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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第75話 ブイキャスに集いし者

 まだ冬休みが明けきらない頃、香織はとある場所にいた。


「Vブロードキャスト社、またここに来るなんて」


 母親について来てもらった上で、香織は社屋に足を踏み入れる。なぜ母親だけかというと、父親は仕事が始まってしまっていたからだ。両親揃ってきたかったのだが、都合がつかなかったらしい。

 新年の仕事始めが終わった社内は、今日も人が慌ただしく動いている。なぜなら、アバター配信者の配信は毎日行われているからだ。

 香織は受付に書面を見せると、ネックストラップになった入場許可書を受け取る。母親と一緒に指定された場所へと向かっていく。


「えっと、5階の会議室だったわね」


 エレベーターで上がっていき、会議室を目指す。

 そこで、ばったりととある人物に出くわしてしまった。


「あら、あなたは二次審査の面接来た子ね」


「あっ、はい。こ、こんにちは……」


 急に声をかけられて、香織はびっくりしている。


「ここに来たということは、最終審査も無事に通ったのね。会場はこちらです、ついてきて下さい」


 香織に話し掛けていたかと思うと、母親の方にも視線を向けて優しく声をかけてくる。

 香織と母親は思わず顔を見合わせてしまうが、案内してくれるというので黙ってついて行くことにした。

 二次審査をしていた女性に案内されて、無事に香織たちは会議室に到着する。

 入口には『Vブロードキャストアバター配信者会合』と書かれていた。


「ありがとうございます。助かりました」


「いえいえ、私もちょうど向かうところでしたからね」


「えっ、そうなんですか」


 案内してくれた女性の言葉に驚く香織。その顔を見た女性は、柔らかな笑顔を香織に向けていた。

 会議室の中には、香織以外にも数名の見覚えのある顔があった。


「お久しぶり、香織ちゃん」


「あっ、しずくちゃん」


 その中の一人が声をかけてくるので、香織は嬉しそうな顔で手を振って反応している。


「あら、知り合いなの?」


「うん」


「知り合いって、一緒に審査を受けたんだから、知り合いじゃなきゃ怖いわよ」


「あ、そうだね。ごめんなさい」


「謝らなくてもいいわよ、ふふっ」


 香織たち親子の会話に挟まりながら、つい笑ってしまうしずくだった。


「初めまして、しずくの母でございます」


 しずくの後ろにいた女性が挨拶をしている。そういえばしずくも中学生だった。未成年なので親がついて来ていて当然なのである。


「こちらこそ初めまして、香織の母でございます」


 しずくの母親に挨拶を返す香織の母である。

 と、二人の母親が挨拶を交わしたところで、ここまで案内してくれた女性が声をかけてきた。


「ご挨拶は済んだかしらね。そろそろ担当の者が到着しますので、席にお座り願いますでしょうか」


「分かりました」


 ガタガタと会議室に集まった人たちが着席していく。

 席に着いたところで、香織はじっと前の方を見ている。会議室まで案内してくれた人の名前を見ているのだ。


(あっ、星見真麻っていう人なんだ。少し遠くなってもきれいな人だなぁ)


 香織がぼんやりそんなことを思っていると、会議室にびしっとスーツを着た人物たちが入ってきた。男性二人に女性一人。どうやら社員のようだ。

 扉を閉めた後、社員たちは前の席に座り、真ん中の人物がマイクを手に取って話を始めた。


「本日は、弊社まで足をお運びいただき誠にありがとうございます。本日は合格者であるみなさまと契約を交わすためにお集まりいただきました。これより、当社の指針などの説明行いますので、しばらくお付き合いください」


 香織やしずくたちは先日行われたオーディションの合格者だった。中学生である二人以外には二十代の男女がおり、合格者は全部で四人のようだった。

 会社での決まり事などを事細かに説明を受けていく香織たち。

 どうやら、アバター配信者の姿はまだできていないらしく、デビューはまだ先になりそうである。なので、それまでは準備期間にあてられ、様々な手続きを行うことになるようだ。


「なお、配信を行う際には弊社まで来ていただき、社内のスタジオにて行います。身バレはもっての外ですのでね」


 アバター配信者たちは基本的にみんな中の人が不明である。

 個人勢である真家レニや光月ルナだって、中の人を知る人はほとんどいないのだから。

 香織たちも、その守秘義務を負うことになる。自分たちはもちろん、このVブロードキャスト社所属の他のアバター配信者についてもだ。

 しかし、さすがここにいる人たちはそのことをしっかりと理解していたようで、全員説明を真剣に聞き入っていた。


「では、以上です。それでは、ここで弊社所属の先輩からのメッセージをお聞きください」


 社員がそうやってモニタに何かを映し出す。


『はい、みなさん。初めまして、第一期生の華樹ミミです』


 なんと、大人気アバター配信者である華樹ミミからのビデオメッセージだった。

 その話に聞き入っている中、香織はとあることに気が付いた。


(あれ、星見さん、なんで笑ってるんだろう……)


 思わず首を捻ってしまう香織なのであった。

 ビデオメッセージの後は、普通に契約の締結が行われ、これで晴れて香織はアバター配信者の仲間入りを果たす直前までやって来たのだった。


「それでは、アバターがご用意出来次第、また個別に連絡を差し上げます。本日はありがとうございました」


 社員の挨拶が終わると、全員が帰ろうとする。そこへ、星見が近付いてきて挨拶をする。


「うふふ、私もこの会社に関わる一人として、みなさんとお仕事できる日を楽しみにしていますね」


 星見は笑顔で挨拶をして、新人たちを見送ったのだった。

 星見のその姿を見た香織は、やる気十分になる。

 その後はしずくとその母親と一緒に適当なところで食事をして、家路についたのだった。

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