけだから」


 仮面さんは、私の存在を気にした様子もない。

 彼は靴を脱ぎ、綺麗にした壇上へ寝転がり目を閉じた。


 私の行動は正しかったみたい。

 身体の力が一気に抜けた。


 実力差は歴然、あの人が動けば一瞬で負けるだろう。

 気にした分、私が疲れるだけだ。


「時間って、何のことですか?」


 壇上の彼は仮面を付けて寝転んだまま、下に居る私の質問に答えていく。


「君も気づいてるでしょ?」


「なにを、ですか?」


「今やってるのは、参加者同士の潰し合い」


 心を読まれている。

 本当に戦わなくて良かった。


「中盤があるなら終盤がある。終盤のイベント開始は夕方、もうしばらくは参加者同士で潰し合いだよ。君のように武器を蓄えてから、潜伏するのが一番いい」


 私が質問したことに答えてくれた。


 でも、なんで答えてくれた?

 嘘を吐かれた感じもない。


「どうして、私に教えてくれるんですか?」


「快適に眠る為だよ」


 戦いの最中に何を言っているんでしょう?


 いつ吹き飛ばされるかわからない状況で、眠るなんて正気じゃない。

 掃除も黙って見ていたが、始めは何かの儀式だと思っていた。


 痛いのはイヤだ、アフロにだってされたくない。

 お金も時間も足りない中、毎日この髪を綺麗にしておくことが私の楽しみなのだ。

 だからアフロなんて、絶対に御免だ。


 極限状態で眠れる程、私の肝は座っていない。


(一瞬だってチリチリにされて堪るものですか!)


 それでも続けているのは、オーターメイド引換券が金に代わるからだ。


 引換券を手に入れて貴族と交渉して大金を得れば、冒険者を続ける必要もなくなる。


 二十才を超えた大人が占める中、自分はまだ十三才の子供。

 冒険者としては幼過ぎる。


 お金があれば、諦めていた学校の準備金に回せる。

 冒険者だって、すぐに辞められる。

 服も食べ物も住むところだって、好きに選べる。


 私が生きたいように生きる為には、誰にも頼らなくていい位にお金が要るのだ。


「私のこと、舐め過ぎではないですか?」


 寝るのは大事だ、それは分かっている。

 自分の実力では勝てない相手、と理解もしている。


 けれど、強者も弱者に成り下がる時間がある。


(どれだけ強くとも、意識を無くした相手であれば……)


「舐めてない」


 ショートソードに指が触れた。


 仲良く戦うというルールに反しないよう、剣を持たないよう気を付けてきた。

 けれど今必要なのは相手を倒し、自分の実力を証明する分かりやすい武器だった。


「だから取引しない?」


 ショートソードを握った手を慌てて離した。


「誰か近付いてきたら教えて。何とかするから」




 意味が分からない。

 こんなに強い人が、今更私の協力を必要とする理由なんてないはずだ。


「僕と手を組んだ方が良くない? それまで寝てるから、誰か来たら起こしてよ」


 私にとって良いことしかない。


「君も寝れば? 僕は脳みそ半分ずつ眠らせるね。完全に寝落ちしないから便利なんだー」


 この提案に乗るべきだ。

 頭では分かっている。でも……。


「貴方にメリットは?」


「だから寝る時間が欲しくて、」


 そんな理由、信用できない。

 正直な嘘吐きさんであろうと、この場は流せない。


「嘘でしょう? 今、ずっと起きてられるって言ったじゃないですか」


「言ったかな?」


「言いました」


 机に寝転がっていた彼は、起き上がって私の方を見た。

 無機質な仮面が、今はとても怖い。


「どうして、僕にメリットがないのかな?」


 恐怖で声が震えないように我慢しながら、喉と舌をゆっくり動かす。


「貴方の実力なら、私が居ようといまいと、関係ない。むしろ、私が居ない方が、自由に動ける。違い、ますか?」


 今すぐに逃げ出したい身体は、太腿を抓ることで抑え込む。


「そうだね」


「では、どうしてですか?」


「僕が君達のリーダーさんを倒した後、君お礼言ったでしょ? 近寄らずに逃げるのが普通なのに、君は感謝してお辞儀までした。その時に思ったんだ。少女の成り上がり(シンデレラグレイ)は見てる方も楽しそうだなぁ、って」


 は?


