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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第68話 クリスマスの夜の不思議な感覚

 クリスマス合同配信を終えた満は、床に寝転んでしまう。

 真家レニとのコラボ配信であることも理由だが、思ったより配信が長くなってしまい、光月ルナのお嬢様キャラを維持し続けたことで疲れ切っていたのだ。


「はあ、だいぶ疲れっちゃたなぁ。慣れないことをやり続けるというのは大変だなぁ。お嬢様という風に決めたのは僕なんだけどね」


 部屋の天井を見上げながら独り言をつぶやき続ける満だったが、ふと何かを思い出して体を勢いよく起こす。


「はっ! そうだ、初月の収益化の振り込みがあったんだっけか。レニちゃんとの共同配信のことで頭いっぱいですっかり忘れてた!」


 そう、アバター配信者を始めた初月の収益が口座に振り込まれていたのだ。

 収益化ラインを達成すれば、その月の分がすべて計算されて振り込まれるのは実にありがたい話だった。おかげで配信者となった十月分の収益は無事に全額振り込まれたのである。

 原因は真家レニの配信乱入事件だったので、なおのこと真家レニには頭が上がらなく満なのである。


「レニちゃんにもお礼しなきゃいけないなぁ。なにかおごるのがいいのかなぁ」


 真家レニならきっと「時々一緒に配信しよっ」で済む話なのだろうが、満は妙に律儀なのである。

 しかしだ、満がお礼をしなきゃいけないのはまずはアバターを作ってくれた世貴と羽美の双子だろう。風斗のいとこであるあの双子が張り切ってくれたからこそ、アバター配信者『光月ルナ』はこうやって存在できているのだから。

 いろいろと思い返していたい満だったが、今日の配信をアーカイブ化しなくちゃと立ち上がる。

 アーカイブ化を行っていた満はちょっと驚いた。


「あれ、配信ではレニちゃんに固定されてた画面が、僕の方を追ってる……」


 そう、うっかりしていたのだ。

 世貴の作ったこのソフトはなかなかの変態っぷりで、少人数であるのなら、満が使っているパソコンで並行処理ができるというとんでもない代物だった。

 満は途中で衣装替えをした時にカメラを真家レニを対象として切り替えたのだが、満のパソコンでは光月ルナを追跡する形で録画が続いていたのである。

 つまり、配信は切り替えられたものの、録画モードの変更をし忘れたがためにこのようなことが起きたのだった。


「まあ、いっか。衣装替えは一瞬だったし、映ってまずいものはないもんね」


 満はもうどうでもよくなった。

 ただ、真家レニには連絡を入れておかなければいけないのは間違いなかった。

 連絡を入れてしばらくすると、真家レニから返事がある。


『ルナちへ

 アーカイブの件了解したよ。

 チェックすると、レニちゃんの方はずっとレニちゃんが映ってたから問題ないよ。それじゃ、こっちはこっちでアーカイブさせてもらうね~。

 メリクリ、ルナち。今日は本当にありがと~☆』

 じゃね~、おやすみ~☆』


 相変わらず緊張感のない喋り方でつづられていた。でも、これでこそ真家レニだなと思う満なのであった。

 真家レニとのやり取りを終えて、満は早速アーカイブを行ってチャンネルにアップする。


「ふぅ、年内はもう一回くらいかな。冬休みに入ったんだし、宿題を済ませて家のことも手伝わないとね」


 椅子に大きくもたれ掛かりながら、背伸びをする満。

 アバター配信者としては充実してきている満ではあるが、やっぱり家族のことをないがしろにすることはできなかった。

 しかし、今日はもうさすがに遅いし疲れてしまったので、さすがに眠ることにしたのであった。


 その日の夜、満の家の屋根にたたずむひとつの影があった。


「クリスマスか。まったく、何がそんなに楽しくて浮かれているのやらな」


 ルナ・フォルモントだった。

 吸血鬼であるルナにとってしてみれば、ただの平凡な一日に過ぎないのだろう。

 ネットの世界に封じ込められてからも、いまいち世間のクリスマスの浮かれ具合が理解できなかった。

 満の配信を満の目を通してみても、やっぱり分からないのである。


「まあ、妾には何も分からないが、満が楽しそうにしているのなら、それでいいのだがな」


 ふっと静かな笑みを浮かべる吸血鬼ルナである。


「しかし、満が配信二か月ということは、妾がかりそめながらも自由を取り戻して二か月が経ったというわけか。ただ生きていた頃には感じたことがなかったが、人と共存するようになって『早い』と感じるとは、なんとも不思議なものよな」


 立てた膝に肘をついて、夜の街並みを静かに眺める吸血鬼ルナである。


「こんな夜だからろうな、妾の吸血衝動がこれほど抑えられないのは珍しいものだ」


 不思議な感覚に襲われているせいか、吸血鬼ルナはついついため息が出てしまう。

 しばらく考え込んでいた吸血鬼ルナだったが、突如として膝を打つ。

 何を思い立ったのか、急に立ち上がった吸血鬼ルナは、背中から羽を出して宙に浮かび上がる。


「さて、今宵の食事はどうしてくれようか。とはいえ、満に迷惑をかけるわけにはいかぬから、ほどほどにせねばな」


 吸血鬼ルナはクリスマスのイルミネーションが輝く街の中へと飛び去っていったのだった。

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