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バレたらアウト! 魔力0の裏ボス無双  作者: 雲川ぬーぬー


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11/23

湖の乙女と水龍刀

カルタ視点です。

オセロと会って、別れ、再開するまでの話。

 水面に張った魔力に反応があった。


 その方向へ、私は水に浮いたまま顔を傾ける。




 男の子と目が合った。




 自分と同じ年くらいに見える。

 少年は、無造作に伸ばされた銀色の髪を水で濡らしていた。

 平凡な茶色の瞳は、少し困惑している気がする。


(追っ手ではない?)


 私は、数日前から何者かに追われていた。

 盗賊でもならず者でもない、組織立った兵のような集団だった。


 もちろん全く身に覚えはない。

 冒険者として人並みの生活を送る中、誰かの視線を感じ続けるなんて不気味過ぎる。


 だから、住処を変えた。

 孤児院暮らしで身内は知らないから、各地を転々とすることには慣れている。


 それでも誰かに追われ続け、三日前には路地裏で襲われた。

 用心していたから、簡単に撃退できたけど目的が分からない。


 居場所を知られたのは、宿屋の亭主の所為だ。

 カルタ・クラムという本名は出していないのに、亭主が私の名前を知っていた。

 ショートソードを突き付けると、聞いてもいないことまでペラペラ教えてくれた。


 どうも知らない間に木っ葉貴族の怒りに触れてしまったらしい。

 名前は忘れたけど、先日受けたクエスト報告が失礼に映ったようだ。


 確か、『養子にならないか?』とか『息子が君に一目惚れして』とか言ってきた人だ。


 会って二度目の相手に言うことではない。


(もう冒険者辞めてしまいましょうか?)


 とりあえず宿泊代は払わず、十泊分のお金を迷惑料として頂戴した。

 客のことを勝手に話すなんて、今後二度としないでほしい。


 宿に泊まれたとしても、私のことを勝手に話されると困ってしまう。

 貴族御用達の宿屋であれば、個人情報は守られるけど相場は高い。

 ただの平民では、何日も払えない。


 幸い、野宿には慣れている。

 彼と目が合ったのは、魔力で水に浮きながらこれからどうしようと空を見ている時だった。


 冒険者として小さな頃から生きてきた私は、人より視線に敏感な方だ。

 手練れの追っ手でも、すぐに分かってしまう。

 けれど、男の子には直前まで一切気づかなかった。


(何者?)


 何も読めない。


(目的は何?)


 沈黙が長い。


 牽制で一本投げてみようか、と緊急用のショートソードを抜き去ろうとした時だった。


「おはよう! 良い朝だね!」


 満面の笑顔で、私にまっすぐ挨拶してきた。

 驚いて固まってしまった。


 その後、彼は唐突に両手で水を掬って美味しそうに飲み始める。


「な、ななな……っ!」


 この湖で、私は何度も体を洗っている。


 知らない男の子にその水を飲まれた。


 気付いた時には、抜きかけていたショートソードを無意識に投げていた。


「新手の変態ですか!?」


「変人の方が嬉しいな~」


 彼は投剣を早業で掴み、懐に仕舞い込んだ。


(そんな!?)


 簡単に避けられていいはずがない。

 十三才とは言え、素人の冒険者ではないのだ。


(屈辱だ! こんな気の抜けた相手に!)


 銀髪の子は、私を無視して顔を洗おうとしている。


「偶然通り掛かって、冷たい水で顔洗おうと思ったんだけど?」


「言い訳なんて聞きたくありませんっ! 私が入っていた湖の水飲んだじゃない!」


「いや、別に君が入ってたとかはどうでもいい。もしかして、お出汁気分?」


 恥ずかしさで死にそうだ。


「死ねぇぇぇっ!!」


 殺すつもりで、ショートソードを投げる。

 岸辺に移動し、置いていた腰ベルトから残りの短剣を全て引き抜いた。

 変態水飲み男を串刺しにする為、全て投げた。


(どう、してッ!?)


 息切れしながら膝に手を付いた。

 でも、男の子からは目を離さない。


 短剣は打ち止めだ。

 十本全て使い切ってしまった。


 そんな私の焦りを無視して、彼は呑気に剣を品定め中だ。

 最後に投げた短剣を楽しそうに振り回している。


 男の子の態度に気を抜いて、少し視線を外した。


 ヒュン、と自分の耳元で音がした。


「え?」


 ゆっくりと首を後ろに回した。


 斜め後ろの木が貫かれている。

 投げられたショートソードが、さらに奥の木に深く刺さっていた。


(ハァッ!?)


