第86話 ブイキャス第四期生
「それではトップバッターは、この第四期生唯一の男性アバターの配信者である『茨木勝刀』です」
華樹ミミの紹介で、いよいよ自己紹介が始まる。
配信画面には勝刀の全身がどんと映されている。
『頭には角、これは鬼のアバターか』
『腰のやつ刀だろ。それで勝刀か』
『まさか鬼切じゃないだろうな』
自己紹介を始める前からコメント欄は盛り上がっている。
「おい、お前ら。自己紹介の前から盛り上がってんじゃねえ。とりあえず自己紹介するまで黙ってろ」
『りょ』
『怒ってて草』
勝刀の第一声を聞いて、コメント欄の反応は真っ二つだった。箱の配信ともなれば、お行儀のいいリスナーばかりとは限らないらしい。
「いいか、よく聞け。俺様の名は『茨木勝刀』だ。見ての通り、鬼だ」
『やっぱりか』
『俺様キターーーッ!!』
「行儀の悪いリスナーどもは、俺様の刀の錆にしてやるからな。よーっく覚えておけ」
『おk、ぶった切ってくれ』
『おい、どえむwww』
脅しともいえる厳しい言葉を放つものの、リスナーたちの反応は実に緩いものだった。
「まったく、なんてやつらだ。まあいい。これの後に自己紹介する同期たちを泣かしたら、俺様が一切遠慮しないからな、覚悟しておけ! 以上だ!」
『いいお兄ちゃんで草』
『これは惚れる』
短い挨拶ではあったものの、最終的にはいい感じに落ち着いたようである。
これには華樹ミミと蒼龍タクミも安心したようだった。
「では、次の方を紹介しますね。『泡沫ふぃりあ』さん、自己紹介をお願いします」
「どうもみなさま、初めまして。泡沫ふぃりあと申します」
華樹ミミの紹介に続いて、ふぃりあが自己紹介を始める。
『人魚姫っぽい?』
『お姉さん系キャラかな』
『ミミたそとキャラかぶらねえかな』
リスナーたちの反応は様々だった。
なんといってもふぃりあのキャラ付けは、おっとりとした包容力のある女性というコンセプト。一期生である華樹ミミと似た方向性のキャラだからだ。
「うふふ、ミミ様と比べて頂けるなんて、実に光栄ですわね」
のんびりとした話し方をするふぃりあ。比べられて嫌がるかと思いきや、逆に嬉しそうである。
「ですが、ママは二人いても構わないと思いませんこと? 私、華樹ミミ様とご一緒に配信できる日を楽しみにしておりますわ」
『これはなんという……』
『ま、ママァ……』
すでにほだされていそうなリスナーたちだった。
「はい、ふぃりあさん、ありがとうございました。私も楽しみにしております」
「では、ここからは俺が紹介していくぜ」
『おお、タクミ様だ!』
『タクミ様、万歳!』
「よせよ、照れるじゃねえか」
コメントに反応して、少しアバターを赤らめる。これにはリスナー大歓喜だった。
「さて、次は『鈴峰ぴょこら』だな。それじゃ、自己紹介頼むぜ」
「はいはーい。あたしは、鈴峰ぴょこらだよ!」
普段とまったく違う感じで挨拶をするぴょこらである。しかし、この元気のよさは次のマイカとかぶりそうだ。
『うさ耳に猫のしっぽ?!』
『ずいぶんと狙ったキャラだな』
『いかん、ドストライクだ・・・』
「いっしっし……。あたしの可愛さで、みーんなとりこにしてあげる。なんてったって、悪魔だからね。そうそう、あたしの後の子ともども、仲良くしてね~」
『おおう、そういやもう一人いたな』
『小悪魔系かぁ。これはやばい(褒め言葉』
ぴょこらにかなりメロメロのようである。
いよいよ出番が回ってきた香織は、モニタの前で緊張している。
「まったく、元気のいい後輩だな。それじゃ、次が最後だ。『黄花マイカ』、自己紹介を頼むぜ!」
「は、はーい!」
元気よく返事をするマイカだが、次の瞬間、ハプニングが起きる。
「ぶべっ!」
盛大に転んだのだ。モニタの前で座っているはずなのに、どうしてこけたのか。これには誰も理由が分からなかった。
「わわっ、大丈夫。モーションキャプチャのモードになってるじゃないの。と、とにかく起きて、マイカ」
こけたマイカを、ぴょこらが手を貸して起こしている。
「あたたた……。ど、どうも黄花マイカです。いきなりごめんなさい」
『ドジっ子!』
『あざとい、だが、それがいい・・・』
『ちらっと聞こえたぴぃこらたその声からするに、モードを切り替え損ねたのか』
『新人あるある』
『アバ信じゃ個人勢でもないと見ねーよ、こんなミスwww』
リスナーの反応は様々だが、つかみとしてはなかなかよかったようだ。
「は、春風をイメージした元気な子なので、みなさんに元気をお届けできるように頑張ります!」
『おk』
『いきなり元気をもらったお!』
『インパクトならかなりあったぜ』
『がんばれー』
リスナーたちから励ましが届く中、司会進行の二人に画面が切り替わる。
「とまあ、以上の四名が、今回のVブロードキャスト社の新人アバター配信者です。配信を行う時には、ホームページやSNSにて告知を行いますので、みなさん、応援をよろしくお願い致します」
「なお、今回の新人お披露目配信を記念したキャンペーンもやってるから、そっちも是非チェックしてくれよ」
『おk』
『抜け目ねえなwww』
『初配信楽しみにしてるお!』
「それでは、本日の新人お披露目配信をご視聴いただき、誠にありがとうございました」
「俺とミミはこの後に配信予定だから、そっちも楽しみにしていてくれよ」
「ええ、少しお時間は空きまして夕方の5時からとなります。この場では聞けなかったことなど、よければご質問ください」
「ご視聴ありがとうございました」
華樹ミミと蒼龍タクミが深くお辞儀をすると、ここで新人お披露目配信は終了となったのだった。