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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第78話 顔合わせ

 次の土曜日、母親とともに香織はVブロードキャスト社に顔を出していた。

 今日はでき上がったアバターとのご対面の日である。ちなみに、そのアバターを担当した絵師と3Dモデラーとも対面は今日は初めてとなる。

 一体どんな人物が自分のために労力を割いてくれたのか。それを思うと香織はますます緊張していた。


「お、お母さん……」


「だ、大丈夫よ。とにかく担当の方とお会いしましょう」


「うん」


 香織どころか香織の母親もガチガチに緊張していた。

 どうにか受付へと進む二人。


「あの、本日14時に面会の予約をした花宮と申します」


「はい、伺っております。今、森に連絡を入れますので、少々お待ち下さい」


 緊張した様子で受付に母親が話し掛けると、受付は笑顔ながら淡々と受け答えをしていた。さすがである。

 しばらくすると、エレベーターから森が降りてきた。両サイドの髪を後ろでバレッタ止めにしているハーフアップの女性である。


「お待ちしておりました。ご案内致しますので、ついてきて下さい」


 入場許可証を受け取った香織と母親は、森の後ろをついて行く。

 向かった先は、先日の契約を行った5階の会議室ではなく、2階下の3階だった。


「ここ3階は、配信用のスタジオが揃っております。当社所属のアバター配信者が同時に8名までが配信を行えるようになっております」


「そ、そうなんですね。ということは、私もこの3階を主に使うことになるのでしょうか」


「そういうことになりますね。なお、階段やエレベーターを降りたところには休憩室や更衣室が男女別にございますので、配信前後や休憩の際にご利用ください」


「は、はい。分かりました」


 森の説明に、緊張しながらも元気よく返事をする香織なのであった。

 4階にある8つのスタジオのひとつに、香織たちは案内される。

 スタジオの中に入ると、男性1名と女性2名が待っていた。


「お待たせ致しました。では、こちらにお掛けください」


「はい」


 スタジオの中には配信用のブースと機材の並んだブースとに分かれていた。今香織がいるのは機材が並んだブースである。


「スタジオの中は二つに分かれていまして、こちらが事前会議を行ったり、配信のサポートをするスタッフが待機する場所となります。あの扉の向こうが配信用のスペースです」


 部屋には窓のひとつもない。だが、配信を行うのであれば、こればかりは仕方がないだろう。

 スタジオの説明を終えた森は、香織の方へと向く。


「それでは、あなたが使うアバターとその名前を紹介します。頼みます」


「はい」


 森の声に男性が反応して、奥のブースにある大きなモニタに映像を出す。

 そこに映し出されたのは、香織よりも年齢の高そうな可愛らしいアバターだった。ベースとなる服装はセーラー服といったところだろうか。


「わぁ、可愛い」


 香織から出た感想に、森たちはに得意げに笑っていた。


「あなたの印象からこちらの絵師と3Dモデラーに作って頂きました。喜んでもらえてなによりです」


 反応を確認した森は、胸ポケットから何かを取り出す。


「では、今回のお披露目に合わせて、こちらをお渡ししておきますね」


「これは?」


「あなた専用の入場許可証です。こちらのICチップをかざして頂ければ、社内の一部とはなりますが、出入りが自由となります」


「へえ~、ありがとうございます」


 入場許可証を受け取って、香織は笑顔になっている。

 基本的にはお互いの本名は知らせないのか、森はかたくなに誰一人として名前を呼んでいなかった。


「では、あなたのアバターの設定をお渡ししますね。できる限りはその設定どおりのキャラで通して下さい。無理そうでしたら、いつでも言って下さいね。融通は利きますので」


「は、はい。では、拝見いたします」


 手に取って自分のアバターの情報に目を通していく。

 名前は『黄花マイカ(きばなまいか)』と書かれていた。キャラクターとしては明るく活発な感じで、中の人である香織とは正反対といったところのようだ。

 ふわふわとした金髪風のツインテールに八重歯。足は右が白のクルーソックスで左は花柄のニーハイで靴はローファーといった感じ。セーラー服風なので、学生というイメージなのだろう。


「ずいぶんと私と性格がかけ離れていそうかな」


「そうですね。地と違う感じなので、最初は大変かもしれないでしょうけれど、違う自分になれるのですからそのくらいの方がいいのですよ」


「なるほど」


 森の説明に納得がいった香織は、再び資料に目を通している。


「では、今日はちょっと試しに動かしてみましょうか。海藤、頼みますよ」


「分かりました、先輩」


 海藤と呼ばれた女性が準備を始める。

 その後モーションキャプチャをつけた香織が、カメラの前で動いたり表情を操作したりと、でき上がったアバターの状態を確認していた。


「うん、ちゃんと動いているようだね」


「ああ、動くところを見ると頑張ったかいがあるというものですよ」


 3Dモデラーも絵師も、これにはひと安心である。調整をしたとはいっても、実際に動くところを見ないと安心できないというものだ。

 ひと通り確認したところで、森は香織を呼び戻す。


「問題ないようね。どうかしら、初めて動かしてみた感想は」


「はい、面白いです!」


 両手を握ってにっこりと笑う香織の姿に、なぜか海藤が一番笑っていた。


「では、初回の配信は今回の合格者全員揃っての配信となります。日時が決まり次第また連絡をしますので、楽しみにして下さい」


「はい、分かりました」


 無事に顔合わせを終えた香織たちは、その場で解散となる。

 これでアバター配信者になれると思うと、香織の顔には笑みがあふれていた。


「香織、嬉しいとはいっても、絶対人に話しちゃダメよ。そういう約束なんですからね」


「はあい、お母さんもね」


 守秘義務を確認し合う親子ではあるが、その帰り道の間、にやけ顔が消えることがまったくなかったのであった。

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