第46話 よくある展開?!
翌日、起きた満はびっくりしていた。
「うわぁ~?!」
パソコンのモニタに映った顔に驚いたのだ。
まだ時間としては朝5時を過ぎた頃。この時間帯の大声は普通に近所迷惑である。
「な、なんでルナの顔に?!」
そう、また少女に変身していたのだ。
困惑する満だったが、冷静にこの後に起こりうる問題を頭に浮かべていた。
「この姿でどうするんだよ。今日学校あるんだけど……」
そう、今日はただの平日なのだ。学校に行くにしてもこの姿で行ってもいいのかという問題があった。
外はまだ薄暗い。この時の満は、どうやって自分の姿が戻っているのかということを理解していない。はてさて、どうしたものかと悩んでしまう。
しばらくすると、声を聞きつけた両親が上がってくる。
「どうしたんだ、満」
「入っても大丈夫?」
「あ、お父さん、お母さん。うん、別にいいけど驚かないでよ」
扉を叩きながら声を掛けてくるのだが、満は実に落ち着いていた。息子からの許しが出ると、両親は部屋の中へと入ってきた。
「満、その姿は……」
「まあ、また女の子になっているのね」
両親はそれぞれの反応を示している。だが、母親の様子がどことなくおかしかった。すぐさま部屋出て行き、何かを持って戻ってきた。
「お母さん、それって……」
満は口角を引きつらせながら母親を見ている。そう、その視線の先にあったのは中学校の女子の制服だった。いつの間に用意をしたのだろうか。
「お前、いつの間にそんなものを……」
父親も唖然としてしまっている。
「娘が欲しかったから、知った瞬間に走ってしまっていたわ」
満と父親は頭が痛かった。女子学生として学校に出向くとして、在籍の扱いはどうするつもりなのか。
「校長先生にはお話し済みよ。体質ってことで押し通したわ」
「お母さん、無駄に行動力ありすぎ……」
「よく通ったな……」
母親の言い分にはもう何も言うこともなかった。
ともかくとして、学校へはルナ・フォルモントの姿の状態でも通うことができるらしい。よく校長を説得できたものだと思う。
「満は変な体質出ちゃって大変でしょうからね。それをどうにかするのが親というものよ」
正論といえば正論だが、変身体質を「変な」と言い切ってしまうこの母親である。
「それに、満は夜中までその姿のまま戻れないでしょうに。その姿のルナっていう子には一応話は聞いてるからね」
「ああ、ルナさんはお母さんとも話してたんだっけか」
「声は確かに満と同じなんだが、姿が違うんで調子が狂うな……」
父親はまだ正常だった。
だけど、母親は満に女子の制服を着せようと躍起になっている。
「わわっ、お母さん。分かったから、分かったから服だけ渡して出てって朝食の準備をしてよ!」
段々と近寄ってくる母親を、満は精一杯押し返していた。
おとなしく両親が出て行った後、満はその手に持った制服を見つめながら、大きなため息をついた。
「はあ、着なきゃダメかぁ……」
もういろいろと何かを失った気になる満なのだった。
毎朝のルーティンを終えた満は、意を決して女子の制服に着替える。
(肌着も揃えないと、お母さん泣くだろうなぁ……)
女性ものに身を包むことにまだまだ抵抗のある満である。そもそもが男の子なんだからしょうがない。
「うう、スカートが恥ずかしいな……」
女子の制服はほぼ確実にスカートなので、満はなんとも言えない恥ずかしさに襲われていた。
先日満とお出かけした時も、実はショートパンツだったのだ。スカートにはどうしても抵抗があるようなのである。
(もうこうなったら自分のアバターキャラになったつもりで開き直ろう!)
もはややけくそになる満である。光月ルナのつもりで乗り切るつもりのようだ。つまり、女装ではなくコスプレだと割り切ろうとしたわけだ。
なにせ満の髪色と目の色も元とは完全に違っている。まだコスプレの方が説得力があると考えたのだ。
(まぁ、体も完全に変わってるんだけどね)
満としてもまだまだ受け入れられない部分が、体の変化だ。とはいえ、見てもなんとも思わないことは不思議ではある。こればかりは満もよく分からない感覚だった。
思えば、自分のアバターに関してもそんなに特殊な感情を抱いたことがない。満は首を捻るばかりである。
着替え終わって食堂に向かった満だったが、母親からチェックを食らって服装を改められてしまった。
どうにか女子の制服で無事に学校に出向けることになった満だったが、父親が出勤していったあと、母親も一緒に出てこようとする。
「お母さん、なんで?!」
「あら、女子として初めての登校でしょ? だったら、私も行って担任の先生とお話しなきゃいけないじゃないの」
にっこりと笑う母親に、満は思わず表情を引きつらせてしまう。どうやら母親は学校まで出向く気満々のようだ。
これにはさすがに困ってしまう満なのである。
「お、お母さん。分かったから、とりあえず風斗にだけは連絡させて。一緒に登校する約束してるんだから」
「あら、それだったら送る途中で家によればいいわ。うん、それでいきましょう」
強引な母親の提案を、満はとても断ることができなかった。
まさか女性の状態で学校に向かうことになってしまった満だが、どうにもこうにもトラブルの予感しかしないのであった。