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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第90話 複雑な幼馴染み

 翌日、目が覚めると満は大きくため息をついた。


「また女の子になってる……」


 もう何度目ともなれば慌てることがすっかりなくなっていた。

 ただ、不思議なことがあるとすれば、朝起きた時点で変化してしまっているということだろうか。初期の頃こそ一日の最中に動悸が起きて変身していたのに、最近は朝の時点で変身している。


「まぁ、余計な服を持ち歩かなくていいからいいんだけど」


 目が覚めた満はひとまず洗面所に向かい目を覚ます。

 部屋に戻ってくると、パジャマのままいつものチェックに入る。

 SNSに多少のリプがついているくらいで、これといった変化はなかった。

 チェックが終わると朝の6時半を迎える。


「そろそろ着替えるか。……女の子の制服かぁ。スカート、まだ慣れないんだよね」


 満は思わずため息をついてしまう。


「あと、これも着けないといけないんだよね。まぁ、僕もそこそこあるもんね」


 自分の胸を見ながら、満はもう一度ため息をついてしまった。

 なんだかんだ思いつつも普通に着替えた満は、朝食を済ませて学校へと向かったのだった。


「おはよう」


「よう、おはよう」


 満は普通に風斗に挨拶をしている。


「おはよう、み……ルナちゃん」


 思わず満といいかけた香織は、慌ててルナと言い直した。


「おはようございます、香織ちゃん」


 満はにこやかな笑顔を見せながら、挨拶をする。満との違いを出すために、下の名前にちゃんを付けて呼ぶ。


「はうぅ……!」


 急に香織が胸を押さえて苦しそうな顔をし始める。


「え、大丈夫!?」


 思わず慌てて立ち上がってしまう満。


「なに、心配要らないぜ。お前が可愛すぎるのが悪いんだ」


「え、それってどういう?!」


 風斗の発した言葉に、満は顔をついしかめてしまう。わけが分からないのだ。


「一度自分の顔をしっかり鏡で見ろよな」


「必ず顔を洗う時に見てるけど?」


 風斗の言い分が理解できない満は、首を傾げながら聞き返していた。

 満の態度を見て、風斗はどういうわけか特大のため息をついている。


「ちょっと、風斗。それってどういう意味の態度?」


「うわっ! 急に顔を近付けるな!」


「風斗、顔が赤いよ。一体どうしたっていうのさ」


「と、とにかく離れろ。花宮もそんなに睨むんじゃない!」


「えっ?!」


 風斗の言葉で、満は驚いて香織の方を見る。

 だが、そこにあったのは普段通りの香織の表情だった。


「普通の顔じゃないか。どうしたんだよ、風斗」


「お、お前は知らなくていい。まったく、お前に普段通りにやられると、他の連中からからかわれるんだ。クラスメイトだが、俺とルナは知り合って数回しか会ってないんだからな」


「……それもそうか。ごめん、風斗」


 身を乗り出していた満は、おとなしく椅子に座る。これにはようやく安心した様子を見せる風斗なのであった。

 そうこうしている間にホームルームのチャイムが鳴る。


「あ、チャイムですね。それでは、僕は自分の席に戻りますので、また後にでも」


「ええ、ルナちゃん」


 一人だけ席が離れているルナ()が立ち上がって自分の席へと移動していく。満の席とルナの席が違っているので混乱しそうになるが、満は無事に対処できているようだった。


「はあ……、ようやく解放されたか」


「ちょっと、村雲くん。ルナちゃんに見られたらがっかりされるわよ」


「あ、ああ。そうだな……」


 安心した様子の風斗に、香織が思わず声をかけてしまう。


「最近、困ってるんだよな。男の姿ならなんとも思わないんだが、女の時のあいつを見ると、落ち着かなくなるんだ。どうしちまったんだろうな、俺……」


 風斗は頭を打ち付けそうな勢いで机に突っ伏している。

 その様子を見ながら、香織は笑っている。


「なるほどねぇ。村雲くんにもそういう気持ちが芽生えちゃったか」


「あのなぁ、笑いこっちゃねえぞ……」


 おかしそうに自分を見る香織に、風斗はすこぶる不機嫌そうだった。

 風斗は反撃といわんばかりに、体を起こして香織をじっと見る。


「それはそうと、花宮」


「どうしたの、村雲くん」


 急な真面目なトーンに、香織はちょっと困惑した様子である。


「アバター配信者デビューおめでとう。どうだ、華樹ミミと共演してみた感想は」


「ななな、何をいきなりいうのよ」


 風斗が告げた衝撃的な言葉に、香織は思わず目を丸くして驚いてしまう。


「俺が幼馴染みの声を分からないと思ったか? 特にお披露目配信のドジっぷりで確信したよ」


「うぐっ……」


 思わぬポイントで特定されたことに、香織は何も言えなくなってしまった。


「はあ、村雲くんは相変わらず鋭いわね。お願いだからもうそれの話題は出さないで」


「分かったよ。中の人バレは重罪だもんな」


 やり返せたことに満足したのか、風斗は意地悪そうに笑っている。香織の方はしてやられたと頬を膨らませている。さっきとは立場が逆転してしまっていた。


「はあ、とりあえず俺としてはお前がさっさと満とくっついてくれればいいんだよ。だから、困ってるんだよな」


「それを私に直接言うの?!」


「言われて困るなら早くくっつけよ」


「で、できるならさっさとしてるわよ。空月くん、鈍いんだもん……」


 風斗が急かすようなことをいうと、香織はぷくーと頬を膨らませていた。


「おい、花宮、村雲、ホームルームは始まってるんだ。いつまで話してるんだ?」


「うわっ、担任来てたのか」


「ご、ごめんなさい!」


 担任の声に驚いた二人は、慌てて前を向く。その様子に、教室の中は笑いの渦に包まれていた。

 一人席の離れている満はおかしそうに笑っていたが、風斗と香織の間にはなんとも気まずい空気が流れている。


 はてさて、なんともややこしい関係になってきた幼馴染み三人。どういう方向に進んでいくのだろうか。

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