表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

01主人公育成計画

転生前の主人公がなんか語っております。

 小さな頃から、とんでもなく影が薄かった。

 クラスの集合写真は右隅へ合成され、自動ドアには無視され、掃除用ロボットには何度もアタックされる。学校では七不思議扱いで、見えない知らない分からないと散々だった。


 しかし、僕は【裏ボス】の存在を知った。

 誰にも見つけられず、誰にも知られず、誰とも戦わない存在。物語の裏側で静かに暗躍し、全てのイベントを自由自在に操る最強の隠しキャラクター。

 必要とあらば表舞台へ紛れ込み、用済みの役者を微笑みで切り捨て、痕跡を残すことなく立ち去っていく。


 ゲーム、アニメ、漫画、これまで多くの沼にハマり過ぎて誰に憧れたのかは忘れた。しかし重要なのは、僕が裏ボスを知ったということだけだ。

 それ以外はどうでもいい。


 正義の味方、悪のカリスマ、中二病の魔法使い、……。

 多くが夢を作っては消していく姿を見続けても、僕の裏ボスへの執着はいつまでも冷めることなく一層強くなっていった。


 影が薄過ぎれば、いつかどこかで野垂れ死ぬ。

 その予感は的中し、横断歩道を渡れば車に轢かれそうになって、倉庫の鍵を閉められて干物になる寸前だった。


 僕の影の薄さは致命的だ。

 対策しなければ、冗談抜きで天に召されてしまう。


 目立たなければならない。

 強くならなければならない。

 その為には手段を選んでいる余裕はない。


 できなければ死ぬ。


 とりあえず裏ボスくらい強くなれば、現実でも鉄の塊くらい打ち抜けるはず。

 裏ボスを目指す準備として僕自身の存在感を把握しながら、色々と実験中だ。

 しかし、目立った成果は上がっていない。


 美少女転校生との衝突遭遇イベント。

 これはラブコメ展開にならなかった。


 曲がり角でパンを咥えた転校生にぶつかり、彼女を遅刻させそうになっただけだ。

 電柱に隠れていたストーカーに話し掛けると、ブヒブヒ鳴きながら逃げていった。

 口止め料としてお駄賃恵んでもらおうとしたが、たまたま偶然財布を受け取ったので良しとする。

 裏ボス貯金に加えたが、良い子は絶対真似しないように。

 遅刻もしたが、名簿には全授業で出席済みと書き足しているので特に気にしない。


 陽キャ集団との肝試しイベント。

 これもホラー展開にはならなかった。


 かつらで変装し井戸から飛び出しても、気づかれずに素通りされてしまった。

 下に居た悪霊を踏みつけていたのは、流石に悪いと思っている。

 彼女の出番も奪ってしまったが、真摯に謝ったら許してくれた。

 お互い大変ですねと朝まで会話を楽しんだ結果、素敵な幽霊さんは成仏している。

 霊的エネルギーとかは試していなかったので、もう少し色々聞きたかった。


 しかし、まだぬるい。

 痛みを天秤に乗せなければ、今以上の進化はないのだ。


 毎日気配を消しては作り消しては作りを繰り返す。

 動物園でライオンとサーカスしたり、大企業のオフィスを社長の椅子でドライブしたり、怖いお兄さん達と鬼ごっこした。

 バレれば社会的に抹殺されるが、次に進む為には必要なことだったから仕方ない。


 肉体も鍛えようと思って道場に入門したが、気を抜いたらすぐに忘れられた。

 ジムにも通ったけど自動ドアが鬱陶しかったので、今は自力で鍛錬を積んでいる。

 動画サイトと古文書と現代科学を参考に、あらゆる挑戦を繰り返した。

 真冬に滝に打たれ、暴走族で関節技を極め、天井から吊るした鉄アレイを避けながら山盛りの白米を搔っ食らう。


 その甲斐あってか、日常に変化が現れた。

 授業後、出席名簿に自分で書く必要が無くなったのだ。

 教師から自分の名前が呼ばれ、呼んだ教師はもちろん同級生の驚き様は壮観だった。


 イケメン同級生の佐藤君から面白半分に絡まれたが、とても良い奴だった。

 彼の友達とも全員意気投合してカラオケまで行き、一緒にラーメンも食べた仲だ。

 お金は僕がまとめて払う事になったが、全く問題ない。

 普段から集めている裏ボス貯金を切り崩せば済む話だ。


 みんなの話を聞いていると、青春を謳歌する為に日々節約の毎日らしい。

 病弱な両親と生活していたり、進学資金を自分で稼ぐ必要があったり、ファッションに興味があったりととても忙しそうだ。バイトもできない中学生には確かに堪える。

 ぜひ僕も応援したい、と裏ボスを目指す者として静かに行動を開始した。

 誰にも知られることなく、チラシとクーポンを財布に入れ、小銭から紙幣へ色を付けて換金し、有用な情報をノートにまとめて机に忍ばせた。


 異変に気づいたのは、佐藤君と目を合わせた時だ。

 不自然に目を逸らされた後、気になって佐藤君を護衛していると彼が上級生に絡まれていた。

 彼は意味不明な理由で何度も呼び出され、殴られた後に金を毟られて物も奪われている。

 僕の名前が出てきた時には、少なからず責任を感じた。


 彼への応援金を奪うのなら、少しお灸を据えなければならない。

 彼の友達と思っていた人達は見て見ぬフリだ。彼等のことは忘れればいい。

 人間関係、時には縁を切ることも重要だ。


 上級生には制裁を加えて気持ち良く終わらせている。

 佐藤君が頬を一回殴られたら往復ビンタ連続百回、奪われたお金は上級生からのお年玉で二倍にしてから佐藤君の机に仕舞い、相手の筆箱には画鋲と汚泥と世界一臭い食べ物(シュールストレミング)を詰め込んで、後腐れないよう背後関係を洗って証拠も全て保存した。

