悪い子はいねがぁ〜
アフロメーカー公開試験当日、市街地に力自慢と観客が集まっていた。
『野郎どもぉ! 準備はできてるかー?』
「おぉ!」
コール&レスポンスである。
急造の舞台上で、ド派手な格好の進行役が拡声器越しに叫んでいた。
この拡声器も僕発案、姉作成の魔道具だ。
無線マイクを模しながらも、使用者の魔力をエネルギー源として高効率で声を大きくしている。
集まった参加者は、百名を軽く超えていた。
舞台下で沢山の冒険者、浮浪者、平民、貴族と老若男女身分問わず、音楽フェスの如く熱気で茹だりそうになりながら声を上げている。
僕は、おしくらまんじゅうを後ろから眺めていた。
最古参のファンは、有名バンドを最後方から無言で応援するという。
より玄人感を滲ませたいなら、腕を組んで壁にもたれ掛かると尚良し。
『もっと声出せ!』
「「「「「おぉ!」」」」」
『足んねぇなぁ! やる気あんのか!』
「「「「「おおぉぉおッ!!」」」」」
『ニューヨークへ行きたいかー!?』
「「「「「おぉ!…………………………へ?」」」」」
場内は静まった。
ごめんね、うるさいのは嫌いなんだ。
『(あの、反応悪いんですけど大丈夫ですか? クロエ・リバーシ様)』
進行役が舞台袖に居た姉へ心配そうに聞いていた。
僕くらいになると、口元の動きで何話しているか分かるし声も拾える。
『(いいのいいの、弟が一度見てみたいって言ってたから。よく分からないけど、お約束なんですって)』
『(はぁ、そうですか。では、このまま進めますね)』
こほん、と進行役は一つ咳払いをした。
司会さん滑らせてごめんね、と心の中で謝る。
手作りお菓子を用意したから、実況の合間に食べて感想でも聞かせてよ。
『参加者の皆様、本日はクロエ・リバーシの新作魔道具公開試験にお越し頂き誠にありがとうございます。司会進行は、この不肖ダーマレ・ウッサイが務めさせて頂きます』
ウッサイさんは、静まった場内で粛々と試験内容を話していく。
『公開試験の内容は、お宝探しです。無数に設置された宝箱の中から優勝賞品を探し出して頂きます。優勝賞品はリバーシ家の秘蔵っ子クロエ・リバーシ様の優先依頼権、貴方だけのオーダーメイド魔道具が待っています。知っての通り、クロエ様は気に入った相手にしか魔道具を贈ることはございません。大金を積んでも、王族であっても、平気で依頼を断られます。それがなんと今回は、無条件でお受けするとのことです』
ゴクリ、と舞台下のほとんど全員が息を飲んでいた。
『皆様の戦いぶりは常時モニタリングされ、各地の液晶型魔道具にリアルタイムで放映されます。リバーシ家を始めとする貴族、王族、他国の要人、その他大勢の皆様の目にも触れます。冒険者には実力を証明するチャンス、他の方にも自分をアピールする格好の場となるでしょう。途中参加も、クロエ様の独断と偏見で認められますので悪しからず』
(姉のお遊びが、こんなに規模の大きいものになるとは……)
その彼女は、舞台上で小綺麗にしていた。
普段の駄姉っぷりを知っているので違和感しかない。
姉さんが魔道具師を目指したのは『自分が楽して食っちゃ寝生活でゴロゴロする為』だ。
全く尊敬できないが、歓声を聞くとやっぱり凄い人らしい。
『では、クロエ様どうぞ』
マイクを受け取った姉さんは、綺麗な外面のまま口を開いた。
『宝箱には新作魔道具の小型爆弾他、私の失敗作も入れてます。どちらも殺傷能力はないので、ご安心下さい。失敗作を欲しい方が居れば、試験終了後に格安でお譲りしますので本日中にご連絡願います。購入希望が複数名の場合、事前審査含めたオークションで購入者を決めます。あと、殺しとか部位欠損は無しです。みんな仲良く戦ってくださいね。監視していますので、約束破れない子にはとっても怖ーい人を向かわせます。では皆様、ご健闘下さい』
