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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第58話 満足と不安と

 質問に答える配信を行った満は、翌日の火曜日の朝の時間、少し考え事をしていた。

 それは何かといったら、配信のために作ってもらったこうもりの羽を持った犬と猫の3Dモデルのことだった。

 現状ではクロワとサンと名付けられた一体ずつしか存在していないペットだが、その扱いをどうするかで悩んでいるのである。

 現状、光月ルナの配信は、ペット絡みの再生数が特に目立って多い。活動開始から一か月のアバター配信者にしては、異例の十万再生に届く勢いだった。一番古いのでも二週間くらいだから、結構伸びている。

 ここまでの配信者になれたのだから、そろそろ生みの親である世貴と羽美に還元すべきだと考えているのである。


「うん、僕が独占しているのはいい加減に終わりにするかな」


 収益化も達成して、思わぬ金額が転がり込むことになった満は、いよいよ決心したのだった。

 パソコンに向かって、世貴に対してメールを送ることにした。

 カタカタと打ち込んで文面をよく見直した満は、早速メールを送信する。

 朝の支度をして部屋に戻ってくると、もう世貴からの返信が届いていた。


(はっや!)


 驚いた満はメールを確認する。


『やあ、満くん。メールありがとう。

 そうか、君がそう言ってくれたのなら安心してペットの3Dモデルが販売できるよ。

 モデル名は君がつけてくれたクロワとサンで登録するから、どれだけ売れるか楽しみにしていてくれ』


 文面から嬉しさがにじみ出ているように感じる。どうやら相当売りに出したかったようだ。

 今なら人気新人アバター配信者『光月ルナ』が使用していると、これでもかという強気のコピーが打てるのだから。

 満は思わずクスッと笑ってしまう。

 メールを確認し終えた満は、学校に向かうためにパソコンの電源を落とす。

 いざ最後の準備をしようとした時だった。


「ぐっ……」


 急に胸が苦しくなる。


「この苦しみって、まさか……」


 そのまさかである。

 しばらくして苦しみが引いた満がパソコンのモニタを確認すると、そこにはしっかりとルナの顔が映っていた。


「あああ、やっぱりかぁ……」


 机に手をついたまま、大きな絶望のため息を吐く。

 ルナの吸血衝動で女性に変身するのは分かったものの、その後の戻り方はいまいちまだ分かっていない。

 吸血衝動が変身のきっかけであるなら、血を吸えば元に戻れるだろう。

 そう推測はできるのだが、血を吸ってからどれだけの時間で元に戻るのかが分からない。それに、満には吸血行為に抵抗がある。

 初めて変身した時に、衝動で風斗の血を吸ったことがショックだったのだろう。


「しょうがない。このまま我慢して一日過ごすか。トマトジュースでも持っておけばごまかせるでしょ……」


 満は仕方ないので、このままルナの姿で日中を過ごすことにした。

 ルナの姿になっていることで、性別差による体の違いはあるものの、満の行動自体に影響はない。

 吸血鬼だから日光や流れる水が苦手かと思ったが、まったくそんなことはなかった。

 今のルナ・フォルモントの体の状態は、満の体に影響されるようで、みそ汁やネギなどもまったくもって問題なかったのである。


「行ってきます」


「いってらっしゃい、満」


 父親はすでに出社して不在。見送る母親の笑顔を複雑に思いながら、満は学校へと向かった。


 学校にたどり着いた満は、クラスメイトからルナちゃんと呼ばれて挨拶をされている。だが、まだその呼び名に慣れないのか、満は自分のことだと気づくのに少し遅れてしまっていた。


「ルナち、久しぶりだね」


「お、おはようございます。ええ、確かにそうですね」


 満とも光月ルナとも、さらにはルナ・フォルモントとも違った口調で話す満。数種類の違った口調を使いこなすとは、満もなかなかに器用である。

 二度目となる吸血鬼ルナの外見での学校の生活は、なかなかに対応に困ったものだった。

 女子には囲まれる、男子からは不思議な視線を向けられる、友人である風斗と話ができない。なかなかに大変な生活を送らなければならないようだった。

 ただ一つ助かったのは、香織の存在だった。

 疎遠気味になっていたとはいえ、ルナ=満なのを知っているためか、この状況に陥ってからというもの満から香織に対する評価と安心感がストップ高だ。

 だが、満は気が付いていなかった。香織から自分に対して、一体どのような感情を向けられているのかということを。

 幼馴染みとして一緒にいることが当たり前だと思っていたからこそ、それまでの気持ちに気が付いていなかった。それが、女子同士の付き合いが増えて満と疎遠になったことで、香織の心の中には心境の変化が起きていたのだ。


(ああ、こうやって空月くんの近くにいられるなんて。空月くんをこんな体質にして下さって感謝します)


 一度離れてしまったがゆえに名字呼びになってはいるが、香織は満に対して好意を寄せていたのだ。離れてから気付くというやつである。

 こんな状態だからこそ、銀髪の少女ルナ・フォルモント=幼馴染みの空月満だといち早く気がつけたのだろう。

 にやにやと笑う香織の表情にドン引きしながら、ルナ・フォルモントとしての二度目の学校生活が始まったのだった。

 はたして、今回は放課後までもつのだろうか。満は戦々恐々としていた。

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