 本人の身分証明、家族構成、友人恋人との人間関係は、ワンクリックで破壊できるだろう。

 最後に主犯格の一人を見せしめに退学させれば終了だ。

 舎弟は要らないので、今後一切関わらないように丁寧に談笑している。


 今でこそ存在感は人並みになったが、元々の僕は透明人間と変わらない。

 本気を出せば、僕は簡単に透明人間へ戻れるのだ。


 色々あったが無事、佐藤君の日常が帰ってきた。

 しばらくは佐藤君の笑顔が少し引き攣っていたが、気にしたところで佐藤君の問題だ。

 変に拗れないよう、僕も普段通りに話していればいい。

 すぐに馴染むだろう。


 裏ボスとして、僕はまだまだ未熟者のようだった。


 上級生の調査中に佐藤君と元友人達の嘘には驚いたけど、気にしないことにしている。

 もう終わったことに時間を掛けていられない。


 主人公としての資質を考えると、佐藤君は一級品だ。

 彼の周りでは、多くのイベントが発生している。


 けれど主人公が強くなければ、裏ボスは登場することなくゲームが終わってしまう。


 僕は考えた。


 主人公が居ないなら、自分の手で作り上げればいい。


 幸い、十代半ばで主人公の卵を見つけられた。

 後はレベル上げも含めて、僕が佐藤君をプロデュースすればいい。

 高校は超進学校を目指して佐藤君と受験し、一緒に合格して無事入学を果たしている。

 佐藤君専用の更生プログラムは、受験を含めた中学三年間で全て終わらせていた。

 敏腕Pと呼んでくれ。


 目立つ場所には、目立つ奴が集まる。

 予想通り、メインキャラの宝庫だった。


 高校では、実現できなかった裏ボスへの道を邁進した。

 中学は、下準備と人間観察で忙しかったのだ。


 普段はモブに溶け込み、裏側で静かに暗躍しながら、主人公と対峙する時まで力を溜める。

 生徒、教師、用務員に至るまで入学前にデータは一通り揃えたから、万事問題なし。

 イベント発生の兆候も、僕独自の情報網が教えてくれるのだ。

 後は、一級建築士(フラグメイカー)の佐藤君に合わせて最適な計画を都度組み上げればいいだけ。


 僕は、日常パートでヒロイン達から罵られ、主人公に嫉妬しつつも恋愛仲介者(キューピッド)をお調子者っぽく務め上げ、『友達じゃないか!』と『友達だろう? 助けてよ』を上手く組み合わせる。


 これぞ裏ボス! な高校生活を満喫しているところだった。




 ********************




 メインキャラ達との下校中、前方不注意のトラックに轢かれた。


 今、僕は吹っ飛ばされて血だらけに横たわっている。


「なんで!? どうして俺を助けた!?」


 主人公の存在は、裏ボスに欠かせない。

 最後まで彼には生き残ってもらう必要がある。

 裏ボスは主人公を自然に助け、主人公に倒される存在だ。


 しかし、今の僕は主人公を助ける友人A君だ。

 裏ボスが負けることを許されているのは主人公だけである。

 決して、四輪車如きに負けていい存在ではない。


(只の人では、裏ボスに届かない)


 動かせない口とは逆に、頭の中では独り言がうるさい。


 人は、素の状態では鉄の塊に負けてしまう。

 高校三年生の夏、僕は限界に気づいてしまった。

 大学卒業後の社会人編まで企画していたのに全てが台無しだ。

 主人公との最終決戦後、討伐されるか和解するか迷っていたのに。


 筋肉をいくら鍛えようとも、内臓までは強化できない。

 どれだけ外側に気を配っても、中身は衝撃でシェイクされて二度と立ち上がれないのだ。


 存在感のコントロールも無意味だった。

 気づいてもらうことが前提である以上、相手の視界に居なければ意味がない。

 余所見されて血だらけの裏ボスなんて、情けなくてダンジョン奥に引きこもれる。


 今のままでは、何もかも足りない。


(どうすればいい?)


 赤く染まった視界には、メインキャラが大集合だった。


(神絵師さん、頑張り過ぎでしょ。最終回じゃないんだから)


 主人公を中心にして、彼を慕うヒロイン達が忙しそうに立ち回っている。


(落ち込む主人公を一番元気づけたヒロインが、正妻枠に入り込む。タイミングとしては、これ以上ないくらいに最高だ。運命とやらは、僕以上に策士らしいね。残念、運命に負けちゃったか~)


 しかし、表舞台にここまで影響を与えてしまうとは思わなかった。

 これでは裏ボスではなく、主人公の仲間でしかない。

 計画がクソ甘過ぎて、砂糖吐いて死にそうだ。


 僕は、主人公の友人キャラも仲間キャラも目指していない。

 裏ボスになりたいのだ。


 視界の端で、虹色の光玉がふわふわと踊っている。


「……ま、り、ょ、く?」


 そうだ、魔力があれば未確認の不思議パワーがある世界に生まれていれば……。

 光の玉は、時間と共に減っていく。


「…………………………魔力ッッッッッ!!!!!」


 彼等彼女等が握ろうとしてくる手を弱々しく振り払い、無意識に手を伸ばす。

 一つだけ、光を掴んだ。

面白かったら嬉しいです。ぜひブクマお願いします。

明日の同じ時間帯くらいに2話目投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