 私の短剣は、極々ありふれたものだ。

 強度も高くない。


 魔力が籠められている感じでも無かったのに、太い幹を貫いてしまった。


「うん、気に入った。貰ってくよ~」


 いやダメだ! 私の武器が無くなる!


「な、なに人の武器持ち逃げしようとしてんですか!? 返して下さい!」


 彼は、無言で私を見ている。

 やってしまった。


(こんなに強い人、私が敵うはずがない)


 自分の身体が震えているのも忘れ、せめて一発殴ってやろうと構える。


「え~、ダメ?」


 目の前の相手から逃げないよう、服を強く掴んだ。


「ダメ、です!」


 男の子は少しだけ考える素振りを見せた後、何か思いついたように手を叩いた。


「仕方ないなぁ、ちょっと動かないで」


 私に見えたのは、複数の剣が投げられたことだけだった。


 死んだと思って、目をつぶる。


(何にもできなかった)


 美味しそうなお菓子を食べることも、オシャレな服で街を歩くことも、気に入った部屋で自由に住むことも、かっこいい男の子と付き合うことも、全部最初から叶わない夢だった。




 衝撃が、いつまで経っても来ない。

 目を開ける。


「なんで……えッ!?」


 私の前に長剣が刺さっていた。

 柄は、静かな湖のような目の覚める青緑色だ。

 刀身は銀色、太陽の光で薄い青に染まっていた。


(とても綺麗……)


「それ、あげるよ。だから貰うね?」


 彼の言葉で緊張が解けた。

 地面にへたり込みながら、剣を見た。


 銘は、水龍刀と言うらしい。


「またね」


 よくわからない内に終わってしまう。


(そうだ! 名前!)


「カルタ・クラムです! 覚えときなさい、変態!」


 私は、噛み付くくらいしかできなかった。

 男の子は、音もなく立ち去っている。


 彼は私を見て苦笑いしていた。


(今更だけど、敵と思われなくて良かった。そう言えば、男の子とマトモに戦ったことなんてなかったな)


 負けてしまったけど、少し楽しかった。

 また何処かで会えたら、貰った剣のお礼をしよう。


(さっさと追っ手の件を解決したくなってきた)


 水龍刀を掴んで彼の鮮やかな動きを真似しながら、残りの短剣九本を回収する。


 九本全て、木には刺さっていなかった。


(そっか、名前聞いておけばよかったな)


 短剣の刺さった兵士が血を流しながら倒れていた。


 銀髪の男の子は、私にとって命の恩人だったのだ。


 湖の朝は、霧が立ち込めやすい。

 周囲の景色が白く染まる。


(足音からして追っ手は残り四人。短剣を抜いている暇は無し。殴りましょうか?)


 自分の手には、彼から贈られた長剣がある。


(それとも、使いましょうか?)


 自分を使え、と水龍刀が言った気がした。


 長い剣や魔剣は使ったことがない。

 けど、他に選択肢はない。


 自分の魔力を淀みなく剣に流す。

 刀身が青く輝き、独りでに剣が水を帯びた。


「スゥ…………ハァァッ!」


 息を吸った。

 吐き出して剣を横凪ぎにした。

 それだけで三人の足音が消え、周囲の木々が薙ぎ倒された。


 霧が晴れる。


(すごい、凄い凄い!)


 魔力もほとんど使っていない。

 纏っている水も特別なものには感じない。


 ただ他と違うのは、水の刃に小さな土が混じっていることだ。

 纏った水を小さくして、切るのではなく当たった場所を吹き飛ばしている。


(でも、これは人間に使ってはダメですね)


 剣に魔力を込めて安定させつつ、足取り軽く最後の一人を追い詰める。


「や、辞めてくれ! 頼む、命だけは!?」


 人だったものが三つ、何も言わずに置いてあった。


 命乞いの兵に笑顔を向ける。

 もう明日の心配をする必要がない。


「いいですよ?」


「本当か!?」


「その代わり、情報を下さいな?」


 兵士からの情報を手に、私は森を出て街に戻った。


 私も気づかなかった脅威に、あの男の子だけは気づいていた。

 名乗ることもなく、力を貰い、『強くなれ』と背中を見せて去った彼。


(また会えるといいな)


 街に戻ってすぐ、私はアルバイト募集の広告を見つけた。


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 強い人が集まる、とも担当者は言っていた。


 あの名前も言わずに消えた、私のヒーローはとても強かった。


 もしかしたら、会えるかもしれない。


「どうすれば参加できますか?」


 即決で参加を決め、臨時のパーティーメンバーを集め、試験に挑んだ。


 今、私は無事に生き残っている。


 そんな時、仮面の人に出会った。

 彼も、あの銀髪の男の子に負けるとも劣らない強さを持っていた。

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