毛根はいねがぁ〜
「また会いましょー!」
カルタさんは、楽しそうに手を振っていた。
パーティーメンバーの二人と一緒に離れていく。
そんなことよりも、今日は絶好のお昼寝日和だ。
昼寝するか夜寝るか選べと言われても、片方だけなんて耐えられない。
熟睡感だけで言えば、夜が圧倒的に勝つ。
けれど、自然の中で眠ることも素晴らしい。
深緑と静寂の世界で目を閉じる。
目蓋越しに柔らかい光を感じ、切り株に頭を乗せて、大自然を鼻から口へ吸い込んで吐き出す。
「最高だ」
本来、僕に昼寝は必要ない。
どころか、夜眠る時間も必要ない。
食べ物さえあれば、常に動き続けることができる。
僕の身体は既に人外枠だ。
しかし必要なくても、簡単には辞められない。
異世界に来て、睡眠は一つの趣味になった。
通信機にノイズが走る。
僕のお昼寝タイムを妨害するお邪魔虫だ。
『(愚弟、今度は河川エリアよ)』
無視する。
『(今すぐ起きなさい)』
羽虫のように耳元でうるさく喚いている。
仕方ない、殺し合いだ。
「姉さん、僕と戦争したいの?」
「(一生仮面生活でもいいのね? 仮面に接着剤を仕込んでいるのだけれど)」
降伏するのが身の為らしい。
「ごめんなさい、あと五分」
『(ダメよ、今すぐ行きなさい)』
「最高に気持ち良く寝られそうなんだけど」
『(ミミックの件、協力しなくてもいいの?)』
寝起きでも、すぐに覚醒する自分が憎たらしい。
「あ~いあい」
僕は腕の力だけで飛び起き、河川エリアに向かった。
********************
盗賊団と騎士団が互いに切り合っている。
剣の殺傷能力は拳よりも高い。
当たり所が悪いと、簡単に死ぬ。
普段の鬱憤を晴らすため、共に気合が入っていた。
盗賊団と騎士団は仲が悪いことで有名だ。
でも、殺し合いは外でやってほしい。
(もう全員、僕が倒してしまおうか?)
周りに聞こえないよう、通信機越しに姉と話す。
「(姉さん、着いたよ。どうする?)」
『(全員)』
姉からの指示で、全滅が決定した。
忍び足で悪い子達へ近づき、急所を突いていく。
厄介そうな相手には、アフロメーカーをぶつけて注意を引いた後に殴り倒す。
今日一日、自由に動けないようにすれば充分だ。
人体の構造は大きく変わらない。
後は体格と性別差さえ考えれば、大体上手くいく。
全員をアフロにして、両陣営から下っ端一人をあえて見逃す。
他全員を地面へ叩き付ければ、一旦終わりだ。
「終わりましたー! 次の指示くださーい!」
見逃した二人に声が届くよう、大声で姉に聞いた。
これで、僕から逃げられたと錯覚させる。
しかし、逃がすつもりなんて全くない。
『(追跡後に片付けて。先に盗賊団)』
「了解でーす! 待機ですねー! 」
嘘だ。
姉も分かっている。
逃げ道を用意すれば、安心して気も緩む。
人は焦ると、周りが見えなくなるものだ。
僕は、盗賊団側の一人を静かに追いかけた。
気配を消しつつ、進路を姉に伝える。
「大変だ! 全員倒れた! 騎士団もだ!」
「なんだとっ!?」
本隊が待機していた。
やっぱり先行隊だったらしい。
「なにがあった?」
「それが変な仮面被ったヤツに襲われて」
「人数は?」
「一人です!」
「そのアフロは?」
「ヤツにやられました」
下っ端を見て、全員ゲラゲラ笑っている。
君達も、すぐに彼の仲間入りだ。
(ご案内サンキューでーす)
人数分のアフロメーカーを両手に握り、全員の頭部目掛けてばら撒いた。
「なんだこれ!?」
「髪がアフロに!?」
