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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第49話 変化の秘密

 香織にバレたものの、満はどうにか家まで戻って来た。

 だが、どうにも様子がおかしかった。


(うう、のどが渇く。水も飲んでるのに、それでも乾くってどういうこと?)


 満は、部屋でごろりと転がる。ただ、安静にしているというのに呼吸が荒い。

 天井を見上げながら、胸のあたりを押さえて苦しそうだ。

 開いていた口を閉じた時、満は唇の感触に違和感を感じる。

 びっくりして起き上がると、慌てて部屋のパソコンのモニタを覗き込んだ。


「うそ、これって牙?」


 満は自分の口の中の異物に気が付いた。

 そう、犬歯が伸びて尖っていたのだ。


「これじゃ、まるで僕が吸血鬼みたいじゃないか……」


(何を言っておる。妾の姿だ、吸血鬼で間違いないだろうが)


 満が愕然とした瞬間、頭の中に声が響く。

 その瞬間、満は改めて思い知らされる。自分が半分吸血鬼になっていることを。


「つまり、ルナが吸血衝動を起こすと、僕は女になってしまうってこと? 自分の体なのに、自分の思い通りにならなんて……」


 事実にたどり着いた満は、がっくりと項垂れてしまう。


「だるいなぁ、眠っちゃおう……」


 もうすべてを投げ出して、眠りにつくことにする。

 眠ってしまえば全部夢で終わらせられると、現実逃避に走ってしまったのだ。

 満が無理やり眠りについてしばらくすると、眠ったはずの満が体を起こす。


「やれやれ、現実逃避に走ってしまったか。現実を知ればそうもなるかもしれんな」


 喋り方が満とは違う。どうやら吸血鬼ルナのようだった。


「しかし、変身の秘密に気付かれてしまうとはな」


 呟きながら、窓の外へと視線を移す吸血鬼ルナ。


「う……」


 まだ日が高く、太陽の光が目に入って思わずめまいがしてしまう。


「まだ外は明るいな。これでは妾は外には出れぬ。せめて満の時に済ませてくれればよかったのだが、ただの人間にはやはり厳しかったか」


 どうやら同じ体であっても、意識が吸血鬼ルナになった時には、太陽の光が苦手なようだった。なんとも難儀な体ようだ。


「ふぅ、せめて着替えてはおくかな。立派な服はしわにしてはいかんからな」


 真祖の一族としてしっかりとした教養を身につけてきた吸血鬼ルナは、服を着替え始める。

 以前、満が外に出かけた時に着ていた服があったので、それに着替えたようだった。


「うむ、実に動きやすい服よな。ひとまず、陽が沈むまで身を潜めておかねば……」


 吸血衝動が起きているので、少々つらそうな状態にある吸血鬼ルナ。だが、今はまだ陽の光が強い。あたりが暗くなるまで身を潜める必要があったのだ。

 仕方がないので、満の代わりに自分のチャンネルのチェックをすることにしたルナは、部屋のカーテンを閉めてからパソコンを立ち上げたのだった。


「ふむ、このぱそこんとやらは便利だな。やはり、真祖とはいえ文明の利器とやらは取り入れればならんな。時代についていけなかった結果が、いんたぁねっととやらの空間への封印に繋がったからな」


 器用にキーボードやマウスを操作して、PASSTREAMERの光月ルナのページを開いていた。

 さすがに満の目を通してみているせいか、操作にまったく問題がないようだった。


「ふむ、登録者数が増えておるな。前日比+10人といったところか」


 活動一か月を迎える直前ではあるものの、すでにチャンネル登録者数が二万人を突破している光月ルナ。新人としてはまずありえない数値ではないだろうか。


「来週の水曜だったかな。あの真家レニとかいうあばたぁ配信者とのこらぼ配信というやつは」


 吸血鬼ルナは、通知からメールボックスを開く。そこには、真家レニから届いた一か月記念のコラボ配信のお誘いのメールが残っている。

 真家レニ自身のことは、吸血鬼ルナも知っている。電脳空間をさまよう吸血鬼ルナは、こっそりと陰から配信を覗き見ていたことがあるからだ。


「うむ、今夜は妾が配信をしておくか。腹が減って吸血をせねばならんが、今は適当なものでごまかしておくとしよう」


 確認を終えた吸血鬼ルナは、血っぽい飲み物を用意してもらっていた。

 齢いくつになるか分からない吸血鬼ルナだが、満の母親からしてみれば突然現れた娘みたいなものだった。その娘から頼まれれば、その要望にやすやすと応えてしまうというわけなのだ。


「よし、今日は妾が代わりに満のやっていることを済ませておくかな」


 トマトジュースを飲みほした吸血鬼ルナは、宿題を済ませたりお風呂に入ったりして、夜9時にはちゃっかり配信を始めてしまう。

 可愛いVRペットと戯れるだけの30分ほどの配信だ。それでも、リスナーたちにはいつもの満の配信と勘違いをさせるくらいにしっかりとやり切ってしまっていた。大したものである。


「ふぅ、人間の生活というのも、なかなかに窮屈なものよな」


 配信を終えた吸血鬼ルナは、体につけたヘッドギアとモーションキャプチャを外していく。その動きは実に慣れたものだった。


「この時間ともなれば、こっそり血を吸って戻ってこれよう。少々長めに体を乗っ取ってしまったからな、早めに返してやらねばな」


 こうして、吸血鬼ルナは今夜も街の中へと血を求めて飛び出していった。

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