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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第94話 チョコっとどころじゃない!?

「ありがとう、花宮さん」


「いいんだよ、空月くん。でも、どうして急にチョコレートを作ろうって思ったの?」


「あ、いや。うん、なんというかな……」


 香織からの質問に、満はついどもってしまう。

 なんて答えたらいいのか分からないのだ。なにせ、配信用だなんて言えるわけがないのだから。


「ほら、僕ってば時々女の子になっちゃうでしょ。だから、チョコは作れた方がいいのかな、……なんてね」


 悩んだ末、ルナ・フォルモントの姿を言い訳にした。

 最初こそびっくりした様子の香織だったが、くすっと笑って納得したような表情を見せていた。


「無理しなくてもいいのに」


 口に手を当てて笑う香織の姿に、満はちょっと罪悪感を感じていた。ただ、それがどうしてなのかは分からなかった。


「でも、空月くん作ったチョコなら、食べてみたいかも」


「うん、花宮さん、何か言った?」


「ううん。何も言ってないよ」


 ぼそっとこぼした言葉が聞かれたと思ったのか、香織もまた笑顔でごまかしていた。

 もう時間も遅くなってきたことで、挨拶もそこそこに慌てて家へと帰っていく満。香織はその後ろ姿をどこか寂しそうな目で見送っていた。


 家に戻った満は、遅くなった言い訳をしながら手洗いうがいを済ませると、すぐさま自分の部屋へと戻る。

 いつもならとっくに終わらせている自分のチャンネルのチェックが遅れてしまっているからだ。

 チョコレートの材料を買って作り方を教えてもらっていたら、もう6時を回っていたのだからそれは大慌てというものである。

 遅れながらもいつものルーティンを終わらせた満は、光月ルナのアバターキットを起動させる。

 右上を見てみると「New」の文字が表示されている。これがおそらく風斗の話していたものだろう。

 話を聞くところによると、大学の期末試験に加えてクロワとサンのバージョン違いを作っているとのことらしいのだが、よくこんなものを追加できたものだと満は感心しつつ呆れていた。

 いろいろと思いながらも、満は「New」をクリックして追加されたものを確認する。


「えっと、ボウルに泡だて器、へらにバット……。調理器具全部そろってるじゃないか」


 満は驚いているが、それ以外にも大量に追加されていた。

 卵に生クリーム、スポンジなどもあって、ケーキすらも作れそうな勢いだった。

 ついでにだが、『光月ルナの屋敷・厨房』という新しい背景も追加されていた。


(相変わらずの徹底っぷりだなぁ……。あ、メッセージがある)


 満は添付されていたメッセージを開く。


『すまん、作るだけ作ったが、動作チェックが甘くなってしまってな。不具合があったら報告してほしい』


 どうやら、作るのが楽しくなって作りすぎた結果、十分なデバッグができなかったようだ。

 満はしょうがないなぁと思いながら、モーションキャプチャを着けて試しに料理をしてみることにする。品目はさっき習ってきたばかりのチョコレートだ。

 早速厨房背景にして、チョコレートの項目を選んでいたチョコを取り出す。

 まな板と包丁を取り出して切り刻んでいく。


「うわっ、本当に細切れになっていく。どういう風にしたらこんな風に動くんだよ」


 相変わらずの謎技術である。

 切り刻んだチョコレートを湯せんで溶かしていくと、ちゃんとチョコレートがどろどろになっていく。ヴァーチャルリアリティもここまで来たかというくらいのリアルさだった。


「ああ、失敗したぁっ!」


 初めてアバターで作ったチョコレートはあちこちに白い斑点ができていた。これはうまくテンパリングできずに乳脂肪分などが塊になってしまった結果だった。


「ここまでリアルにする必要あるの……?」


 世貴のこだわりというものを思い知らされた満は、もう一度チョコレートを作る。

 結局、ちゃんとしたものができるまでに5回ほどのリテイクをすることになってしまった。


「ふぅ、できたぁ……」


 あまりにも大変すぎて、モニタの前でついしゃがみ込んでしまう満だった。連動してる光月ルナもきちんとしゃがみ込んでいる。

 厨房の調理台の上には、でき上がってラッピングされたチョコレートが置かれている。

 それにしても、画面に映るラッピングのディテールにも驚かされるというものだ。一体何がここまで世貴にリアリティを追い求めさせるのか。頭を抱えたくなる満なのであった。


「よし、次の分は動画にして撮影してアップしよう。ここまでは素の状態で喋っていたから、とてもアップできるものじゃないからね」


 全部で6回も作って慣れたとあって、投稿用の動画は一発で成功させる満であった。


「あっ、そうだ。動作のチェックを頼まれていたんだった。世貴兄さんに動画を送ってみてもらおうっと。アップするのはそれからだね」


 世貴に頼まれていたことを思い出した満は、先に撮影した動画を専用のメールアドレスで世貴へと送信する。

 動画の尺は20分あったのだが、きっちり20分後にメールが返ってきた。


『満くん、ありがとう

 動画は問題なさそうなので、アップしてもらって構わないよ

 確認感謝する

 また何かあったら頼ってくれ』


 世貴からの了承を得た満は、早速チョコレート動画をアップする。


「さーて、疲れたから寝ようっと」


 動画をアップして満足した満は、翌日の準備もそこそこに布団に横になったのだった。

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