第64話 新衣装お披露目配信
「みなさま、おはようなのですわ。光月ルナでございます」
『おはよるな~』
『おはよるなー』
いつものように挨拶をして始める満。
『告知見た』
『見せたいものってなんだろ』
『wktk』
今日もコメントがものすごい勢いで流れていく。
それもそうだろう。見せたいものがあると書いたためか、今日の同接は2万を超えている。チャンネル登録者の、実に8割くらいが見ているのだ。もはや個人の新人アバター配信者だという事実を疑いたくなる数値である。
「おほん。みなさま、急かし過ぎでございますわ。少しは落ち着かれたらいいのではないでしょうか」
『深呼吸ー』
『すーはーすーはー』
『ひっひっふー』
『おい、それはラマーズ法や』
コメント欄は相変わらず自由である。
「えっとですね。実はアバター製作者の方に衣装をお願いしましたら、一週間でものすごい数を送って参りましてね。本日はその一部をお披露目したいと思っておりますの」
『ファーーーーッ!!』
『し、新衣装だと?!』
『一か月のお祝いにしてはやりすぎではないのか!?』
どうやらリスナーたちも満と同意見、同感想といった感じである。そのくらいに世貴はやりすぎたのである。
『いやあ、あれくらい普通だと思うだけどな』
『またご本人降臨しとるがな』
『ありがたやありがたや』
『ここで宣伝するのも気が引けるけど、構わないかい?』
『宣伝?』
「ええ、クロワとサンのことでございますわよね。僕の心は寛大ですよ。お構いなく」
リスナーに混ざり込んでいた世貴が満に確認を取ってくるので、満は笑顔で許可を出した。
『それじゃ宣伝させてもらうよ』
『なんだなんだ』
『光月ルナのお伴であるクロワとサンの3Dモデルを一般販売してるので、よろしく頼む』
『ファーーーッ!!』
『マジか、あれ自分で動かせるんか?』
『爆弾発言じゃねえか』
世貴のコメントでリスナー大混乱である。配信乗っ取りに近いものの、満は慣れっこだった。なにせ真家レニに実際乗っ取られたことがあるのだから。
「そういうわけですの、クロワとサンにご興味があるようでしたら、検索いただくとよろしいですわよ」
満はそういうと、両手を打ち鳴らす。話題を変えて自分に注目を戻すためだ。
結構大きな音だったのか、リスナーたちは一気に我に返ったようである。
「では、あまり配信時間を取れませんので、その中から2つか3つほどを披露させて頂きますわ」
『2つ、3つ?!?!』
『複数とか本当おかしい』
『あれ、これってそう簡単にできることだっけか!?』
リスナーが大混乱している。
そうしている間に、画面の中の光月ルナは部屋を退室して姿が映っていなかった。
しばらくして戻ってきたルナの服装は、いつもとは違うタイプのドレスになっていた。いわゆるシックなドレスである。
『おお、大人びた感じのいいドレスだ』
『さすがに吸血鬼ってことで黒ベースに赤色を効果的に散らしてるなぁ』
『どうだ、俺の妹はすごいだろう』
『自慢はいいが、個人情報はやめれ』
『なんだ、このバケモノ兄妹は・・・』
また世貴が暴走を始めている。
しかし、ここは光月ルナの配信の場だ。さすがにこれ以上言わせるわけにはいかなかった。
「はいはい、ご自慢は後になさって下さいませんかしら。ここは僕の屋敷なのです。僕のいうことには従って頂きますわよ」
『はっ、ははー(土下座)』
まったく、両親世代の時代劇か何かだろうか。世貴もずいぶんとノリがいいものである。
自分に注目が戻ったところで、ドレス姿で少し歩き回ったり、一回転したりしてみせている。ちゃっかり羽が出せるように背中は大きく開いている。
『かわいい』
『かわいい』
『やっぱり背中が見えているのはいいな』
なんとも好評な感じだった。
十分ドレスを見せたと思ったルナは、ひと言断って別の衣装に着替える。
『水着かよ』
『吸血鬼的に大丈夫なん、それ』
『てか、真冬に水着とか、どこのソシャゲだよwww』
『可愛いからいいじゃまいか』
さすがに水着は少々感想が割れた感じだった。見せた時期が悪すぎただろうか。
満は首を傾げている。
「それでは、次で最後に致しますわね」
『wktk』
『正座待機』
リスナーたちの息はぴったりだった。
光月ルナの新衣装のお披露目の最後は寝間着だった。
ちゃんとPASSTREAMERの利用規約に沿って作られた衣装なので、何の問題もないというものだ。ただ、これもちゃんと羽が出せるように背中が大きく開いていた。ここまでくると、もはやこだわりとすら思えてくる。
『ルナちは何を着ても似合うな』
『いやらしくなく、ちゃんと貴族然とした感じなのがよい・・・』
『ああ、天国はここにあった ¥10,000』
一か月を過ぎて収益化が解禁されたせいか、スパチャも結構飛んでくる。今日の配信だけでもどれだけ飛んできたことか。というか、よくこんなにぽんぽんと投げられるなと思う満なのである。
ちらりと時計に目をやる満。時間は21時47分だ。お着替えに時間がかかったこともあってか、大した話をしていないのに時間がだいぶ過ぎていた。
そろそろ時間的にも頃合いかと思って、満は配信を終えることにする。ちょうど服装も寝間着になっているので、ここだと考えたようだ。
「それでは、今日の配信はこのくらいにしておきますわね。それではみなさま、ごきげんよう」
『おつるな~』
『おつるなー』
無事に最低限の衣装の披露を終えて、満は配信終了のボタンを押して今日の配信を終わらせる。
非常に満足だった満は、しばらくモニタの前で座り込んだまま動かなかったのだった