第47話 銀髪デビュー
母親に連れられて学校までやって来た満。車に乗せられていたにもかかわらず、周りからは変に注目を集めていた。
(うう、さすがに銀髪は目立つよね……)
そう、ルナ・フォルモントの姿になっている満は銀髪ロングの翠眼なのだ。日本人ばかりの環境では、当然ながら嫌でも目立ってしまうというものである。
満は周りの視線に耐えながら過ごしているというのに、母親は鼻歌なんて歌っている。まったく、なんて母親なのだろうか。
車を降りて、満は母親と一緒に職員室へと向かっている。
「失礼します」
ノックをしてから職員室に乗り込む母親。
「空月満の担任の先生はどちらかしら」
「はっ、それでしたら私ですが……」
「初めまして。私、空月満の母親でございます。ちょっとお話があるのですが、ちょっとよろしいでしょうか」
「は、はぁ、いいですけれど」
担任は対応に困っている。
(おいおい、いつもの威勢はどこ行ったんだよ)
満はホームルームの時の担任の態度を思い出して、ちょっとイラッときている。
母親とちょっと内緒話をというので、満は担任と一緒に職員室から応接室へと移動していく。
校長室とも別の場所にあるちょっとした来客用の部屋、それが学校の応接室だ。来客用玄関のすぐ隣に設置されている。
満と母親、それと担任はテーブルを挟んで座っている。
「それで、そちらのお嬢さんはどちら様でしょうか」
担任が気になっているのか、満の方をちらちらと見ている。
「おほほほ、うちの息子の満ですわよ、先生。校長先生からちらりとお話がいっていると思いますけれど、お聞きになっておられませんか?」
「はあ? あれ、本当だったんですか……」
担任が信じられないという顔で満の方を見ている。疑って当然だろう。
「先生、本当に僕は空月満ですよ。こうなったのにはちょっと深い理由がありまして……」
「どんな理由ですかね」
満がおそるおそる発言すると、担任の視線が鋭くなる。満は思わず身を縮こまらせてしまう。
「あら、いやですわ、先生。体質とだけ言っておきますよ。それ以上の詮索はプライバシーに関わりますから、拒否します」
こういう時、親というのは本当に頼りになるものだった。
「というわけですから、今日から満は女子生徒としても在学しますよ。うちにやって来た留学生とでも言っておいて下さいな」
両手を組んでおねだりするように言い放つ母親に、担任はドン引きだった。もちろん満もだ。
結局、母親に押し切られてしまい、担任はこの状況を受け入れた。
満は女子生徒の間はルナ・フォルモントという名前で在籍することになったのである。
すべての話が終わった母親は、家へと戻っていく。
満は担任と一緒に教室へと歩いていく。
「本当に空月くんなのかね」
「あ、はい。ちょっといろいろありましてね……」
担任の質問に、満は困ったような顔で笑っている。
「声は確かに空月くんのようだね。しかし、本当に女子にしか見えないな……」
担任はそんな風に言いながら、満の全身を眺めている。
「あの、先生。あまりじろじろ見ないで下さい。気持ちは分かりますけれど、あらぬ疑いをかけられますよ」
「むぅ、それは困る」
満がとっさに言葉に出すと、担任はしゃきっと背筋を伸ばして前を見る。
教室の前までやって来ると、担任はくるりと満の方に振り返る。
「それじゃ、転校生のという体なのだから、呼ばれるまで待っていてくれ。急なことで席は用意できなかったから、ひとまずは君の席を使ってくれ。給食までには用意しておくから」
「分かりました」
担任に言われて、満は教室の外で待つ。
それにしても、これから知っている人たちの前に女子の服装で顔を出すと思うと、じわじわと恥ずかしさで緊張してきてしまう。
しばらく外で待機していた満だが、いよいよ担任から「入ってきなさい」と呼ばれてしまい、覚悟を決めて教室の中へと入っていく。
引き戸を開けて中に入り、黒板の前に立つ満。緊張具合が見て分かるほどにカチコチに表情が固まっていた。
「ルナ・フォルモントと申します。みなさん、よろしくお願いします」
無難な挨拶を済ませる満だが、以前に学校内で見られているだけに、クラスメイトたちはひそひそ話をしている。
「今日は空月くんから休みの連絡が来ているので、席は暫定的にそこを使って下さい」
「はい、分かりました」
満は担任に言われて、きょろきょろと教室の中を見回す。確かに一か所だけぽっかり座席が空いていた。
場所を確認した満は、鞄を持って本物のルナっぽく優雅に歩いていく。さらさらと揺れる銀髪ロングは、クラス中の注目の的となっていた。
とりあえず自分の席に座ると、なんとなく落ち着くというのは不思議なものだった。
ふと視線に気が付いて振り向く満の視線の先には、口をパクパクする風斗の姿があった。驚いているその姿に対して、満はにこにことしながら手を振り返していた。
満の行動に風斗はびっくりしている。その顔を見て手の動きが止まる満。何か変なことをしたのだろうかと、つい首を傾げてしまう。
その時の風斗が驚いた理由を、ホームルームが終わった直後に思い知る満なのであった。