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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第97話 ドキドキ☆チョコレート配信

 その週末となる日曜日。

 この日の満はパソコンの前で緊張していた。


「ふぅ、レニちゃんとの共同配信かぁ……。なんだか今日はすごく緊張する」


 満は深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとしている。

 それというのも、今日は先日の配信で約束した共同配信日である。

 満がアップした光月ルナのチョコレートを作る動画が真家レニの目に留まり、負けず嫌いの彼女の心に火をつけてしまったのだ。

 というわけで、満の持っている光月ルナの館の厨房に真家レニを招いてのクッキング配信となったのである。

 仮想空間での調理配信とはこれいかにと思うかもしれないが、現実のチョコレートのごとくチョコが溶けたり固まったりする様子に、視聴者は度肝を抜かれたのだ。


「う~ん、大丈夫かな」


 満は心配になるものの、覚悟を決める。

 自分の配信環境を、今日は配信前から真家レニと共有する。

 今日の配信は真家レニの予定に合わせてあるため、スパチャの配分は真家レニ8の光月ルナ2という形で事前に取り決めてある。

 本当なら5:5でもいいのだろうが、満は翌日も配信するからいいよと断ったのである。それでも、環境を提供してもらうからということで2割を光月ルナに割り振ったのである。


 時間は8時55分。配信開始5分前である。

 光月ルナの配信画面上に、通知が出る。真家レニが画面共有を申し出てきたのだ。

 満はすぐさま許可する。


「おお、これがルナちの厨房かぁ。すごい設備だね」


「大丈夫でございますでしょうか。ぶっつけ本番で本当によろしいのですか?」


「大丈夫だよ。レニちゃんの腕を信じなさい」


 満が心配するものの、真家レニは謎の自信を見せている。本人が大丈夫というのならと、満はそれ以上は心配しなかった。


「とりあえず、材料を調理台の上に出しますわ。真家レニ様からでは、多分画面に取り出せませんので」


「およ、本当だ。でも、コンロとかの当たり判定は普通に出るね」


「ええ、ご用意頂いた方は、僕の要望をはるかに超えて作って下さります。あの人がいたからこそ、僕も安心して配信ができるというものですわ」


「すごい、お湯が出る」


 満の説明を聞いているのか聞いていないのかよく分からないくらい、真家レニは厨房の中を動いている。


「真家レニ様、間もなく時間ですわよ。直前にいらっしゃるから、打ち合わせがほとんどできませんでしたわよ」


「にしししっ、そうだね。まぁルナちはレニちゃんのサポートをしてくれればいいのだ」


「わ、分かりましたわ。普通にチョコレートを作るだけですから、大丈夫ですわよ……ね?」


 満の質問に、真家レニのアバターがただ笑うだけだった。

 なんとも言えない不安がよぎるが、配信の開始時間がきてしまった。

 真家レニ主導の配信であるために、満は何もすることなく画面が『配信中』に変わる。


「こんばんれに~。レニちゃんだぞ☆」


「おはようですわ、みなさま。光月ルナですわ」


『待ってました』


『こんばんれに~、おはよるな~』


『レニちゃんのとんでもクッキングを見にきた』


 普通に挨拶しただけでも、コメントがすごい勢いで流れていく。この光景が毎度のようになって、満も人気アバター配信者になったんだなとしみじみと思う。


「それでは、本日は僕のお屋敷の厨房より、真家レニ様のチョコレートクッキングをお送りいたします」


「レニちゃん、頑張りますよ」


「必要な材料は、この通りお出ししておきましたわ。都度、僕に言って頂ければご用意いたします」


「了解、レニちゃんいきます!」


 真家レニが腕まくりをするような仕草をして、チョコレートを作ろうとしている。


『うおお、レニちゃん本気だ』


『これで実物が食べられないのは残念だ』


『てか、動画通りだな』


『マジでチョコが溶けていく』


『これ作ったやつ変態だなw』


『おう、ありがとな』


『またいるしwwwww』


 また世貴が配信に現れていた。何気に光月ルナが関わる配信には皆勤だというから大したものだ。これも技術者ゆえなのだろうか。


『実はこの厨房、まだ自信がないんだ』


『なにゆえ?』


『急な思いつきで作ったからな。作った人間としてちゃんとチェックしなきゃいけないんだよ』


『なるほ』


 コメント欄でそんなやり取りがされているとは知らず、真家レニはチョコレートを必死に作っている。

 今日がぶっつけ本番だというのに、さすがは真家レニである。失敗することなく、普通にチョコレートを作り上げてしまった。


「じゃーん、レニちゃん特製のバレンタインチョコレートだよ。ふふん、どんなもんだい」


『すげえ!』


『本格的なチョコじゃねえか。これがバーチャルか?』


『作ったやつマジで変態、いや、レニちゃんじゃないぞ?』


『褒め言葉をありがとう』


『こwいwつwはw』


 世貴の態度はまったく揺るぎがないようである。


「にししし、本物みたいでレニちゃんも満足なのだよ」


「本当に、真家レニ様の腕前は素晴らしいですわ」


 満がホッとした様子で話をしていると、真家レニができ上がったチョコレートを取り出して光月ルナの口へと運んでいた。


「はい、ルナち。あーん」


「え、ええ?!」


『おおん?』


『キマシタワー』


「でき上がったら試食なのだよ。レニちゃんも食べるし」


「わ、分かりましたわ……。では、お言葉に甘えて」


 あくまでも画面内のアバターが食べているはずなのに、満は不思議と口の中に甘さが広がっていく感じがした。


「お、おいしいですわね」


「あはは、ルナち、顔が真っ赤」


 もちろんアバターの操作はしていないので、光月ルナの顔色はそのままである。

 だが、恥ずかしがる満の声と真家レニの言葉によって、リスナーたちはつい錯覚に陥ってしまっていた。


「っと、これ以上はちょっとよろしくないかな」


 すぐに真家レニが素に戻って、正面へと向き直る。


「あははは、ではでは、レニちゃんとルナちの共同配信は、ここで終わるよ。おつれに~」


「ご、ごきげんようですわ」


 こうして、なんとも言えない雰囲気の中、真家レニの配信は終わりを告げたのだった。

 満はしばらくの間、ドキドキが止まらなかったようだ。そのせいで、珍しく配信直後にアーカイブを上げることなく眠ってしまったのだった。

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