 身体が耐え切れず、ゆっくり崩れ落ちた。

 意味の分からない理由を聞いて、気が抜けている。


「え~っと、つまり……情けを掛けた?」


「純粋な君への興味、と言ってほしいね。僕も年頃の男の子だ。同年代の女の子に興味を持つのは、至って普通のことじゃない? じゃ、後はよろしく〜」


 仮面の人は、元通り机へ寝転んでいた。

 寝息まで聞こえる。

 これで半分起きているんだから意味不明な人だ。


「なんですか、それ」


 体操座りをした脚の上に、顔を埋めた。

 今までの緊張が解けて、少し熱を持ってしまったらしい。


 口元がにやけるのも、きっと吊り橋効果だ。

 極限状態で結ばれる男女の話なんて、冒険者をやっていればよく聞く。


 大丈夫、勘違いなんてしない。

 絶対に気のせいだ。


 きっとそうだ。

 そうだと言ったら、そうなのだ。


(だから私は誰に言い訳したいんですか!?)


 一人でボケとツッコミを繰り返した後、仮面の少年を見た。


(どんな風に寝ているんでしょうか?)


 起き上がって靴を脱ぎ、壇上に昇って彼へ近づいた。


 身体の大きさは私の方が大きいくらいだ。

 同い年の少年少女であれば、特に不思議なことではない。


 女の私の方が、男である彼よりも身長が伸びるのは早いんだろう。


(口説かれた、んですよね?)


 子供のくせに、変なところで大人びている。

 これも長年の冒険者生活のせいだ。


『純粋な君への興味』

『僕も年頃の少年だ』

『女の子に興味を持つのは』


 彼の口元を見ていると、さっきの台詞が頭の中で繰り返された。

 この男の子は、小さな寝息を立てながら目を閉じている。


 無意識の内に手が伸びて、彼の肌に触れていた。


(体温、低過ぎませんか?)


 気温は寒くない。

 放っておいても、風邪をひくことはないだろう。


 でも万が一に体調を崩してしまえば、私の身も危ない。


 今、彼と私は協力者だ。

 もし礼拝堂に侵入者が来れば、私の強さでは不安が残る。


(これは彼に快適に寝てもらうことで、私の身を守る為に必要な……そう、私は彼の抱き枕です! 安心感と癒しを与えながら寝る姿勢が整えば、快適な睡眠を提供できます!)


 私は隣に寝転んだ。

 彼の両手を身体に纏わせ、自分の手を彼の肩に置く。


(ふふっ、特等席ゲット)


 私は目をつぶった。


 戦場の緊張もあったんだろうけど、今までにない安心感で眠りに落ちていった。


 ********************


 公開試験終了後の夜、カルタ・クラムは夢を見た。

 登場人物は、彼女とアフロ仮面の恰好を崩さないオセロ・リバーシ。

 うふふ、あはは、と夕日のビーチで水を掛け合っている。


 その後はまぁ、その、あれだ。

 青春真っ盛りの脳内お花畑ちゃんが、幼い妄想でキャーキャー言うヤツである。


 早朝に夢から覚めた後、少女は仮面さんが夢に出てきた理由を考えた。


 彼女自身、現実での行動理由もたくさん考えた。

 普段は男子に興味のない自分が、初対面の相手に添い寝までするなんて予想外だ。

 恥ずかしさで赤面し、顔の熱さで何度も水を被った。


 夢とは深層心理が表れるもの。

 答えに辿り着いた彼女は、顔を真っ赤に興奮させながら抱き枕でベッドを殴り続けた。


 結果、宿の女将に説教されてタダ働きすることになったらしい。

 それでも彼女のニヤニヤ顔は消えず、さらに怒られた。


 そして、女将は色々と察した。

 気になって質問した結果、毎晩カルタの相談を聞かされている。

 最初は退屈そうに聞いていたが、少女の片恋相手へ楽しそうに八つ当たりを始めた。


 今日も女将は、面白半分に入れ知恵する。


 桃色の目は、今日も絶賛片想い中だ。

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