第56話 燃え尽き症候群
一か月配信の後、満はしばらく燃え尽きていた。配信はお休みして、サイトとSNSのチェックだけをしていて回っていた。
そんな中、PASSTREAMERの自分のチャンネルに通知が来ていることに気が付く。
(なんだろうかな……)
気になったので通知を開けてみると、そこには収益化の結果が送られてきていた。
先月配信者と活動し始めてから一週間で収益化目標が達成できた。そこから月末までの再生回数を元に算出された数値が送られてきていたのだ。
つまりは概算なのだが、その数字に満は驚いていた。
「ええ……、あの日数なのにこんなになるの?!」
10日間にも満たない日数でこの金額なら、一体今月はどのくらいになるのか。投げ銭もあるのでもはや恐怖でしかなかった。
「うん、怖いから、見なかったことにしよう」
満は画面をそっ閉じしたのだった。
だがしかし、今回届いた通知に書かれていた金額は、来月の中旬すぎには登録した口座に振り込まれることになる。一足早いクリスマスプレゼントになりそうだった。
そう考えると、満の怖さはわくわく感へと変わっていく。
「よし、せっかくだし動画作ろうかな」
やる気が出たのか、満は世貴が贈ってくれた動画ソフトを起動してパソコンと向き合った。
翌日、週明けの学校へ向かった満は、昼休みに風斗といつものように話をしていた。
「よう、配信休んでたけど、どうしたんだ?」
「うん、一か月経ったんだっていう感動の余韻に浸ってたんだ」
「満にもそういうのあるんだな」
「ちょっと、どういう意味だよ、それ」
風斗の言葉に怒る満は、ぽかぽかと風斗を叩いていた。
「でも、一応昨夜は動画を一本上げておいたよ」
叩くのをやめた満は、一応風斗に報告しておく。
「へえ、どんなやつ?」
「ルナと散歩するクロワとサンの動画」
「なんだそれ、ルナメインじゃないのかよ」
「ペット受けが良すぎるんだもん。配信じゃなきゃペット中心でもいいじゃないか」
声が大きくなる満に、風斗はがばっと手を当てて黙らせる。
「しっ、声が大きいぞ、満」
周りを見ると、大きな声に驚いたクラスメイトたちが満たちの方をじっと見ていた。
その向けられた視線に気が付いた満は、反省して縮こまってしまっていた。
「うう、ごめん」
「まったく、気をつけろよな。身バレは嫌なんだろう」
腕を組んで心配そうに声を掛けてくる風斗に、満は無言で頷いて肯定していた。
「身バレって何?!」
「だわっ!?」
突然の声に大きな声で驚く満と風斗。心臓をバクバク言わせながら顔を向けると、そこに立っていたのは香織だった。
「なんだ、花宮か。一体どうしたんだよ」
風斗が話し掛けると、香織は近くの椅子を引っ張ってきて座ると、満たちに顔を近付けてこそこそと話を始めた。
「ほら、アバター配信者になるって話をしたでしょ。あれのオーディションの結果が送られてきたの」
「ほうほう、どの段階の結果だ?」
香織の話を聞いて、風斗はしれっと聞き返している。
「二次審査の結果だよ。村雲くんってこの手の話詳しいの?」
「世貴にぃからよく聞かされてるからな。あそこは全部で3から4回の審査を経てアバター配信者を決めてるんだ。今一番売れている華樹ミミが選ばれた時は4回審査があったと聞いてるぜ」
香織の質問に、やたらと詳しく話をしている。もちろん、ひそひそ話である。機密情報であるので、そんな大っぴらに話すわけがないのだ。
「まぁそれは今回には関係ないな。で、どうだったんだ、二次審査の結果は」
風斗に目を伏せたかと思うと、香織に審査の結果を改めて聞く。
香織は後ろ手を組んでにこっと笑顔を見せていた。
「二次審査通っちゃった。次の審査の案内が来てたよ」
「そっか、おめでとう」
「おめでとう、花宮さん」
「ありがとう、二人とも」
お祝いをされて、香織はにこやかに微笑んでいた。
「二次審査までなら外に言っても大丈夫だろうな。ただ、それ以降は気をつけろよ、花宮」
「えっ?」
風斗は肘をつきながら、香織に忠告をする。
「さすがにここからは守秘義務が伴うんだよ。アバター配信者の中身バレっていうのは、あの業界では一大スキャンダルだからな。事務所の人以外には絶対喋るなよ。もちろん、他のアバター配信者たちのこともな」
「わ、分かったわ」
ギンと睨みを利かせて忠告をしてくるので、香織はごくりと息を飲み込んで頷いていた。
「守秘義務違反の賠償金って、結構洒落にならないからな。本当に気をつけろよ、花宮」
「うん、気を付ける。黙っているのは大変だろうけど、それよりも私も何かやってみたいもの」
「おう、次の選考も頑張れよ」
「うん、頑張る」
最後に大きく気合いを入れると、香織はそそくさと自分の席へと戻っていった。結局何をしに来たのだろうかと思う満なのであった。
香織が席に戻って風斗と二人になった満は、大きくため息をつきながら机にへたり込む。
「とりあえず、今日くらいに配信してみるよ。さすがにしばらく配信してないとみんなに心配されちゃう」
「その方がいいと思うぜ。やるなら事前告知は出しておけよ」
「うん、もちろん出すよ」
話がちょうど落ち着いたところで、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
「それじゃ、また放課後な」
満と風斗は、それぞれ自分の席へと戻って午後の授業に備えたのだった。