第52話 二次審査
一か月記念配信を真家レニに丸投げした満。どういう風になるのかわくわくしているそんな日曜日。
満たちの住む市の隣の市では、とある配信会社で面接が行われていた。
「さて、書類審査をを通った五十名ほどを相手に面接ですか。今回もだいぶ時間を拘束されそうですね」
「まったくだな。日曜日出勤なんだから、休日をつけてもらいたいもんだよ」
「私もちゃんとお給金が出ますかね?」
新人発掘を行う部署の社員に混じって、私服の女性が歩いている。
彼女がこの配信会社が抱えるトップのアバター配信者である『華樹ミミ』の中の人である。
会社の中ではアルバイトという形で出入りしている。所属部署以外では、彼女がアバター配信者であることは知られていないのだ。
「やあ、星見さん。アルバイトの君にまで手伝ってもらって本当に悪いですね」
「いいんですよ。後輩ができるかと思うと、とても嬉しく思いますのでね」
社員が気遣って声を掛けると、星見はくすくすと笑っている。
「それで、今回の面接方式の二次審査では、どのくらいまで絞り込むおつもりなんですか」
「詳しくは言えないが、おそらく四割ほどにまで絞ることになるだろう」
「二十数名といったところですか。……分かりました、真剣に取り組まさせて頂きますね」
星見の表情は笑顔のままだが、声の調子からは緩い感じが消え去っていた。どうやら仕事モードに入っているようだ。
それもそうだろう。星見は自分が華樹ミミの中の人だとは知られてはいけないのだから。アバターのイメージとは程遠い姿を作り出しているのである。
「午前中から始めるから、一人頭の持ち時間を考えれば夕方までには終わるだろう。今日はよろしく頼むよ」
「はい、もちろんです。先輩として、厳しい目で見させてもらいますよ」
「まったく、頼もしい限りですね」
正面を見てキリッと引き締まった表情で話す星見の姿に、社員たちは逆に自分たちが励まされた気がしていた。
長テーブルを二脚並べて、審査員側と応募者側とで合計十脚の椅子も配置する。これで面接の準備が整った。
ちなみに応募者たちの控室は近くの会議室を準備していて、そこにも詳細を知らされていない数名の社員が配置されていた。
時間は午前9時を迎える。
面接の集合時間10時、面接の開始は10時半からなので、もうそろそろ人が集まり始めるはずである。
「ここが、Vブロードキャスト……。通称『ブイキャス』の本社なのね……」
面接を受ける応募者の中に、なんと満のクラスメイトの香織の姿があった。どうやら先日言っていた応募は締め切りに間に合って、書類審査を通ったようである。
面接の服装は自由となっていたものの、香織は私服であるものの比較的しっかりした服装を着てきた。
ちなみに、ここまでは母親の運転する車でやって来ていた。
「私は控室の隣に用意された部屋で待っているわね。頑張ってきてね、香織」
「うん、お母さん。私、頑張るね」
母親の励ましに、嬉しそうな笑顔で答える香織だった。
それにしても、書類審査を通った二次審査の参加者たちは、実に幅広い年齢層が集まっていた。そのほとんどはおそらく高校生から大学生といったところだろう。中学生で参加しているのは香織ともう一人いるくらいだった。
(すごい、私と同い年くらいの子が、他にもいたんだ)
控室に入った香織はその子に目が向いてしまう。
「なに、私に何かついているの?」
視線に気づかれてしまったのか、少女から声を掛けられてしまう香織。
声を掛けられることが予想外だったのか、香織はつい慌てふためいてしまう。
「あなたね、そんな調子でどうするの。急に話を振られるなんていうのもよくある話よ。しっかりなさい」
「は、はい!」
少女の言葉に、つい背筋を伸ばして大声で返事をしてしまう香織。あまりに大げさな反応だったので、周りからつい注目を集めてしまい、さらに恥ずかしさが増している。
面接が始まるまでの間、香織は少女の隣でカチコチになって座ったまま黙り込んでいた。
時間となって、社員が控室に入ってくる。
「それでは、これより二次審査の面接を行います。みなさん番号が割り振られたと思いますので、番号を呼ばれた方は別室へと移動をお願いします」
ついに二次審査が始まる。緊張の度合いを増していく香織だが、隣の少女は実に落ち着いていた。
「緊張はしてもいいけど、しすぎもよくないわ。深呼吸をして少し落ち着きましょう」
「は、はい……」
少女に言われた香織は、数回深呼吸を行う。そのおかげか、少しは落ち着いたようだった。
「私は川凪しずくっていうの。しずくって呼んでね。あなたは?」
「わ、私は、花宮香織です。か、香織でいいです」
互いに自己紹介をしあうと、呼ばれるまでの間、少し会話をして気を紛らわせていたようだった。
「次、11番~15番の方、別室に移動お願いします」
社員が顔を出して、次の人たちを呼び出している。
「私15番だわ。香織ちゃん、どうやら先に行かなきゃいけないようだわ」
「う、うん。頑張って」
「ふふっ、その言葉、そのままあなたにお返しするわ。それじゃ、行ってくるわ」
しずくは香織と別れて、面接会場へと向かっていった。
一人となった香織だったが、最初に比べればだいぶ気が楽になっていた。
(よし、私も頑張るぞ)
香織は気合いを入れて、自分の順番を待ち続けたのだった。




