第62話 依頼した衣装が届いたよ
あっという間に12月に突入してしまう。
満がアバター配信者として活動し始めてからひとつ半ほどが経過したことになる。
配信はこまめに、時折ショート動画を作ってアップしている満だが、光月ルナの配信の再生数は相変わらずすごかった。
主力だったクロワとサンの3Dモデルも一般販売が始まったので、それに伴って再生数が落ちるかと思ったらそうでもなかった。光月ルナとセットでいるのがいいらしい。
それにしても11月分の収益がどのくらいになるのか、それがとても怖かった。
そんなある日のこと、満にメールが届いていた。
差出人は世貴だった。
『満くん、頼まれていたものができたので送っておくよ。
キャラクターを右クリックすると「コスチューム変更」という項目が出るから、それを選んで服装を選んでくれ。
まぁ驚かないでくれよな。
追伸、収益化は送ってくれなくても大丈夫だ。クロワとサンの売り上げが思ったよりいいんでね。
それじゃ、頑張ってくれ』
真家レニからのコラボ配信の打診があってから、今日でおおよそ二週間くらいだ。いつもの世貴にしたら時間がかかっていたかもしれない。
とはいえ、新衣装を作るのであれば、それをデザインする世貴の双子の妹の羽美の手伝いは必須。となれば、二人の予定がうまくかみ合わなかった可能性があると考えるのがだろうだろう。
そんなわけで、満は世貴と羽美に感謝しながらメールに貼付されていたデータを開く。
ダウンロードが終わると、早速ソフトを起動する。
起動するとそこには光月ルナが表示されている。ソフトの画面には『New!』の文字が見えている。
クリックすると、世貴から送られてきた衣装が表示されている。
「うわっ、世貴兄さんってばこんなに作ってきたんだ。羽美姉さんもよく考えたなぁ……」
満はびっくりしていた。
真家レニとのコラボ配信に向けて注文を出したのはサンタクロースの衣装だけだった。
ところが、今回送られてきたのはそれだけではなかった。
それだけではという通り、サンタクロースの衣装はもちろんある。それ以外にも普段着とは違うドレスだったり、吸血鬼ではあまりイメージできない水着だとか、何種類もの衣装が送られてきていたのだ。
なんてことはない。
時間がかかったのは連携が取れなかったのではなくて、単純に作りすぎただけだったのだ。
理由が分かった満は、もう笑うしかなかった。
せっかくなので、光月ルナを着替えさせてみる。
最初に着せてみたのは、すぐに使う予定のあるサンタクロース衣装。光月ルナの高貴な吸血鬼のイメージに合う、全体的に露出度の低い衣装だった。
一般的な赤と白でまとめられている。ただ、スカートだけは短かった。足の部分は赤のサイハイブーツと白のタイツ、上半身もよくあるノースリーブにアームカバーのような独立袖かと思ったら、下には白いアンダーを着ていた。
「うーん、さすがは生みの親。サンタのような衣装だけど、ベースとなるルナのイメージも崩していない。すごいなぁ」
満はただただ感心するのみだった。
他のドレスや水着も一応確認する。
最後のひとつを確認しようとすると、他にもデータがあることに気が付いた。
『光月ルナの家(冬景色)』
『天候・雪』
確認したデータを見て、満は困惑した笑いを浮かべてしまう。
出した依頼は、本当にサンタクロース衣装だけなのだ。誰もここまでやれとは言っていないのである。
「冬用のデータまで用意して……。世貴兄さんやり過ぎでしょうに」
すべてのデータを確認し終えて、満の認識は180度変わってしまっていた。実にやりすぎである。
「これだけあると、少しくらいはお披露目してもいいかな。次の配信くらいに入れたいから、世貴兄さんに確認してみようっと」
満は怖くなってきたのか、いったんソフトを閉じて、世貴や羽美にお礼のメールを認める。それと同時にサンタクロース衣装以外はお披露目していいのかの許可を求めた。満は結構律儀なのである。
「さて、今日はレニちゃんの配信があるはず」
ひと通りやり終えたところで、満はSNSのチェックをする。
絞って検索して確認してみると、18時の時点で行われた真家レニの直前告知がヒットした。いつも通りの21時からの配信のようだった。
「19時半かぁ。今日はまだご飯食べてなかったな。今から食べてお風呂に入ればまだ間に合うかな」
真家レニのファンである満の生活リズムは、そこそこ真家レニに支配されている状況なのである。
実際、水、金、日の三日間ある真家レニの配信は欠かさず見ている。見られない日には本気で凹みそうだったというか、小学六年生の修学旅行の際は実際に凹んでいた。どれだけの熱狂的なファンなのか。
さくさくといつものスケジュールをこなした満は、20時半にはパソコンの前に座って配信を今か今かと待ったのだった。
世貴に依頼していた新しい光月ルナの衣装と、真家レニの定期配信を満喫した満は、その日は満足していつものように布団に入る。
時間は夜の10時半。本当に満の一日の終わりは早いのであった。