第76話 雪だるまを作りたかった
「おはようですわ、みなさま。光月ルナでございます」
『おはよるな~』
『おはよるなー』
新年二度目の配信を行う満。
うっかり冬休みの宿題を残してしまい、冬休み最終日まで配信ができなかったのである。
『冬休みも終わりか~』
『終わるからこそ、こうやって癒しを求めに来たのだ』
リスナーたちが勝手に話をしている。
「まあ、そうなのでございますのね。僕は吸血鬼。そのようなものにはなじみはございませんわね」
『まぁルナちだしな』
吸血鬼らしい受け答えをしていると、なぜか納得されてしまった。画面の前でちょっと苦笑いをする満なのである。
『ルナちって神社は平気なのかな』
ふとリスナーから疑問が上がる。
『そういえばそうだな。吸血鬼って招かれないと他人の家に入れないし、性質的に神社は大丈夫なのかな』
『何の話をしてるんだ、ルナちはルナちだぞ』
「まあまあ、ケンカはおよしなさい。僕は真祖の血筋ですので、その程度、おそるるに足りませんわ」
『おお』
『さすがルナち』
よく分からないけれど、ちょっと雰囲気が怪しかった。なので満がすかさず仲裁に入ると、一気に空気が和やかになった。
「というわけで、元日の配信の翌日に初詣に行ってまいりましたわ」
『すでに行ってた笑』
『元日に行き損ねてたんだな』
『人混みは怖いだるぉ?!』
ひとつ喋ると面白いくらいに反応が返ってくる。
この状況を見ていると、自分も人気配信者になったんだなと少しずつ実感してくる。
「そうですわね。普段は人気のないお屋敷で過ごしておりますから、人の多い場所というのは、確かに怖いかもしれませんわね」
『言葉の割にめっちゃ笑顔www』
『ルナちも同じだと思うと、なんだろう、泣けてくるぜ』
「まあまあ、これで涙をお拭きくださいな」
満はアバターを操作してハンカチを取り出すと、画面の前の方に差し出す。その手を引くと、そこにあったはずのハンカチが消えていた。
『うおっ、本当にハンカチを手渡してる』
『謎技術やなあ』
『ルナちの優しさが心に染みるぜ』
リスナーたちの様子がほっこりし始めていた。
さらに和やかになったところで、満は次の行動に移る。
「そうですわ。先日庭園を見て頂こうとしてしまして失敗しましたので、改めて庭園に参りましょうか」
『お、庭に出れるん?』
『まだ積もってね?』
庭の話をすると、元日配信の時の雪が積もり積もった光景をリスナーたちは思い出したらしい。
あの時は膝上まで雪が積もっていて、物理演算に阻まれて庭に出られなかったのだ。
しかし、あの後には雪のエフェクトをしっかり切っておいたし、今日の配信を前に庭の状態を確認しておいた満に隙はなかった。
「うふ、ご心配なく。同じ失敗を二度と繰り返す、僕ではありませんわよ」
ルナのドヤ顔が決まる。
『これは期待』
場面が切り替わって庭園に出られる廊下までやって来た。
外は相変わらず雪が積もってはいるものの、元日の時に比べればだいぶマシになっていた。
『相変わらずの変態技術やな』
『普通グラ変えたら全部なくなるのに、なんで残ってるんだよwwww』
リスナーのご指摘のとおりである。
とはいえ、雪のエフェクトを切っただけだ。
つまり、雪が降るという状況が解除されただけで、降った雪はそのまま残り続けているというわけである。どこまでリアルにこだわってるのだろうかと、この状況を見た満自身も思ったことだった。
ルナが庭園に足を踏み入れる。
踏むとどういうわけか雪を踏みしめる音が響き渡る。
『おい、今日は音が出たぞwwwwwww』
『ふふふっ、こだわらせてもらった』
『本w人w降w臨w』
『将来的にはVRの仕事をやるつもりだからな、妥協のひとつも許されないってわけだ』
『なるほど、なるほどな?』
『待て、言葉からするに学生か?!?!』
『ノーコメントだ』
また世貴が視聴しているらしい。
「おほん。ここは僕のチャンネルですわよ。余計な詮索はおよしあそばせ」
ひとまずプライバシーなので、満はぴしゃりとやめさせておく。
『さすがルナち』
『ママァ・・・・・・』
リスナーを諫めていると、なんとも言えない反応をされてしまう。満はつい戸惑ってしまった。
「おほん。では、先日の真家レニ様に負けないくらいの雪だるまを作りますわよ」
満は腕をぐるぐると回すと、雪の上でかがんでせっせと丸め始める。
アバターが雪を取れば、その場所の雪はちゃんとその場からなくなり、固めていけば圧縮されていく。
『仮想空間とは思えないな』
『ああ、銀髪美少女が白銀の世界にただずんで絵になる・・・』
リスナーたちは、雪だるまを作るルナの姿に思わず見入ってしまっていた。
「できましたわ」
『ルナち?』
『雪・・・だるま?』
ルナが地面に置いたものを見て、リスナーたちは思わず固まっていた。
なぜなら、でき上がったものは雪だるまのような何かだったからだ。
「ちょっと感覚が慣れなかったので、うまくいきませんでしたわね」
『ドンマイ、ルナち』
『こういうのを見ると、レニちゃんが特殊なんだと思わされるな』
「ま、まあ、雪だるまを作るという目的は果たせましたので、これはこれでヨシですわ」
『ヨシッ!』
『おい、それはやめれwwww』
リスナーたちの反応に、満は笑ってしまう。
「ちょうどキリがよさそうですし、本日の配信はこれで終了させて頂きますわね。それでは、ごきげんよう」
『おつるなー』
『おつるな~』
結果はどうあれ、雪だるまを作ると目的を達成した満は、満足のうちにこの日の配信を終えたのだった。