第66話 クリスマス合同配信・前編
「メリクレニ~」
「おはようですわ、みなさま。それにしても真家レニ様、その挨拶はなんですか……」
「クリスマス特別仕様だよ~、てひひ」
満を持してクリスマスの合同配信が始まる。
妙な挨拶でいきなりパンチを放つ真家レニである。
「いやぁ、この背景にはレニちゃん驚いちゃいました」
『確かに』
『目がぁ、目がぁー』
真家レニの言葉に同調するコメントが流れていく。ピカピカしているせいか、よくあるセリフも飛び出していた。
そうなるのも当然だろう。今日の配信画面は光月ルナの屋敷の中から行っているのだが、背景がクリスマス仕様なのだ。オーナメントがキラキラ光っているのである。
これも世貴の仕事のたまものである。
本当に世貴は満のことが気に入っているのか、何をやるにしても本気で取り組んでくる。そして、要求以上のものを返してくるのだ。
「ま、まあ。これもすべてアバターを作ってくれた人のプレゼントですわよ。ええ、ちょっと早いクリスマスプレゼントですわ」
『変態(褒め言葉)』
『いやぁ、それほどでも』
『またいるのか、本人(笑)』
どうやら、世貴がまた配信を見ているらしい。毎回配信見ているらしいけど、バイトとか大丈夫なのだろうかと思う満であった。
それはそれとして、光月ルナと真家レニの合同配信は続いている。
「よーし、せっかくだからリスナーからの質問を受け付けちゃうぞ」
「そうですわね。普段の配信では一方的に話しているだけですものね。それでは、質問を受け付けますわよ」
突如始まった質疑応答。
そうなると、いろいろ聞きたい節操のないリスナーのコメントが……飛んでこなかった。
『おい、誰が最初に行く?』
『なんだろうか。不思議と質問をすることがはばかられる』
普段反応が活発なリスナーたちが遠慮しているのである。予想外の展開に満も真家レニもちょっと戸惑ってしまう。
「じゃんじゃん、質問してきていいのですのよ? 質問がこないようでしたら、ちょっと場所を変えてみましょうか、真家レニ様」
「レニちゃんは構わないよ。それじゃ、移動しているので、その間に質問どうぞ~」
間がもたないのか、満は真家レニを誘って庭の方へと移動していく。
屋敷から外に出て、真家レニとリスナーたちは驚かされた。なんと、雪が降っているのである。
『雪が降ってるよ』
『なんだよ、この変態エフェクトwwww』
『うっそだろ、これヴァーチャルなんだぜwwwwww』
リスナーが大爆笑するのも無理もない。VRの世界だというのに、ちゃんとアバターに当たるとそこで雪が止まってじんわりと融けていくのだから。
まったく、どんな演算を組んだらこんなことができるのか、満の世貴を見る目がどんどんと怪しくなっていく。
結局庭に移動している間も、質問らしい質問が飛んでこなかった。世貴が作ったとんでもエフェクトのインパクトが強すぎたのが悪い。
「ルナち、さすがにこれだけ一気に見せたのは失敗だったかも?」
真家レニが苦笑いをしながらこてんと首を傾げている。
「ええ、そうかも知れませんわね。でも、今日でないと見せる意味がございませんし……、あははは」
満も苦笑いをするばかりである。
『たしかに』
『そういう失敗もかわいい ¥12,250』
『まったく、これだけの変態技術を見せてもらえただけでも、いいクリスマスプレゼントだった』
「ええ、本人がいらしてますが、後ほど僕からもお礼を申し上げておきますわ」
もうなんていうか、ここまできたらぐだぐだでも許される気がしてきた満なのであった。
結局質問コーナーは立ち消えになってしまい、いつも通りにSNSのリプにでも送ってもらうことにする。
ちなみにちらちらとスパチャが来ているが、これは二人で折半されるように設定されている。満に抜かりはなかった。
「そうでしたわ。うっかり忘れていましたが、今日のための衣装があったのですわ」
「ほうほう、ルナちの衣装って他にもあったんだ」
「ええ、そうですわよ。先日お披露目した衣装は、今日のための衣装のおまけですのよ」
『あれがおまけwww』
『ルナちのパパママは頭おかしいwww(褒め言葉)』
褒められているのだかけなされているのかよく分からないのか、ここでは世貴はまったく反応する様子はなかった。
「では、真家レニ様。しばらく席を外しますので、その間をよろしくお願い致しますわ」
「おけおけ~、レニちゃんにお任せだよ!」
満は一度画面から外へと向かっていく。カメラを真家レニの方に固定したので、これで衣装チェンジの瞬間は見られないはずである。
配信画面で自分が映っていないことを確認すると、満は自分のアバターを右クリックして衣装チェンジを選択する。
着替えたい衣装を選択すると、光月ルナの衣装が一瞬で変更される。
着替えたのは、この日のために世貴に出した依頼の一品だ。そう、サンタコスチュームである。
しかし、サンタコスチュームとはいっても色合いだけ。デザイン自体は光月ルナに似合うようにアレンジされているのである。
(よし、みんなに見せるぞ!)
意気込んだ満は、再び真家レニのところへと戻っていく。
いよいよ、本命の披露である。はたして、リスナーたちの反応はいかに?!