クロエ姉さんは片腕を上げた。
『始め』
姉の手が声と共に振り下ろされ、花火が打ち上げられた。
(金、掛けてんな~)
我先に、と参加者が一斉に駆け出した。
僕も気配を消して、最後尾から追いかける。
見られても問題ないように、何の変哲もない覆面で顔を隠していた。
『ではゲーム説明に参りましょう!』
司会進行役の声が、各エリアに複数設置されたスピーカーから響いている。
『舞台は森あり川あり山ありの自然の要塞や市街地です。市街地エリアは観客席と司会席を含んだ中央に位置し、他エリアが周囲を取り囲んでいます。宝箱の中には小型爆弾アフロメーカーの他、多数の魔道具と一つのオーダーメイド引換券が紛れてますのでくれぐれもご注意ください。制限時間は今日の日没十八時まで。引換券は相手から奪うも渡すも交渉するもご自由に。ただし殺し合いや部位欠損に発展しそうな場合、関係者にはご退場頂きます』
クロエ姉さんは目を閉じて耳を塞ぎ、両指で押さえていた。
口も開けていたが、黙っていられずウッサイから拡声器を奪い取る。
『そうね、実況のウッサイさん。声量は自動調整されるのだから、もう少し静かに話してくれる? 顔がうるさいのに、声までうるさいなんてクビにするわよ』
『失礼しました! クロエ譲!』
『アンタ、クビ』
パチン、と指が鳴った後で床に引きずられる音がスピーカー越しに聞こえてきた。
『そんな~!?』
な~、な~、とウッサイさんの叫び声が響いた。
きっと姉さんの護衛が連れて行ったのだろう。
クロエちゃん、ホント恐ろしい子。
『(オセロ、聞こえる?)』
片耳につけた無線イヤホンから姉の声が聞こえた。
スピーカー越しではない。
僕だけに聞こえる内線だ。
「(問題なし。僕の通信機も感度良好だね)」
『(無駄口は良いわ、それに作ったのは私よ。森林エリアで不穏分子発生、鎮圧なさい)』
「(了解)」
この場所は、既に僕の庭だ。
早朝エリア全体を走り回って、地形を覚えた。
地面に片手を置いて振動から位置と人数を把握し、地獄耳で口論の内容を聞き取る。
「ぶっ殺してやる!」
「返り討ちだ!」
別グループ同士の二人が元気いっぱいだった。
周囲の人間は手を出さず、慌てている。
賢明な判断だ。
手間も減るからそのまま良い子でいてほしい。
参加者の殆どは腕に覚えのある人達だ。
中途半端に強い者ほど、血の気が多く喧嘩っ早い。
今回は、半端者が多そうだ。
(見せしめに丁度いい)
目立たない覆面と、鬼の仮面を取り変える。
「姉さん、二人を映して」
「わかった、お披露目ね」
取り出した端末で、会場の液晶魔道具を確認する。
会場中のモニターへ元気過ぎる二人が映っていた。
端末を閉じた後、アフロメーカーを両手に握った。
走って数秒、辿り着くと物騒な言葉で威圧し合っている。
二人とも、剣で相手に切り掛かるところだった。
僕は飛び出し、両手の平で二つの剣を受け止めた。
「「なんだオマエは!?」」
受け止めた二つの剣を絡め捕り、空へ放り投げる。
「悪い子、見〜つけた〜」
二人の視線を空へ誘導後、掌底で鳩尾を叩いて頭部目掛けてアフロメーカーを投げつける。
「「グハッ!?」」
二人は驚声を重ね、呆気なく倒れてくれた。
彼等の首元に指を当て脈拍を図り、口元を注視して空気の流れから呼吸を確かめる。
命に別状なし、我ながら完璧だった。
おまけとして、もう一度アフロメーカーを投げつけてアフロを更に増毛する。
(良かったね、ハゲていたのに髪が生えて)
投げた後にわかったけど、毛根が死んでいる人にも効果があるらしい。
二人の髪の毛を軽く引っ張っても毟れない。
太くて強い立派な髪の毛だ。
アフロメーカーを育毛剤として利用する、これは痴漢対策以上に反響が凄くなるだろう。
ハゲからアフロへ変身した二人には、逆に感謝されそうだ。
今の映像で多少の宣伝効果もあっただろう。
