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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第74話 世貴と羽美

 とあるアパートの一室。一人の男性が椅子にもたれ掛かって大きく息を吐いている。


「また、ルナちゃんの配信を見てたの?」


「おうよ、羽美」


「飽きないわねぇ。まあ、私が描いたこの上なく可愛くて美しい子だから、気持ちは分かるんだけどねぇ……」


 世貴の反応を見て、羽美は満足げに笑っている。


「それにしても、よく飽きもせずに見てられるわね」


「当たり前だ。俺が確認しているのはルナちの可愛さだけではない。自分が手掛けたものがちゃんと動いて、思い通りになっているかを確認しているんだ。技術屋の性ってやつだな」


「まったく、はたから見れば美少女アバ信にはまるオタクにしか見えないわよ。そんなだから、単位がギリギリになっちゃうのよ」


「ふん。大学の勉強など本気を出せば取れるからな。だが、俺の目下の関心は光月ルナだ。中身はいとこの友人で可愛がっていた満くんだぞ?」


 羽美との会話で、にやりと笑みを浮かべる世貴である。

 その世貴のにやける顔を見て、羽美の方は納得がいく。


「まっ、みっくん可愛いもんね」


 羽美はモニタへと視線を移している。


「で、あたしにはそのみっくんの可愛い配信を見させてもらえないのかな」


「ああ、いいぞ。アーカイブががっつりあるからな。さっきの配信もそのうち上がるだろう」


「よし、見せて」


 何気なしに答える世貴に、羽美がずずいっと近寄っていく。

 ところが、いざアーカイブを見せようとしたところで、世貴の手が一旦止まる。


「ほいきた。……と言いたいところだが、どれがいいんだ。週三回欠かさずに配信してるおかげで、動画が多いんだよ」


「直近で」


「なら、30日の真家レニとの合同配信か」


 世貴はアーカイブ一覧を配信日順に並べ替えて、一番上に来たおとといの配信のアーカイブを再生する。


「すごいわね。完全に女の子同士の掛け合いね」


「だろう。とはいえ、それを強いたのはお前だぞ、羽美」


 驚く羽美に対して冷静にツッコミを入れる世貴。

 それもそうだ。いとこからのお願いを聞いて、ノリノリで美少女アバターを描き上げたのは他でもない羽美なのだから。


「しかし、みっくんはよくこのお嬢様キャラをきちんと演じているわね。自分のことを『僕』というのがまたポイントが高いわ」


「初期の段階ではキャラの迷走で『わたくし』と言ってた時もあるがな。リスナーたちから言われて『僕』で固定になったんだよ」


 配信が進んでいき、ホラーゲームのプレイ実況になると羽美の顔が歪んだ。


「しかし、美少女アバターが二人揃ってホラーゲームとか、なんなのよ一体……」


 どうやら羽美はホラーの類が苦手なのか画面から視線を外していた。


「コラボ相手の真家レニがFPSの猛者なんだ。で、満くんはその真家レニのファンだ。となれば、この流れは必然だろう」


 世貴の話を聞いて、ますます顔をしかめていく羽美である。

 あまりにもホラーゲームが嫌なのか、羽美は話題を切り替える。


「それにしても、私の描いたデザインが実にスムーズに動いているわね。さすがあの会社に就職する気があるだけに違うわね」


「だろう。俺としてはもっと実績を作っておきたいんだ。あっ、そうだ。クロワとサンの売れ行きは好調だぞ。初週で合わせて20体売れたからな」


「20体も? それは十分すごいわね。さすが変態3Dモデラーであるウォリーンね」


「お前に言われたくないぞ、ウェリーン」


 活動用の名前で互いを呼び合うと、にやりと笑い合う世貴と羽美なのであった。

 アーカイブの視聴が終わると、世貴はぐぐっと背伸びをする。


「さて、俺はクロワとサンのバリエーションを増やさないとな」


「あれの種類を増やすの?」


 世貴の発言に、羽美は思わず驚いてしまう。基本的なデザインを手掛けはしたものの、種類を増やす気はまったくなかったからだ。


「ああ、リスナーたちが期待しているんだ。色を変えるだけだしあまり苦労はしないだろうが、さすがに後期試験にかぶるからちょっと時間をかけるつもりさ」


「試験を頑張るのは当たり前でしょ。就職するにしても大学くらいはちゃんと出ておかないとね。それに、私たちはまだ入学したての一年生なんだから、単位は取れるだけ取っておかないとね」


「分かってるって。こんなところでつまずいてたまるかよ」


 大学生活のことで小言を言われた世貴は、少々嫌な顔をしていたがやる気は十分のようである。


「ふわあぁぁ~……」


 羽美とのやり取りを終えた世貴は大きなあくびをする。さすがに眠くなってしまったようだ。

 その姿を見た羽美はやれやれといった顔で自分の部屋へと戻っていった。


「さて、今日はいい初夢でも見れるかな……」


 ようやく一人になった世貴は、眠い目をこすりながら布団を敷いていく。


「明日は俺も羽美もバイトが休みだし、初詣に行くか。今日は夜更かししたせいで行き損ねたからな」


 今日一日の行動を反省しながら、世貴はもう一度大きなあくびをする。さすがにもう限界のようだった。

 布団に入った世貴は、引く手あまたの3Dモデラーとなることを夢見ながら、ぐっすりと寝入ったのだった。

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