表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
98/321

第98話 プレ・バレンタインパニック

 目が覚めた満は、また自分の姿に驚いていた。


「ええ、またぁ……?」


 そう、目が覚めたらまたルナ・フォルモントの姿になっていたのだ。

 最近はやけにこういうことが増えた。吸血衝動が原因で変身することは分かってはいるのだが、満自身はその衝動に駆られることがない。まったくもって不可解な状況である。


(もしかして、僕の体がルナさんに乗っ取られかかってるのかな……)


 いろいろと考える満ではあるものの、専門家でも何でもないのでまったくもって原因不明である。

 目を覚ました満が時計を見てみると、時間は朝の4時55分。大体いつも起きている時間より少し早いくらいだった。

 ここで二度寝をすれば遅刻も覚悟しなければならない。満は仕方なく、今日も少女のまま過ごすことにしたのだった。


「そうだ。昨日のアーカイブ上げてないな。すぐやろうっと」


 気持ちを切り替えた満は、すっかり忘れていたアーカイブのアップに取り掛かる。

 何度見返しても、真家レニの適応力には驚かされる。リハーサルなしのぶっつけ本番で、満が5回も失敗したチョコレートを一発で成功させてしまっていたのだから。


「レニちゃん、やっぱり基本的な能力からして違い過ぎるよね。うーん、僕が隣に立っていていいのかな……」


 ついついネガティブになってしまう満である。

 でも、コメントを見る限りは好意的な反応ばかりだ。

 そんな状況はゆえに、満は後ろ向きな考えを首を振って否定したのだった。


 そうして、あっという間に放課後を迎える。

 満が帰ろうとすると、この日はどういうわけか香織が話し掛けてきた。


「ルナちゃん。今日はちょっと付き合ってもらってもいいかな?」


「花宮さん? ええ、いいですけれど」


 満は香織のお誘いを受けてしまう。

 気が付けば、チョコレートの材料を買い込み、香織の家にお呼ばれしてしまっていた。


「えっと……?」


 先日見たことのある光景だけに、満はものすごく戸惑っている。


「ほ、ほら。バレンタイン本番だからね。先日のは練習だよ、練習」


「あ、ああ。そ、そういうことね……」


 香織の恥ずかしそうにする態度と勢いに押され、満は反応に困ってしまう。

 結局、香織のペースに巻き込まれ、満はまたチョコレートを手作りしてしまう羽目になってしまった。

 先日に香織に教えてもらった時と、動画のための練習で経験を積んだ満は、だいぶ手慣れた感じでチョコレートを作っていく。


「うわぁ、すごい。空月くん、すっかり慣れちゃってるね」


「う、うん。まあいろいろ事情があってね」


 あまりに手際がいいものだから、香織から感心されてしまう。これには満は慌ててしまった。

 ここまで上手になってしまったのは、やたら本物にこだわった世貴のせいである。まさか温度調節のミスで発生する白いまだらまで再現されるなんて思ってもみなかったからだ。


「ありがとう。一人で作るのがちょっと恥ずかしかったんだ」


「それはいいよ。それより、そのチョコはどうするつもりなの?」


「うふふ、内緒。それより空月くんは?」


「だったら、僕も内緒だよ。自分は秘密にするのに、人に教えてはないでしょ」


「そっか、それもそうだね」


 お互いに笑い合う満と香織。


「香織ーっ! 電話よ」


「ええ?! ご、ごめんなさい。それじゃまた明日ね。お母さんに見送ってもらうから」


「あ、うん。どうしたんだろう。電話っていったどこからかな」


 慌てた様子の香織を見ながら、満は首を捻っていた。


「ごめんなさいね、せっかく来てもらったのに慌ただしくて」


「あ、いえ。私は別に構いませんよ」


「そう、よかったわ。それじゃ、気を付けて帰ってね」


「はい。今日は失礼します」


 満は香織の母親と言葉を交わすと、作ったチョコを持って家路についたのだった。


 ―――


 その頃、部屋へと戻った香織は電話に出ていた。


『失礼します。Vブロードキャストの森です』


「ああ、森さん。ど、どうされたんですか?」


 電話の相手は担当の森だった。


『いえ、急な話で申し訳ないのですが、明日の夜8時からの1時間枠に入って頂けませんでしょうか』


「ど、どうかなさったんですか?」


 急な配信依頼に香織はびっくりしている。

 それというのも、予定していた配信者がインフルエンザで寝込んでしまったらしい。配信は人数が揃わないといけない企画らしく、穴をあけるわけにはいかないということで代役を探しているという話だった。


「分かりました。私でよければ」


『それは助かります。本当は中学生に頼るということは避けたかったのですが、なにぶんみなさん予定が入ってらっしゃるみたいでしてね』


 どうやら、ダメ元で電話をしてきたようだった。


『それでは、リハも含めて夜5時半には迎えに伺いますので、準備をお願い致します』


「分かりました。はい、こちらこそよろしくお願いします」


 通話を終えると、香織は大きくため息をつく。

 急きょ代役での配信参加である。

 お披露目配信、先輩たちの配信への参加を経て、これで3回目の配信となる。


「やると決めたんだもの。怖いけれど覚悟を決めなくちゃ」


 香織は頬を両手で叩いて気合いを入れていた。


「明日はチョコの手渡しもあるし、一日緊張しっぱなしだわ。ええい香織、何をびびっているのよ。私はできる!」


 正直なところ、怖くて体は震えている。

 だがしかし、香織は覚悟を決めていた。


 そして、運命のバレンタインの日を迎えたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