第53話 二次審査の後
新規アバター配信者を決めるオーディションの二次選考を終えたVブロードキャストの面接官たち。会議室に集まってコンビニ弁当を食べながら話をしていた。
「いやぁ、ずいぶんと個性的な応募者たちでしたな」
「まったくですよ。なんとしてもアバター配信者になりたいという気迫が伝わってきましたね」
「私はなんか苦手だったですね。がっついてくる人たちは、勢いだけというかなんというか、それだけしか感じませんでしたからね」
社員四人と一緒に面接官を務めた星見は、社員たちとは違う目線で応募者たちのことを見ていた。
なにせ、今回オーディションを受けた人たちは、自分の同僚になるだろう人物だからだ。今後はコラボだったり、プライベートでだったりで付き合いができるわけなので、自分たちの相性というのも見ていたのである。
社員たちは売れるかどうかの判断をするのに対して、星見は人として付き合っていけるかということを重視しているのである。
「まぁ多くの人がアバター配信者は稼げると思ってやって来るからね。実際に稼げるのは一握りだ。多くは芽も出ないで去っていく。大手のうちですら、一体どれだけのアバター配信者が去って行ったことか……」
「売れないだけならまだいいんだがな。今頑張っている個人勢の中には、うちの者に所属しながらも配信者同士の確執でやめていった連中もいるくらいだからな。人付き合いっていうのも確かに重要だな」
「私たち社員が売れると見た人たちを拾い上げるから、星見さんはそこから合いそうだった人を出してみてくれるかしら」
コンビニ弁当をちょくちょくと口に入れながら、社員たちはトップアバター配信者の中の人である星見に話を振っている。
「分かりました。でも、私も全員の中から決めたいと思うので、売れないとされた人たちの中からでも、一人くらい選んでいいですか?」
「それだったら構わないよ。君が選ぶっていうのなら、私たちも反対はしないからね。なんといっても、我が社の稼ぎ頭の君の意見なんだからね」
「ありがとうございます」
星見は社員たちにお礼を言うと、一緒になって選考書類を眺めている。
今回面接した応募者の中から、最大二十名ほどに絞られる。
次の三回目の選考が、最終選考となる。
最終選考では、Vブロードキャスト社が抱える絵師と配信技術者たちが集まっての審査となる。彼らの目でもって、最終的に新たなアバター配信者が決められるのだ。
「それにしても、星見くん。今日はわざわざすまなかったね。一日分の予定を潰してしまって」
「バイト代が出るのなら、別に構いませんよ」
「君もこだわるなぁ……」
淡々と返す星見に、社員が呆れたように言葉を漏らす。
その物言いに、星見は少し眉をぴくりとさせている。
「当たり前ですよ。今日本当ならバイトだったんですからね。それを休んでまでどうしてもというから来たんです。バイト代が出ないのなら怒りますよ」
「いやはや、君に抜けられるようでは困るな。ちゃんとバイト代は出るから安心してくれ」
「それが聞けて安心です」
話を終えた星見はにっこりと微笑んでいた。
その笑顔を向けられた男性社員は、やれやれといった感じで顔をしかめていた。
「それにしても、私以外の配信者には声はかけなかったんですか?」
「いや、声はかけたさ。ただ、移動距離やら予定やらがかみ合わなくて、星見くんだけしか来れなかったのだよ」
「なるほど。交通費がペイできないってわけですか」
「うむ」
一言二言と会話を交わしながら、星見と社員たちは第二次審査の通過者を決めていっている。
全部で面接したのは五十二名だったので、実にそこから三~四割程度にまで絞られる。
「まぁ、大体は予想していたが、若い人たちに集中してしまったな」
「そうですね。ただ、面接してみた感じからして、どうしても年のいった方たちは向いているようには思えませんでしたよ」
「それは私も同感ですね。お金のことしか考えていませんし、これといってビジョンが見えてこないんですよ」
「それを考えれば、この残った男性三名は光るものありといったところかな」
二次審査通過者たちの応募書類を並べて、社員たちは話をしている。
「それにしても、星見くんは意外なところを拾ってきたね」
社員がちらりと星見の前にある書類を見つめている。
「若いですけれど、何かを感じましたからね。仲良くできそうですし、見どころはありだと思いますよ」
星見は目の前の書類に手を置きながら、自信たっぷりに話している。
「まぁ、君がそういうんならそうだろうね。トップの配信者にしか見えない何かが」
社員にそういわれると、星見は強気の表情を見せていた。
何にしてもこれで二次審査の通過者が決まった。あとはアバター配信者のパパやママとなる人物と一緒に行われる最終選考を残すのみとなる。
「さて、あとは審査結果を各人へと郵送するだけだな。まったく、配信を行う会社なのに、こういうところだけアナログなのは笑えるな」
「仕方ないですよ、郵送がまだ確実に家に届く方法なんですから。今の時代でもメアドすら持ってない人がいるんですからね」
この話になって、社員と星見たちから笑いがこぼれていた。
「では、星見くんはもう帰って大丈夫だよ。合否が決まったことだし、あとは私たち社員の仕事だ」
「分かりました。本日は貴重な体験をありがとうございました」
「うむ、気を付けて帰ってくれよ」
「お気遣いありがとうございます」
頭を下げて、星見が会議室から出て行った。
「我々はもうひと仕事だ、頑張るぞ」
「お、おー……」
結局休日出勤に加えて残業まですることになってしまった社員たち。彼らの頑張りは、はたして報われるのだろうか。