「誰がこんなことをっ!?」
「アフロ仮面参上!」
盗賊団全員が呆気に取られていた。
下っ端だけは、青い顔で腰を抜かしている。
僕は正体を明かした後、下っ端以外全員叩き落とす。
ダッセー! と言ったお調子者にはアフロメーカーを二つ投げておいた。
アフロ仮面はないな、もっとカッコイイ名前にすればよかった、と自分でも分かっている。
(でも、言われるとムカつく)
ストレス発散も兼ねて、もう一つ叩き付けた。
まだまだ精神修業が足りないらしい。
(オセロ十三ちゃい、難しいことよくわかんない)
アフロメーカーを全員へばら撒いた。
「期間限定の増量キャンペーンでーす! 皆さーん、良かったらぜひどうぞー!」
お調子者の髪の毛達は残らず毟り取り、毛根ごと絶滅させておいた。
大丈夫、スキンヘッドにも需要はあるよ。
(知らんけど)
見逃していた一人は、真っ白な顔で離れていく。
彼には、引き続きアフロ仮面の宣伝をしてもらおう。
盗賊団のボスは、十回くらいアフロメーカーを叩きつけて同じ数だけ毛根ごと引っこ抜いた。
部下の無礼は上司の教育不足だ。
責任は、君の髪の毛に払ってもらう。
元凶は潰しておかなければならない。
殺し合いなんてしてほしくない。
人類皆兄弟、隣人を愛し又愛されよというヤツだ。
盗賊団メンバーにはハゲも居た。
ボスはハゲていなかった。
部下の気持ちを理解しデキる上司を目指してほしい、という僕からの細やかな願いも込める。
決して、昼寝を邪魔されたからではない。
とっても怖―い人の存在は、アフロ仮面の名前と頭部完全脱毛の二つセットで広がるだろう。
カルタさんにもアフロ仮面と名乗ったから、噂が広まるのは二倍だ。
騎士団側にも泳がせているから、すぐ三倍になる。
みんなが大人しくなれば、お仕事も楽になるだろう。
周囲に誰も居ないことを確認してから、イヤホンで姉に話し掛けた。
「さて、今度は騎士団側か。姉さん、特別手当出してくれるよね」
『(オークションの結果次第かな)』
姉さんが作った魔道具の失敗作達か。
使い道なんてあるのかなぁ?
けどマニアもいるらしいから、意外と高く売れるかもしれない。
「ねぇ、知ってる? 家族内でもパワハラってあるんだよ?」
『(パワハラ? なにそれ? 美味しいの?)』
さすが異世界、そんな概念は千切って丸めてゴミ箱にポイすればいいらしい。
「なんでもないで~す」
騎士団のボスも盗賊団のボス同様、ムダ毛の永久処理を忘れない。
髪の毛多いと、甲冑の中が蒸れるでしょう?
全部無くせば、永遠に気にしなくて済むよ。
やったね!
「感謝してくれても良いんだからね!」
『(ウチの弟、マジキモい)』
「黙らっしゃい!」
姉には同意だが、次はいつできるかわからない。
できる時にしなければ、一生言えないのだ。
アフロ仮面の名前は個人、組織問わず口コミのように広まっていく。
噂を知って尚、僕に切り掛かる人もいた。
けど、すぐに退場させた。
もちろんアフロ仮面の名乗りで噴き出した奴は、永久脱毛も無料で付けておいた。
大丈夫、諦めないで。
君達の毛根はたぶんきっと頑張れば何とかなる。
(希望は捨てちゃダメだよ!)
僕の目撃者は増やした。
早々にルール違反者は居なくなるだろう。
やっと僕のお昼寝タイムの始まりだ。
『(オセロ、お仕事よ)』
『少しは休ませて?』
今日、僕が休む時間はないかもしれない。
ハゲ量産計画は、僕の所為じゃないから!
姉は恨んでもいいから、僕のことは恨まないでください!




