第92話 締めは配信で
「はぁ……、疲れたぁ」
「お疲れ様、満。今日は満の好きなものを作ってあげるわよ」
「やったぁっ!」
買い物してきた袋を台所まで運んできた満は、その場で座り込んでいた。しかし、母親からの言葉で喜びでぴょんと跳び上がっていた。
だが、満は気が付いていなかった。今座り込んでいた姿勢が女性に多い姿勢であることに。
「お母さん?」
くすくすと笑っている母親の顔を見て、満が不思議そうな顔をしている。
「なんでもないわ。お風呂にでも入ってきなさい」
「はーい」
満は母親に言われて、お風呂の準備を始める。
別に女性のままお風呂に入るのは今回が初めてではない。ところが、満の感覚というものは不思議である。服装には抵抗があるのに、不思議と平然とお風呂と入っているのだから。羞恥のポイントがちょっとずれているようだった。
母親も母親で特に気にしない感じで、買ってきた食材を順番に冷蔵庫などへと片付けていった。
その後、いつものルーティンで過ごした満は、夜9時を迎える。
今日は月曜日なので、光月ルナの配信予定日である。
買い物に行っていたので配信予告をしていなかった満は、夕ご飯の後にそれを思い出して慌てて配信予告をしていた。
そして、夜9時を迎える。
「みなさま、おはようですわ。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おはよるな~』
『あれ、今日のルナち、ちょっとお疲れ気味?』
「えっ、そんなことはありませんわよ。僕は普段通りですわよ」
『そっかぁ、うん、ごめん、気のせいだったよ』
「いえいえ。ご心配頂けているということは、嬉しいですわよ」
満はコメントとやり取りをしている。
『ルナちは優しいなぁ』
『ルナちは可愛いなぁ』
『ルナちは見てて楽しいなぁ』
リスナーたちがアバターのルナを褒めてくる。今の満はルナとほぼ同じ顔なので、ちょっと嬉しくなってきているようだった。
「さて、本日の配信の話題は、昨日のブイキャスの新人たちのことですわね。僕もあの配信は視聴しておりましたので」
『ルナち、早起きしてたんやな』
『まだ明るい時間の配信やのに見てたのか・・・』
「はい。やはり新しい方が出るとなると気になりますのでね。部屋中のカーテンを閉め切って、暗がりの中で拝見いたしましたわ」
『草』
『そこまでするくらい気になっているとは思わんやん』
昨日のVブロードキャスト社の新人アバター配信者のお披露目配信を見ていたという話を聞いて、リスナーたちが実に微笑ましそうな反応をしている。
『で、ルナちは誰が気になったんだ?』
『ワイも知りたいな』
リスナーたちから、新人四人の中で誰が気になったかを問い掛ける質問が飛んでくる。
まぁ昨日の今日だし、話題として出してしまった以上は、この質問が飛んでくるのは想定の範囲内だ。満はとても落ち着いている。
「そうですね。やはり、鈴峰ぴょこら様と黄花マイカ様でしょうか。可愛らしさという点においてとても興味を引かれましたわ」
『やっぱルナちも可愛い系かあ』
『まぁ、レニちゃんのファンという点からして分かりきってたな』
「なんですか。まるで僕が可愛いものにしか興味がないように仰っていませんか?!」
『いまさら~』
『周知の話だゾ』
リスナーたちの反応を見て、満はどうしたらいいのかと困っている。
「まったく、みなさんってば僕をからかわないで頂けませんかね。それでは、拝見した限りの四人の印象を話してまいりますわ」
『おっ、ルナちの評価だ』
『ルナちからすれば、初めての自分より後に誕生したアバ信だからな』
『wktk』
咳払いの動作をしながら片目を閉じてちらりと見るルナの姿に、リスナーたちはとても過剰に反応している。
「あら、僕の後ってこれが初めてなんですのね」
『そうだよ』
『知らなかったのか』
なんとびっくりだった。
光月ルナが登場した後には、実はアバター配信者は新規で現れていなかったのだ。
『さすが吸血鬼やな』
『世間とずれてるね』
『ルナちから半年ほど、本当に新規のアバ信は出とらんのよ』
「へえ、そうなのですね。みなさま、よくご存じですのね」
『まぁ、俺らはアバ信を愛でるのが役目だからな』
とあるリスナーのコメントに同意するコメントが大量に打ち込まれていく。
そのコメントを見て、満はつい嬉しく思ってしまう。
「本当に、みなさまの愛情には感謝致しますわ。それでは、僕によるブイキャスの新人たちの印象をお話致しますわね」
『すまん、話の腰を折ってしまった』
「いえいえ、構いませんわよ。いろいろ教えていただき、本当にありがとうございます」
『ルナちはええ子やなぁ・・・』
いろいろと話が脱線しまくったものの、満は日曜に見たブイキャスの新人アバター配信者たちの印象を語っていた。
「僕としては、みなさんを応援したいところですね。なにせ、立場は違えど、同じアバター配信者なのですから」
『ルナち、マジ天使・・・』
『吸血鬼やぞ』
満が評価の締めに正直な気持ちを話すと、リスナーたちは感動とツッコミの言葉を大量にコメントしていた。
「それでは、ちょっと長くなってしまったですが、これにて本日の配信は終わらせて頂きます。みなさま、ごきげんよう」
『おつるなー』
『おつるな~』
『ルナち、次楽しみにしてる』
この日の配信を終えて、ようやくドタバタした一日を終えた満なのであった。