(姉から臨時報酬を要求しよう)
「こちら、とっても怖―い人。森林エリア、退場者二名。担架をお願いします」
周囲の人間に聞こえるよう姉さんに連絡した。
冒険者パーティーで参加していたのだろう。
お仲間が倒された様子を見て、他のメンバーが僕に怯えている。
『(ご苦労様。次の指示まで待機)』
「(了解)」
小声で返事をしてから、受信機を再び取り出す。
さっきの映像が再生されて会場が沸き立っていた。
僕は腰を下ろして一息吐いた。
特にすることもないので、寝転んでおく。
目を閉じて楽にしていたが、視線が鬱陶しい。
「君達も、悪い子〜?」
草木の向こう側で、全員の首が勢いよく横に振られていた。
「ルール違反しなければ何もしない。でも、戦いたければ相手になるよ」
僕の一言で、二つのパーティーは離れていった。
強者を見極める目は大事だ。
僕も早めの昼寝ができるから、静かな方がいい。
「それで? 君はいつまで居るの?」
目を開けると、僕と同い年くらいの女の子が立っていた。
淡い桃色の瞳と青紫色の髪を持った真面目そうな美少女だ。
長い髪は、ポニーテールにしてまとめている。
どこかで会った?
まぁ、いっか。
思い出せないなら、たぶん重要じゃないっしょ。
「あの、その、ありがとうございました!」
頭まで下げてている。
礼儀正しい子だ。
姉さんも、これくらい可愛げがあればなぁ。
「気にしないで、これがお仕事だから」
「お仕事、ですか?」
少女は、遠慮気味に聞いてきた。
「そう、やんちゃな人達を大人しくさせて退場させる。とっても簡単なお仕事だよ」
「……あの人、結構強いと思うんですけど」
ちょっと自信無くしそうです、と言って少女は崩れ落ちていた。
「慣れたら簡単だよ。人の身体って複雑だけど、一ヶ所押すだけで気絶するから。それよりいいの? お仲間待ってるよ?」
離れた場所で、彼女を心配そうに見守る人達が居た。
結構強い人以外は、とても冷静な人達らしい。
「あの人、どうなるんですか?」
このポニテ少女は、僕が倒した片割れの今後を心配しているらしい。
パーティーって面倒だね。
「ねえさ……クロエ様のことだから、試験終了まで檻に入れるだけじゃない? 罰もないと思う。まぁ、今日初めて会ったから知らんけど」
青紫色の少女は安堵の溜め息を吐き出した。
仲間思いの優しい子のようだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして、じゃあ僕は昼寝するから」
彼女はもう一度お辞儀をした後、少し離れてから再度振り返った。
「私の名前はカルタ・クラムです。貴方の名前を教えて下さい」
(あ~、なるほど。そういうことね)
頭に思い浮かんだ事は一旦置いて、僕の名前だ。
でも、オセロ・リバーシなんて馬鹿正直に言うのものなぁ。
さっき姉さんのことを初めて会ったと言ったのに、説得力がなくなってしまう。
それに、裏ボスの正体は最後の最後まで隠しておくものなのだ。
今の僕はクロエ・リバーシの弟、オセロ・リバーシではない。
「アフロ仮面です」
「偽名ですよね?」
素晴らしい観察眼だ。
間髪入れずに質問する、そのツッコミ力も素晴らしい。
しかし、まだ甘い。
「偽名だよ、それが何か?」
開き直ってしまえば、どうとでもなる。
たぶん世の中なんて、そんなもんだ。
「むぅ、分かりました。今度会った時は本当の名前教えて下さいね?」
目の前の少女は、とても不満そうだった。
さっさと行け、と手を振る。
もちろん返事はしないし、次に会った時は別の偽名を使うつもりだ。
そのつもりだったけど、素顔は既に見せている。
(イベント発生してたのに気付くの遅れた)
僕は、ラスボスミミックに気を取られ過ぎたらしい、
カルタ・クラム。
こんなに早く再開できるとは思わなかった。




